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レベル上げ

 ゲーム2日目がスタート。

 ぐっすりと眠れたからか、やる気は絶好調だ。本日は冒険でたくさんの敵を倒すことができそうだ。

 睡眠を取ったので、睡眠メーターはマックスになっていた。画面には「18時間後に睡眠が必要」と記されていた。

 クスリは現実世界において、一日の平均睡眠時間は6時間だった。こちらの世界においても、その部分を忠実に再現している。

 お腹を満たされすぎているのか、朝食は口に入れることはできなかった。食べ物を見ただけで拒絶反応を起こしてしまった。

 宿を退室しようとすると、昨日の女性は柔らかい声をかけてきた。

「どこに行かれるんですか」

「冒険です」

 女性は助けられた恩を覚えているのか、身体全体で別れたくないという意思表示をしていた。クスリは男として、心を動かされることとなった。

 現実の彼女と会うためには、宿を出発せざるを得ない。宿屋の女性と親しくなったとしても、一年後には魂を奪われる。

「頑張ってくださいね」

 美人から応援されたからか、俄然やる気になってきた。人間というのは実に単純でイケメン、若い女性から応援されただけで気分を高められる生き物なのである。

 本日はレベルアップに費やしたいと思う。RPGではレベルをあげればあげるほど、後々の戦闘で有利になる。

 宿を出ると、マップをうろつくことにした。ずっとこうすることにより、敵の出現を待つ作戦だ。

 敵はなかなか出現しなかった。敵を倒したいときに限って、モンスターが現れないのは本物のゲームと変わらない。

 五分後、敵が現れた。「ブルドッグ」1体だった。1体ずつだとなかなかレベルを上げられないので、まとめて出てきてほしいところ。 

「ブルドッグに先制攻撃を受けた」と画面に表示される。先制攻撃を受ける設定をされているのを頭に叩き込ませた。

「ブルドッグ」に膝をかみつかれた。「ピータン」と戦ったときよりも、激しい痛みを感じる。ゲームは丁寧なことに、人間が受ける痛みを忠実に再現している。

「クスリは30のダメージを受けた」

 男としてこのまま引き下がるわけにはいかない。目の前の「ブルドッグ」を一刻も早く、あの世送りにしてやる。

 クスリは「こうげき」コマンドを選択するも、命中させることはできなかった。敵の回避率は高めなようだ。

 クスリは戦闘において、異変を感じ取った。昨晩の食べすぎからか、身体にいつものキレはなかった。現実同様、胃袋に食べ物を詰め込みすぎると、素早さ低下は避けられないのかな。

「ブルドック」は再びかみつき攻撃を繰り出してきた。先ほどの膝ではなく、ひじにかみついてきた。

「クスリは45のダメージを受けた」

 攻撃力に乱数調整をかけられているのかな。戦闘によるダメージは一定ではない。

 クスリは「こうげき」コマンドを選択するも、命中させることはできなかった。 

「ブルドッグ」は三度目のかみつき攻撃を行う。今回はおなかにガブリついてきた。

「クスリは28のダメージを受けた」

「ぼうぎょリング」にてダメージを軽減されているのかな。本来ならどれくらいの数値になったのか大いに気にかかるところ。

 HPは三分の一に減ったので、「きずぐすり」を使用することにした。もう一撃くらいは大丈夫だろうけど、クリティカルヒットで大ダメージを受けないとも限らない。リスクを冒さず、安全を取ることにした。

「ブルドック」は4回目の攻撃を繰り出してきた。どういうわけか、これまでよりも痛さを感じなかった。思いっきりかみついたことで、歯を破損させてしまったと思われる。

「クスリは8のダメージを受けた」

 全力でこちらに走った疲れからか、「ブルドッグ」の息遣いは荒くなっていた。何度も攻撃すると、体力を奪われる設定になっているようだ。

 クスリはバテバテの状態の「ブルドッグ」に剣を振り下ろす。疲弊しているからか、これまでのような機敏な動きを見せなかった。

「ブルドックに90のダメージを与えた。ブルドッグを倒した」と表示された。攻撃力は高いけど、生命力は低いという敵だったようだ。

 ドロップアイテムとして「やくそう」を6個入手した。雑魚的でこんな数をもらえるあたり、HPを15回復させるためのアイテムはゴミ同然なのかもしれない。

 残っていた「やくそう」でHPを満タンにする。全回復の状態でないと、雑魚ですら満足に戦えないシビアなゲームだ。

 ステータスを確認すると、「すばやさ」は0となっていた。満腹度によって「すばやさ」にペナルティーを加えられる仕様のようだ。

「こうげき」、「ぼうぎょ」、「まほうぼうぎょ」、「うん」については変化なしだった。おなかメーターの影響を受けるのは素早さのみということになる。

 クスリが上下左右に動いていると、「おとなしそうな犬」と対峙することとなった。

「おとなしそうな犬」はまともに攻撃を繰り出せるようには見えなかった。クスリは余裕をかますことにした。

「おとなしそうな犬に先制攻撃を受けた」と表示された。二回連続で先制攻撃を受ける運のなさを嘆いた。「すばやさ」を0にしたのは失敗だったといえる。昨日までは一度も先制攻撃されていなかった。

「おとなしそうな犬」は口からボーガンを放つと、クスリの左膝を貫通。戦国時代の武器となりうる素材だけに、破壊力は半端なかった。ゲームのキャラクターでなければ、左足を確実に破損していた。

「クスリに25のダメージを与えた」

 体力よりもメンタル的な負荷の大きいゲームになりそうだ。屈強な精神力を持たなければ、前進する気力を完全に吸い取られる。

「おとなしそうな犬」に攻撃を加えようとするも、命中させることはできなかった。お腹を満たしすぎたために、行動速度は大きく低下してしまっている。

 おとなしそうだった犬は狂犬へと変化した。本来の姿はこちらなのかもしれないと思わせるものだった。

 変身を遂げたばかりの敵はウォーと叫んだのち、ナイフを口から発射した。

「クスリは35のダメージを受けた」

 残りHPに余裕はあるものの、ライフを回復させるための「きずぐすり」を使用する。従来のRPGならギリギリまで回復を粘るのが鉄則だけど、自分の命と引き換えとあってはそうはいっ
ていられない。回復アイテムの使用はどうしても早めになってしまう。

 狂犬はさらなる進化を遂げ、オオカミさながらの様相となった。1ターンごとに強くなるタイプの敵なのかもしれない。

 オオカミさながらとなった犬は、顔面にかぶりついてきた。想像を絶する痛さに、ウオオオオオーと悲鳴を上げてしまった。

「クスリは37のダメージを受けた」

 威力も徐々に増してきている。早く倒さないと、回復アイテムを消耗するだけになってしまいかねない。数に限りがあるだけに、雑魚的ごときで減らしたくない。

 キレのなくなった体で、オオカミさながらの犬に戦闘を仕掛ける。今度は命中し、「おとなしそうな犬」を倒すことに成功した。

 ドロップアイテムとして「やくそう」を7個入手。一度の戦闘でこれだけ入手できるのだから、1日もすれば99個になりそうだ。回復量は微々たるものだけど、マップで回復させられる利点はある。

 クスリは一日をレベル上げに費やすも、レベルはほとんど上昇しなかった。元々は7だったレベルは10までしかあがらなかった。マップでレベルアップさせないよう、経験点を操作されているのかな。

「すばやさ」を低下させてしまったことで、敵から90パーセントくらいの割合で、先制攻撃を受けることとなった。無駄なダメージを受けたため、回復アイテムを消耗してしまった。

「やくそう」は70個ほど入手した。こまめに回復しながら、敵との戦闘に臨めたので、「ドラッグ」は10個ほどの消費ですんだ。

 最大HPは240となった。どれほどの耐久力を持つのかはわからないけど、少しは楽になったのではなかろうか。

 マップをうろつき続けていたためか、お腹の張りは軽減されていた。300まで上昇していたメーターは1日で150くらいまで低下していた。

「おなかメーター」を正常に近づけたことで、「すばやさ」は10まで回復。レベルにしては低いかもしれないけど、0よりはずっといい。

 満腹を超えているにもかかわらず、ご飯を食べたいと思ってしまった。人間は一日に一食は食べないと、モチベーションを上げられない。

 クスリは宿に戻ると、おなかメーターが200を超えない範囲で食事を取ることにした。

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