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第四十ニ話 ダークエルフ

 ジカイラは、新たに現れた敵を観察する。

 闇の中から姿を表したダークエルフは、意匠を凝らしたミスリルの鎧を着込んでおり、その身分の高さが伺い知れた。

 レイピアを腰から下げ、盾を持たない事から、魔法剣士か魔法騎士だと思われた。

 ダークエルフがジカイラ達に話し掛ける。

「人間にしては、なかなかやるじゃないか」
 
 不敵な笑みに口元を歪めつつそう言うと、ダークエルフはレイピアを抜いて構える。

 ルナがジカイラの左脇を駆け抜けて、ダークエルフに斬り掛かる。

「やぁあああっ!!」

 ジカイラが口を開く。

「待て! 此奴は手強いぞ!!」

 ダークエルフは、次々と斬り掛かるルナの全ての剣戟をレイピアで受け止める。

 ダークエルフは、薄ら笑みを浮かべたまま、ルナに話し掛ける。

獣人(ビーストマン)の剣士? いや、軽戦士(フェンサー)か? だが、所詮は基本職だな」

 ダークエルフは、剣戟の隙を突いて、ルナを蹴り倒す。

「きゃあっ!!」

「ルナちゃん!!」

 蹴り倒されたルナを庇うようにケニーがダークエルフに斬り掛かる。

 ケニーは、ルナとダークエルフの間に割って入り、両手に持つ二本のショートソードで次々と剣戟を繰り出す。

 しかし、ダークエルフは、次々と繰り出すケニーの全ての剣戟をレイピアで受け止める。

 ダークエルフは、ケニーに話し掛ける。

「今度は忍者か? 私の動きについて来られるとは、なかなかやる」

 ジカイラが叫ぶ。

「下がれ! ケニー!!」

 ジカイラの声を聞いたケニーがルナを抱えて、その場から大きく飛び退く。

 ジカイラは腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取っていた。

( (いち)(せん)!!)

 ジカイラの渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃が剛腕から放たれる。

 ダークエルフは、その身を大きく後ろに反らし、ジカイラの斧槍(ハルバード)の一撃を避ける。

( そいつは想定済さ! ()(せん)!!) 

 ジカイラは身を翻すと、もう一度、渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃をダークエルフに加える。

 ダークエルフは大きく後ろに飛び退いて、ジカイラの斧槍(ハルバード)の一撃を避ける。

 ダークエルフの顔から笑みが消え、真顔で口を開く。

「これは・・・危ないな」

(避けやがった!?)

 ジカイラは、頭上で斧槍(ハルバード)を二回ほど回すと、ダークエルフに向けて、大きく振り下ろす。

 ダークエルフは、高く飛び跳ねてジカイラの斧槍(ハルバード)の一撃を避けると、斧槍(ハルバード)の上に着地する。

 ダークエルフは、ジカイラが振り下ろした斧槍(ハルバード)の上に立っていた。

 ダークエルフが呟く。

「当たれば、タダでは済まないだろうな」

 驚いたジカイラが思わず口を開く。

「なん・・・だと!?」 

 ダークエルフは、斧槍(ハルバード)の上からジカイラの肩を踏み台にして、ジカイラを飛び越え、後ろに進む。

(しまった!!)

 そう思ったジカイラの後ろには、ヒナとティナが居た。

 後衛の二人に接近戦でダークエルフの相手は無理であった。

 ジカイラは斧槍(ハルバード)を手放すと、左手に大盾(タワーシールド)を持ち、右手で腰から海賊剣(カトラス)を抜いて振り向く。

 ジカイラを飛び越えたダークエルフの正面にはヒナが居た。

 ヒナは素早くダークエルフに向けて手をかざして魔法を唱える。

氷結水晶槍(クリスタル・ランス)!!」

 ダークエルフもヒナに向けて手をかざして魔法を唱える。

呪いの(カースド・)雷撃(ライトニング)!!」

 ダークエルフのかざした手の先から雷撃が現れ、ヒナを捕える。

 ヒナがかざした手の先に氷の槍が作られ、氷の槍はダークエルフめがけて飛んでいく。

 ダークエルフは氷結水晶槍(クリスタル・ランス)を避けた。

「きゃあああ!!」
 
 魔法の雷撃を受けたヒナは、その場に倒れ込む。 

「ヒナちゃん!!」

 ティナはそう叫ぶと、ヒナに回復魔法を掛ける。

治癒(ヒール)!!」 

 回復魔法を掛けたティナの目の前にダークエルフが現れる。

 突然、至近距離に現れた敵に、ティナは目を見開いて杖を構えたまま、立ちすくむ。

「・・・!!」

 ダークエルフは侮蔑した目線でティナを見下す。

「女の僧侶(プリースト)か」

 そう言うと、ダークエルフはティナが被っている帽子を手で払い飛ばした。

「小賢しい。コレをくれてやる」

 ダークエルフは、懐から細い鎖でできたアイテムを取り出すと、ティナの頭にそれを被せた。

「きゃあああっ!!」

 頭にアイテムを被せられたティナは、悲鳴を上げて失神する。

 ジカイラが雄叫びを上げながらダークエルフに迫る。

「クソがぁ!!!」

 ダークエルフは、海賊剣(カトラス)で斬り掛かってくるジカイラの剣戟をレイピアで受け止める。

 ダークエルフは真顔でジカイラを評価する。

「ほう? 貴様は剣技もなかなかだな」

「ほざけぇ!!」

 ジカイラは大盾(タワーシールド)を構えると、そのままダークエルフ目掛けて突進する。

「なっ!?」

 ジカイラの大盾(タワーシールド)はダークエルフを捕らえ、鈍い音と共に衝撃がジカイラの腕に伝わる。

 ダークエルフは、大盾(タワーシールド)の一撃を受け、よろめく。

「ぐぅっ!!」

 ジカイラが悪態を突く。

「戦じゃ盾はこうやって使うんだ! 覚えておけ!!」

 ダークエルフは、よろけた体勢を立て直すとジカイラに話し掛ける。

「まさか、この私に攻撃を当てられる人間が居るとは。・・・貴様、名は何という?」

 名前を尋ねられたジカイラは、正直に答える。

「帝国無宿人、ジカイラ」

 ジカイラの名前を聞いたダークエルフは、レイピアを腰の鞘に収める。

「我が名は、シグマ・アイゼナハト。そこの忍者と貴様は一流の戦士だ。この私が認めてやる。『黒い剣士ジカイラ』か。覚えておこう」

 そう告げるとシグマは、夜の闇の中に姿を消した。

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