会議
王座に座り、背もたれにくつろぐかの様にゆっくりと寄りかかる。辺りは静かで王以外誰も居なく、静寂の中ほんの数十秒ぐらいだろうか王が目を瞑っていると王座のひざ掛けの先端から薄く細い線が真っすぐ伸びた。それは徐々に上に上がっていき、ある程度の空中で止まり、線は画面の様に四角形に変形していき何者かが画面の奥に映りだされた。
「いや~ん~、ビックリしたわぁ~」
画面の中の男だろうと思わしき人物がまるで裸でも見られたかの様な感じで手を肩らへんまで持っていき、体を隠す仕草をした後王のリアクションをチラっと見る。しかし、何の反応も無く、真顔で見ていた。
その反応が予想道理だったのか男は今の出来事が無かったかの様に喋り出す。
「えぇ~ノリ悪いわねぇ~」
「アトラ、さん。毎回同じ事をやっているのは意味があるの....ですか?」
少々ぎこちない喋り方だがそんなに気になる程でも無い。王と言う身分で自分と対等な人はこの国には居ない為、言葉に気を使って丁寧に話す事が無いので中々慣れないからこの様なぎこちなさが出ていた。
そんな面白くもない一連の流れを見せられた王は冷たい目線で見る。
「もぉん、アトラさん。じゃなくてっ! ア、ト、ラ、ちゃんって呼びなさいよぉ~」
自分の名前を一文字ずつ言う時と同時に人差し指をリズム良く横に動かすと、魔法なのか後を追う様に画面の中にアトラの名前が浮かび上がる。しかも、何故かキラキラにデコられていた。
そんな画面から眩しい光が放たれている中。
(ダメだ....会話にならん..)
っと心の中で思い、もううんざりし喋ることを止め、黙って画面を見続ける事にした。
又もや何の反応も見せないでいるから流石に黙るかっと一安心したのも束の間、アトラはそのままワチャワチャと娘の事や日常的な事を喋り出し、王の頭の中には何一つ内容が入っては行かず右から左へと流れる。
気がどうになりそうになりながらも早く他の人が来る事を祈っているとアトラの画面が半ぐらいの大きさになりやっともう一人トラの様な顔をし、白銀色の毛並みを生やして獰猛な顔をしている人物が映りだされる。
「ガッハハ! もう来てるとは! 用意周到だな! ハッハッハ!」
明るく、デカい声だがガロよりは喧しくはなく程度ていどの良い声が画面から聞こえる。
「やっと来たか..リレオガル、さん」
もう既に疲れ切った声で画面の人物を呼んだ。それと同時に心の中でアトラから解放された事を喜び、今すぐにでも祈りを捧げたいっと思い始める。
「もう遅いわよぉ~」
そう言った後ほんの少し拗ねてそうな顔をしながら、一回だけ口の辺りで手を仰ぐ仕草をしたのちにねっとりとした喋り方で言いだす。
「ねぇ~! 聞いてぇ~。エゼちゃんったらねぇ~、全然かまってくれないのよぉ~。ひどくない!?」
「ガハハ! まぁそういう日もあるさ!!」
太陽の様な眩しい笑顔が画面一杯に映りこむ。
「.....」
(早く終わらせてくれ..)
何だか頭痛がしてきた頃、更に二人の画面が小さくなりそれぞれ均等な大きさになった。
一人はエルフの様な長い耳をしており、薄いピンク色の長髪女性だった。そして、もう一人は白髪しかなく、真白な長い髭と長い髪でどちらが髭なのか髪なのかが分からない背の低い老人。その二人が参加し、老人は一人でなんかお茶会をしており、片手に小さい器を持ちながら微動だにしない。それを見かねたのか最初に喋ったのはピンクの女性だ。
「ヒィ! も、もう、始まっちゃってます?」
内気なのかエルフは弱々しく震えている声で喋り、顔を下に俯かせ髪で顔が隠れていた。その髪の隙間から覗いていて、オドオドしている眼でこちらを見ていた。
「おぉ~来たか!」
それとは反対に陽気なリレオガルは笑顔を見せ、鋭い牙を出しながら挨拶をしている。
「ヒィィ!」
リレオガルの牙にビビったのか、それとも陽気な圧力にやられたのか、エルフは身を引き画面から少し離れた。その身体は少し震えており、手を口元に持っていき、軽い力で爪を噛んでいた。
「大丈夫よ~シクラちゃん、間に合っているから」
優しくシクラに接する事で落ち着かせようとアトラはまるで母親かの様な包みがある喋り方をする。
「..ふ、ふぅ..よっ、良かった~」
それに答える様にシクラは落ち着いた。どうやら遅刻したと思い込んでいたらしく、無事会議に間に合った事を知り安堵した。
「....もう、初めてもいいぞ」
痺れを切らしつつある王は貧乏ゆすりを我慢しながら、不愛想な声を出す。
「あ~ら! そういう時だけ喋るんだから」
皮肉めいた言い方だが、悪意のある言い方ではないのでそこまで王には効かなかった。確かに王の言う通り、全員揃ってしまったので致し方なく喋り出す。本当はもっと雑談をしたかったが。
「んじゃ! 四カ国平和維持会を始めちゃお~」
アトラの号令と共に全員が軽く頷く。
「初手はあたしからぁ~。今年も魔国は変わった事は無いかしらねぇ~。まぁあるとしたら、凶暴な魔獣が去年より二~三匹ぐらい多い事かな~」
そう言いながら考える仕草をしていたアトラは自分が言い終わったので次の人に向けて画面越しに指を指す。
「はい次!!」
「お!! 俺か、いいだろう!」
突然リレオガルは腕を組みだして自信満々に語りだす。
「獣国は全てにおいて、去年より大きく上回っている! なんと素晴らしいことだ! ガッハハ」
身体をのけ反らして大きく笑っていた。
その言葉を聞いた時、今までオチャラケていたアトラは一変し、少し威圧感がある態度を取り重みのある喋り方をする。
「ガルく~ん、去年も一昨年も同じ事言ってたけど..本当に国をちゃんと管理してるのかしら?」
「ぐっ! あ、ああ! し、してるとも....です..」
急にリレオガルは声が喋るごとに小さくなり、白い毛先がブワっと逆立っているのが目に見える。当の本人は気づいておらず、無意識のうちになっていた。その事に本人は気付く暇も無く、アトラの少し尖った声が聞こえてくる。
「ふ~ん、まっ! 来年の報告は期待してるからね!」
自信が無くなっているリレオガル横目で見ながら、気を取り直したのかアトラは今までの態度に戻り次の人物を指名する。
「はい、森国」
エルドラ森国。元々この国は別々の二つの国でエルフ国とドワーフ国が合併した国である。その為今は二王制になっている。
「え、え~と、は、はい~!」
心の準備が出来ていなかったシクラは返事と共に高い裏声が出てしまう。
「......」
もう片方の老人は話を恐らく聞いていなく、優雅にお茶を飲んでいた。
何か悩んでいるアトラはとんでもない大きな声で喋り出す。
「おじちゃ~ん! 今年はどうかしら~!!」
「おぉ! アトラさんかの~、今年もなぁ~豊作じゃ豊作~」
ゆったりとした喋り方で、ずっと聞いていたらどうも眠くなってしまいそうな感じだ。
「でもなぁ、去年よりもなぁ~出生率が落ちているのが、気になるのな~」
一通り言い終わった老人は満足し、目の前に置いていた謎の柔らかい丸い物体を食べ始める。
「そう! わかったよ! ありがとうねジュザおじちゃん!」
最後までアトラの声はデカく、老人以外の鼓膜が破けそうになる。
そして、最後にアトラは無言で王を見始める。
王も無言でアトラの目を見つめ、その目は恐らくだが色々な感情が入り混じっていると思われたが、そんな事は無く、意外にも一番キラキラした目で見ていた。そのせいで王は何だか、やりづらさある中で喋らなきゃいけない状態だった。なので一回咳ばらいをして、気を紛らわしたのちに語る。
「人国は異変があり、少々慌ただしくなったが、経済的には何の問題もない」
全員がそれを静かに聞いているの確認し、一番気になる部分を慎重に力強く言い出す。
「そして、勇者一行が無事異変を解決し、平和が戻った。だが、勇者の鷹は消えてはいない」
その言葉が放たれた時、アトラの眉間にしわが寄る。他の人も何とも言えない顔をしている。
「あらそう。それでアルちゃん達にはどう伝えたの?」
「何も」
静かで真っすぐな目でアトラを見る。
「今回の異変は少しばかり変だ。今まではアトラ、さんが解決してきたが今回は違う」
「まぁそうねぇ、何だか今回は特別な力が感じ取れなかったからね」
顎に人差し指をリズミカルに叩き、考える。
「お! ということは遂に我々の出番か!?」
「そうだ、リレオガル、さん」
「おおおおぉ!」
リレオガルは感きわまり椅子から立ち上がり、画面外で雄たけびをあげながら両手でガッツポーズしているのが見なくても分かる。
「ええぇと、それじゃあ私達は戦うの、ですか....?」
リレオガルの雄たけびに怯えながらシクラは王に質問する。
「それは分からない。そもそも本当は異変が解決していて遅れて紋章が消える、という可能性もある。だからと言って、気を緩めるのは危険だがな」
「はぃぃぃ」
決して怒っている訳でも無いのに王に叱られたっと思い込み、気分が落ち込み体が縮んでいく。
「わしゃ~まだ解決しておらんと思うなぁ~」
老人は髭を触り、整ていた。
「何故そう思うのです? ジュザイド、さん」
意外な人物が質問してきたので、つい反射的に王はジュザイドを睨んでしまう。
「......」
糸目なので睨んでいる事には気が付いていないし、やはり耳が遠いいのか王の質問には全く答え無い為、誰も喋らない状況が出来てしまった。
しかし、そんな時間は長い事続かず、アトラの元気な声が聞こえる。
「さあ、皆、意見は纏まった? あたしはいいと思うわよぉ~。なんだって今までも裏で支えてきたからね! 今回は皆で協力って感じで新鮮で楽しいぐらいだわぁ~」
「俺も! 俺も! 賛成だ! 戦いこそ正義!」
画面には映ってはいないが声だけが聞こえてくる。
「ひぃぃ、わ、私は反対ですぅ~。痛いのはヤダよぉ~」
怯えている状態で弱々しく手をあげる。
「わしゃ~も反対じゃなぁ~。この様な事は勇者が解決するべきであって、我々の様な者達は関与せず、見守る事で、勇者は強くなり人々の希望となると思うんじゃろうてぇ~」
何でさっきの質問は聞こえないで今のは聞こえるんだよっと、自分が質問されたら答えない癖に自分の意見は言うのかよみないなリアクションを嫌な顔で王は静かにする。
「うんうん、これで二対二ね。さぁ、最後のエゼちゃんは?」
「もちろん賛成だ。異変は全国の人々が協力し合って解決するべきだ。勇者のみはいずれ限界が来る」
ここぞとばかりにジュザイドに猛反対する。
「はい! 多数決の結果賛成だけど、いい?」
両手を合わせ全員の表情を確認していく。
「......」
何も喋らずにジュザイドは器の飲み物をゆっくり飲む。
「ほえぇぇ」
「おし! 早速出かける準備をしなければ!!」
バチンっと手を叩く音が聞こえた後、バタバタと慌ただしい音が聞こえてくる。
「うんうん! いいね、じゃあ今回の会議はこれにて終了~」
頷き、アトラは画面に向かって手を振り始める。
「皆、何か異変が合った場合はすぐさま連絡する様に! んじゃねぇ~」
ブツンっとアトラが映っていた画面は消え、それを起点に次々と消えていく。
画面から全員が消えていった後、最後まで残っていた王も画面を消そうと動いた時、アトラが映りだされた。急に戻ってきた為、何事かと思いアトラを鋭い目で見る。
「どう調子は?」
少し今までとは違う口調で喋り出し、心配しているのかあんまり見ない表情を見せてくる。
「まぁまぁだ」
「そう....体は大切にね! 用件はそれだけ、バイビ~!」
去り際にウィンクをし、キラっと星が出てきそうな明るい去り方をしていった。
身体を動かそうとしていたのを止め、背もたれに寄りかかり、ずっと真顔だった王だが若干口角が斜めに上がり、鼻で軽く笑っていた。
(ふん..全く余計な心配を)