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第19話 トラブルの全貌

しかし本当にアルスとセニアは立派だな。

あそこで店長の言い分をしっかり確認するだけの余裕と視野があることに感心するわ。

日本ではよく私人逮捕系なる動画が一時流行ったりして、被害者側の声だけ耳を傾け犯人とされる側の話を全く聞く耳持たず一方的に制圧する。
そんな自分の為だけの偽善者がいたなー。

たまに流れて来るそいつらの動画を見てはなんとなくモヤモヤした感情を感じていたものだ。
特に満員電車に乗る機会も結構あったので他人事ではなかったな。

「アルスさん、そのお金は国庫から出るんですか?」

「え?あ……その通りです魔王様!」

「……………。」

自腹か。
魔王軍が超絶ブラックなことが判明してしまった。
まぁ実質のトップが自分の懐を痛めている状態だろうから被害者はいないのかもれんけど。

大卒で超絶ブラック企業に入社してしまった自分の過去を思い出し暗い気持ちになるが慌てて話題を変える。

「ところでその女の子はどうするんですか?」

「お嬢ちゃん、この村の子かい?」

セニアがしゃがんで女の子と目線の高さを同じにして話し掛ける。
こいつ、出来る。

「顔が怖いのは勘弁してな。魔王軍所属だからそんな構えなくて大丈夫だぞ。」

そういって先程同様手帳のようなものを女の子に見せる。

「私は、山奥で、母様と2人で、暮らしています。」

手帳で少しは安心したようだが、まだ若干怯えているのか女の子が慎重に言葉を選びながら質問に答える。

「そうか一人で偉いな。家まではどれくらいで帰れるんだ?」

「朝、この村を出れば、夕方には着きます。」

「なるほど。ならばもう日も暮れる、今日はおじさんたちとあっちの宿に泊まろう。お金の心配は要らないから。」

ちょっと太り気味だけどセニアが男前に見えてきた。
人間の時の俺よりも確実にコミュ力が高い。

「で、でも早く薬を母様に届けたいんです!!」

「もしお嬢ちゃんが夜道を移動して怪我でもしてしまったら、それこそお母さんに薬を届けられなくなってしまうぞ?」

「で、でも…」

流石に見ず知らずの大人たちだけだと不安になるよな。

「大丈夫だよ、このお兄さんとお姉さん、少し残念だけど信用できる。僕も赤ん坊の頃拾ってもらってお世話になってるんだ。」

「ほ、本当?」

「「!!」」ブシャーーーー

俺の幼い子供バージョンの話し方で変態2人が感極まったようだ。
おいお前ら俺のフォローを台無しにする気か馬鹿野郎。

「うん、僕も一緒だから安心して平気だよ。」

少し移動して馬鹿2人が女の子の視界に入らないように調整する。

「わ、わかった…」

見た目的に同年代の俺から言われてようやく少し気を許してくれた。
流石に俺もこんな小さな女の子に、夜道の一人歩きはさせたくはない。
伊達に前世は30まで生きてないぜ。


宿屋-

俺は倫理的に2部屋で男女別に分ける提案をしたが、アルスが血の涙を流し女の子も不安そうな表情を浮かべ、セニアが鼻から血を流し俺がドン引きした為、結局大きな部屋一室でみんなで泊まることになった。

セニアお勧めの宿の食堂で皆でプロテインで食事?を取り、シャワーを浴びて今部屋に戻ってきた。

どうやら風呂文化が無い様だ。早急に対応策を打たねばならぬ。
日本人として風呂の問題は最優先だ。

さて一通り身の回りのことも終わって後は就寝するだけの状態になったので、色々確認しないといけないだろう。

「いつまでも貴方と呼びたくないから、出来たら名前を教えてくれないかしら?ちなみに私はアルスよ、アルスと呼び捨てにしてくれて構わないわ。」

流石魔王に関すること以外は常識人枠に移行しつつあるアルス&セニア、俺の求めていたことをサラっとやってくれる。

「レイラ、と言います。」

「セニアだ。宜しくな。」

「佐藤だよ、宜しくね。」

2人がまた感極まらないようにレイラに気付かれないようにジト目で2人を睨んでおく。

「アルスさん、セニアさん、僕の事は大丈夫だから明日はレイラのことを送ってあげてよ。往復で2日掛かったとしても構わないからさ。」

回りくどい言い方をしても仕方ないので要求をまっすぐぶつける。

「魔、佐藤様、宜しいのですか?」

魔王と言いそうになるアルスを目線で気付かせる。
俺の事を抜きにしたらアルスとセニアもそうしたいはずだろう。問題ない。

「そ、そこまで甘える訳にはいきません!一人でも大丈夫です!」

子供はそんな遠慮するもんじゃないぞ。目一杯大人に甘えて大いに遊んで欲しい。最悪どうにもならない場合は俺のスキルを使わせてもらおう。

「レイラ、落ち着いてよく聞いてね。レイラが持っているその薬はすごい効き目なんだけど、それで治る保証はないわ。」

「そ、そんな!?」

一週間毎日苦労して手に入れた薬だ。その現実は受け入れ難いだろうが、母親の症状が分からない以上、アルスの言っていることは当然である。

「でもね、安心して。私とセニアはある程度の医療は修了しているから、もし薬でお母さんが治らなくても、私たちが診たら治るわきっと。」

横でセニアが頷き、俺も笑いかける。
レイラは泣きそうな表情になるのを気丈にも堪え、俺たち3人に対し深々と頭を下げる。

「おやめなさいそんなこと。私たちはレイラが笑顔でお礼を言ってくれる方が嬉しわよ。」

「レイラ、これは大人として当然のことなんだ。君が大人になって困っている子供がいたら助けてやって欲しい。」

こいつらのこのギャップが本当にムカつくわ糞。お前ら大好きだ。

「うん!!おっきくなったら絶対子供に優しい大人になる!!!」

出会ってから初めてレイラが子供らしい笑顔で答えた。
俺?俺は空気になって少し離れた位置で涙ぐみながら見守っているだけだ。

「さぁ、じゃあ今日はもう遅いから早く寝なさい。一週間殆どまともに寝られてないんでしょ?」

「明日朝早く出発するぞ。早く寝るといい。」

「アルスさん、セニアさん、サトウさん、本当にありがとう!じゃあもう寝るね、おやすみなさい。」

余程疲れていたのだろう。
目を閉じて数十秒もしないうちにレイラは寝息を立て始めた。



翌朝-

食堂で朝食(プロテイン)をとり、村の出口まで移動するレイラを加えた俺たち。
レイラはアルスと手なんか繋いだりして大分打ち解けてきたようだ。

「レイラ、道案内を頼むわ。急いで帰って早くお母さんに薬を飲ましてあげましょう。」

「うん………」

先程までの打ち解けた様子から一転、急に暗い表情になるレイラ。
どうしたんだろう。

「どうしたレイラ?遠慮なく言って構わないぞ。」

セニアも心配そうにレイラに声を掛ける。

「………ゴクなの。」

「ん?もう一度言ってくれるか?」

少しの沈黙のあと、レイラは覚悟を決めた様に改めて伝える。

「私の家は、煉獄の峡谷にあるんです!」

「え?煉獄の峡谷っていったら私たちの目的地と一緒じゃない?それなら都合がいいわ!」

「あー半日くらいで着くと言っていたから言いづらかったのか。煉獄の峡谷は我らの目的地でもあるから気にする必要はないぞ。」

なるほど、今回のお約束はそういうことか。

「ち、違うの!」

「あーアルスとセニア、それとレイラ。もう少し村から離れよう。着いてきてくれ。」

何となく今回のトラブルの全貌を理解してしまった俺は素を出すことにした。
きっとこういう事だろ、レイラ?

「さぁ、レイラ。もう大丈夫だぞ、ちなみに俺らは君に一切の危害を加えないことを約束する。」

レイラは俺の目をジィっと見つめると覚悟を決めた様に頷いた。
俺たちから少し距離を取り広い場所に立つと、レイラは目を閉じて集中を始めた。

すると周辺の空気がレイラに集まり出し次の瞬間眩い光が辺りを包む。



刹那








突然目の前に大きな龍が姿を現したのだった。

しおり