第14話 異世界にツンデレという概念が生まれた日
魔王軍入隊式-
「………ということで、諸君のこれからの活躍に期待する!以上!!」
ソウイーンキリーツレーイ「アザシター」ナオレーヤスメー
ザワザワガヤガヤ
「あー疲れたー早く横になりたーい」
「ゼファ、みっともないからしっかり歩きなさい。」
退屈な入隊式がやっと終わり、各自自分の寮のへ戻っている途中。
「フレイムよ、アルスとセニアとは連絡取れているのか?」
「うん、連絡は取れているんだけどどうにも忙しいらしくてまだ会えてないんだよ。」
「うむ…ならば仕方ないな…」
ガイア自身も旧友に一刻も早く再会したい気持ちは勿論あったが、もっと会いたいであろうフレイムの手前我儘は言えない。
先代魔王の死後、魔王代行は軍団長が担っている。
しかし元々魔王以外の魔族は基本的に自分の強さ以外に興味の薄い脳みそ筋肉集団の為、内政関連に関しては全くの素人である。というより興味すらない。
そこを生前危惧していた先代魔王は、若いアルスとセニアに魔王自身の知識を必死に植え付けた。
アルスとセニアも当然脳みそ筋肉集団ではあったが、それでも幼い頃からフレイムを気に掛けていた為、他の魔族よりも周囲に対する気遣いする感覚が養われおり先代の期待に見事に応えてみせたのだった。
先代魔王が存命のうちは魔王のサポートに回っていたが、魔王の死後、その全てがアルスとセニアに降りかかってきたのだった。
また、アルスとセニアは、成長の遅い幼馴染の苦労を目の当たりにしてきた為、それまでほぼ手つかずだった幼児からの教育に関する政策を積極的に行い次代の魔王軍育成に注力しており、文字通り寝る間を削って内政に取り組んでいた。
それまで魔王の側近として表舞台に立っていた2人だが、魔王の死後裏方に回らざるを得ない状況となり、やがて表舞台から姿を消していった。
それでも魔族の未来を誰よりも真剣に考えるアルスとセニアは文句一つ言わず、ただただ我武者羅に魔族の繁栄のために身を粉にして働いていった。
そんなアルスとセニアの状況をフレイムたちは知る由もないが、入隊式から一か月後ようやくフレイムら4人は2人との再会の約束を取り付けることができた。
しかし、アクアス・ガイア・ゼファの3人は今回ばかりは幼馴染たちの再会に水を差す気になれず、それぞれ適当な理由を付けて断りの連絡を入れた。
「しかし、フレイムの変化を見た時の2人の反応だけは気になるわね。」
「ねー!もしかしたら気付かないかもー」
「俺はまだフレイムに負けを認めた訳ではない。」
アルスとセニアが離れた後も、フレイムらは当然トレーニングを続け着実に実力(筋肉)を付けていった。
特にフレイムの成長は凄まじく、フレイムのそれまでの努力と遅れてやってきた成長期の相乗効果により、あっという間にクラスメイトに追いつき抜き去り、1年経過する頃にはアクアスらにも追いついていた。
ちなみにその頃には、長い学園の歴史の中でも特に優秀な成績を修めたフレイム、アクアス、ガイア、ゼファらを総称して高等部の中で学園四天王と呼ばれるようになっていた。
在学中のアルスとセニアの成績はずば抜けていたが、1年間で退学したことと、あまりにも同世代と比べ優秀過ぎたため自然と対象外となっており、世間や学生の間ではフレイムたちが若きヒーロー的な存在となっていたのだった。
「負けを認めなくても世間の評価は正直よ。」
「ぐぬぅ…」
「そろそろ再開してる頃かなー」
「負けは認めないが、誰よりもフレイムが努力したのだけは認めざるを得ない…」
魔王軍本部、研究室-
「ここか、アルスの手紙にあった待ち合わせの場所は…」
予定時間より30分程早く着いてしまったが、2年以上再会を望んでいたフレイムを誰も悪くは言えないだろう。
コンコンコン、ガチャ
「失礼しまーす…」
「久しぶりだなフレイム。それにしても随分早い到着だな。」
「1時間以上前から準備万端でソワソワしていた魔族の言葉とは思えない発言ね。」
薄暗い部屋の奥から聞こえてくる夢にまで出てきた懐かしい声。
話したいことは山ほどあるが、まずは再会した時に2人に褒めてもらえるように続けてきたトレーニングの成果を見て貰いたい。
血管うねうねマスクメロン、腹筋ちぎりパン、お尻ムー大陸に背中ユーラシア大陸、まだまだ見せたい筋肉がたくさんあるフレイムだったが……
「え……?」
再会を夢見た幼馴染たちだったはずなのに、目の前にいるのは幼馴染の声をした不健康に瘦せこけた女とだらしない身体の男だけだった。
「……誰?」
「「!?」」
1日1時間も睡眠時間も確保できないアルスとセニアは当然生活リズムも滅茶苦茶になる。
食事を全く摂らなかったり、一気にまとめて食べたり、せんな生活では鍛え上げられていたはずの2人の肉体を維持できるはずもなかった。
当然アルスとセニアも自分たちの変化に全く気付いていない訳ではなかったが、それよりも忙しさに追われ体型の変化を全くは気にしていなかった。
その為、本来冷静に考えれば容易に想像がつくはずなのに、再会した時に自分たちに憧れる幼馴染がこの身体をみてどう感じるかを考えることもなかった。
「アルスとセニアを知りませんか?」
感情のない目で探し人であるはずの2人に問いかける。
本当はわかっているはずなのに。
「今日久しぶりの再会なんです彼らに再会する日を楽しみにこの2年間努力してきましたまだ彼らには到底追いつけないけど少しでも成長した僕の姿を褒めてもらいたいんですアルスとセニアを知りませんか?」
現実を受け入れらないフレイムは、尚も早口で繰り返す。
「ふ、フレイムよ。ちょっと聞いてくれ。」
「フレイム、これには理由があるのよ。」
なんとかフレイムの理解を得るため説明を試みる2人だが肝心の幼馴染にその声は届かない。
「お願いです再会をずっと楽しみにしていたんです意地悪しないで2人で会わせて下さいお願します」
一向に聞く耳を持たないフレイムに対しアルスが強引に迫る。
「フレイム!!!!!」
フレイムの両肩を正面から掴み、じっと目を見つめる。
「アルスと、セニアです。ご無沙汰しています。」
「………………ガウ」ブツブツブツブツ
「「……………」」
「…ガウチガウチガウチガウチガうチがうちがう違う違う!!!!お前たちはアルスとセニアなんかじゃない!!」
優秀なアルスとセニアではあったが、2人はフレイムがどんなに2人との再会を楽しみにしていたか、フレイムがどんなに2人に憧れていたか、他の誰でもない、アルスとセニアに認められたくてどんなに努力を続けてきたか……それらの気持ちを理解していなかった。
その想い、その憧れ、2人だけに向けられた承認欲求、それら色々な気持ちが混じり、裏返り、
「…糞野郎どもが……………」
憎しみに変わった。
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「もうそこからはあっという間ですわ。順調に表舞台で成果を出し続けるフレイムと他の3人は周囲の評価もうなぎ上りで、5年も経たずに彼らの為に四天王という役職ができました。」
「というよりもアルスが作ったのであろう。」
「えぇ。そうした方が都市を分割し、民をまとめやすかったので都合は良かったわ。フレイム以外の四天王は理解してくれたし。」
本当にこの2人優秀なんだなー。全然想像つかんけど。
「ということは仲違い、というよりも一方的にフレイムさんが2人に怒りを向けている、ということですかね?」
「流石に行く先々全てで私たちのある事ない事を風潮しまくるので苛立ちはあります。そのお陰で世間からの風当たりが凄いことになっていますので。」
「だが、仕方なかったとはいえ、その発端は我々にあることも理解している。」
彼らの長い昔話を聞いたおかげで、どうやら大分感情移入してしまったようだ。
なんとかしてやりたい自分がいる。
フレイムを行き過ぎたツンデレと脳内変換するとなんだかやれそうな気がする。
何よりも魔王軍の頭脳としてのアルスとセニア、実務部隊としての四天王、という連携が取れれば、俺の安定した生活にかなり前進するはずである。
さて、まもなくダークヘルムに到着だ。