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おまけの第3話 寄り添う心②

「じゃあそろそろ始めようか」

 俺が開始の合図をすると、2人は激しい攻撃を繰り出した。
 瞬きをするのも惜しいと思える、素晴らしい戦いが目の前で行われている。
 序盤は一進一退の展開だったが、次第にサクラ氏が押し始める。

 押され始めたカトー氏の顔に焦りの色が見える。
 慌てて大技を繰り出すが、サクラ氏は涼しい顔でそれを躱し、今度は隙だらけの腹に強力な一撃を入れた。

「それまで!」

 サクラ氏の勝ちだった。
 ありえないという顔のカトー氏に近づき、サクラ氏が低い声で言う。

「私の勝ちだな。もちろん何でも聞くんだよな?」

「もちろんだ。約束だからな……」

「じゃあ、お前は冴子さんの治療の手伝いをしろよ。さっきナカマツから聞いたんだけど、冴子さんは怪我から時間が経っていることもあって一週間ほど掛かるんだそうだ。お前はつきっきりで冴子さんのサポートをするんだ」

「それだけ?」

「それだけだが、問題あるのか?死ねとでも言った方が良かったか?」

「いや、もちろん問題はない。約束だから従うよ」

「私達は一週間にまた来るから、誤魔化さずにちゃんとやるんだぞ。じゃあな、私は仕事があるからもう帰る」

 そう言って、サクラ氏は帰っていった。
 あとでハカセに聞いたのだが、サクラ氏はカトー氏に再び勝てるように猛特訓をしていたらしい。
 不老不死では無くなり、本来の強さまで戻ってしまったサクラ氏だったが、努力で再びカトー氏を超えてしまったということなのだろう。
 サクラ氏の勝ちに対する執着心には本当に頭が下がる。

 ――

 俺はサクラとの約束通り、冴子さんのサポートを行っている。
 ボスも一旦自宅に戻ったので、しばらくは3人で宇宙船に残ることとなる。
 メインの治療はナカマツが行っているが、それ以外の雑務は俺が全て行っている。
 サクラが何故この仕事を俺にさせているのかは分からないが、勝負に負けたのだから仕方ない。

「カトーさん、今日もよろしくね」

「冴子さん、調子はどう?」

「それがね、少しだけ足が動くようになってきたのよ。今まではこんなこと一度も無かったのよ……あなた達、本当に凄いわね。宇宙船の中でこんな凄い治療を受けられるなんて、まるで夢のようだわ」

「この治療機はイチローが考え、ハカセが設計して、エディが組み立て、ナカマツが運用しているんです。俺はあまり役に立ってないですよ」

「そうかしら、随分前の異星人襲撃で敵の将軍を倒してくれた英雄なんでしょ。サクラさんがそう言ってたわよ」

「え?サクラがそんなことを……。確かに俺が倒しましたが、実際のところはサクラがいなければ負けていました」

「あなたが活躍したのは事実なんだから、もっと自信を持った方がいいわよ。それを鼻にかけるのはよくないけど、それだけのことをしたと思うわよ」

「ボスもあの時の話をするんですか?」

「一度だけ話してくれたことがあったわね。皆の頑張りでなんとか目標を達成できたこと、サクラさんとイチローさんを重傷にしてしまったこと、それでも後悔はしていないことなどね」

「そうか、ボスはすごい重圧があったはずなのに、強い人だな」

「あの人ね、顔は怖いけども本当に人をよく見ているのよ。そして優しさが深いの。きっと辛い思いを色々してきたけど、それが糧になる人なんでしょうね」

「あの……人をよく見るって、どういうことなんでしょうか?」

「そうね、上手く言えないけども相手の心に寄り添うことかしら。自分を相手の立場に置き換えてみて、どう感じるか……考えてみることね。想像力の世界でもあるので間違うこともあるかもしれないけど、大事な事は正しい答えを導くことじゃなくて、相手に寄り添うという行動そのものだと思うわね」

「なるほど、俺は今まで一度もそんなことをしたことなかったかも……。実は俺……」

 俺はサクラと喧嘩が絶えないこと、サクラに戦闘でも負けてしまったことなど、心に引っかかっていることを全て吐き出すように冴子さんに話した。
 冴子さんは頷きながら真剣に聞いてくれた。

「それは大変だったわね。あなたのような英雄でも、人並みの悩みがあるなんて驚きましたよ。私の予想だけどサクラさんは凄く勘のいい人じゃないかしら」

「そうですね、やたらと勘が良くていつも先回りされてました。隠し事をするとすぐバレますし」

「サクラさんもよく相手を見ている人ですからね。あの人、主人のことをハゲだとか悪人顔だとか言うので頭に来るときがあるんですが、本当は仲間思いで優しい性格ですよね。恐らくですけど、自分はカトーさんの事を見ているのにカトーさんは自分の事を全然見てくれていないと思っているかもしれませんよ」

「あ、それはよく言われてましたね。俺も見ていたつもりでしたが、ただジロジロ見ていただけだったんですね」

 俺は今更ながら、自分の過ちに気が付いた。
 そういえば、イチローもハカセに寄り添ってるもんな……。
 あいつ、案外凄い奴なのかもしれないな。

「冴子さん、色々教えてくれてありがとうございます。俺、サクラとやり直せるように頑張ってみます!」

「いえいえ、こちらこそ。英雄さんと話ができて楽しいわ。サクラさんと上手くいくといいわね」

 色々と考えていたのだが、サクラが冴子さんのサポートを俺にやらせたのは俺に気付かせることが目的だったのでは?
 勘のいいサクラの事だから、ありえるよな……。

 ――

 約束の一週間が経ち、冴子さんの足は歩けるまでに回復した。
 それを見たボスは冴子さんと抱き合い、泣いて喜んだ。

 でも、俺にはまだやることがある。
 サクラとの仲直りだ。

「カトー、ちゃんと冴子さんのサポートをしたみたいだな。これで罰ゲーム終了!お疲れさん」

「サクラ……。俺、この一週間考えていたんだが、今までサクラに寄り添うような思いやりが無かったことに気付いたんだ。本当に申し訳ないと思っている。反省して改善するから、もう一度やり直してくれないか」

「カトー……」

 サクラ、イチロー、ハカセが顔を見合わせ戸惑っている。
 え?どういうこと?

「カトー、私ね……地球人の男性と結婚することにしたの」

「えっ?えっ?え~!」

「相手は映画監督なんだけどね、先日求婚されてね……カトーとはもう難しそうだからいいかなって、承諾したのよ」

「そ、そんな……冴子さんのサポートをさせたのは、俺のダメなところを気付かせるためとか、そういう目的じゃなかったの?」

「は?なんだそれ。単に人が足りないから丁度いいかなって思っただけだぞ」

 俺は体の力が抜けていき、膝から崩れ落ちた。

「カトー氏、ちょっとだけタイミングが遅れたな……」

 イチローがそう言ってきたので、俺は思わず言い返した。

「イチロー、俺は絶対にメイドと結婚してやる!」

 それを聞いたサクラはナカマツに『バカに付ける薬』が無いかを聞いていた。

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