第四十一話
雲が光ろうとする月を邪魔している時、露天風呂の岩の上白い影がふたつ見える。
「またも失敗ですわ。こうもうまくいかないとは。神セブンがついているのではなくて?」
「そうかもしれません、お嬢様。」
月がやっと顔を出すと、ふたつの影はスーッと消えた。
すがすがしい天気の翌朝。三人は軽く体操をして、いい空気を吸っている。
「それではこれで合宿は終わりですわ。精神面も十分に鍛えて、かつリフレッシュできたことから、いつオーディションという清水の舞台から飛び降りても問題ないですわ。」
「それは落ちて死ぬという意味で最悪な結末じゃない。」
「いえいえ。意気込みとはそういうものですわ。死んだら幽霊アイドルというチョイスも可能ですわ。」
「ゆ、幽霊なんて、存在しないんだから、そんな選択肢は捨ててよね。」
「ちょっと待ってよォ。立往の字~。」
「どうかしましたか、衣好花様。突発性尿毒症でも起こしたんですの。」
「どこの、何の病気よ!」
「えすかはァ、今からアイドルになっちゃうんだけどォ!急宣の字~。」
「そうですか。ついに自分に自信がついたのですわね。親として、巣立つ娘にひとしおの寂しさを覚えますが、子供は知らぬうちにオトナになっていくもの。これから赤飯ですわ。」
「突拍子もなく親にならないのでよ。なんの覚えもないくせに。」
「ショ、ショックですわ。楡浬様、あの夜のことを、あの燃えるような心とからだのぶつかり合いをお忘れになったというのですか。ワタクシとはただの遊びだったのですの?悲しいですわ!」
「な、なに言い出すのよ。いつアタシがも、燃える・・・は、恥ずかしいじゃない。」
「言葉遊びはここまでにしますわ。」
「遊ぶな!」
「楡浬様クレームはスルーして。衣好花様、アイドルになれる自信がついたのならば、早速オーディションにエントリーいたしましょう。」
「せっかくなんだけどォ、その必要なくない?捨置の字~。」
「でもオーディションは申し込みしないと何事も進みませんわ。」
「いや、大丈夫なんだよォ。えすかはァ、たったひとりのアイドルになっちゃうからねェ!抱捲の字~!」
衣好花は楡浬の背中に両手を当てて、胸をスリスリしている顔からは満面の笑みがこぼれている。
「この手打ちうどんの粉を延ばしたような感触。超寂寥感を覚えるけどォ、えすかの類友中枢を刺激するんだよねェ。快覚の字~。」
その時、楡浬のカードが点滅した。