第四十三話 中核都市エームスハーヴェン
ダークエルフのシグマ・アイゼナハトは、夜の闇の中にその姿を消した。
ジカイラは、メンバーの状態を確認する。
「みんな、無事か!?」
ケニーが答える。
「僕は大丈夫」
ルナも答える。
「私も・・・大丈夫。蹴られただけ」
ジカイラは、後衛のヒナとティナの方を振り返って見る。
「ヒナ! ティナ!!」
ジカイラに呼び掛けられたヒナが地面から起き上がる。
「私も・・・大丈夫よ。一撃貰ったけど」
ティナは、倒れたまま、意識が戻らなかった。
「ティナ! ティナ!!」
ジカイラはティナの元に駆け寄り、名前を呼びながら両肩を掴んで体を揺するが、ティナはぐったりしたままであった。
ヒナがティナの頭に掛けられたアイテムに気が付く。
「コレって・・・?」
ティナの頭に掛けられたアイテムに手を伸ばすヒナをジカイラが制止する。
「待て! 触るな!!」
ジカイラは、ダークエルフがティナの頭に被せたアイテムをじっくり見分する。
それは細い銀色の鎖で飾りのついた小さな三角の板を繋いだ
「
ジカイラは、ぐったりとして意識が無く動かないティナを両腕で抱き上げて、幌馬車の荷台に寝かせる。
ヒナがジカイラに尋ねる。
「どうするの?」
ジカイラが答える。
「急いでエームスハーヴェンに行って、ラインハルト達に連絡を取る。ハリッシュなら、この
ヒナもジカイラの案に賛同する。
「そうね。ハリッシュなら『
ケニーが口を開く。
「あの敵、ダークエルフ・・・だったよね?」
ジカイラが答える。
「そうだ。まさか、こんなところでダークエルフに遭遇するとは!」
ジカイラは、海賊時代にダークエルフを見たことがあった。
ダークエルフは、基本的にアスカニア大陸には生息しておらず、新大陸の未知の区域からやってきたものと思われていた。
体は華奢で、その数こそ少ないものの、知力は高く好戦的で、闇の魔法とレイピアなどの細身の剣を扱うだけでなく、ゴブリンや
ジカイラ達が戦ったダークエルフ、シグマ・アイゼナハトは、意匠を凝らしたミスリルの鎧などの装備から、ダークエルフの種族の中でも高い身分だと思われた。
(クソッ! これじゃ、ラインハルトに会わせる顔が無いぜ!!)
ジカイラは焦っていたが、幌馬車の荷台に寝かされ、意識が無くても静かに呼吸するティナの寝顔を見て、少し落ち着きを取り戻す。
ジカイラは、ティナの手を取って脈を確認し、安堵する。
「脈もしっかりしているし、呼吸も落ち着いている。どうやら、今すぐ命がどうにかなる訳じゃ無さそうだ。ヒナ、ルナ。ティナを診てやってくれ。夜が明けたら、エームスハーヴェンに行こう」
「判ったわ」
ヒナとルナは、幌馬車の荷台でティナを介抱し、ジカイラとケニーは幌馬車の外で見張りに付いた。
--翌日。
夜が明けると、ジカイラ達は早朝からエームスハーヴェンに向けて幌馬車を進める。
一晩開けたが、ティナの意識は戻らないままであった。
ティナは意識が戻らないため食事は取れなかったが、ヒナが少しづつ口に水を含ませると飲み込んでいた。
ジカイラ達は食事の時以外は幌馬車を止めず、エームスハーヴェンへの道を急ぐ。
そして、深夜にエームスハーヴェンに到着することができた。
エームスハーヴェンは、山と海の狭間に作られた城塞港であり、バレンシュテット帝国と、その北のカスパニア王国との国境の街でもあった。
その城門には煌々と篝火が灯されており、街に入ろうとする者達と、その身分を確認する城門の衛兵のやりとりが続いていた。
深夜であるにも拘らず、街の周辺には数々の物騒な集団が集まり、街に入る手続きの順番を待って、夜営を行っていた。
帝国軍によって、デン・ヘルダー、そしてエンクホイゼンを追い出された傭兵団が、エームスハーヴェンに流れ込んでいるためであった。
街に入る手続き待ちの人の列にジカイラ達も加わる。
苛立つジカイラが愚痴をこぼす。
「クソッ! 何なんだ? 夜中だと言うのに、この人混みは!!」
ヒナがジカイラを諭す。
「見た所、傭兵団ね。この街に流れ込んでいるみたい」
「クソッ!!」
ジカイラは、意識の無いティナの容態を気に掛け苛立っていたが、どうすることもできなかった。
結局、ジカイラ達が街に入る手続きを終えて街に入ることができたのは、夜明け近くなり、周囲が明るくなってからであった。
ジカイラ達は、宿の手配でも苦労した。
宿屋側が幌馬車の荷台に横たわるティナを見て、一行に「病人がいる」と思われたため、宿屋がジカイラ達の宿泊を嫌がったためである。
ジカイラ達は、ティナが
宿屋側も「巡礼者一行の