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第37話 スクールウォーズは世界を超える

はちべえからの情報を元に物理的に人間側の戦意を削いでおいたので、人間が準備を整え改めて攻め入ってくるのは大分先になるであろう。

レイラとエレナの強力もあって、戦力を低下させただけではなく恐怖も植え付けられたと思うのだが、エドワード王のあの様子を見ている限り諦めることはないだろう。

まだまだ決着の形が予想できないけど、取りあえず魔族の改革を進めていく。
行動は早ければ早い程良い。
俺は、命が掛かっていたり取り返しが付かない事で無い限り、出来ない・やれない理由を考えるくらいならやって解決方法を考えたいタイプである。

という事で、今日はゼファ、ガイア、アクアスに続いて四天王最後の一人、アルスとセニアの幼馴染のフレイムに自慢の我が家に来てもらった。
俺だけだとモチベーションが低いのは分かり切っていたので、当然アルスとセニアも一緒だ。
フレイムのテンションが高過ぎて少し気持ち悪いけど仕方ない。

「して魔王様、俺は何をすればいいのだ?」

フレイムは本来魔王軍の総司令官を兼務しており、他の役割などやっている場合ではないのだが、なぜか急に人間側がナイトフォールから撤退した為、フレイムも大分余裕が出来た。

ちなみに、人間がナイトフォールから撤退した原因は俺だが、人間との平和的終戦を目指している俺は魔族の誰にも言うつもりはない。
どちらかの理由により終戦、となってしまうと上下関係や遠慮、気遣いなど、後々争いに繋がる要素が残ってしまうので、お互い納得の上、話し合いで終戦でなくてはならないからだ。
なので俺はこれからも暗躍を続けることになるだろう。

そして、余裕の出来たフレイムに任せる役割を決める為、今日はフレイムを自宅に招いたのである。

正直言って、食糧・教育・産業というすぐになんとかしたい、絶対にはずせない分野は既にフレイムを除く3人の四天王にお願いしてしまってある。

ではフレイムには何を任せるのか?
それを今日はフレイム本人の意見も聞きながら決めていこうと思う。

ゼファ、ガイア、アクアスには生活から絶対に外せない役割を任せたが、フレイムには絶対に外せない息抜きを担当してもらいたいと考えている。

『息抜き』というとふざけている感じもするが、改革を強行する上で必要なことだと俺は考えている。

何事も息抜きがなくてはやる気は続かない。

そこで、俺は人間時代の知識を元に、魔族の気質に合いそうな息抜きをいくつか考え、フレイムへの説明を開始した。





「滝沢先生!俺も悔しいです!!俺も殴って下さい!!!」
「ずるいわ!私も殴って欲しいわ!!なんで女性は一緒にプレイできないのよ!!!」
「魔王様、俺もあの楕円のボールが欲しい!!どこに行けば手に入るのだだ!?」

『3D』を使ってフレイムに、あの有名ラグビードラマ「ス〇ールウォーズ」の1話を見せてみたら、予想通りどハマりした…余計な2名まで。

あと1話あと1話と、気付けば8話まで見せてしまったがこれが目的ではないので続きはまた今度にして下さい。

次いきます。





「村神さま!俺はずっとお前を信じていたぞ!!!」
「周東の走りも見逃せないわ!大谷より早く外野の頭を超えると判断していたわ。」
「ミーハーかもしれないが、やはり大谷あっての侍ジャパンだろう!あの大谷がバットを短くもっていたぞ!?」

あ、野球もいけた。
ラグビーは予想してたけどこいつらスポーツならなんでもいけるのか?

2023WBCの予選ダイジェストと準決勝のメキシコ戦を観戦して大興奮している魔族たちを、俺は冷静に見ている。

これ人間たちにも見せたらそのまま平和な世界になったりしないかな…





「なんでカズを外すんだ!!北沢だってまだまだやれるぞ!!」
「今までの功績を無視した冷徹な判断よこの糞メガネ!カズがどれだけ日本を愛していると思っているのよ!!」
「国を背負う以上、岡田監督だって現時点の最善を考えるべきであろう…責められぬ…」

こいつら既に日本に対する愛国心が芽生えてやがる…

「ちなみに、カズは、この会見から25年以上経つ今も現役でプレーしています。」

「「「キング!!!」」」


魔族にスポーツという概念を持ってもらおうと思って見せてみたけれど、どれも予想以上に熱狂していた。
スポーツを通して集団行動やチームプレーを学んでくれれば程度にしか考えていなかったが、すぐに浸透するかもしれない。

「魔王様!最初は魔王様が何を言っているのか全く理解できなかったが、この『球技』というのはどれも非常に面白いな!」

アルスとセニアのこと以外でフレイムがこんなに興奮するとは思わなかった。

「喜んで貰えて良かったです。次は、実際にフレイムさんにも経験して貰おうと思います。」

そういって俺はフレイムを庭に連れ出す。

「ちなみに、魔族の戦い方っていうのは誰かに教わったりするのですか?」

「学園で少し学ぶ程度で、基本は我流だ。多くの場合、実践を通して学んでいく。」

「……なるほど。じゃあ取りあえず、俺と戦いましょう。」

アルスとセニアが驚き、フレイムが歓喜の表情を浮かべる。

「いいのか魔王様?いやもう無理だ、この衝動はもう抑えられない!!」

「か、軽くですからね!?」

自慢じゃないが。俺は格闘技経験がない。
厳密に言うと一昨日までなかった。
昨日魔神の書庫で通信空手講座とかその他格闘技の参考書を読破した。

結果、極めた。感謝の正拳突きまで極めた。
誤解のない様に言っておくが、俺が凄いのではなくこの身体と頭が凄いだけだ。

何が凄いって、文章を通して書き手の伝えたいことがイメージでき、そのイメージ通り自分の身体が動く。
一度試して誤差を修正、2回目からは作者を超えていく。
それに加えてあの反則的なステータスである。もう自分の事ながら怖い。

平穏に暮らしたいだけの俺には無用なものなんだけどね。

「魔王様覚悟しろぉぉぉおおおお!」

本気で殺しに来るのはやめて下さい。


---


「ハァハァハァハァハァ…」

俺は約束通り軽くやった結果、フレイムは自分の想像より遥かに離れた俺との実力差に絶望し、歓喜していた。

「これで、まだまだ強くなれる。魔王様、ありがとうございました。」

なんか師匠と弟子みたいだな。

「フレイムさん、ちょっとお聞きしたいんですが、俺の戦い方は自分で考えた訳ではなくて、先人たちの知恵と経験を借りて戦ったんですけどそれってズルですか?」

「何を言っているのかわからないがそれを自分の力としているのだから何もズルいことはないだろう?」

「魔族の誇りを汚しませんか?」

「無論」

なるほど、よくわかった。

「フレイムさん、フレイム流格闘術を創設しましょう。」

「ぬ?なんだそれは?」

「私の戦い方は、先人たちが長年掛けて磨いてきた技術や、実践の中で研ぎ澄まされていった知恵を、何の苦労もなく手に入れたに過ぎません。」

「うむ?」

魔族も個人で技を極めるのではなく、強者たちの技術と知恵を集約し、より多くの魔族で磨いていくべきだ。

「フレイムさんが今まで培ってきた技術も、教えを乞う魔族に対して開示してき、それを一つの格闘技として確立しましょう。」

「別に俺は構わんが、そんなの誰が得するというのだ…?」

教えられる側は当然、労せず技術と知識が手に入り、教える側も教育を通して復習できるので無駄にならない。

何よりも一つの格闘術としての型が出来れば、より多くの技術や知識が集まり、格闘術としての精度が加速度的に伸びていく。
結果全員が得をするに決まっているのだ。

「全員が得します。何よりも、将来フレイムさんの弟子の中からフレイムさんを超える逸材が出てくるかもしれませんよ?想像して下さい、フレイムさんと同じ技を使う若者がフレイムさんに戦いを挑んでくることを…」



後に人間を含め門下生3億人を超える世界最大の格闘技、フレイム流格闘術はこの日突如誕生した。

……合わせて後にこの日は、この世界にラグビー・野球・サッカーが急速に広がっていく記念の日として人々の記憶に残る事となるのだった。

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