第三十九話
すやすやと眠っていた大悟は強引に起こされた形となった。
『このからだ、これぞ、我らを欺いた恰幅のよい相手じゃ。』
「いったいなんなんですの、あなたは。」
上に乗られて動けない大悟は、口を動かすのが精一杯。
『我らをたばかったのは、そなたじゃな。関ヶ原で、我がお館、石田三成公への助太刀に行かせぬよう、我らをたばかった太い輩によく似ておる。そこの膨らみ、調略が詰まっておるわ!』
武士は大悟の巨乳を見ている。
「あなたたちはここでいったい何をしているのです。何を言ってるのか、わかりませんわ。」
「貴殿たちの相手は拙者でござる。本丸の字。」
「衣好花様!」
衣好花は立ち上がって、腕を前に突き出して、武士を睨みつけている。
「察するに、お前たちを謀略したのは徳川の手の者のようだ。それは拙者のご先祖と同じ。つまり忍者であろう。明断の字。」
『貴様は忍者だと申すか。たしかにそのような出で立ちに見える。背格好は異なるがそれは些細なこと。貴様が真の敵ということであれば、ここで積年の恨み果たしてくれる!』
武士は腰の刀に手をやり、そのまま衣好花に斬りつける。
衣好花は左に飛んで、これをよけた。手を硬い畳に当ててからだのバランスを保つ。
武士は大上段に構える。
『これぞ、本気の戦いなり。関ヶ原では、刃を振るうことなく、毒殺されたでのう。ははは。満足、満足。』
武士はそう言いながらも、刀を四方、八方へ鮮やかな手つきで、振り回す。衣好花は、アイドルの訓練で見せたような足捌きで、軽妙にそれをかわす。
「この程度では、練習にもなりませぬ。もっと激しく太刀を操ってくだされ。増進の字。」
『これは嬉しいのう。ならばこうじゃ。』
武士の刀の動きが見えないほど速くなったが、衣好花はそれ以上のスピードでかわしている。そのため、大悟には刀の残像ばかりが見えている状態。
「衣好花様。素晴らしいですわ。これなら振付のオーディションなら、一発合格請け合いですわ。アイドル道ゴールへのお膳立てはできましたわ!」
「大悟殿。それはありがたいお言葉、いたみいる。だがオーディションの前に決着をつけるでござる。終止の字。」
衣好花は、一瞬からだをかがめる。武士の刀は大きく空振りし、バランスを崩した時、衣好花は武士の首を手刀で打った。武士はもんどりうって、仰向けに倒れた。
『素手で我を倒すとは見上げた奴。これが忍者というものか。』