(6) 珈琲で乾杯
「乾杯しよう」
珈琲で?
首を傾げたが、口には出さなかった。
「ほら。早くカップ持って」
隣に座った彼女はカップを手に、身体を少しだけこちらに向けた。その拍子にもこもこパジャマに覆われた膝がこちらの安物のジーンズの膝にちょっとだけ触れて、すぐに離れた。
「メリークリスマス」
彼女は楽しそうにカップを掲げるようにして、こちらにも同じようにしろと目で迫ってきた。
カップを手に取り近づけると、彼女は乾杯と軽やかに言って、二つのカップも軽やかに触れ合わせた。
「お店でケーキももらったんだけど置いてきちゃった。こんなことなら持って帰って来るんだった」
きっと今夜はキャバクラで大勢の客と、高級な酒が注がれた高価なグラスで何度も乾杯をしたのだろう。そう思ったら、はじめてキャバクラのバイトのことが少し嫌になった。
彼女は先ほど渡したプレゼントを、いつの間にかもこもこの膝の上に置いていた。
包装を丁寧に解き、取り出したネックレスを目の前に掲げて見せた。
「わあ。可愛い。ありがとう」
はじめてサンタからおもちゃをもらった子どものような喜びようだった。その笑顔は、プレゼントをあげて喜ばれる喜びを教えてくれた。
彼女のイニシャルNを
「ねえ、うしろ留めてくれない?」
髪を上げ、うなじを晒して待つ彼女のうしろに、どぎまぎしながら立った。
白い肌に触れないように気をつけながら、それでも時々触れてしまって、その度にネックレスを落としそうになって、何度も失敗して、もう諦めかけた頃になって何とか留めることができた。
「ありがとう。ここ数年で一番うれしいプレゼントだよ」
それはさすがに過大評価というか、お世辞が過ぎるなとは思ったものの、じゃあ数年前の一番は何だったのだろうというところも少しだけ気になった。
「もらっておいてこんなことを言うのは本当に酷い女だと思うんだけど、わたしなんかやめときな。女の子はほかにもたくさんいるよ。サークルに限ったって、可愛くていい子がたくさんいるんだから。何もわざわざわたしみたいな女を選ぶことはないよ。キャバ嬢だし」
「いやです」
身体が温まってきたせいか、我ながらはっきりと拒否できた。
「どうしてよ。ほら。
「いやですよ」
ふられたとはいえ、親友が想いを寄せている女の子など論外だし、そもそも柴田先輩以外には全く興味が持てなかった。
「どうして?」
「先輩がいいんです」
「わたしなんかのどこがいいのよ。学年は一こだけ上だけど、大学に入る前にダブってるから歳は二こ上だし」
実はそれは知らなかったので少しだけ驚いたけれど、年齢の一つや二つに影響されるような生半可な気持ちではなかった。
「関係ありません」
彼女は少し笑ったようだった。
「じゃあさ、一つ試験をしよう」