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第29話 四天王との約束(前編)

魔王と支店のたちとの最初の接触から1年後、魔王城迎賓の間-

魔王が四天王と接触してから1年が経過した。
約1か月前、魔王から各四天王宛てに招待状が届いた。

「あの餓鬼我らとの約束を果たさずに、どの立場から我らを魔王城に『招待』したのだ…?偉そうに…」

腕を組み苛立ちを隠そうともせず話すのは四天王の現リーダーフレイム。
迎賓の間には既に全四天王が揃い、各々好き勝手な位置に座っている。

20人が着座できる長机の一番奥、本来魔王が座る席の横にフレイム、その真向かいにアクアス。
フレイムと一席開けてガイア、フレイムと対角上真反対の位置にゼファ。

「それは違うぞフレイム。小僧はアルスらに魔王城で暮らす様に強く勧められたそうだが、我らと約束を果たす前には絶対にそれは出来ないと固辞し、と我がグリムウッドの古めかしい小屋で暮らしておった。」

「魔王様っぽいなー超楽しそうw今日はどんな楽しい話をしてくれるのかなー」

「ふんっ私は早くこんな茶番終わらせて、新たな魔王様をお探ししたいわ。」

フレイムはガイアの口からでたアルスの名前に一瞬眉を上げたが、ため息を吐き捨て押し黙った。

「その肝心の魔王様はいつまで私たちを待たせるつもりかしら?アルスとセニアの姿も見えないし。」

「アクアスそんなイライラしてると皺が消えなくなるよーw」

「ゼファ、いつからそんな死にたがりになったのかしら?消える消えないではなく、そもそも皺なんてないわ。」

数十年ぶりに一堂に会する四天王たちは、再会を懐かしむどころかどこかギスギスしている。
既にほぼ魔王に協力を決めているガイアとゼファに対し、どちらかというと反対のアクアス、素直になれないフレイムちゃんに別れ険悪な空気が流れていた。

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準備に手間取って少し遅くなってしまったが……

どうしよう。凄い入りにくい。
ゼファは馬鹿なのかな。

同年代なんだろうけど、見た目が女子高生のゼファがOL風のアクアスを煽ったらそりゃアクアスも怒るだろう。

フレイムちゃんはいい加減素直になろうな。

うじうじしてても仕方ない。
…よし、入ろう。

トントントン
「失礼します!」

サラリーマン時代の気難しいお客さんへのクレーム対応ばりのハキハキさで入室する。

「やっほー!」
「うむ…」
「チッ…」
「…………」

流石に舌打ちは酷いと思うんですアクアスさん。

「待たせてしまい申し訳ありません。準備に手間取ってしまって。」

待たせてしまったのは事実なので素直に詫びる。

「…別にそんな待ったわけではないが、準備とはなんだ?」

ガイアは興味深げに俺に尋ねる。
フレイム、そんなに俺の後ろを気にしたってアルスとセニアは今別室にいるからな?

「はい、今日は四天王の皆さんに食事を準備させていただきました。」

全員仲良く不思議そうな顔をしている。

魔族にとっての食事は離乳食から死ぬまでずっとソイプロテインだ。

しかし、流石に大昔と違い、現在は魔族も人間のことを多少は理解しているので『食事』というものが本来どういったものか、ということは把握している。

ただ、あくまでも伝聞程度に把握しているだけで、実際食事を目にしたことがある魔族、ましてや食したことがある魔族は殆どいない。

その為、好奇心旺盛なゼファですら明らかに戸惑っているように見える。

「初めての事で戸惑われる気持ちはわかるのですが、まずは試しに見るだけでも見てやって下さい。」

俺が入口のドアを少し開け廊下側に合図を送ると、給仕の魔族が四天王と俺の前に配膳を始めた。

目の前に並び始めた初めてみる『料理』に四天王の困惑は止まらない。
今日のメニューはローストビーフ、野菜たっぷりミネストローネ、パンという非常にシンプルなラインナップだが、シンプルだろうが何だろうが初めてみる彼ら彼女らにしてみれば関係ない。

いよいよ、食事の準備が終了した。

「それではまずは私から失礼します。いただきます。」

俺はこの1年の準備期間にまず『食』の改善を手がけた。

『魔族の為に飢えを解消する』という本来の目的と、是が非でも美味しいものを食べたい俺の欲望が合致していたので全力で取り組んだ。

魔神の書庫に入りびたり、俺が必要とする前世での食材がこっちでも手に入るのかはちべえに協力してもらいながら調べ上げ、とにかく無心で探しまくった。

そして、まだ栽培中・飼育中のものもあるが、一通り欲しいものは揃った。
本当は白い米も欲しかったけどそれは来年の楽しみだ。

俺は四天王を見渡し、パンを手に取りスープに浸して食べる。
そのまま齧るには少し固いパンだが、スープでふやけると丁度良い。

久し振りに味のある食べ物を食べた時は自然と涙が溢れたわ。

「「「「…………」」」」

俺が食べ物を食べる姿を見てもまだ四天王は踏ん切りがついていない様子。
ゼファですら若干引き気味に俺を見ている。

「俺の生まれた国、ここからは途方もない遠くにあるんですけどね、そこでは食事は当たり前のことでした。」

マナー違反かもしれないけど、食事を続けながらも会話をやめない俺。
それを見続ける四天王、中々シュールな絵面だ。

「ただ、俺の国では当たり前でも、他の国ではその日食べるものもままならず、あ。勿論プロテインもね…飢えで子供が死んでいくんです。」

「「「「…………」」」」

「大人たちが自分たちの都合で食糧難に陥り、大人たちならまだしも、そのせいでまだ体力が未熟な子供たちから死んでいく。………俺はそんなの絶対に受け入れられないね。」

あーまずい。こんな話をするつもりはなかったけど、話し始めたら少しイライラしてきた。今日は穏便に過ごしたかった……。



「お前らも同じだぞ?」



あ~あ、やってしまった。後悔はないけどね。

「自分たちが強くなるため?人間との戦争のため?知るかボケ。そんなくだらねぇ事に魔族の未来である子供たちを巻き込むんじゃねーよっ」

「「「「…………」」」」


「………なんて思ってる方も中にはいるかもしれませんねアハハハハ」

よし、誤魔化せた。

「ちなみに、今日の料理は私が作らせていただきました。騙されたと思って是非召し上がっていただけると嬉しいです。」

「「「………」」」

「う、うちがちょっと食べてみようかな……」

きっと生まれて初めて食べる固形物だろうが、魔族の消化機能は大丈夫だろうか。最悪手製の正露丸を準備しているから問題はないとは思うけど。

「………。パクリ」

恐る恐る俺と同じようにパンをスープに浸して食べるゼファ。
それを興味津々に見つめる他の四天王。

「………モグモグモグ…ゴクン。ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ」

最初は恐る恐る口にしたゼファだったが味を認識した瞬間物凄い勢いでがっつき始めた。

「あ、ゼファさん、いきなりそんながっつくと…」

「う゛…」

ほら言わんこっちゃない。

「横のグラスに飲み物を注いであります。ゆっくり落ち着いて飲んでください。」

コクリ
「ゴク…。…!!ゴクゴクゴクゴクゴク」

あ~あ落ち着けって言ったのに。まあ飲みのものなら平気だろう。

「何この水?めっちゃ甘くて美味しい!!!」

「ゼファさん、それが1年前に約束した手土産です。味はすっき〇んご味です。」

やはり甘いもので間違いなかったようだな。
アクアスも興味津々に自分の傍に用意されているグラスを覗いているがまだ手を付けない。
飲めばいいのに。

「ガイアさんもまずはグラスの飲み物、試しに飲んでみて下さい。」

「し、しかし……」

こういうのはやはり男の方がビビるな。
フレイムも腕組みしたまま微動だにしないし、セニアもそうだったわ。

「ガイアさん、ちなみにこれが約束したホエイプロテインです。」

「な!?…ゴクゴクゴクゴクゴクゴク……ゴクンッ」

一気に飲み終えたガイアは自分の両方の指先を見つめ震えている。
指先見てもなにも変わらんよ。

「筋肉が、我の筋肉が喜びに震えておる……」

会いたくて会いたくてじゃあるまいしそんな馬鹿な……
あ、おい、おっさん、そんなんで泣くなってば。
な、まだ沢山あるから。



まぁこれで予定通りガイアとゼファは問題なさそうだな。

よし残るは2人だ。

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