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不老不死

「ふふふ……」


 リネーは、どぎつい色合いの食材を鉄鍋で炒めつつ、妖しい笑みを浮かべた。


「もうすぐ、もうすぐ完成だ……!」


 リネーは笑う。頭には白の三角巾。そして、細身で長身の体を包む、まぶしいくらいの白の割烹着。ちなみに、三角巾の下には、艶やかな長い黒髪が後ろで一つに結わえられている。
 ここは、とある異界の深い森の中、一軒の簡素な小屋。リネーは、三十代半ばの男性である。


「私が長年追い求めた、『賢者のジャンバラヤ』が、ついに完成するのだ……!」


『賢者のジャンバラヤ』とは、様々な魔法使いや錬金術師が追い求めた、伝説の料理である。不老不死や莫大な富をもたらすといわれている。そう、いわれているのだ。


「しかも、おいしいのだ……!」


 おいしいらしい。そこは重要である。どぎつい、えげつない色をした謎料理であっても。
 リネーは、高鳴る胸を抑えつつ、いったん火を止め、熱々の一口分を小皿に取り分けた。味見である。
 夢のような時間だった。長い間の研究の、血と汗と涙の結晶を、ついに自分で試す瞬間がやってきたのだ。舌の上で、歯で、鼻で、喉で――、リネーは、体のすべての器官で味わった。幸せを全身で噛みしめた。


「うっ……!」


 パリーン。


 床に、小皿が落下していた。
 リネーは、震えながら両手両膝を床につける。
 鉄鍋は、静かに湯気を上げ続けた。
 リネーは、ゆっくりと、吐き出すように声を絞り出した。


「失敗だ――」


 頬を伝う涙。


「これは、『賢者のジャンバラヤ』ではない――!」


 おいしい。確かにそれはおいしかった。しかし、術者たちの間で囁かれている幻の『賢者のジャンバラヤ』とそれは、悲しいほどにはっきりとした違いがあった。
 リネーは、己の失敗を素直に認めた。


「これは、絶対に違う……! だって……」


 リネーは、声をからして叫ぶ。


「だって、イチゴ味なんだもん……!」


 どこをどう間違えたか。ジャンバラヤ界の最高峰ともいえるスパイシーな料理、それが『賢者のジャンバラヤ』なのである。


「炒めた料理がイチゴ味って、それっていったいどうなのよ……!?」


 リネーは、普通に年を取った。莫大な富も手にすることはなかった。
 リネーが感じた通り、それは『賢者のジャンバラヤ』ではなかったのだ。
 しかし、あふれる好奇心と探究心が、リネーに若々しさをもたらしていた。
 それなりの富も手にしていた。


「毎度ありがとうございますー!」


 イチゴ味のジャンバラヤが、なにげに売れたのである。

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