友情と決意
女子のスポーツには華がない。
ずっと昔から、その考えは、定着しているのであろう。
女子バレーボールは、男子より気持ちのいいスパイクはない。
女子バトミントンは、男子より気持ちのいいスマッシュがない。
女子陸上は、男子よりもスピードがない。
どのスポーツも、男子と比較され、そして、男子スポーツに負けてきた。
その結果、同じスポーツの選手でも女子の方が年俸が安い、知名度がない、ということが頻繁にある。
そんな中、私は、心を奪われたスポーツがあった。
それは、野球―――――。
私はその時、必ずプロ野球選手になる、と心に決めた。
***
「如月、如月、、、如月!!」
「はいぃぃぃいい!?」
「お前なあ、、野球選手になるって夢見るのもいいが、授業はちゃんと受けろよ。次寝たら指導だぞ」
「はーい、、」
いつのまにか寝てたみたいだ。
多分、昨日夜遅くまで素振りをしていたからだろう。
パラパラと教科書をめくって、黒板に書いてあるのをそっくりそのまま写す。
もう中3の3月だしな、、、
そろそろ受験シーズンだ。というか、もう受験が終わってる人がほとんどだ。
私の学校は島にポツンとあるので、高校は寮のある所に行く人がほとんどだ。
私もそのうちの一人。
幼いころからの夢である、野球選手になるために。
キーンコーンカーンコーン
「はい、じゃあ今日はここおさえとけよ。じゃあ、明後日受験のやつは、受験がんばれよ。」
野球選手になれたらどうしようか、なんてのんきに妄想してたら、いつの間にか授業が終わっていた。
「へーいかえぽん。今日もまた、キレッキレだったな。」
4時間目終了と同時に、テンションのおかしい友人が現れた。
「どうせ昨日夜遅くまで素振りしてたんだろう。うんうん、その気持ち、よおく分かる。ま、私は今日の朝したから全然眠くないんだがな」
がははは、と笑う友人を引きずってそのまま屋上に向かう。
「かえぽん、ゆな、おせーぞ」
「ほんっと遅い。」
「ごめんごめん、ゆなが素振りのし過ぎで頭おかしくなってさ。」
「おい、それはひどいんじゃあないか、かえぽん」
そんな私たちのやり取りにみずとあずさが苦笑する。
「ま、とりま食べよ。」
あずさの一言で、みんな弁当箱を開けておかずを口に運ぶ。
「ってかさー、うちら試験明後日だよね。」
みずの声にみんながうなずく。
「素振りとかしてて大丈夫かなあ。」
これには誰もうなずかない。
「だよね、、いくら低偏差校とは言え、ちょっとヤバいよね、、、」
「いや、みず、偏差値57は底偏差と言えるのか、、??」
みずのいきなりの低偏差発言に私はたまらずつっこむ。
「どうしたんだいかえぽん。たかが57を頭いいと思うようになってしまったのかい。」
「そうだよかえぽん。今回ばかりはこの馬鹿なゆなに同意する。今回ばかりはね。」
「おいおいあずさ、それは私に対する宣戦布告ということでいいのかね。」
なんだろうこれ。私がおかしいんだろうか。
確かに、偏差値57は低偏差、、か。
無理やり自分を納得させて、何故かお弁当に入っている納豆を口に運ぶ。
「ま、とりまうかって尾瀬崎校の野球部をハイジャックしますか。」
さらっと怖いことを言って滾っているみずをまあまあとなだめて、また納豆を口に運ぶ。
「でもさ」
そう私が切り出すと、今さっきまでじゃれあっていたゆなとあずさ、それを笑ってみていたみずがそろってこっちを向く。
「何があってもうかって、甲子園出場しようね。」
3人は一瞬ぽかんとした顔をした。
あれ、みんなそのつもりじゃなかった?そう思ってたの私だけ?
そんないやな考えが頭をよぎる。
でも、そんな考えは一瞬にして振り払われた。
「ったりめーよ。」
「ずっとそうだと思っていたんだが、どうしたんだいかえぽん。怖くなってきてしまったのかい。」
「そうだよかえぽん。今回ばかりはこの馬鹿なゆなに同意する。今回ばかりは。」
「おいあずさ、いまさっきからばかばかばかばかうるさいんだよ!!」
当たり前のようにそう言ってまたじゃれあう二人と、それを見て苦笑しているみずを見て、泣きそうになってしまった。
けど、涙は、飲み込んだ。
この涙は、甲子園出場を決めるときまで、とっておくんだ。