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第13話 さよならだけどさよならじゃない

そこからアルスとセニアが魔王軍に配属される次の春まで、あっという間に過ぎていった。
特にそれまで一緒に過ごすことが当たり前に育ってきたアルス、セニア、フレイムはお互い競い合うように、離れる寂しさを紛らわすように、残り僅かな貴重な時間をトレーニングに充てていた。

そして月日は流れ…


翌年、春-

「それではフレイムよ、一足先にいって待っているぞ。」

「アクアスたちもお元気でね。」

旅立つ2人からの短い別れの言葉。
それぞれ永遠の別れではないことを理解している為悲壮感はない。

「セニア、勝ち逃げは許さんからな!すぐに追いつくから待っておれ!!」

「アルスさん、私はあなたを認めてはいませんが非常に良いライバルだとは思っておりますわ!死ぬ気で魔王様を支えなさい!!」

「また今度ねー!」

それぞれ寂しい気持ちは当然あるが、近い将来の再会を確信し、残される面々は別れを惜しむのではなくアルスとセニアの門出を祝った。

「アルスちゃんもセニアくんも、離れている間に僕に抜かれない様にしっかりトレーニングに励むんだよ!!」

「随分大きな口をきくようになりましたわね。」

「フレイムよ、いくら背丈が俺に並んだからといっても調子に乗るのは少し早いぞ…」ゴゴゴゴ

この1年でフレイムはいよいよ本格的な成長期を迎え、クラスの中でも小さかった背丈は既にセニアに並んでいた。当然アルスは見上げる形になる。

「僕は2人がいなくても大丈夫だから、何の心配もいらないからね。」

「何を勘違いしているのか知らぬが、我らは端からお前のことなど心配していない。」

「本当よねー。」

「イグニスの1件の時、血が暫く止まらなくなる程拳握り込んで我m バコンッ
グヌ、マダワカレノアイサツガオワッテ……

空気が読めず茶々を入れてアクアスに殴られ、アクアスとゼファに引きずられていくガイア。
残されたのは幼馴染3人となり場は静寂に包まれる。

「「「……………」」」

「僕は幼かったあの日、2人が…2人の夢に当たり前のように僕を加えてくれたからここまで頑張ってこられたんだ。」

「「………」」

「2人は努力することが僕の才能だ、って言ってくれるけど僕は2人がいつも横にいてくれたから頑張れた。」

アルスは微笑みセニアは何故か上を向いたままフレイムを見ようとすらしない。

「2人がいつも僕の前を歩いてくれたから、僕は自分の道を見失わずに歩いてこれた。でも、いつまでも君たちに甘える訳にはいかない。これからは僕自身で行先を決めて、自分で歩いていくんだ。」

「…………。私たちは本当はそんな強くないの。私とセニアだけなら間違いなく逃げ出していたことも沢山あったわ。」

アルスの横でセニアがコクコクと頷いている。

「周囲と比べ身体の小さかった貴方が、そんなハンデを物ともせず私たちに喰らいついて来る。そんな貴方を幼馴染として誇らしく感じるのと同時に、その執念に恐ろしさすらも感じていました。」

自分にとっての幼い頃からのヒーローたちから聞く初めての言葉。
フレイムは2人が自分のことをそんな風に思ってくれていたことに驚きとともに嬉しさを感じる。

「私たちは周囲から天才だなんだと囃し立てられても、後ろからゆっくりではあるけどしっかりとした足取りでついて来る貴方の手前、努力を止める訳にはいかなかったわw」

「我らも、フレイムが後ろから押してくれたから頑張って来られたのだ。」

「周囲がどう思っていようとも、私たちにとって貴方もまた立派なヒーローですわ。」

その言葉で笑って送り出そうと思っていたフレイムの涙腺は崩壊した。

「畜生!笑って送り出すって決めてたのに!!」

「ふふふ、身体は大きくなってもフレイムはフレイムですわねw」

「そういうアルスも涙で顔がボロボロではないかw」

当然セニアの顔も同様である。

一通り泣き、笑ったあといよいよ別れの時が訪れる。

「さよならは言わないよ。どうせすぐ追いつくから。」

「あぁ、魔王様の横で待っているぞ友よ。」

「約2年、私たちもフレイムに負けないよう必死に精進します。再開を楽しみにしていて下さい。」

そうして3人は拳をぶつけ合い、2年後の再会を誓うのであった。

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「畜生、どいつもこいつも泣かせるじゃねぇかよ!!」テヤンディ

筋肉関連を除けば素晴らしい友情物語である。
ステロイド4倍とかふざけているのかと思ったが、それすらも感動のスパイスのような気がする。

「しかし、ここまではフレイムと仲違いするような要素はゼロ…ですよね?」

「はい、それはこの後フレイムたちが高等部を卒業し、魔王軍に入隊した後の話になります。」


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フレイムたちは学園に残り、アルスとセニアは史上最年少で魔王の側近に大抜擢され、月日はあっという間に流れていく。
配属当初こそ若すぎる年齢のせいでアルスとセニアの実力は世間から疑問視されたが、時間とともに周囲からの評価を得て、学園にも2人が活躍するニュースが届く様になった。
フレイムたちは離れていながらも届く2人に関連するニュースに胸を躍らせつつ、負けてられぬとより一層の努力を続けたるのだった。


そしてー


1年後、魔王が勇者との戦いで戦死したとの報せが魔族の間を駆け巡る。

学生の身のフレイムたちにとって、魔王の死はとても悲しい知らせではあったが、それと同時にまだ経験したことのない『戦争』というものに対しどこか他人事のように感じていた。

しかし、よく知る友のこととなれば話は違う。
アルスとセニアの安否は確認できているが、責任感の強いアルスとセニアが『魔王の死』について、責任を感じない訳がない。
フレイムは2人の気持ちを考えると今すぐ2人の元に駆け付けたい衝動に駆られるが、今自分が行ったところで逆に2人に迷惑を掛けるだけだ、と冷静になる。
今はしっかり自分を鍛え上げ、2人との約束の通り魔王軍に入ることが先決である。

その後、魔王軍は若き2人の側近により混乱は収められ、徐々に落ち着きを取り戻していくのだった。

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