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第3章の第99話 どうしようもない問題26 答え損失額



☆彡
【ポイント1、損失額】
【ポイント2、売り上げ利益の激減】
【ポイント3、全員パート】
【ポイント4、モーター】
【ポイント5、赤テープと黒いヘドロ】
【ポイント6、ヨーシキワーカさんに、責任を負わせて、再雇用させようとする流れ】
【ポイント7、昔の会社を辞める前に、何らかの悪さを仕込んでいるケース】
【ポイント8、イリヤマ先生たちの企みであって、何か証拠を掴むために、でっち上げようとしていた。それも以前から】
【ポイント9、イリヤマ先生とライセン2人の借金】
【ポイント10、人間関係の悪化】
【ポイント11、謎の病】
――過去から現在に返り、エメラルティさんは、こう語る。
「みんな! ポイントは何だと思う!? ポイント1!」
これには、少年少女達も元気よく。
「損失額!」
「売り上げ利益の激減!」
「うん! そうね! ポイント1は、損失額と売り上げ利益の激減ね! 多くの人達の注目の視点が、ここに集約してくるわ!」
エメラルティさんは、当たり前の事から、取り組むのだった。
「でもね、この2つは、切り離して考えないといけないのよ!? 頭ん中がゴッチャになっちゃうからね!?」
「えっそうなの!?」
「えっどうしてぇ!?」
これには、少年少女達も、良くわからない。
「実はそうなのよ~ぉ? わかんないかな? まだ子供だから!?」
そこには、「う~ん……」と考えてみる少年少女達がいて。
その様子を見て、エメラルティ(あたし)は、「フフフ」と笑ったものよ。
彼女は、こう語るものだった。
「ポイント1は、損失額!
ポイント2は、売り上げ利益の激減ね!
じゃあ、ポイント3は、な・に・か・なぁ~!?」
「えーと……」
スバル君(僕)は、振り返る。

『――全員パート!? どーゆう事だ!? そっちの労働基準の体制はどうなってるんだ!?
待ってろ今、労働基準監督署にこっちから電話を一報入れてやる!!』
『――言えそうじゃなくて!?
今そちらにいるヨーシキワーカ君を、こっちに呼び戻して下さいませんか!? そのほんの一時的でいいんです!!
その子がいなくなってから、こっちもどうなってるのかわからないんです!! その子がいた時には、まだ!! こんな事にはなってなかったんです!!』
『い……いなくなってから……!? ど……どーゆう事だ!?』
『機械の『騒音がうるさく』て、『振動』が伝って『隣の壁』から……ッ!! 周りにもうるさいと『苦情の声』が出てるんです!!
しかも度々、機械が故障してて、工務の方が対応に当たっているんですけど……。
以前のように『売上高』が戻らないんです! 何とかしてください!!』
「ッッ!!」

――回想修了。
「うん! 全員パートと!
機械の騒音がうるさくて、振動が伝わってきて、隣の壁から、周りにもうるさいと苦情の声が出てるんです! ――かな?」
それに対して、エメラルティさんは。
「うん! 大正解! そうね! ポイント3と4は、まさしく全員パートとモーターだったわけよ!」
これには、スバル君も。
「モーター!?」
そこへ、何事かを思いついたアユミちゃんが、こう切り出してきて。
「あっそっか!? あの時のミシマさんの話とも、直結していて、だからかぁ!?」
そう、彼女は、納得するものだった。
それに対して、エメラルティさんは。
「うん! そうね! ポイント5は、赤テープと黒いヘドロね!」
そこへ、クリスティさんが、サファイアリーさんが。
「アユミちゃん、良くそこに気がついたわねぇ~!」
「偉い偉い!」
「えへへ」
これには、アユミちゃんを推しても、デレデレで、照れていたものだったわ。
続いて、エメラルティさんは。
「じゃあ、ポイント6は!?」
「えーと……」
アユミちゃん(あたし)は、振り返る。

『――なにっ!? その話は本当か!?』
『はい!』
『よーしわかった! じゃあ俺の手腕で、ここにいるヨーシキワーカ(あいつ)も、同じ目に会わせてやる!!
だから、そっちの方で『高い給料』で雇い直せ!!
以前に俺がそっちに『送り戻した奴』がいただろ!?
そいつを上に上げて、しばらくはヨーシキワーカに『責任をなすりつける』感じで負わせて、『パートで雇い直せ』!!
10年そこにいたんだから、しばらくはそのままで十分だろ!?
10年後か、15年後か、次の奴が入ってきたら、そいつも同じ目に会わせるんだ!! 『社会の厳しさ』ってものを教えろ!!
……どうだ!? 俺の手腕は!? 周りでも結構上手いとすこぶる評判だろ!?』
『ええ、ええ、そのお噂は兼ねがね伺っております。今までたいそう勝ちを収めていらっしゃるようですね!?』
『フフン! だろう!?』
『できれば私共としても、そうした人と長らく今後も、お付き合いしたいのですが……!?』
『フフン……まぁ、いいだろう……考えてやらんでもない!!』
『……決まりですね! 恩に着ます!』

『あぁ簡単に言うと、お前にも覚えがあるだろ!?』
『職業訓練校(ここ)にきた生徒達は、以前の会社を辞めて、次の就職先を探すために、ここに学びにきている』
『……ええ……』
『だから、自分を正しく扱わないところに、『何らかの悪さを仕込んでいるケース』がある……!』
『あぁ、ありましたね確かに……!?
以前送り返した生徒さんも、同じようにして散々な目に会わせましたよね!?
周りにも酷いくらいに取り次いで回って……そうやって追い詰めたんですもんね!?』
『……』
『フンッ!! そんなところから出てくる方が悪い!!』
『……』
『何か証拠を掴まないとな……!? もしくは『でっちあげる』か……!? 『前みたい』に……!?』
『あぁ、『またやる』んですね!?』
『チィッ、うるさい!! 周りには黙ってろよ!? こっちにも考えがあるんだからな……!?
引いてはお前の為でもあるんだぞ!? まだ十分残ってるんだからな!!』

――回想修了
「はい! ヨーシキワーカさんに責任を負わせて、再雇用させようとする流れです!
でもそれは、昔の会社を辞める前に、何らかの悪さを仕込んでいるケースであって、
それを怪しいと見たドクターイリヤマ氏とドクターライセン氏の企みがあったかと思います!
何か証拠を掴まないとな!? もしくはでっちあげるか!? 前みたいに!?
引いてはお前の為でもあるんだぞ!? まだ充分残っているんだからな!? ――です」
「うん! 凄い凄い大正解よ! アユミちゃん! 良くポイントを抑えていたわね!」
エッヘン
とアユミちゃん(あたし)は胸を張って、鼻高々だったわ。
「そう! ポイント6は、ヨーシキワーカさんに、責任を負わせて、再雇用させようとする流れ!
ポイント7は、昔の会社を辞める前に、何らかの悪さを仕込んでいるケース!
ポイント8は、イリヤマ先生たちの企みであって、何か証拠を掴むために、でっち上げようとしていた。それも以前から!
ポイント9は、まだ十分残っているんだからな!? は『この2人の借金』だったわけよ!」
「「「「「借金!?」」」」」」
「そう、イリヤマ先生とライセン先生には、借金があったのよ!
だから、問題に見せかけて、そうした悪巧み中にでっち上げようとしていた線! それが何かしらの証拠よ!
自分で火をつけて、自分で火を消すやつってやつね!
そうやって、犯人固めしていたようなものよ!」
「………………」
これには、一同、戦慄しかない……ッッ。
「そして、ポイント10は?」
これには、アヤネさんも。
「ただの人間関係の悪化でしょ?」
「正解……。先にしてほしかったわね……」
「では、ポイント11は?」
「謎の病では?」
「うん、正解ね! ざっと、こんなところかしら?」
・ポイント1、損失額
・ポイント2、売り上げ利益の激減
・ポイント3、全員パート
・ポイント4、モーター
・ポイント5、赤テープと黒いヘドロ
・ポイント6、ヨーシキワーカさんに、責任を負わせて、再雇用させようとする流れ
・ポイント7、昔の会社を辞める前に、何らかの悪さを仕込んでいるケース
・ポイント8、イリヤマ先生たちの企みであって、何か証拠を掴むために、でっち上げようとしていた。それも以前から
・ポイント9、イリヤマ先生とライセン2人の借金
・ポイント10、人間関係の悪化
・ポイント11、謎の病

これには、さしものアンドロメダ王女様も。
「ほっほぅ! なるほどなるほど……職に取り組む姿勢である以上、問題を先延ばしにせず、答えていくか……。良きかな良きかな!」
これには、さしものLちゃんも、引き気味だった。
「うわぁ……これできるのぉ……!?」
それを聴いて、アンドロメダ王女様を推しても。
「……まぁ、確実にできないじゃろうなぁ……時間が無駄じゃし……」
「あっ、やっぱり……」
「じゃが、取り組もうとしてくる姿勢こそが大事じゃ! 多分……ポイント5の赤テープと黒いヘドロの問題の答えまでは、やるじゃろうからな!
後残りのポイント6からは、カジノ話で、いくらかは伏線が回収されるじゃろう。
その方が、グッと面白くなってきちゃいそうじゃしな!」
「アハハハ、確かに~」
「それに、ポイント11の謎の病は、既に消化済みじゃからな!」
――とこのアンドロメダ王女様の言葉を受けて、スバル君が。
「――あっ! エメラルティさん!」
「んっ!? 何かしらスバル君!?」
「王女様がこう言っていて、ポイント11の謎の病は、もう既に消化済みじゃないの!?」
とこれには、エメラルティさんさんを推しても。
「あっ!? そう言えば、そうだったわね……」
とそこへ、Lちゃんが。
「もうしっかりしてよね?」
「いやぁ、しょうがなかろう」
「え……?」
「さっきから、あの娘子ばかりが良く言っておるのじゃし!
過去の記憶を振り返りつつ、道理を買うようにして、語っていくには、そうした抜け落ちや出兼ねないのじゃよ……。
まぁ、無理を言ってやるな。暖かい、眼で見守ってやろうぞ」
「……そうだね。わかったよ姫姉」
その心温まる様子を、僕が見ていて、
「フフッ」
と笑ったんだった。


☆彡
【ポイント1、損失額】
――エメラルティさんはこう語る。
「――ポイント1は、損失額よ! これはさっき言ったように、売り上げ利益の激減とは、切り離して考えてみる必要があるの!
答えは、もう知っていると思うけどぉ……?」
「う~ん……」
と一同、意味深に考え込んでいた。
これを見兼ねて、エメラルティさんは。
「ハァ……『領収書』よ」
「領収書!?」
「ええ、重要なエピソードからあるから見てましょうか!」


★彡
【『月見エビバーガ―オーロラソース社』Tsukimi Shrimp Burger Aorora Sauce Company(ツキミ シュリンプ バーガー オーロラ ソース カンパニー)』】
【届出……だが、少々疑問が残る問題の仕込み】
――作業中のヨーシキワーカ。
その人に、声を掛けてきたのは、上の部署にある総務課の男性だった。
その人の特徴は、ここにいる一般的な作業員たちの服装ではなく、
衛生管理区分に準拠したような白い服装だった。頭巾も被り、マスクもしていて、その顔立ちはよく顔は見えない。

『――ヨーシキワーカ君!』
『!』
『ちょっと手を止めてもらっていいかな?』
『……』
俺は、その人に声を掛けられた事で、その作業中の手を止めたんだ。

【オオコウチ・トウガミント】
珍しい緑毛の髪(ミントグリーン)が生えていて、灰色の瞳(ライトグレー)に、白人男性特有の白い肌。
『月見エビバーガ―オーロラソース社』で働く傍ら、総務課の偉い立ち位置についている。
気に入らない社員がいれば、その総務課の権限を職権乱用し、1万円差し引いていた実行犯でもある。
労働基準法の法律を守らない人。
ここ、ツキミエビバーガー社でも、5位の美しさを持つ、品質管理の奥さんを持っている人。
なお、結婚前は2位だった。
領収書、紛失事件に大きく関与している人。

『少し前に聞いた話だけど……。
ちょっと向こうの運転手さんが、少し前に、パン箱の中に領収書をちょっと置いて、
出かけ先のところの人に呼ばれたらしいから、その人と話している間に、忘れちゃったらしいんだよねぇ!?
その後は、トラックの運転をしていて、気づいた頃には、もう遅かったらしい』
『……!?』
『困るんだよなぁ、キチンとこっちの方に届け出してくれないと……!
――もし、君のところで、こう紙みたいなもの……。
そう、領収書と書かれたものを見かけたら、総務課まで届けてくれないかな?
こっちも『会計を預かる身』として、それがないとどうしても困るんだよ!
『会計の不備』になるからね! 引いては『会社の問題』になるし……!
こっちでも『会計の計算』をして、上の方に申告する上で、どうしても必要なものなんだよね!?』
『……わかった』
『じゃあ頼んだぞ! ……あっそうそう、この事は、他の人達にも伝えておくんだぞ! わかったな!?』
『はい』
『……よし、キチンと伝えたからな!』
その人物は、ヨーシキワーカさんの元から段々と離れていく。
『……』
その時、ヨーシキワーカは、仕事に戻ろうとしていた。
――その時だったんだ。その人が俺の元を離れた後、こう聴こえてきたのは。
『――なるほど……こうやって、『事前に問題』を仕込むのか……。これはどう考えても中々気づかないな……。
あっちの方の会社でも、責任を負わせて、誰かをその安い給料で雇ったらしいからな……。
これは『いい問題』だ。こっちの方も少し給料アップするし。
……とこれは黙っていないといけないな』
『!?』


☆彡
――過去から現在に返り、エメラルティさんはこう語る。
「――この時、ヨーシキワーカさんは、不審に思いつつも、いったい何の事なのかさっぱり意図がわからなかったそうよ。
ちょっとものを言って、立ち去った感じだったからね。
そして、トラック運転手さんの言葉が、妙に引っかかった事があって――」


★彡
【『月見エビバーガ―オーロラソース社』Tsukimi Shrimp Burger Aorora Sauce Company(ツキミ シュリンプ バーガー オーロラ ソース カンパニー)』】
【不審に思うトラック運転手】
――それは、トラック運転手さんの呟きだった。
『――自分たちは、この工場から出荷したパンを、ス―パーやデパートなどに届ける時、
そこで領収書を切り、それをファイルケースに入れて、運転する際、『隣の席』に『置いていた』んだけど……。
ここの上の人が、『妙な事』を突然言ってきて……』
『……』
『……あれはいったい何でだろうな……!? ……さっぱり意図がわからん』
『……』
(この時の私は、さっぱり、それがわからなかったものだ。
誰だってそうだろう。いきなり、こんな事をされてもわからないからだ。
だが、落ち着いて、よーく考えてみれば、そうだった。
普通は、どこの会社の運送会社の運転手さんも、
その会社から、業務委託を受けて、仕事を請け負っているものだ。
商品の運搬の請け負い、どこまでもそのトラックで走らせて運ぶ。
それが、トラック運転手だ。
そこで、スーパーやマーケットなどに、商品を卸すとき、領収書を切っている訳だ。
この時の領収書は、大事なものだから、ファイルケースに入れて保存する決まり事がある。
で、そこから帰ってくる時、いつも、隣の席には、それが置かれていた。
届ける場所は、月見エビバーガーオーロラソース社の2階にある総務課だ。
総務課とは、事務仕事をしていて、会計の処理を行っているところだ。
普通に考えて、なぜ、お金関係のものが、箱洗いにあったのだろうか!?
こればかりは、どうにも解せないものだった……
……そして、その領収書がもしも、商品を卸す類のものではなくて、
『原材料や加工品』を『仕入れる類』のものであれば、どこかの誰かが、『建て替えた』ものなので、キチンと『利子』が付く流れだったのだ――)


☆彡
――過去から現在に返り、エメラルティさんはこう語る。
「――トラックの運転手さんも、不審に思いつつも、ヨーシキワーカだけに話していたそうよ。
ヨーシキワーカさんに取っても、いったい何の事なのか、さっぱりわかんなかったらしいわ――」


★彡
【月見エビバーガーオーロラソース社】
【掃除中の話、領収書との仕分け中】
――掃除中のヨーシキワーカ。
青い箱が3つあって、手探りで、それを拾い、ゴミ箱の中に棄てていた。
特筆すべきは、青い箱が3つ、ゴミ箱が1つ、ポリ袋が1つだ。
この時の俺は、領収書と一緒にどれを届け出していいのかわからず、適当に見繕っていたものだった。
でも、量が量なので、ビニール袋の中に適当に詰め込んでいたんだ。
その時だった。
俺の1つ前の先輩に当たる人から、注意の声がかかってきたのは――
『――お前バカか!? 何で一々そんなものを、総務課(あそこ)に届ける必要があるとや!?』

【キーシストマ・ボックスウォシング】
その人物の特徴は、白と青のここの制服を基調としていて、白い頭巾をかぶり、白と青の制服を基調とし、ズボンは青一色だった。
眼鏡をかけていて、耳栓までしている人だ。
顔立ちは、どこにでもいる至ってフツーの人。

『……』
『そんなもん『元々なかった』とぞ!? 俺やお前がここに『入ってきた当初』には!!
領収書(それ)を総務課(上)に届ける必要はなかッ!!
俺はやらんからな!! お前が好きにやってるんだからな!!』
『……』
『俺は届けないぞ!!』
『……』
(そんな声が、後ろで上がっていたんだ……。
……その人は、ここ、箱洗いの中でも、一番の年長者に当たり、その知識と知見は豊富で。
ヨーシキワーカ(私)を凌ぐほどの実力者であり、ある時期を境にして、その真の実力をひた隠しにしているキライがある。
だいたい、ヨーシキワーカ(私)が入ってきた頃の、1ヶ月間以内に当たる話だ)
――お前がいるとスゴイ楽だなァ、まぁ俺の代わりに精々頑張ってくれよ~ォ!?
――あっ!?
――オイッ、キーシストマ、お前、もっと前にできてただろうが!? 何でこいつが入ってくる前から、そんなに手を抜き出していたとや!?
――うっせぇ!! 前のあいつがあんなに文句を言ってたからだろうがッ!? そんな事ァ知ったこっちゃねェ!!
――オイッ、それ!? こいつとは全然関係なかとろうがッ!?
――……。
(能ある鷹は爪を隠す、というが、まさにこの人物にこそ当てはまる言葉。
その豊富な知識と知見は、自分が下手に目立つと、その仕事量が増え、とにかく嫌なので、避けてきたキライがある。
事実である。
だから、ワザと下手なりに、仕事をして、他の人達が、精々がんばらないといけない。……こいつの為に。
その作業量は、4人いた場合、平均して20%の力から30%ぐらいの力しか、出さない人でもある。
変に、頭が切れる者だから、周りが迷惑している。
その実力は平均して、新入社員さんに、2週間当たりで軽く抜かれがちな人……。
だから、割とすぐにバレている。
下手に自分の真の実力を、下に下げている印象が伺える。
……だが、あれからもう数年が経ち、その実力はとうに錆びついていて、とうに使えないものだろう。
歳も歳相応になっている。
……それならば、打てる手立ては1つだけ、私としては、その隠れた実力を遺憾なく発揮し、他の人達に教えを説くぐらいの技量は行えることだろう。
そう、後輩の方の人材育成である。


☆彡
――過去から現在に返り、エメラルティさんはこう語る。
「――この日、キーシストマ先輩はハッキリものを言ったそうよ。自分たちが入所した当初には、そんな届け出システムは、元々なかったとね……。
つまり、上の方から持ち込まれた問題だったって事よ――」


★彡
【小説公開年、11月】
【コスモスのクリスマスケーキ、8種のアソートケーキと領収書の引換券】
――ドラッグストアコスモス。
その店内で、ヨーシキワーカは、クリスマスケーキを予約注文していた。
応対に当たるのは、コスモスの店員さんだった。
中空に浮かぶは、エアディスプレイ画面。
そこには、各会社のクリスマスケーキが記載されていた。
『この商品の中から、何になさいますか?』
『う~ん……これかな?』
『ああ、一番人気の8種のアソートケーキ、21㎝ですね!』
8種のアソートケーキ、21㎝(7号)。
ケーキ内容は、イチゴ、モンブラン、スフレチーズ、抹茶、三種のベリー、チョコフォンデュ、オレンジ、スイートチョコ。
この時期までは、以上の内容だったんだ。
この年以降、5種のアソートケーキとなっていく。
時系列参照。
0123456789
XABCDEFGHI
22BB。
私は、清算を済ませ。
そのコスモスの店員さんから、領収書の引換券を受け取る。
これが、眠っていた記憶を掘り起こしていくきっかけだったのだ。
『こちらを無くさないでくださいね。これが当日、お渡しするケーキとの引換券となっていますので!』
『……うん』
私は、ここでの用を済ませたのだった。
もちろん、ここにきて、普通に、ケーキと領収書の引換券を見せた事で、当日受け渡しと相成ったのだった。


☆彡
【ヨーシキワーカが、執筆活動を始めた動機、それは無罪を勝ち取るためだった】
――過去から現在に返り、エメラルティさんは、こう言の葉を続ける。
「――これは、ヨーシキワーカさんの度重なる奇跡とも言われていてね!
普通にやっても、どうしようもない問題には勝てなかった……と仰っていたわ。
途中までは勝っていても、それはあくまで、口に出して言っていただけ。
ファウンフォレストさんも、それを聞いていたけど、
大衆の見解から視れば、『何の証拠にも残らない』ものよ?
だから、その証拠をできるだけ、『記録として残す必要性』があった訳よ!
それが、『執筆活動』を始めた事よ!
その事件性を洗い出す必要があるために、その小説の中に落としてね!」
それが、あの人が、執筆活動を始めた動機であり理由だった。
そこへ、アヤネさんが。
「それはなぜ!?」
その道理を問いたい。
それに対し、エメラルティ(あたし)はこう切り返したの。
「無罪を勝ち取りたかったからよ!」
それが、あの人の一番の動機。
「人に口頭で伝えても、上手くは伝いきれないからよ!
あの人は、人前では、上手く言える時もあったり、また、上手く言えない時もある!
それにみんなには、決して上手くは言えない! 同じ言葉を、続けて二度は言えないからね!」
「……」
エメラルティさん(あたし)は、心の内でこう思う。
(そう、それが大前提だからね!)
「人は、誰しもが、まったく同じ言葉を言えないものよ! 短くなったり、長くなったりもする!」
「ああ、それはあるあるだな!」
「あるあるわね!」
これには、ミノルさんも、アヤネさんも、似た感想だったわ。
そう、これは、あるある。そう、人は誰でもそうなって当たり前なのよ。
「それに、その話を打ち明けた人でも、他の人達に、その話をするかとどうかいえば……わからないものでしょ!?」
それに対して、アヤネさんは、こう疑問の声を口にしたものだったわ。
「例えば?」
それに対して、エメラルティ(あたし)は、こう切り返したの。
「そうねぇ……人から聞いた話でも、人によっては、それは様々で、だいたい3つのパターンに分類されるわ!
1つは、その人からの話を聴き、そこで、自分なりの解釈を加え、物事の道理が変になっていくパターン。
1つは、その人からの話を聴いたのに、なぜか、ほんの少ししか言わないパターン。
1つは、誰にも回さないパターンもあり、秘して黙っていたりする人も、中にはいるものよ!」
これには、さしものアヤネさんも。
「た、確かに……」
と納得せざるを得なかったわ。
きっと、あるあるなのね……うん、わかるわ、その気持ち。
「うんうん。そして、金巡りのいい話である以上、金を包んでくれる人とそうでない人の場合は、
誰もが、金を包んでくれる人に、従う生き物だからよ!
だから、ハッキングを度々繰り返して、そうした証拠が何も残らないように、揉み消しまくっていたわけよ!
それだからか、あの人の小説は、その途中からおかしくなっていった……ッッ!」
エメラルティさん(あたし)は、悔しささえ浮かべる。
憤りしか覚えない。
「だからか、あの人が途中まで手掛けた書きかけのファイルも、ハッキングに会い、クラッキングしてしまい、10ファイル以上も失われてしまった……。
救出データ復元ソフトで、復元しよう思ってみたけれども……、
どんなにあがいてみても無理だった……。失ったものは、二度とは戻らないのよ!
しかも! 戻すのかなぁ!? と思えばそんな事はなく、
既存のファイルを、コピーアンドドラッグしてきて、ファイル名だけ変える手口だったそうよ。
その人達は、人のものを壊すだけで、治す気が、そもそもなかってことよ!
だから! あの人は! その途中から断念し、コピーされたファイルを、すべてゴミ箱へ消去し、また一から書き直していったそうよ!
いわゆる、ストーリー構成上の分岐ね。
それでも、わかりやすさを心掛けようとしてくれた訳よ!
……一貫してのストーリー性とは、ほど遠いんだけどね……。物語よりも、記録を残すことを優先したわけよ……」

【――それが、原作者にできる悪あがきだった】
【実際にハッキングの被害に会えばわかるが、物語の進行上ストーリーで、文章の編集や書き換え、一部分の消去や誤字脱字】
【ファイルの抹消、文章の入れ替えなどの被害に会えば】
【その物語の途中から、わからなくなるからだ】
【その為の代替手段が、物語上のストーリー構成ではなく、記録として残るよう、務める事だったのだ】
【この理解を得た、アヤネ(彼女)を推しても――】

「――なるほどねぇ……。だから、そもそもそんな事はなかったとするために、執拗なハッキングを続け、揉み消そうとしていた……。
そうした証拠の品が、何も残らないからね……。
そして、その陰で、先に手柄を上げていた人達がいる!!
だから、一度として、誰もが勝った試しがないと……!?」
これについては、エメラルティさんも、こう説明の補足をしていきたいのだった。
「ええ、そうよ!
必ずと言ってよいほど、人伝を経て、誤った伝言ゲームを執り行っていく以上、
必ずどこかに、『間違った情報を入れてくる人達』がいて、その人達伝いに鵜呑みに騙されて、話が変に変貌していっちゃうからよ!
だから、その危険性があったって事よ!
だから、下手に動けなかったのよあの人は! だから、黙るしかなかった……!」
「……」
人の伝言ゲームの誤りとは、欠くも恐ろしいものだ……。
「辛いも辛い……。たった1人で、雪原に放り出されたようなものよ? そんな中、あの人は、1人で歩き続けた……たった1人でね……」
これには、スバル君も、驚き得たものだったわ。
「1人!?」
「ええ、そうよ。
それなのに、執拗なハッキングを受けて、ヒソヒソ話が相次いで、偽電話詐欺が起こって、あの人の事を悪くいう誹謗中傷を受けて、
道理がメチャクチャになっていったのよ……」
「……」
「返すかな? と思いきや、決してそんな事はなく、既存のファイルをコピーアンドドラッグして、番号だけを変えたような手口だったわ。
相手は、消すだけで、直そうという意志さえないの!
壊すことはできても、医者のように人を治すことはできない!
作品を治せるのは、傷ついたものを、折れた骨を、より強くできるのは、作家しかいない!
あの人だけしか、それを完遂できない!」
「……」
「だから、今後一切、手を出さないで欲しいよ! 1人でやり遂げる! それが彼の意思表示よ!
そして、そんな怪しい連中とは、今後一切関わる気もなく、『完全離反』をした後よ!
自分の無罪を勝ち取るために! チアとの約束のために!」
「……」
僕達、あたし達、私達は、そのエメラルティさん(彼女)の言葉を聴いたんだ。
スバル(僕)は、心の内でこう思う。
(辛い……それがたった1人の孤独の戦いなんだ……)
「白いものの中に、執筆し、書き込み、新たな物語を創る。それが創造性……。彼は、自分の無罪を信じて、それに託した……!」
「……」
それが、彼の意思表示。
エメラルティさん(彼女)は、こうも続ける。
「警察の捜査の基本(お手本)にしてもそうなんだけど、容疑者は下手に動いちゃいけない!
犯人達に付け入れられて、狙われやすいからね!? その捜査線上に挙がった容疑者が、誤った形で加害者となってしまう悲しいケースがあるの……。
だから、その証拠の現場保存をしなくちゃいけない! 現場を下手に下手に荒らしちゃいけない!!
そして、その日からあった事を、できるだけ詳細に残すために、メールやノート、メモ帳などの小説の中に落とすことが有効なのよ。
まだ、そうした証拠の記録として残せるからね!」
「なるほど……!」
「フツーは、自分の無罪を勝ち取るのに、10年以上は少なくともかかるからよ!?
さすがに10年もかかったら、その服役していたところから出た所で、見知っていた街並みが様変わりしていて、見る影もないものよ!?
その足が向かう先は、自分の生まれ育った生家だった。
けど、そこには何もなくて、代わりに別の建物が建っていたのかもしれない。
ショックを受けた、あの人は、その場で泣き崩れだしてしまう。
それは、最悪のルートのIFの世界……。
弟君とは何だかわだかまりがあって、上手く話せず。
ご両親の内、必ずどちらかが亡くなっていた。
出てきたとしても、当面の間は、上手くは話せないでしょう。
ご自身も歳相応の年代になっているし、定職にも就けず、結婚すらできない。
持ち家や財産等は、当然差し押さえになっていて、没収されちゃった後だからね……!
もう何も残らないものよ……!?」
「……」
完全に事件だった……。無実の罪の人が、有罪になる事もある。
それが、人の噂話のホントに恐いところだ。
集団性の多数決の意に買ってしまえば、それが証拠固めとなってしまう。
それがどんなに危ない事なのかは、決して、その人達はわかっていないのだ。
「だから、あの人がやった事は、まさに最短記録のやり方だった……。どうしても、2,3年は少なくともかかるんだけどね……」
このエメラルティさんの発言を受けて。
アユミちゃんが、スバル君が、アヤネさんが。
「2、3年……」
「キッツ……」
「1年じゃ無理なの……!?」
これには、エメラルティさんも。
「無理よ!! そもそも無理ッ!!」
「何で!?」
「だって、昔の会社の負債金が凄まじくて……、
辞めた年が、600万(45454米ドル)から800万円(60606米ドル)!
ミシマさんに関わった年が、2000万円(151515米ドル)から4000万円(303030米ドル)!
小説を公開した年が、6000万円(45454米ドル)から8000万円(454545米ドル)!
で、領収書が見つかった事件解決年が、1億円(757578米ドル)だったもの!
そして、その後、辞めてから4年目にして、3億円(2272727米ドル)まで?! 度重なるハッキングで、集団取り次ぎ回しの詐欺電話で盗り立てられてたらしいわ……。
まさか、領収書だったなんて、あの人それに気づけなかったもの……!」
「あぁ……」
と嘆いてしまう一同の姿があったのだった。
エメラルティさんは、こう続ける。
「利子が付いていた……。
あの人が、それに勘づく事になったのは、ようやくの事で、
コスモスのクリスマスケーキの時、領収書がその控えで、交換の受け渡しだったからよ。
それが、3年目の12月25日の頃……。
そして、それから2か月後の2月中、あの人は執筆を続けていて、偶然にも、その作中の子供たちの表現で、ようやく気がつき出してしまう。
あの人は、他ならない、その作品の子供たちのおかげで、一命を取り留めたようなものよ!
そして、それから1ヶ月後の職安で、ファウンフォレストさんにその話をして、ようやく……」
――とそこへ、クリスティさんが。
「――エメラルティ、一応断っておくけど、それ、イリヤマ、ライセン、ミシマ、ヨシュディアエさん達が、取り次いで周った『全部大ウソ』だからね!」
これには、エメラルティさんも、みんなも。
「……」「大ウソ!?」
クリスティさんは、優しくこう諭す。
「あのね、落ち着いて、よーく考えてみて!? 普通、3年で1億円超えた時点で、どの企業もその場で倒産しているものよ!
そうなる前に、どうにかして、もう外しているものよ。
実際(リアルティ)的には、そこまでなってないわけよ!?
それ、そいつ等がついた『全部大ウソ』だからね!
だから、みんな、騙されて、踊らされて、下手に取り次いで周らないでよ!」
「……実は、そうだったのよ――」
【――ホントの真実である】
【3年目の時点で、月見エビバーガーオーロラソース社の倒産申請の受理受付が、既に行われていた】
【その渦中に、ヨーシキワーカが、ファウンフォレストさんに報告して、ようやく、それを外したのだ】
【つまり、受理受付後に、外したのだから……】
【普通、もう倒産しているのである】
【つまり、初めから全部大ウソだったわけだ】
【特殊集団詐欺事件とは、その側面とは、大概大ウソつきの取り次ぎ回しなのである、それが集団性の意に買った――】


★彡
【領収書が見つかった事件解決年、3月】
【ファウンフォレストさんに相談し、領収書が発覚した日】
――今日この日も、ヨーシキワーカは、【マイアミの公共職業安定所』Public Employment Services In Miami(パブリック エンプロイメント サービス イン マイアミ)】に訪れていた。
昔の会社を辞めてから、3年目にもう迫ろうとしていた。
今日は3月、桜の木からツボミが出てくる月日。
今日、ここに訪れていた理由は、もちろん、職業相談兼打開策の為だった。
先ずは、自分の無罪を勝ち取らないと、就職の話が進まないからだ。
私は、そう悟っていた。
そして、この時、私の職業相談の対応に当たってくれた女性職員さんが、『ファウンフォレスト』さんという人だったんだ。
『……』
『……』

【ファウンフォレスト】
アメリカ人女性の金髪ブロンドヘア―を染めた感が残る、くすみ感のあるスモーキーグリーン。
灰色の瞳(ライトグレー)に、白人女性特有の白い肌。
この人も、ヨシュディアエさんと同じ職業安定所の職員さんなんだ。
そして、ある理由がキッカケで、ここに異動になったらしい。
聞いたところの話によると、向こうで問題が起こり、騒ぎが起こったため、ここに異動になったらしい。
その理由は、この人に尋ねた事がないので、定かではない……。
聞くのは、この人に対し、不躾(ぶしつけ)にも失礼に値するからだ。
加えて、転勤になったこの人に、物珍しさと興味を抱き、こうして自分が何度も近づいたことで、
その人が、当時の俺の受付対応の人と相成るんだった。
それと言うのも、ヨシュディアエさんとはあんな事があり、疎遠となったため、
また、ヨシュディアエさんに関わるとロクな事が起こらないとも限らないから、こうして一定の距離を取っていたんだ。

『――あっそうだ! ファウンフォレストさん!』
『んっ?』
『雨合羽の事なんだけど……』
『! あぁ、昨日の手袋の話ね……?』
『うん、ちょっと考えてきたんだけど……。前にヨシュディアエさんがこう言っていた事なんだけど……あるべきものが付いてなかったんだ!』
『?! あるべきもの……?』
『うん、自分が使っているものは、『ショーワの緑色のゴムグリップ』で、特徴的な指紋が付くんだけど……。
あそこにいる多くの従業員達が使っているのは、『青いビニール手袋』なんだ。こっちはほとんど指紋が残らないと思う』
『へぇ~。……で?』
『うん、もしかしたら、その指紋が付いているかどうか調べれば、何かわかるかも……!?
少なくとも、自分が知っている以上は、『その緑色のゴムグリップ』を使っていたのは、箱洗浄の作業員だけに絞られるから……!』
『なるほど……じゃあ反対に、指紋が残り難いのは……その、青いやつ……?』
『うん……』
『なるほどね……』


☆彡
【社会人の常識と温度差】
――過去から現在に返り、エメラルティさんはこう語る。
「――その雨合羽に関する話よ。
ヨシュディアエたちに取り次いで、聞いて回っていけば、それをやったのがヨーシキワーカさんがやったとするものだった……。
初めに断っておくけど、その人物がやったとする証拠が何もない。犯人だとする線も、低い……。
反対に言えば、ヨーシキワーカさんが、何もやっていないとする証拠も、何もない。
つまり、決定的なものが、何も出てきていないのよ!!」
そこへ、アヤネさんが。
「何も出てきていない!? どーゆう事!?」
「……」
コクン
と強く強く頷き得るエメラルティ(彼女)がいたのだった。
「相手が、遣わしたのは、職安のヨシュディアエさんと実の兄弟の弟君だったの――」

――ヨシュディアエ
『ヨーシキワーカ君。あの昔の会社に謝りに行かない? あたしも付いていくからさ』
『……』
『あのね。君、どう謝ってみても、許されない事をしてたんだよ!?
今、その人が何だかとんでもないぐらいの目に会っていてね。
こう目の周りの顔が痛いって、火傷を負ったみたいに……。こっちの方にその文句の問い合わせが着てたんだよ。
やったのは、あなたじゃないの!?』
『……』
『ダメよ。すぐに、謝りに行かないと。
こう、その危険な薬品の中に、思い切り、その袖口の部分をぶち込んだりとかしちゃったんじゃない!? ヨーシキワーカ君が!?』
あれでも、そしたら、そんな様子ちっともなかったし……。
あれがあったのは、袖口の部分だけ?
ううん~!? どーゆう事なのかしら?
ひょっとして……!? その危険な薬品を塗すくった紙か何かなようなものがあって、こうヨーシキワーカ君が塗すくったんじゃなかとね!?
あれでも!? そしたらさ、指紋(あるべきもの)があそこにないのよね……!?
どーゆう事なのかしら!?』
『……』
(あの……もう少し、わかりやすく説明してください……。あるべきものって、そもそも何なんですか?)

――で、その数日後、ヨーシキワーカの家。
それは、弟からの呟きだった。
『お兄ちゃんの昔いた会社に、その箱洗いの中に雨合羽があったはずだよね?
こうハンガーに掛けられてさ。
その袖口部分に、こう危険な薬品を塗ったくったような跡があったんだけど……』

【ヨッシュタダワカーセ・S・プリメラ】
名はヨッシュタダワカーセ、性はプリメラ。そして、謎のSの文字。
弟の特徴は、灰色の黒髪(アッシュグレー)を有し、灰色の瞳(ライトグレー)に、白人女性特有の白い肌。
兄よりも電気分野に詳しく、設備管理科関係に長く務めているために、その組織の中で、長い物に巻かれていた。
力の弱い弱者よりも、数の力の多い強者側に、傾く悪癖がある。
人の意見を柔軟に聞けば、まだ、今後大きく伸びる可能性があるが……。
強い側の意見を聞いてからは、ほんのちょっと力の弱い者に尋ねては、少ししか聞かなくて、よく取り間違いやすい悪い癖がある。

『……』『……』
『……』
そこには、ヨーシキワーカを怪しむ家族の視線があったのだった。
父も母も、私を怪しんでいたものだ。
『それを黙ったまま辞めたんじゃとかとや!?』
ドンッ
と弟は、昼飯中の机を叩いたものだった。
『どうあっても絶対に許されない事ぞそれは!? お前わかってとや!?
それを知らないまま、何も知らずに、こう手で目元付近を拭いただけで、失明になる危険があったとぞ!?
一生そん人にお金を払いつづけんばいけんとぞ!? 一生やぞ!?』
そこへ父が。
『お前、いきなり、食事中に何言い出してんだ!?』
『いっいや、だってこいつが!? 周りからそう言えって!?』
ついでに、母が。
『それ、どこの誰がよ……!? 雨合羽ってそもそも何の事よ……!?』
『えっ!? こいつから何も聞いてないのかよ!? あそこの人が言ってたって……!?』
『聞いたかお前?』
『いいえ、そもそもなーんも聴いてないわよ』
『えっ……!?』
『……』
これには、ヨーシキワーカ(私)も嘆息するばかりだ。
その心の内でこう思う。
(あそこの人って言うのは、ヨシュディアエさんかな……!?
向こうは、ヨシュディアエさんだけじゃなく、ヨッシュタダワカーセも遣わせるのか……。普通ここは、警察の出番だろうが……!?)
これには、私も、嘆息するばかりだ。
『普通雨合羽って、雨の日に使うものじゃないの!?』
『ッ!?』
(もしかして……!?)
ヨッシュタダワカーセ(弟)は、その場で立ち上がり、大急ぎで自室へ駆け出して行ったのだった。
これを見兼ねて父は。
『……あいつ……いったいどこの誰に、電話を掛けてんだ?』
『……ヨッシュタダワカーセちゃんもおかしいわね』
『……』
(あれ? ヨシュディアエさんの後に、ヨッシュタダワカーセと数日中に来たということは、使い魔の類か?
まるで、私人警察だな……。ロクな事にならないような気が……!?)
――で、弟が、向こうの人と連絡を取り、戻ってきた後の話。
口をついて、声を上げたのは父だった。
『どうだ!? 何かわかったか!?』
『いや……こいつが何かおかしいって……』
『おかしい!? どんな風にだ!?』
『いやだって、あそこではあんなに、ズバズバと何でもかんでも、すぐに即答していたのに……それができないだなんて……』
『できない……!?』
『うん……』
これには、父も、弟も、何がなんだかわかっていない様だった。
そこへ。
『あのねヨッシュタダワカーセちゃん。それとんでもない思い違いよ!? わかんないだから、すぐに答えきれるわけでもないのよ!』
『あっそっか!?』
ヨッシュタダワカーセ(弟)は、その場で立ち上がり、大急ぎで自室へ駆け出して行ったのだった。
その背中へ、母がこう声を投げかけるのだった。
『そもそも何もやっていないなら、それはわかんないだから当たり前よ……』
もう、自室へ走っていった後だった。
(あぁ……なるほどなぁ……。
正しくは、すぐに答えない方がいいのか? 黙っていれば、安全と。
すぐに何でもかんでも、ズバズバと答えていた場合、逆に怪しまられていた訳か……!?』
納得納得。


――ヨシュディアエ。
『……そうだわ。ヨーシキワーカ君!』
『?』
『君、あの職業訓練校を行く前に、一度、太陽教習所に行っていたのよね? その時のものを『今』持っていない?』←いつも毎回、下手に急ぎ過ぎ
『……』
(持ってる訳……ねーだろ。仕方ない、次くる時、持ってくるか……)
――で、その翌週。
私は、ヨシュディアエさんに、その時のものを見せていたのだった。
それは、私が受けた運転履歴だった。もちろん、月日が記載されていたものだ。
『フンフン、なるほどなるほど、わかったわ、ありがとっ!』
『……』
『う~ん……あれはどーゆう事なのかしら?』
そこには、何事かを考える素振りのヨシュディアエさんがいたのだった。


☆彡
――過去から現在に返り、エメラルティさんは、こう語る。
「――この時、ヨシュディアエ達の強力な情報網で、ヨーシキワーカさんが辞めてから、10日間は経過していたらしいわ」
とこれには、ミノルさんとアヤネさんから。
「それは、いったいどーゆう事なんですか?」
「危険な薬品って、そもそも何!?」
と問いかけてきたものだったわ。
それに対して、エメラルティ(あたし)は、コクッ、と小さく頷き得、こう切り返したの。
「その危険な薬品は、次亜塩素酸ナトリウムとマイルドエースといってね。
普通は、箱洗いの人が管理するものではなく、
品質管理の人達こそが、管理すべき薬品だったのよ!
ヨーシキワーカさんでも、箱洗いの誰でも、そうした免許を所持していないんだからね!」
これには、ミノルさんも、アヤネさんも。
「なっ!?」
「何ですって!?」
と驚いたものだったわ。
エメラルティ(あたし)は、心の内でこう思う。
(そう、箱洗いの中の人は、そうした必要な免許を所持していなかったのよ)
だから、あたしは、こう語り出して。
「一応、工場の中に、1人誰でもいいから、その人を置いてさえいれば、『誰でも使用していい』事になっていたらしいわ。
そうした法の抜け道を、衝かれてしまった訳ね……」
「法の抜け道……」
「……」
コクリ、と頷き得るエメラルティさん。
そこへ、アヤネさんが。
「それって危険なんじゃないの!? どうして誰も、そうした『注意喚起』を促すような『講義』の場を開いてなかったの!?」
それに対して、エメラルティ(あたし)は、こう切り返したの。
「簡単に言えば、導入する気概がなかったのよ……。
常に動きっぱなしの職場環境であり、売り上げ利益優先の職場環境だったからね。
だから、残念ながら、毎年、講義の場を開き、その危険な薬品の説明を説くというものは、そもそも開かられていなかった……。
1ヶ月に1回でもしていれば、まだ、そうした事故は、未然に防げたんだと思うわ。
注意喚起不足ってやつよ……」
そう、注意喚起不足である。
これは、会社側の人事問題にあったわけだ。
「……」
「そうした注意の呼びかけすら、誰もしていなかった……。あくまで、使用方法だけだった……。使えばいい、という安直な考え方だったからね……」
「……」
そのエメラルティさんの説明を聞き、僕も、あたしも、私達も、深く考えさせられるほどだ。
これを見据えた、アンドロメダ王女様は。
「ほっほぅ……良きかな良きかな! 講義の場を開き、注意喚起を促すか……。
常に動きっぱなしのところは、確かにあるからな……。
ヒヤリハット事例として、導入を考えても良さそうじゃのう。
そうした従業員達のモチベーションアップにも繋がり、労働安全衛生法にもいくらか遵守し、周りにも貢献していけよう!
1ヶ月に1回のペースが、良かろうな!」
わらわは、このエメラルティをという娘子を、高く評価していた。
(そう、地球人たちが役立てば、周りの視方も見解も当然違ってこよう! それが必要性な事じゃ!)
彼女は、こう続ける。
「それは、人の皮膚さえ溶かし、コンクリートの白く脆くさせる作用があるのよ!
昔、それで、ヨーシキワーカさんも、舌をやられたんだって」
「へ?」
「舌を?」
「うん、そうよ。ベロよベロ! 一応、火傷したみたいな激痛があって、上手くものを食べられなかったんだって。
まぁ、今はきっちり治ってはいるんだけどね!」
これには、大人の女性のアヤネさんを推しても。
「……あたしだったら、それ、言わないわよ……?」
「私もだ。恥ずかしいからな……!」
「正直に答えた方が、時にいい場合もあるものよ?」
「……」
さすがに、まいってしまう……。正直にもほどがあるわ。
「ご本人様も、正直恥ずかしいけど、そうした事を言った方が、警察の捜査でもそうなんだけど、今後の犯罪捜査に役立てる供述だったりしちゃうものよ?」
「……」
これには、アヤネさんも、ご自身の顔に手を当てて、視界に入ってくる情報を、すべてシャットアウトしたものだった。
とここで、「う~ん……」と試行錯誤中だったアユミちゃんから、まともな意見が飛び出してきて。
「その危険な薬品には、そもそも、カギはしてなかったの?」
「一応、箱洗いの中には、檻があって、その檻の中に入っていたらしいわ。
ただし、そのカギは、『三桁数字の鍵』で、施錠されていたものだったらしいわ」
「3桁の数字……鍵?」
とここで、アヤネさんが。
「それって、1から9までの数字で、その組み合わせの種類は、0から999まであるものなんじゃ!?」
「ええ、そうよ、ザッと1000種類まではある、『三桁数字の鍵』ね!」
ハッ
とここで勘づいたのは、アユミちゃん。
「つまり! 内部犯の犯行だった!?」
「その容疑者に挙がったのが、ヨーシキワーカさんだったのよ!
でもね、ここで注意したいのは、鍵そのものが壊れていて、鍵の番号をいじくる事ができなかったの」
「へ……!?」
いじくる事ができないって、どーゆう事。
エメラルティさんは、こう話したわ。
「その次亜塩素酸ナトリウムとマイルドエースを使用した直後での手で、それに触るからね……。内部機構が既に壊れていたのよ。
つまり、犯行は誰でもできたのよ!」
これには、ミノルさんを推しても。
「なっ、何じゃあそりゃ!?」
と驚嘆の思いだった。
鍵が壊れていた以上は、犯行は、誰でもできる。
「でもね。ヨーシキワーカさんは、これを、人のせいにはせず……、ただの不始末、掃除不足だったり、点検不足のせいにしたものよ!」
雨合羽(レインコート)の使用目的は、元々は、雨を防ぐ事にこそあるからね!」
「雨……」
それは、少年少女達のイメージだった。
オレンジ色と黄色い雨合羽を着て、降りしきる雨の中、水たまりの上をじゃぶじゃぶして遊んでいた。
子供さながらの雨の中でしか、遊べないものだった。
エメラルティさんは、こう告げる。
「ヨーシキワーカさんの考察によれば、
まだ、自分が昔の会社にいたのは、3月15日の頃!
次に、超・長期有給休暇を取った日が3月16日からスタートして、この時、散髪屋に行っていたらしいわ!」
「3月15日……」
それが、箱洗いで働いていた最後の日だ。
だが、実際に辞めたのは、4月30日で、期間満了退社となっている。
その有給休暇も、全部は使いきれなかったもので、余りがあるほどだ。
なお、お金との対等対価は行えない。
一応、ヨシュディアエさん辺りから、お金への対価交換の話が出てきたが、法令的に見れば、完全にダメである。
エメラルティさんは、こう続ける。
「でも、ポイントとなってきちゃうのは、雨だから、
雨が降った日がとても怪しく、3月23日が夕焼け空にパラパラと雨が降っていたらしいわ。
次に、どしゃ降りが、3月27日と3月28日だったハズよ。
このうち、もっとも怪しいのは、3月15日から3月27日にかけてだから、12日間は離れてるわね。
犯人は、この期間を利用し、犯行に及んだ!!」
「……ッ」
「ただし、さらに記憶を遡っていけば、3月15日よりも前の一週間は、雨は降っていなかった。
実際に降っていたのは、その2週間前だったそうよ!」
「なっ!?」
「つまり、12+14=26日間は空いていた線と、12日以内に犯行に及んだ線、この両方が考えられるのよ――」

――あの超・長期有給休暇が発動される前の1週間か、2週間の閑休話(かんきゅうはなし)。
今日は、雨だった。
ヨーシキワーカ(俺)は、止める前に入ってきたばかりの新入社員さんを相手していて、
その人と2人で、箱上げをしていたんだ。
コンクリートの路上から、箱洗いの屋外に当たる鉄板の上に、箱(それ)が挙げられる。
二度、三度とそれが繰り返されている時だった。
――オレンジ色のシートシャッターが開き、ヨーシキワーカの先輩に当たるキーシストマさんが入ってきたんだ。
ここでは、一番の古株であり、俺の先輩に当たる人で、俺以上に、知識を有する人だった。
ただし、ワザと手抜きをする悪い癖があり、実力の半分も出していない人だったんだ。
だから、伸び率は、著しく低い……。
その人が、こっちに気づいて、急いで慌ててきたのだった。
記憶があいまいで、不確かだが……こんな感じのやり取りだったかに思う。
『オイッ、お前、何やってとや!?』
『……』『……』
振り返るヨーシキワーカと、見上げる姿勢の新入社員さん。
ドッ、ドッ、ドッ、と足音を立てて、歩み寄ってくる先輩。その人はこう食って掛かってきたんだ。
『そんなもん! 俺とお前の2人で上げれば切りの済む話やろうがッ!!
何こん人まで、それをやらせて取るとやお前ッ!! 今は可愛がらんがいけん時期やろうがッ!!
そんな事もわからんとやお前ッ!!
私の上に当たる先輩は、私の行動に対して、腹を立ててかに思う。
だが、私が、ここに務めていられる期間は、残り1週間から2週間程度だった。
そんな中で、技術を学ばせようとした結果が、このザマだ……。
――箱洗いの中、その最後の箱を排出するローラー付近にて。
その最後の後輩君が、こう口を零す。
『もっとあなたから、多くを学びたかったです、こっちは……』
『……』
後輩君から、そんな感想が零れたものだった。
多くを学ぶ……か。
それは、私じゃなくてもできる事だ。
私の学んだすべての技術は、キーシストマ先輩に託してある。
知識量だけなら、私を軽く凌ぐほどだ。
まぁ、本人がそれに気づき、活かせるかどうか、本人次第でもあるのだが……な。
『あのヨーシキワーカさん。今からでも、その前に出された退職願をこちらから取り下げることって、できませんかね……!?
そのちょっと情けないと思われるんですけど、
自分は、もっと、あなたから多くを聞きたかったんですけど……?
この中で、1番多く物事を知っているって、この周りの人達の誰もが言ってたんで……?』
ゴォオオオオオ
……だが、間が悪い事に、地響きにも似たモーターの異常騒音と異常振動が鳴りたてていたものだった。
……しかも、この時、箱洗い作業員全員は、頭巾を被っていて、耳栓をしていて、マスクまでしていたので、あまり聞き取り難い環境下でもあった。
ここは、騒音管理区分だったものだ。
『? 何で?』
『えっ……何でってそれは……?』
『? えーと……そんなもん先輩とか周りの人に聞けばいいと思うんだけど……? 何も自分に聞く必要はないと思うけど………』
『……』
『あと、1週間か2週間ぐらいしたら、もうここから、いなくなってるんだし……』
『……』
私は、そうやって聴き取り辛い中、後輩君を突き放したものだ。
そうした希望を折る必要があった。
私は、ここに用はない。
今後の人生を見据えて、ここを辞め、太陽教習所に通い、運転免許試験場を経て、車の限定解除をする気でいた。
そして、職安を通して、職業訓練校に通い、そこの特別技能を学んで、再就職したかったからだ。
つまり、この時点で、私と後輩君との間では、折り合いがもうつかない話だったんだ。
――箱洗いの廊下前にて。
私は、そこのドアを開けて、外の様子を見ていた。
雨だ。どしゃ降りだ。今日1日は、止む気配がないだろう。
その時だった。
『お前もサボらず、働けよ!!』
私は、斜め後ろからキーシストマ先輩に声を掛けられたものだった。
さっきも、チラッと見た記憶はあるが。
……彼は、紺色の雨合羽(レインコート)を着用していた。
その手には、手袋もしてある。
彼も、『SHOWA(ショーワ)の緑色のゴムグリップ』の使い手で、私もその口だった。
まぁ、私をマネて、彼も使用する事になっていった経緯があるのだが……。
問題は、その手袋にあった。
(濡れている……)
彼、キーシストマ先輩は、この少し前に、
次亜塩素酸ナトリウムとマイルドエースを、タンクの中に注いでおり、その濡れた手袋を付けたまま、作業をしていたのだ。
雨合羽も着用したまま……。
その時、運んでいたのは、薄箱の運搬作業。
つまり、その薄箱の取っ手部分にも、微妙にその薬品が、付着していたかに思う。
『ったく! ちっとも使えない! お前もあのエリュトロンコリフォグラミーって奴と同じだな!?』
『……』
エリュトロンコリフォグラミーという男は、この時点では、もう退職済みだった人なんだ。
聞けば、昔何かがあり、電気工事店で働いていたらしいが……そこで問題の騒ぎが起こり、
この月見エビバーガーオーロラソース社に吸収合併されてしまった経緯があるんだ。
元々は、この土地は、その電気工事店が立っていたエリアだったんだ。
その時は、まだ彼は、電気工事士なりたてで、駆け出しの新米同然だった。
あの頃は良かったなぁ……と証言を残している。
それを不憫に思った会社は、そこの経営責任者と少し合いの場を設けて、彼に正社員という席を設けたんだ。
だが、その後、彼はこの会社に大層を腹を立てていたそうで、ちょっとしたイタズラを仕掛けたらしい。
だが、それも周りからバレてしまい、左遷降格処分を受ける事になる。
人の手の悪さは、特にバレやすく、密告されやすいものだ。
そのせいで、彼は、正社員から、準パート作業員まで落とされてきた人でもあるんだ。
『……』
『……』
すれ違いざまの私とキーシストマ先輩。
……その時だった。
妙な具合に、キーシストマ先輩が、その手首の部分が、気になり出し、様子があったんだ。
その視線を落として、自分の手首の部分を見てみる。
その腕を、胸の高さまで持ち上げると、確実に何かを気にしていた素振りが見受けられたものだ。
薬品に濡れた手で、動いていたがために、時間の経過とともに、ひりつく様な感じの痛みがあったのだろう。
『……』
『……』
私も、そうした様子を、直接目撃している証人でもある。
まぁ、この時は、それだ、とは気づけなかったものだが……。
なるほど、キーシストマ先輩は、そのエリュトロンコリフォグラミーという人と私を比較にしたわけだ。
(確かに、その同じ口かも知れないな……フッ……)
と自嘲を笑みを零すヨーシキワーカ。
私は、ドアの外から見える、降りしきる雨を見て。
(辞める前の心境というのは、どうして……こうしたものなのか……)
それは、そうした心境の変化に立たされた者でしか、わからないものだった。
名残惜しさ半分。もう半分は先行き不鮮明の不安であり、その先にあると信じる希望と夢があったんだ。
そして、そのまま、キーシストマ先輩は、オレンジ色のシートシャッター付近に備え付けてある、キックボタンを蹴り、
そのシートシャッターを開閉させて、中に入って行ったのだった。
『……』
――それから、1分、2分ぐらいして。
そのオレンジ色のシートシャッターが開き、今度は、雨合羽着用なしの状態で現れたのだった。
それは、ここの作業員の制服だった。
上から、白い頭巾に、マスク、耳栓に、白と青を基調とした制服に、青一色のズボン。
『お前も少しぐらいは、働けよッ!!
さっきからお前、ちっともそこでジー―ッと突っ立っているだけだろうがッ!!
ったく、ちっとも使えやしない……』
キーシストマ先輩は、私に、そう啖呵を切ると、手を洗い始めた。
手袋はちょっと濡れた状態で、洗面器の上に置き、直接その手を洗っていたものだ。
『……』
(俺は、もう、ここを辞めていくだけだからな?
そんな俺にできるとしたら、下手に働く事じゃなく、何を残せるかだ!?
お前に、それを言ってもわからないだろうが……。……んっ!?)
キーシストマ先輩は、もう、すぐに、その手を洗い終わったんだ。
(あれ……? 早くない……? その粘こいやつもう取れたの……!?)
要した時間は、たったの3秒。そう、たったの3秒だったのだ。
その危険な薬品、マイルドエースには、粘液質の作用があり、流水で洗っても、なかなか落ち難いのだ。
かくいう私でも、洗い落とすのに要する時間は、少なくとも1分から2分はかかるものだ。
彼は、これを、たった3秒ぐらいで切り上げたものだ。
いつもの、慣れの作業があって、おそらく軽視した類のものなのだろう。
この時、キーシストマ先輩は、妙に怒っていて、カンカンだったんだ。
それが、私に対する怒りだ。
だから、こうしたミスが発生したのかもしれない……。


――エメラルティさんは、こう語る。
「――後のヨーシキワーカさんの推理では、
この時、キーシストマさんは、濡れた雨合羽(レインコート)を着用した状態で、かつ、次亜塩素酸ナトリウムとマイルドエースを使用していた!」
キーシストマ先輩が、箱洗いの中にいて、レインコートと手袋をつけたまま、
そのマイルドエースをタンクの中に、コポコポ、と注いでいた。
「――その後、キーシストマさんは、雨合羽(レインコート)を着用した状態で、
普段通りに、作業に従事していた。
運んでいたのは、薄箱で、その取っ手の部分にも、その危険な薬品が微妙に付着していた。
おそらく、運んだ先は、スナックサンドライン、ドーナツライン、菓子パンライン、パンケーキライン、長い廊下にある保管室のいずれか。
それを何も知らずに触った人物が仮にいたとして、気づいた頃には、何かヌメとしていて、時間の経過とともに痛みが発症する類のものだった。
「――外の降りしきる雨の様子を確認してたヨーシキワーカさんがいて、
この時、戻ってきた彼に声を掛けられた。
『お前もサボらず、働けよ!!』――と。
そのすれ違いざま、雨合羽(レインコート)を着用していて、緑色のゴムグリップの手袋も付けていた。
この時、その雨合羽(レインコート)のそれ口部分まで濡れていた訳よ!
そんな濡れた状態で、歩いたらどうなる? 腕をこう動かしてみたら、どうなると思う!?」
これには、みんなも、「う~ん……」と試行錯誤してみる。
そこへ、アンドロメダ王女様が。
「そんな濡れた状態で、かつ動いて、腕を動かすのじゃから、
その袖口部分の輪が、流体運動を起こして、袖口の部分だけ、その危険な薬品が浸透するはせぬか?」
「! あのアンドロメダ王女様が。
そんな濡れた状態で、かつ動いて、腕を動かすのじゃから、
その袖口部分の輪が、流体運動を起こして、袖口の部分だけ、その危険な薬品が浸透するはせぬか? だって!?」
「! 大正解よ! 王女様にスバル君!」
オオオオオッ
とみんなから、感心の声が挙がったのだった。
これには、アンドロメダ王女様も。
フッ
と勝ち得た笑みをお浮かべになったものだ。
僕は、そんな人の様子を見ていたんだ。
(すごい……)
正直、そう思ったものだ。
「――この時、キーシストマさんは、ヨーシキワーカさんに対して、大層腹を立てていた。
頭がカンカンの状態だからか、自分だけは、真面目に作業に勤しんでいたらしいわ。
ただし、雑な仕事となってしまう。
キーシストマ先輩は、そのオレンジ色のシートシャッター付近に備え付けられたキックボタンを蹴り、
そのシートシャッターを開閉させてから、箱洗いの中に入って行く。
――この時、キーシストマさんは、冷静であるべきだった……!
でも、そうした平常心を、怒りにかられ、忘れられていた……。
そのまま、濡れた状態の雨合羽(レインコート)を、普段通りに、社員用ハンガーに掛けたらしいわ。
袖口の部分を、拭き取りもせずにね……」
それが、最大の誤算だった。
「――後は、もう一度、箱洗い前の廊下に来てから、その手を洗ったらしいわ。
要した時間は、『3秒』! たったの3秒程度よ!
あの危険な薬品には、『粘液質』の作用があってね。
流水で軽く洗った程度では、なかなか洗い落ち難いものよ!
ヨーシキワーカさんの話を聴けば、自分でも洗って落とすのに、おおよそ1分から2分はかかるものだった。
それでも、1回では落としきれず、違和感があるからか、2回か3回ぐらいは、手洗いをしていたぐらいだわ」
これには、スバル君を推しても。
「あれ? それってつまり……」
「そうよスバル君! この一件に関しては、『犯人がいない』!! ただの『不慮の事故』で済ませられる案件なのよ!」
「不慮の事故……」
そう、犯人はいない。不慮の事故で済ませられる。
これには、アンドロメダ王女様も。
「何じゃ、しょうもない……」
ハァ……
と溜息が零されるほどだったわ。
エメラルティさんは、こう語る。
「実際はどこもそうしたもんで、しょうもない話だったりするものよ?」
「……」
「だから、誰も悪い人はいない、犯人がいなければ、それで済む話でしょ?」
「まぁ、確かにのぅ……」
フッ……
と笑ってしまうアンドロメダ王女様。
中々の解決策じゃ。
そこへ、スバル君が、Lちゃんが。
「どーゆう事ですか王女様?」
「何かわかるの?」
「ウム! 『事を荒立てない』のが、大きな比重(ウェイト)を占めるのじゃよ。その者も中々の手腕じゃな!」
「事を荒立てさせない……」
「大きな比重(ウェイト)……」
「左様! そうやって騒ぎを起こさず、未然に鎮火できれば、誰しもが損をしない道理じゃ!
職への斡旋を考える以上、誰の目から見ても、騒ぎを起こさず、未然に鎮火できれば、その者のそうした評価が上がる。
何も、勝ち負けがすべてではないのじゃよ? わかるな? スバルにL!」
「……」
「……」
((勝ち負けがすべてじゃない……))
その言葉を、2人は胸に刻んだのだった。
エメラルティさんは、こう続ける。
「一応、その昔から使っていた雨合羽(レインコート)はね、5年間以上、そこで野ざらしの状態だったから、不衛生ものだったそうよ」
これには、アヤネさんも。
「不衛生!?」
「ええ、そうよ。そんな濡れた状態で、ハンガーにかけたまま、放置していたらどうなる?」
とここで、アユミちゃんが。
「どうなるの~?」
「クモの巣が張ったり、ナメクジが這ったような跡が残るのよ」
「………………」
シ~ン……
しょうもない沈黙の間が流れて。


☆彡
【スープを噴き出すシャルロットさん】
――その時だった。
厨房から出てきたのは、シャルロットさんだった。
彼女は、耐圧耐熱性の金属容器を3つほど抱えていた。
「んしょ、んしょ」
それは、見るからに重そうだった。
例として、比較対象としては差異があるが、『業務用のアルミ寸胴鍋 42㎝』がある。
寸法、内回り420㎜、高さ420㎜。
厚み、約3.6㎜。
容量、約57L。
重さ、約7kgだ。
これを参考例にすれば、鍋の重さ7kg×アンドロメダ星の重力3.8G=26.6㎏。
さらに、鍋が3つあるので、26.6×3=79.8㎏になる。
おおよそ80㎏ぐらいだ。
その80㎏ぐらいのものの例えは、4~5人用の冷蔵庫ぐらいはあり、ジャイアントパンダ並みの重さの比較だった。
だがしかし、それでも、アルミでの話だ。
彼女が、今持っているのは、 未知数の金属の耐圧耐熱性の金属容器なのだ。
つまり、おおよそ、軽く100kgはあるのかもしれない……。
彼女の細腕で、それを持って運んでいるという事は、成人男性の腕力を、軽く凌駕していた……。
しかも、その足で踏みしめる度に、ガランッガランッガランッと鈍重な音を立てていたものだった。
これには、スバル君も、顔がヒクヒクとしていた。
(いったい、何キロぐらいあるんだよあれ……!?)
で、そんな事は、極々平凡で当たり前の事なので、彼女シャルロットさんは、それを持って、テーブルの上に置いたのだった。
「んしょんしょ、よっこいしょと!」
ズンッ
とわなめいたほどだった……。
で、彼女は、チラチラ、辺りを見回してから、その美味しそうなスープの蓋を開けて、覗き込むのだった。
「ちょっとだけ」
彼女は、近くにあったおわんの中に、その栄養価の高いスープをおたまを使って、注ぎ込み。
一口、喉の中を通して、鼻腔いっぱいに芳醇な香りが行き渡り。
「ハァ~~ウマ♪」
と美味しそうな笑顔を浮かべるのだった。で。
「もうひと口だけ」
と言いつつ、再び、喉を潤していくのだった。
――その時だった。この言葉が掛かってきたのは。

「――一応、その昔から使っていた雨合羽(レインコート)はね、5年間以上、そこで野ざらしの状態だったから、不衛生ものだったそうよ」
これには、アヤネさんも。
「不衛生!?」
「ええ、そうよ。そんな濡れた状態で、ハンガーにかけたまま、放置していたらどうなる?」
とここで、アユミちゃんが。
「どうなるの~?」
「クモの巣が張ったり、ナメクジが這ったような跡が残るのよ」
「………………」
シ~ン……
しょうもない沈黙の間が流れて。
次に口を告いで出たのは、言っていた本人だった。
「うげぇ……言ってて気持ち悪……」
「「「「「お前がかい――ッ!!」」」」」
ビシッ、とのりツッコミしてしまう、みんながいたのだった。

――これには、さしもの彼女を推しても。
「ブフ――ッ!!」
と思い切り吹き出し、
「けへっけへっ、ケホッ……」
とたまらず、むせるほどだったという。
で、キッ、とキツイ眼で、こちらを見てきたのだった。

とこれには、何の悪気もない、エメラルティさんを推しても。その背中に悪寒を感じつつ。
ゾワッ
「ほえっ!?」
とビクつくほどだったという。
「な……何……今の………………!?」
そこには、恨めしそうな怒りを向ける彼女が立っていたのだった……。
それは、エメラルティさんの斜め後ろからの、痛い視線だった。
で、何も気づけないアユミちゃんが。
「どうしたの? エメラルティさん?」
「い、いえ……何でもないわ……」
「?」
「ちょっとした悪寒と寒気を感じただけよ……何でかしら?」
ブルブル
と震え上がるほどだったわ。
「……?」
そこへ声を掛けてきたのは、姉のサファイアリーさんだった。
「……変わろうか?」
「いっいえ、大丈夫よ」
「そう!」
交代はなしだった。
エメラルティさん(彼女)は、こう続ける。
「フゥ……。あの雨合羽(レインコート)は、少なくとも5年間はそのままの状態だったらしくて、衛生面的にみれば、汚いもバッチィものよ……。
ううっ……言ってて、気持ち悪くなってきたぁ……!?」
(もうっ何で~~!?)
「……」
ジトリ
とする、ねめつけるような視線を向けるシャルロットさんがいたのだった。恐いわ、最悪だわ……。
「だからか、それをヨーシキワーカさんも、その袖を、なかなか、通していなくて。
ご自身で、自分勝手な判断で、オレンジ色の雨合羽(レインコート)をしょっちゅう箱洗いの中に、無断で持ってきてたぐらいよ!
まぁ、工場内ルールを守らなかったって事で、あるからか……。
よく周りから注意されていたらしいわ。主に、品質管理のおばちゃん達にね!?」
「……」
「……品質管理……」
その言葉が、ポイントであり、1つのきっかけだった。
そして、心優しいアユミちゃんから、こうした言葉が、飛び出してきたものだった。
「その薬品の被害者さんは、どうなったの!?」
「フフッ、大丈夫よ!」
そこには、明るく朗らかに笑うエメラルティさんがいたわ。
「ひょんな偶然のことに、職業訓練校時代が終わった後ぐらいに、偶然にもその人と出会っていたらしいからね――」

――職業訓練校う時代の12月後半か、自動車学校1月上旬ぐらい。
それは、途中で出会ったキーシストマ先輩との会話だった。
『――相変わらず、あそこは昔からうるさくて、お前が辞めていった後も、あのヒドイ音が今も続いている……!!』
『フ~ン……やっぱりか……』
『あぁ、昔からあそこは変わんないな……!』
『……俺が辞める前に、入れ替わりで入ってきた新入社員の人は!?』
『あぁ、あの人か……! 今もあそこで働いているぞ……!! 一生懸命に励んでな!』
『……』
『お前の最近の様子はどうなんだ!?』
『あぁ、今は自動車学校に通っている……!』
『えっ……!?』
『そこで車の限定解除をすれば、今持っている電気の資格を活かして、職への道が広がるからな……!』
『ふ……フ~ン……。まぁがんばれよ!』
『ああ、お互いにな!』
それが、私が、キーシストマ先輩と出会った最後の姿だった。
そして、意外と元気な姿だったんだ。

――エメラルティさんは、アユミちゃんにこう話す。
「意外と元気な先輩の姿に、ホッと一安心してたそうよ! 仮にもしも、ヨーシキワーカさんが、犯人だったとして、そんな会話フツーできる?」
「できないな……」
「そう、だから、手洗いの不始末だったのよ……」
この一件に関しては、犯人はいない。
だから、誰も損をする事はないのだ。


★彡
【領収書が見つかった事件解決年、3月】
【(続)ファウンフォレストさんに相談し、領収書が発覚した日】
『――……で?』
と尋ねてきたファウンフォレストさん。
俺は、こう答えていくんだ。
『後は……そうだなぁ……。……これはまだ自分が、職業訓練校時代に通っていた時なんだけど……。
確かぁ……夏場の時期だったと思うんだけど……。
その職業訓練校に通っている時に、偶然にもファミコンハウスを見つけたんですよね。……もう潰れて無くなってますけど……』
『? ……何の話?』
それは突拍子もない話だったわ。
『う~ん……そこでカードを買いに行ったときに、たまたまなんですけど、昔の会社にいたトラックの運転手さんに会った事があるんです』
『へぇ~……トラックの運転手さんに?』
『うん……。で、その人が言うには……――』

――それは、トラックの運転手さんとの何気ない会話だった。
『――自分たちもいきなり『契約の話』が『打ち切られた』んだ。それもあそこから突然に……』
『……』
『だから、今もあの会社にいるのは、せいぜいうちの半分ぐらいの連中なもんだ!
まぁ、それでも自分たちは良かったんだがな……勤務先が変わって……、以前と比べて給与が良くなったぐらいだ』
『フ~ン……』
『だが、何だって突然だったんだ!? フツーこんなのそうそうないぞ!?
昔からの付き合いもあるというのに……何だってあそこが急になって突然……!?』
『……さあ?』
『そう言えば君は、今、どうしているんだ?』
『今自分は、職業訓練校に通っていますね』
『ホゥ……あそこに……!? ここから意外と近いな……』
『うん』
『元気でやっているのか?』
『うん』
『そうか! それは良かった……ここには何しに来たんだ?』
『えーと……カードを買いに』
『カード?』
『うん、カード……いろいろ探し回ったけど、ここにしか売ってないようなものもあって、今日買おうかどうか、ちょっと考えているんだ』
『……』
『……』
『……』
『まぁ、何事もほどほどにな……生き抜きも必要だと思うし、職業訓練校に通っている以上は、ちゃんと勉強もしてるんだよな?』
『うん、まぁね!』
『おじさんはこれから色々あって、もう行くけど、ヨーシキワーカ君も頑張るんだぞ!!』
『はーい! おじさん達も交通事故に会わないよう気をつけてね!』
『……ハァ……』
(この子は、名前で呼んでくれないな……)
(いやだって、胸ポケット側に、名前が振ってないから……知らないんですよ?)
それが理由だった。

『――ってな事があって、もしかしたらあそこは今、半分ぐらいまで減っているのかもしれない』
それは、トラック台数が半分まで、減った事だった。
これには、ファウンフォレストさんも。
『半分か……あれ? これって売り上げ利益が落ち込まない……?』
輸入、輸出、出荷で……。
ファウンフォレスト(あたし)でも、容易にわかるけど……。
『うん……多分、目に見えて落ち込むと思う……』
『……』
姿勢を正す当時の女性職員ファウンフォレストさん。
面と向かって、俺を見据えて、こう話す。
あなたなら、何か知ってるの。
『……どうすればいいの?』
『……ファウンフォレストさんは、ミニ四駆って知ってる?』
『ミニ四駆……!? ええ、まぁ……、少し子供の頃に、そうした遊びをたまーに見かけた覚えがあるわね……。
近所の男の悪ガキが、そうして遊んでいたっけ? ……それがなに?」
『要は、それと同じだという事!』
『? どーゆう事……?』
『えーと、上手くは言えないけど……。マシーンがあって、それを走らせるコースがあるよね?』
『うん、あるわね』
『で、買ってきた、アップグレードパーツを、こういろいろと組み替えて、最強のマシーンを造るんだけど』
『……』
『……』
『……で、それが何よ?』
『要は、それと同じような状態だという事!』
『アハハハハハ! 何よそれ~!!?』
思わず受けるファウンフォレストさん。
俺の話は、こう続く。
『要は、そうした『作業効率化重視のセッティング』をしたがために、そうした今のような状態になったのかもしれない……』
『フ~ン……作業効率化重視……ねぇ!? ……ンンッ!?』
ファウンフォレストさん(あたし)の脳裏に過ったのは、チューンアップされたミニ四駆が、カーブに差し掛かり、
コースアウトしてしまった姿だったわ。
そのまま、盛大にマシーンは、コース外で空転していたわ。タイヤなんか空を切っていて……。
……まさか……いやいや、ありえないわ。
確かこの話は、前にも似たようなものが、あったような気が……。
目の前にいるこの子は、こう言ってきたわ。
『で、その話の流れなんだけど……』
『うんうん!』
期待の面持ちのファウンフォレストさん。
『そうなればどうなると思う?』
『……どうなるの?』
スッ
『!?』
俺は、両手を上げて、クイズを出す。
実はこの子は、前々からこうしたクイズを、何度も出している事があり、あたしが答えずとも、それを答えてくれる。
『回転効率が上がるでしょうか? それとも落ちるでしょうか?』
『……』
それも自分で。
『……落ちるんだよ……効率化重視だと……!
目の前のそれだけに目が行きがちになって、周りが良く見えなくなってしまう……。……それもフとした拍子に……』
『見えなくなるんだ……』
『うん…』
『なるほどね……』
あたしは考える。
全体を見ていない、木を見て森を見ず、という諺があるけど、これと似たような状況なのかしら。
ふとした拍子に、全体の森ではなく、一か所の木を見ていた……だけ。
(この子の言う事は、色々とためになるわ。この子はそうやって、外堀から埋めつつ、核心部分へと段々と迫っていく……妙に頭が切れる子だったわ)
『今の状態のそれは、それを物語っているわけね……?』
『……』
頷き得る俺。
『……なるほどねぇ……』
と納得の思いのあたし。
で、目の前のこの子は、こう話を続けてきたわ。
『……後は、そのトラックの運転手さんからの流れで』
『!』
『箱洗いにトラックが来るんだけど……。
それを自分たちが降ろして、箱洗いに運んで、機械に乗せて、それを流すんだ。
そしたらさぁゴミ箱の中に落ちるんだ、それが……ひっくり返って……』
『ゴミ箱……?』
『うん、『青いゴミ箱』、それが3つあって……。
自分がいないときは結構汚れていて、ほとんどあいつ等掃除していないんだよなぁ~……』
『うわぁ、汚ぁ~い!』
『で、その箱の中の水が3分の1以上たまっていて』
『うわぁ……バチィ……』
思わずその耳を塞ぎたくなるファウンフォレストさん。
『嫌んイヤん』
とその耳を塞ぎつつ、首を振り回すが……。
『………………で、その中にあるのが『領収書』なんだ……』
『!』
その塞いでいた手を離し、目と耳を俺の話に傾ける。
俺は、こう語り続ける。
『でも、結構水で濡れていて、もしかしたらあいつ等、『領収書(それ)』を『捨てている』のかも……? 拾ったら途中で破けているし……」
『あれ? これってもしかしら……、……『当たり』なんじゃない?』
『……フッ』
俺は立ち上がり、ファウンフォレストさんにこう語る。
『トラックを半分以上戻して、その箱洗いの中にある青いゴミ箱の中から、その『領収書』を見つければ、何とか元通りになるはずだよ!』
『……そうね。わかったわ!』
とファウンフォレストさんも立ち上がり加減に立ち上がり、横にいるヨシュディアエさんを見て。
『……フッ!』
『……ッ……ッッ』
まるで、この勝負がついたように、勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
そこには、頭を抱えるヨシュディアエさんの姿があったんだ。
こんなになるまで、やってきてしまって、これからどう対処すればいいのかわからない彼女の姿があったんだ。
『……』
そして、ヨーシキワーカ(俺)もわかっていた。もうどうしようもないという事を。
例え、ヨシュディアエさん。
あなたにそれを話しても、あなたは、これまであった悲劇みたいに、確実に揉み消して回るからだ。
それは、今までの悲劇の対象者たちが、その声を上げる。
(――ヨシュディアエ(あの職安の女)は、信用するな。いつか、その寝首をかかれるんだからな――)


☆彡
――過去から現在に返り、エメラルティさんは、こう語る。
「――以上が、損失額の話よ!」
そこへ、サファイアリーさんが。
「エメラルティ、ついでだから、その後の話まで語ったら?」
「それもそうね……。
ヨーシキワーカさんは、完全な被害者さんなんだし……。
それを見兼ねて親は、昔の会社仲間の同僚方を通じて、そうした責任の落とし前をつけたことが会ったそうよ!?
そして、そこには、ファウンフォレストさんやヨシュディアエも加わり、おかしな事態に発展していったそうよ!?
相中で立っていて、敵だった側が、今さら、味方サイドになっていても、もう時すでに遅しだった……」
とここで、クリスティさんの心の内としては。
(まぁ、あの人が、領収書(それ)に気づいたのは、昔の会社を辞めてから3年目だったし……。
イリヤマ先生やミシマさん達の言い分を聞けば、ずっとあそこにいたんだから、1年目で気づけって、さすがに無理な注文よね……。
そもそも1年目こそが、あんた達4人が一番激しくて、ヨーシキワーカさんを責めていた時代だったんでしょ!?
ハッキリ言って、それだけは、不可能なんだけどね……。
ヨシュディアエさんも、よくヒステリック行為を犯していて、まともな神経じゃなかったと聞くし……。落ち着いて聞く姿勢ですらなかった……。
『あれが掃除だなんて言わせないわよ~~ォ!?』
――その制限を受けている状況下では、遅れが生じても、仕方がないものでしょ!? ねぇ~ヨシュディアエさん!? ……クスッ)


★彡
【領収書が見つかった事件解決年、3月】
【ファウンフォレストさんから、月見エビバーガーオーロラソース社に一報を送り、その翌日の金曜日】
【うちのものは海のカキを買いに行き、帰ってきてからの話】
【同刻、家の弟は、こちらに問い合わせもせずに、昔の兄貴の会社に勝手に行っていたらしい】
【しかも、一緒にミシマさんもいて、その兄を語る電話やメールなどを寄こしたらしいが、そんなものは一切こちらに届いていない】
【金だけ盗っていく、どうしようもない連中】
――それは、父からの言葉からだった。
『――ヨーシキワーカ、ヨッシュタダワカーセに、さっき買ってきたばかりのカキを食べに来ないかって、電話をしてくれるか!?』
『うん、わかった』
俺は、父からの言伝を受けて、腕時計型携帯端末(フューチャーウォッチ)に手を伸ばし、操作のだった。
中空に現れるは、エアディスプレイ画面。
俺は、その画面を操作し、うちの弟と繋げるのだった。
PPP……PPP……
パッと画面が切り替わると、そこには家の弟の姿があった。
『――あっ、お前か!? 今、家に(海の)カキがあってさ、食べに来ないか?』
『……ぁ、……ぁ、そんな……お兄ちゃんが犯人じゃなかったの……?』
『……?』
いったい何のこと?
ガ~~ン……
と天から地に叩きつけられたような、そんな大変なショックを受けた弟の姿があったのだった。
と大変ショックを受ける弟。

【ヨッシュタダワカーセ・S・プリメラ】
名はヨッシュタダワカーセ、性はプリメラ。そして、謎のSの文字。
弟の特徴は、灰色の黒髪(アッシュグレー)を有し、灰色の瞳(ライトグレー)に、白人女性特有の白い肌。
兄よりも電気分野に詳しく、設備管理科関係に長く務めているために、その組織の中で、長い物に巻かれていた。
力の弱い弱者よりも、数の力の多い強者側に、傾く悪癖がある。
人の意見を柔軟に聞けば、まだ、今後大きく伸びる可能性があるが……。
強い側の意見を聞いてからは、ほんのちょっと力の弱い者に尋ねては、少ししか聞かなくて、よく取り間違いやすい悪い癖がある。

――とそこへ、父が出張ってきて。
『オイ、代われ……!』
『え、あ……』
エアディスプレイ画面をタッチし、その主導権を兄から強引に奪う父親の姿があったのだった。
そして、こう告げる。それは父から弟への叱責だった。
そのまま父は、エアディスプレイ画面ごと、そのまま、ズンズン、と距離を離していき、ヨーシキワーカを介さず、父と弟の2人だけで会話が行われる。
その時の会話は、こんなものだった。
『オイ、何でお前が!? 兄貴の昔いた会社にいるんだ!?』
『み、ミシマさんから兄貴の方に『電話』や『メール』が『行っていない(?)』の!?
少し前に、ミシマさん達の方から、偽者(お兄ちゃん)の方に電話があったって!?』
(――それは、断じな否!
私からは、ここ2年間余り、ミシマさんにも、イリヤマ先生にも、ライセン先生にも、電話やメールを、一切した覚えがない。
そもそも、ミシマさんに関わった年の夏場と冬の時期にかけて、計2回、
ミシマにも、そのイリヤマって奴にも、一切の連絡を取るな、と父からキツク、厳命されていたからだ!)
これが、ミシマさんに関わった年。
続けて、ファウンフォレストさんが、こちらの職業安定所に来てからは。
(ましてや、ここ1年間は、ヨシュディアエさんを、確実に避けて、いつも、ファウンフォレストさんと応対していたものだ。
つまり、ヨシュディアエさんが、知っている事事態がおかしいんだ!
……まぁ、確かに、あの時、ファウンフォレストさんの隣には、ヨシュディアエさんの姿があって、
ファウンフォレストさんが勝ち得たいい笑みを浮かべると、ヨシュディアエさんはその対照的に、頭を抱え込み、打算的に落ち込んでいたものだった。
少なくとも、昨日は動かず、今日になってから、ミシマさん達に取り次いだのだろう!?
ここで、1つウソつき、自分とあの子は、まだ付き合っていて、その子から連絡が入った……とウソを口実に作った線だ。
そのまま、ミシマさん達に取次ぎ、仲間内の誰かの電話番号の連絡帳を開き、電話帳の編集をして、誤魔化し、『なりすまし詐欺』をしたのだろう)
まぁ、概ね間違いないと思う。
父は、怒鳴り声をかける。
『バカかッ!!! そもそもこいつには、『何も着ていない』とぞッ!!!
ミシマの時を辞めてから、『一切連絡を取っていない』だろうがッ!! いい加減に『偽者』だと気づけ!!』
『えっ……』
ガ~ン……
と大変ショックを受ける弟。……今日、2度目の衝撃だった……。
父は、こう畳み掛けてゆく。
『そんなものは、ミシマたちの奴が『昔から良く使っている手口』だ!!
昔からあいつはそれで、人から『ゆすり』『たぶらかし』、散々多くの人から『騙し盗ってた』んだよ!!
『身体を壊し』、『仕事ができなくなった奴』もいるんだぞ!!
俺は前にも、こーゆう話は、お前にも言ったよな!? ヨッシュタダワカーセ!!』
『~~! ~~!』
『あ~~! 聞こえない、シッシッ!』
その手を振って、あっちへ行け、と強く促してくる父の姿があって、
そうした意を汲んだ母は、コクリ、と頷き得るのだった。
『……???』
(父の考えは、おそらくこんなものだった……。
後で、兄と弟の間で、火種を作るわけにもいかない。
父と弟の間で、内密に話を通し、後で人知れず、母や親戚たち連中に伝える。
このグループの輪の中には、兄ヨーシキワーカは、一切含まれていない。
……言えないからだ。
父から出してきた条件は、一からすべて全部詳細に話すこと、これだけだ。
だが、今になってもわかる。それは、俺(私)でも無理であると……ッッ。
私は、一度として、その偽詐欺電話に出た事がない……。
しかも、父の方から、弟や昔の会社の同僚達、そして、昔の会社へ取り次いだことがある。
だが、いつだってその場には、私はいなかったのだ……。
つまり、語れないのだ、一からすべて全部詳細にまとめる事は……ッッ。
父は、それがわかっていたのだ。
奇しくもあの日、フルスさんの事務所のところから始まった、ミシマさんによるちょっとしたイタズラから、
電話を回していたのは、ほぼ、いつだって、弟だったんだ。
兄には、回していない……ッッ。
1番最初から聞いていない私には、その話の内容がわからず、ついていけないので、
また、どうやっても一からすべて全部説明ができないため、この部屋から追い出すような流れになってしまったんだ――)
『さあ、あっちに行って』
『えっでも……!?』
『いいから!!』
『???』
で、父親が弟に。
『今からそっちに、俺の会社の『事情』を知っている奴を『遣いに回す』! それでお前達は納得しろ!!』
そして、その人達ですら、おそらく伏せる。
ミシマさん達が、その昔、その偽詐欺電話を通して、その標的を心身共に追い詰めて、自殺に追い込んでいた事を。
1年間に3人は、もう死んでいる。
それを嘲笑うような、サイコパスのような人だったんだ。
ウソの電話で取り次ぎ回しをして、その人達を追い詰めて人を殺しんだ。
だから、ミシマさん達は、意図して、故意的にそうなるとは知らなかっただけで、無自覚だったんだ。
電話で人を追い詰めて殺しただなんて。誰がそんな与太話、信じるに値するだろうか。
しかも、電話だから、何も証拠が残っていない。
偽詐欺電話とは、人の噂話の取次ぎ話とは、だいたいがそんなものだからだ。
それが、どうなるのかわかっていないからだッッ。
そんな、まさかの……恐ろしい事になるだなんて……ッッ、だから、もう、止めないといけないんだッッ。
『ったく!! あのミシマってやつは、ホントにどうしようもないぐらい、『金だけ盗って』いって、
こんなどうしようもないぐらい問題しか、残さない野郎なんだな……!!』
『~~! ~~!』
『あぁ、今、その兄貴はここにいないぞ!』
『!?』
『あいつのエアディスプレイ画面の主導権は、俺が握っているんだからな!! 今、あいつは別室だ!! ここから先の、語る内容は知らない……』
『……ッ?!』
『お前等、覚悟しろよ!? そこを動くんじゃないぞ!? 今から俺の知り合いを、そっちに回してやるんだからな!? 覚悟しておけよ!?』
『『『『『ッ!?』』』』』
『フンッ!!』
そして、そのドアの裏で、そのヨーシキワーカの心の内は。
(絶対に止めてやる! こんな『大ウソ』の取り次ぎ回しで、人が死んでいいハズがないッ!!)


☆彡
――過去から現在に返り、アユミちゃんが、こう語りかけてきて。
「――えっ……マジ……!?」
「大真面目な話よ!」
ハァ……
ともう頭を痛めるしかないエメラルティさんがいたのだった。
「その日、そのヨーシキワーカさんも、その話が気になっていたんだけどね……。あの父親(人)ときたら……――」


★彡
――それは、茹でたカキを食べ終わり、ハンバーグを食べていた時だった。
父は、炊飯器の蓋を開けて、こう苦言を零すのだった。
『――ご飯がまだこんなに残っているな……』
『……』
『ちょっと、前にお前は、朝飯でチャーハンを作ったことがあるよな!?』
『んっ……』
『よーし作れ! 出来上がった頃に、俺も食べにくるからな!』
『……』


☆彡
――過去から現在に返り、アユミちゃんが、こう呆けた感じで言ってきて。
「ま、まさか……!?」
「ハァ……そのまさかよ……」
あぁ……
ともう嘆くしかないみんながいたのだった。
「あーゆう親父さんなのよ……。その御兄さんがチャーハンを炒めている間に、お父さん達が電話を取り次いだらしいわ!
そして、その別室に入って行ったお母さんが戻ってきて、あの母(マム)曰く――」


★彡
――それは、家族団らんの場から出てきたものだった。
キィ
と母は、その戸を開け、台所側に出てきて、その首を振るうものだった。
『ハァ……あれはダメだわ……』
手の施しが用がない事を、端的に告げる母の姿があった。
『……』
『『完全に自分の手柄にしたがってる』……。……もう『何を言ってもダメ』ね……』
『………………』
【――哀し気な顔を浮かべるヨーシキワーカ。いったいなぜ、このような結末になってしまったのか、よくわからないものだった……】
【当初、父としては、どうにも許しがたいほど、度し難いものだったのろう】
【子を持つ、父としては当然の反応だった】
【転機が訪れたのは、昔の同僚達からの暖かい声掛けだった】
【父は、その後、その人達を頼っていく訳だ】
【同じ、電気屋仲間を、ビルメンテナンス仲間を】
【同じ、ハッキングができる能力がある人達伝いに、頼っていく訳だ】
【同様に、お隣に住む自衛隊の人も、その繋がりがある】
【後は、もうおわかりだろう!?】
【私が、メモ帳にそれを執筆し、誰かが横から覗き見た事になる】
【その誰かを介し、父の昔の会社の中の者を通して、父へと伝わる】
【同様に、職安からの電話も、父が受け、その2つの線が結びつき、確証を得る】
【後は、もう完全に独り占めにしたかったのだろう】
『ヨーシキワーカちゃん、今、あの部屋にはいかない方がいいわ。完全に自分のものにしたがってるから』
『……』
『行っても、あっちへ行けってばかりに、怒鳴り返されるだけだからね?』
『……』
コクッ……
と私は、物静かに頷き得る。
そこには、頭を悩ませる母の姿があったんだ。
【――私は、私なりに一生懸命に考え、そうした情報を持っていた】
【初めのうちは、ヨシュディアエさんを通し、彼女の手柄に】
【次に、弟にメールなどを送り、弟の手柄に】
【次に、ファウンフォレストさん伝いから、どーゆう訳か、父や弟に伝わり、その手柄に】
【最後なんかは、ハッキングに会い、その人達に、その手柄を先に奪われてしまったわけだ】
【詰まるところ、私がどんなに一生懸命になって、そうした情報を持っていても、横から誰かが掠め取っていく訳だ】
【しかも……だ! 私には、その後、何にも返しの報告例が届いてない……のだ】
【信用が置けない。事後報告もしない連中。もう、好きにしろ、と言いたくなってきて、が鳴りたてたい】
【もう怒りしかない、私でさえ、憤激してしまいそうだ――】


☆彡
【職場では、優れた人物を雇う傾向がある】
過去から現在に返り、サファイアリーさんは「ハァ……」と溜息をつきつつ、こう告げる。
「――これは、現実(リアルティ)のどこかの探偵屋さんにも言えるけど……。あのお父さんも、似たような口でね……。
まぁ、昔の同僚方への依頼者の類なんだけど……」
「昔の同僚方って?」
「その昔の同僚達(その人達)を伝っていけば、必ずと言ってよいほど、ハッキングができる人に行き着くからよ。
あの人は、そーゆう人達に協力要請をした説が濃厚だからよ」
サファイアリーさんが、そう淡々と告げると、
これには、みんなも。
「えええええっ!? そうだったの!?」
これには、サファイアリーさんも。
「ええ、実はそうなのよ。
あのお父さんはね。その人にその能力があるかなしかで、物事の『善悪』の判断を、『あいまいにし決めつける』キライがあるの。
無実よりも、能力がある人を取る口ね。
どの職場関係においてもそうなんだけど、有能な技能を持った人を雇用し、その人に高い給料を支払った方が、会社側としてはいいからよ。
それが社会人としての一般常識の範疇。
逆に、何の能力もない、取柄もない人は、無実の罪でもそうなんだけど、そこまで高い額の金を払う必要がない。
それが集団性の組織、電話伝いの『間違った』取り次ぎ回しから『始まり』、『見誤った』法務部の存在、正義の法を預かる執行人だからよ。
――そう、鵜呑みに騙されて、間違った意に、乗じていた人でもあるからよ。
……これは、ヨーシキワーカさんのご家族『だけではなく』、大勢の人達に、『当てはまる』事柄よ!
ここんところは、よく『注意』してね!」
「……」
サファイアリーさんは、そう、みんなに注意喚起を促したのだった。
そして、こう続ける。
「今回の場合は、ヨーシキワーカさんの大手柄なんだけど……。
そのお父さん達が掠め取っちゃって、焼き肉やら酒の飲み会やらで、全額パァよ!
あんな少ないお金、すぐに無くなちゃったんだって、使えば、すぐになくなるからね……」
これには、スバル君も。
「か、金遣いが荒いからなぁ……家の親も……」
で、未来の奥様アユミちゃんから。
「スバル君は、そうはならないでね?」
「は……はい……。少しはよく注意します……」
とキツク注意され、みんなから、「ハハハハハッ」と笑われるのだった。
とそこで、ミノルさんから。
「……しかし、何だってそんな形になるんだ!?」
これには、サファイアリーさんも、「ハァ……」と溜息交じりで。
「事の発端と原因は、ヨーシキワーカさんが、その昔の会社を辞めた時期から始まっていたからよ」
「……なんじゃと!?」
「昔の会社の人達から、連絡伝いで、方々へ問い合わせて周っていた。ここがポイントよ!」
「……」
昔の会社の人達から、連絡伝いで、方々へ問い合わせて周っていた、とはいったい。
「ここに関わってくるのが、『内部犯を通しての依頼信託』であり、『身代わりの保証人システム』であり、
前金もらってしまったからの『包んでもらったお金』だからよ」
「あっ!」
「そうか! ヨーシキワーカさんが、小学生時代に聞いていた、汚い大人の世界だわ」
「あら? 良く覚えてたわね~アユミちゃん! 正解よ!」
エッヘン
とこれには、アユミちゃんも鼻高々だったわ。
「そう、この前金をもらってしまった以上は、ドクターイリヤマも、ドクターライセンも、ミシマさんも、
その体裁がどんなに悪くても、何がなんでも、どうやっても都合が悪く、
そのヨーシキワーカさんのせいに仕立てないといけなかったからよ!? そうでないと、形的にも丸く収まらないからね」
「……」
メチャ卑怯である。
「講師2人が、あの会社の社員代表の方が、その顔の面汚しとプライドと沽券に大きく関わってくるからね!
あのヨシュディアエですら、お金を受け取ってしまった以上は、どうあっても言い逃れができない。
だから、何がなんでも、そちらの『会社の顔を立てる』しかなかった……!!」
そこへ、クリスティさんが。
「それが、この大人の世界の厳しさ、社会人の常識だったからよ」
「そう、だから、こんなどうしようもない問題を企ててまで、
集団で『間違った』『見誤った』『偽電話詐欺』を取り次いでまわり、そーゆう風な話を『でっち上げた』わけよ!?
で、無理が生じて、散々なまでにボロ負けしてしまったわけ……」
「……」
フゥ……
と重い溜息をつくサファイアリーさん。
次いで、エメラルティさんが。
「掃除で、そのどうしようもない問題が、クリーンアップされてしまったわけね……?」
次いで、サファイアリーさんが。
「こんな恥ずかしい話の前例は、他にないわよ? 黒が白を塗りつぶすつもりが、逆に漂白されてしまったわけね! アハッ、お笑いだわ!」
「洗濯かよ!? いててっ!!」
痛むスバル君。
ハァ……。
何だかなぁ……と思いつつ、みんなは、重い溜息をつかんばかりだった。
――で、エメラルティが、こう語ろうとしたところで。
「――で、その日から数日後の、みんな眠たくて、寝静まっている深夜――」
サファイアリーさんから、一時、中止の声が挙がるものだった。
「ちょい待ち、エメラルティ!」
「え!?」
「このまま、ミシマさんとその息子君の住居不法侵入の話に行くところだったでしょ!?」
「ええ……」
「それは、また、次回の機会でいいわ。先に、ヨーシキワーカさんを救うのが、第一優先でしょ!?」
「それもそうね!」


TO BE CONTINUD……

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