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第四十話

「アイドル志向だからこそ、強くなったのでござる。忍者の継承だけではこうはならなかったでござる。忍者集団という船は、安定した舵取りを置くことができないのでござる。忍者は、戦国時代に諜報活動による有効な情報源として大いにもてはやされたが、天下統一がなされ、平和な世の訪れとともに、冷遇されていった。要は政権樹立に利用されるだけの軽い存在であることに、気づいていなかった。結局、貴殿を調略で破った拙者たちの先祖は、貴殿たちと同じように、時代から置き去りにされたのでござる。用済の字。」

『そうであったか。徳川にやられたという意味で、同じ穴の狢であったわけか。我らも調略に合わなかったとしても、貴様らと同じことになったであろうな。お笑いじゃのう。からだを動かしたら、いい心持ちになったぞ。もはやこの世に未練はない。』

「ならば、天国に行くのが幽霊の道筋というものでござる。通説の字。」

『しかし、どうにもならんぞ。このままでは、ずっとここにいる。つまり、地縛霊とか呼ばれるものになってしまうのか。』

「そうでもないですわ。諦めは肝心です。でもそれは取り組みしてきたことを捨て去るということではなく、諦めることは、新たな視点でモノを考えるきっかけとするんですの。ねえ、楡浬様。いつまで寝てるですの。起きてくださいな。」

「あっ、おはよう、ママ。神宮久城にいくのかしら。」

「ママ、神宮久城?なに寝ぼけてるんですの。こうなったら、いきなりですけど、こちょこちょ。」

「きゃははは。くすぐったいわ、やめてよ。」
寝ぼけた状態で、無意識に御幣を手にした楡浬は神痛力、価値逆転を発動させた。

『があああ~。』
頭を抱え込んで唸り声を上げる武士。その姿が足元から消えていく。

【イタイ!】またも奇妙な音がどこかで響いていた。

「これで幽霊は天国へ行ったようですわ。」

「なにかあったの?夜中に騒がしいわね。アタシは二度寝するわ。」

「おやすみなさい。オレも疲れたので床につきますわ。衣好花様も一瞬に。」
こうして、楡浬がほとんど知らないうちに事件は解決していた。

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