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第十三話 ポルタ村


 村長の首に当てている刀に力を入れる。刀身を手で掴もうとしたので、軽く蹴る。

「村長。なぜ、マヤを殺したのですか?」

「儂は、お前のことを・・・。そうだ、お前のことを考えて」

「はぁ?”俺のこと”を考えて?」

「そうじゃ。リンは、王都で暮らすにふさわしい。それに、どこで拾ってきたかわからない。血が繋がっていない妹なぞ、リンには必要ない。そうじゃ。儂が、邪魔な妹を排除してやった。お前には、領主様から女を与えてもらう。好きにしていい女だ」

「・・・」

 首を落としたくなってしまう。
 マヤのことを言っているのか?俺の妹が邪魔?

「もう一度、聞いてやる。なぜマヤを殺した?」

「・・・」

「答えろ!なぜ、俺の家族を、マヤを殺した!」

 村長は、アイルとロルフを交互に見てから、俺を見る。
 俺が刀を握る手に力を入れるのが解ったのだろう。慌てだす。

「リ、リ、リ、リン。何を、何を、何をする」

 刀を首から離して両手で握る。
 振り下ろせば、首を切れるだろう。一回では切れない。何度も何度も切り落とすまで振り下ろせばいい。

「気にするな。答える気が無いのなら、生かしておく必要を感じない。あの世で、マヤとニノサとサビニに詫びろ」

「儂を、儂を殺すのか?」

「死にたくなかったら、俺の質問に答えろ。なぜ、俺の家族を、マヤを殺した」

「知らん。知らん。知らん。儂は、何も知らない。領主さまが、アゾレム男爵からの命令だ」

 アゾレム。ニノサとサビニの死にも関係している。

「知らないのなら、生かしておく必要は感じないな」

 俺の怒りに呼応するように、アイルが唸る。アイルが唸ると、家を取り囲んでいる魔狼や狼が唸り声を上げ始める。家の中にも聞こえてくるほどの唸り声だ。

「待て、リン。儂を殺すと・・・。そう、領主さまだけではない。宰相さまの派閥から睨まれて、王国では生活できなくなるぞ」

「ハハハ。おじさん。俺は、マガラ渓谷に落ちたのですよ。”生きているわけがない”と思われていますよ。それに、アロイ側の関所を通っていない」

「・・・」

「俺は、ミヤナック家に”貸し”がある。宰相から守ってくれるかわからないが、”ミヤナック領に逃がしてくれ”くらいはしてくれるだろう。だから、安心して死んでくれ」

 村長は、俺の言葉を信じたのかわからないが、目まぐるしく目線を動かしてから、白目になって倒れてしまった。
 穴という穴から汁を垂れ流している。

『マスター。どうしますか?』

「リデル!ロルフ!」

『はい』『御前に』

「金目の物や、書類を全部持っていく、集めてくれ、ロルフはリデルが集めてきた物を選別してくれ」

『かしこまりました』

『マスター。その男は?』

「適当に、どっかの部屋に・・・。いや、森にでも捨ててくればいいか・・・。アイル。頼めるか?」

『かしこまりました』

 アイルが、外に居た魔狼を呼んだ。魔法が使える個体のようだ。村長の身体を、草木で縛って、引き摺って行くようだ。
 別に死んでも問題はない。生きて、アゾレムに駆け込むなら好きにすればいい。アゾレムが、命令したのは確定なのだから、アゾレムも俺の敵だ。

 村長の無様な様子をみて、心が冷めてしまった。

「アイル。ついてきてくれ」

『はっ』

 まずは、サラナの家に行って、遺品を投げ入れる。次に、ウーレンの家にも同じようにする。
 話をするつもりはない。最後を知ってもどうにもならない。死んだことがわかれば十分だろう。

『マスター。あの男を、ゴブリンの元集落に捨ててきました』

「元集落?」

『我たちと戦い、集落を放棄しています』

「そのゴブリンたちは?」

『人が多く集まっている場所に向かうはずです』

「ん?」

『ゴブリンは、繁殖するためには、メスが必要です。数を減らしたゴブリンは、人族のメスを求めます』

「そうか・・・。気にしてもしょうがないな」

 転移門を守っていた種族がゴブリンだと聞いていたが、違う種族なのだろう。

『マスター。集めました』

 ロルフが俺を呼びに来たようだ。
 持っていくにしても、マジックポーチに入れていくのがいいだろう。

 村長の家に戻ると、銀貨や銅貨だけではなく金貨も見つかっている。よくここまで溜め込んだものだと思えてしまう。

 書類もかなりの数が見つかっている。
 書類の精査をしてもしょうがないので、全部をマジックポーチに詰め込んで持っていく、”ナナ”あたりに託してもいいのかもしれない。王都に持っていって、ローザスやミヤナック家に渡してもらえれば、対応をしてくれるだろう。宰相派閥を攻める口実の一つには出来るだろう。

 村の人間は、誰も信用も信頼も出来ない。
 自分で行くしかないか?

 ナナなら、俺とマヤがマガラ神殿に落ちたと聞いたら動いてくれるかもしれない。
 どうしたら、連絡が出来るのか?
 協力者が居ればいいのか?どこに?マヤ以外に信頼が出来る者は居ない。ミルか?駄目だ。ミルは、地球に日本に帰りたいのだろう。

 マヤの側に居てやりたい。
 どうしたらいい?

 マヤと過ごした家に戻ろう。

「アイル。アウレイアを呼び戻してくれ、家で集まるように伝えてくれ」

『はっ』

 アゾレムがマヤを殺した。
 ニノサとサビニも殺した。復讐なんて意味が無いと思っていたけど、意味ならある。俺の気持ちの問題だ。

 家に帰る前にやっておきたいことがある。

「アイル。村の街道に抜ける場所以外に、堀を作ろうと思うけど、出来るか?」

『堀の深さや幅は?』

「幅は、お前たちが越えられない程度で、深さも下からジャンプしても届かない距離だ」

『時間はかかります。我ら魔狼よりも、リデルに、土竜(もぐら)を眷属に加えさせた早いと思います』

「リデル。出来るか?」

『お任せください』

「頼む。やってくれ。街道に抜けられる道だけ残して、後は全部掘りにしてしまえ」

『はっ』

『マスター。何か、意味があるのですか?』

「意味はない。嫌がらせだな。アイル。井戸を使えなくしてしまえ」

『はっ』

「リデル。俺とマヤの家は、堀の中にしなくていいぞ。ロルフ。家に結界を・・・。必要ないな。アウレイアたちに守ってもらえばいいな」

『はっ』『はい。ヒューマの部族からも出させれば安全にはなると思います』

「そこまでする必要はない。堀が出来るまで安全になっていればいい」

 堀ができれば、村人たちは村を捨てるだろう。村長が居ない。井戸が潰された。外に出られる場所は、細い道で、狼の監視がある。誰も居なくなれば、狼に襲われて滅んだ村になるだろう。盗賊の根城になるのなら、それでもいいだろう。井戸が使えなければ、大規模な集団にはならない。村は、森の手前に作られている。そして、イスラの大森林(魔の森)に近い場所でもある。領として考えれば、この場所に盗賊が居ると厄介だろう。通る商隊が襲われれば、領の税収入も減っていくだろう。

 村の食料庫からも持ち出せるだけの食料を持ち出している。
 税として支払う予定の物も残されている。マヤの慰謝料には安いが貰っておこう。

 堀は、一晩で完成した。
 どれだけの土竜を動員したのか怖くて聞いていない。井戸も、土竜軍団が潰してくれた。水の一滴も出ないようになっている。”家名”を貰えたのが嬉しかったのか、俺たちの家の周りには、安全になるように堀と塀を作ってくれている。草木でカモフラージュする手の込みようだ。

 朝、村人たちが恐る恐る家から出てくる時間に、遠吠えがまた始まる。
 村の集会場になっている建物と、村長の家と、食料庫が燃えだす。アイルの眷属たちが、村長を引き摺った後だけは残してある。村民がそれを見て、どう考えるのかは、個人の判断に任せようと思う。

 俺は、荒らされて、破壊されていた家を片付けた。

 アゾレムを殺すのは確定だけど、方法が思いつかない。

 やはり、協力者は必要になってくる。

 ポルタ村の後始末を終えてから、同じことを繰り返し考えている。
 眷属を増やすために、いろんな場所に行ったほうがいいだろうけど、俺の実力では魔の森の奥地には行けない。アイルやロルフが居れば大丈夫かもしれないが、万能ではない。俺が強くなるために、眷属が必要だ。しかし、眷属を得るためには強くならなければならない。堂々巡りになっている。

「一度、マガラ神殿に帰るか?」

『マスター。人族が一人、こちらに向かっています。どうしますか?』

「一人?」

『はい。女が一人です』

「強そうか?」

『アウレイアと同等だと言っています』

「わかった。無理しなくていい。ロルフ。アイル。アウレイアに合流して、目的を確認してくれ」

『はっ』『はい』

 ロルフが、アイルの背中に乗って、家から出ていく、出ていった場所には、魔狼が3匹、警戒する体制で俺を護衛してくれている。家の外には、魔狼と狼の集団が居る。リデルの眷属も弱いわけではない。奇襲の指示を出せば、打撃を与えることができる。

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