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本とコンビニおもてなし その3

 元いた世界で言うところのクリスマスにあたる日が、この世界ではパルマ聖祭の日だってのを知った僕は、この日にクリスマスケーキをパルマ聖祭ケーキってことにして販売してみようと思ったわけです。

 まず、試作品はヤルメキスと一緒に無事作成することが出来ました。
 元の世界で言うところのイチゴもどきな果物をふんだんに使用したイチゴのホールケーキです。
 味の方も、オルモーリのおばちゃまのお墨付きをもらったからばっちりです。

 なんか、副産物としてヤルメキスとパラランサの結婚式で使用するウェディングケーキとしても予約が入るという思わぬ展開……
「ちょ、ちょ、ちょ、て、て、て、店長さん、そ、そ、そ、そんな超展開勘弁してほしいのでごじゃりまするぅ」
 ヤルメキスが大慌てで僕にすがりついてくるんですけど、それを見たパラランサのお婆ちゃんこと、オルモーリのおばちゃまがですね、すっごく寂しそうな表情を浮かべながら
「あらあらら、ヤルちゃまはパラちゃまとの結婚がお嫌なのかしら……おばちゃまとっても悲しいわ」
 そう言い出したんですけど、それを聞いたヤルメキスってば、今度はオルモーリのおばちゃまの腕に抱きついていきまして、
「ち、ち、ち、違うのでごじゃりまする。ぱ、ぱ、ぱ、パラランサくんはとっても格好良くて優しくて素敵でごじゃりまするゆえ、すぐにでもお嫁さんにしてほしいと思っているでごじゃりまする。で、で、で、でも、まだお付き合いをはじめてそんなに時間がたってないでごじゃりまするし……」
 と、必死に取り繕うヤルメキスですけど、そんなヤルメキスに僕は苦笑しながら言いました。
「ヤルメキス、そんなことを言ったらルアとオデン六世さんなんか出会って一月もしないうちに子供を作ったぞ」
「ふぁ!?」
 僕の言葉に、真っ赤になって頭の天辺から湯気をほとばしらせるヤルメキス。
 で、よく見ると、ちょうど厨房の入り口のあたりに……
「あらあらパラちゃま、どうしたのかしら?」
 そう、パラランサが立ってたんですよね。
「ふぁ!?」
 そんなパラランサに気がついたヤルメキスってば、その顔をさらに赤くして、さらにすさまじい湯気を頭から発していきました。
 で、その視線の先でパラランサもまた真っ赤になってまして
「その……婆ちゃんを迎えに行って来てくれって家で言われてさ……」
 そう言いながら、パラランサは、あわあわしているヤルメキスの前へと移動していきまして、
「ヤルメキスちゃん、『お嫁さんにしてほしい』って言ってくれてすごく嬉しかった」
「ふ、ふあぁ!?」
「僕と結婚してください」
「ふ、ふ、ふああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
 パラランサの言葉に、ヤルメキスは鼻から大量に鼻血を噴き出しまして、そのままぶっ倒れていきました。
 最後に
「……ふ、ふ、ふ、ふつつか者でごじゃりまするけどぉ……」
 って、しっかり承諾の言葉を残してから。

 ぶっ倒れたヤルメキスを、パラランサが必死に介抱してるんですけど、その横でオルモーリのおばちゃまはハンカチで目元の涙を拭きながら、
「あらあら、ヤルちゃまとパラちゃまが結婚なんて、おばちゃま感動でもう涙がとまらないわぁ」
 って言いながら、2人を見つめていたんですけど、
「あ、店長ちゃん、2人の結婚式の時にはね、このケーキの20倍あるウェディングケーキをお願いね」
 と、しっかりウェディングケーキの注文をすることを忘れていませんでした。

 なんか、すっごいなし崩しでしたけど、ヤルメキスとパラランサの結婚が決まってしまいました、はい。

 ……えっと、この事も今執筆してるコンビニおもてなしの本に書いておいた方がいいのかな……
 ま、めでたい事だし突っ込んどこう、うん。

◇◇

 とまぁ、いきなりめでたい話が出来たのはよいことですが、その前にコンビニおもてなしとしてもしなければならないことがあります。

 クリスマスケーキの増産体勢を整えないといけません。

 元いた世界と違って、電話一本ネット注文一発で明日の朝には必要な物が必要な数量ばっちり手に入るわけではありません。
 この世界で元の世界と同じ物を作成しようと思ったら、材料集めから何から全て自分でしないとならないわけです。

 で、まずは生クリームの増産です。
 これ、今はララコンベ温泉のカウドン牧場で取れるカウドン乳を使用して生成していますけど、カウドン牧場で今現在生産されている量では全然足りません。
 何しろカウドン乳は、現在飲料として大ヒットしていますので生クリーム生成用に回せる量がすっごく限られているんですよ……何しろ温泉あがりに腰に手をあててグイっと一気飲みってのが流行してますんで。
 さらに、今仕入れている生クリームはコンビニおもてなしで毎日販売しているショートケーキを作っただけでほとんどなくなっています。
 このショートケーキってば、若干高めの値段設定にしているんですけど作れば作っただけ売れる人気商品ですから生産量を減らすわけにはいきません。

 ちなみに購入してくださる筆頭格なのが、オルモーリのおばちゃまとヤルちゃま親衛隊ことオルモーリのおばちゃまのお茶のみ友達のおばさま方なのは言うまでもありません。

「ところでヤルちゃまのウエディングドレスはどうするザマス?」
「アタシの縫製工場で特注させるザマス」
「では式場を飾る生花はアテクシのお花農場でまかなわせていただくわさ」

 なんか、考え事をしている僕の横で、オルモーリのおばちゃまと、いつの間にか集まってきていたヤルちゃま親衛隊の皆さんがどんどん話を先に進めているような気がするんですけど……ヤルメキス、早く起きないと気絶している間にウエディングドレスを試着させられかねない勢いだぞ~……

 で、まぁ、後のことはパラランサに任せて
「え? 僕っすか?」
「他に誰がいる? 頼むぞ婿殿」
「う、うっす」
 改めてパラランサに気合いが入ったところで、僕は巨木の家のスアの元へと移動していきました。
 生クリームをプラントの木で増産出来るかどうか相談しに来たわけです。

 このプラントの木にも随分助けられてるんですよね。
 増やしたい植物や食べ物なんかを木のコブに埋め込んでおくと、翌朝実になって収穫出来るという便利な魔法です。カガク的に生成したり抽出していなければ、だいたいの物は複製し増産してくれますからね。
 おかげで、味噌の実や塩の実、焼き肉のタレの実といった、コンビニおもてなしで毎日大量に使用したり販売している調味料類が毎日出来上がってきているわけです。

 当然このプラント魔法のこともコンビニおもてなしの本には書いておかないとな、うん。

 ただ、主に調味料類を毎日大量に増産してもらっている関係で、スアの巨木の家のプラントの木と、コンビニおもてなし3号店の裏山に作ったプラントの森の木々はすでに全部がフル回転状態なんです。
「今から追加出来るかな」
 僕がそう言うと、スアは『えっへん』とばかりに絶壁の胸を張りました。
「……そうなる気がして、使い魔の森にプラントの木を増殖しておいた、よ」
 そう言ってくれました。
 なんて言いますか、スア最高です。
 僕は思わずスアを抱きしめ……おっと、絶壁ストーンの体型のスアですけど、これでも現在絶賛妊娠中ですので、僕は優しくスアを抱っこしていきました。
 スアは、僕に抱っこされながら嬉しそうに笑っています。

 しかし、このプラントの木ですけど、スアはこうしてこともなげに増殖とかしてくれてますけど、本来でしたら上級魔法使いが1年に1本作り出せたら御の字という難しい魔法なんですよね。
 ……それをスアってば、僕と結婚してからまだ1年も経ってないってのに、すでに百本以上作り出しています……さすが伝説の魔法使いです。
 っていうか、さすが僕の奥さんです。
「うん、その方が嬉しい」
 スアは、そう言って再び笑ったのですが
「……でもね、絶壁とか、ストーンは、そろそろ辞めて欲しい、事実だけど」
 と、付け加えるのをしっかり忘れていませんでした。
 でも、そんなスアが好きなんで、別にいいんじゃないかと思うんだけど
「……それは、それ……これは、これ」
「はいはい、わかりました」

 と、まぁ、そんなわけでスアの使い魔の森に新しく出来上がっていたプラントの森の木々を使用して生クリームを増産してみたところ、翌朝無事に生クリームの実が出来上がりました。
 うん、これで生クリーム問題はなんとかなりそうです。

 スポンジケーキを作成するための粉は市場で流通していますのでいくらでも買えます。

 イルチーゴの実は、テトテ集落の皆さんが栽培なさっていたんですけど、
「他ならぬパラナミオちゃんのお父様のお願いなら、2週間の間に今の十倍納品してみせますぜ」
 と、テトテ集落のマッチョな爺様達がいい笑顔をしてくれました。
 僕にそっちの気があったら確実にノックアウトされていたでしょう……まぁ、BL要素は微塵も持ち合わせていませんのでなんともありませんでしたけど。

 さてさて、ある程度目処が立ったところで、僕はパソコンを使用して宣伝用のポスターを作成していきました。
 このコンビニおもてなしですけど、元の世界にいる間にですね、太陽光自家発電によるオール電化対応店舗に改造済みです。
 そのおかげで、電気なんて存在しないこの世界でもパソコンを使用出来るんですよね。
 まぁ、さすがにネットは無理ですけど、中に入っている編集ソフトを使用して店のポップやポスターなんかを作成することは可能なわけです。
 で、このパソコンを使用していると
「すごい……カガクね、カガク」
 と、スアがすっごく目を輝かせながら毎回見学にくるわけです。
「ね、これ、どうなってる、の?」
 って、散々聞かれるんですけど、僕の頭ではとてもそこまでは説明出来ません……ごめんねスア。

 で、まぁ、出来上がったポスターには、

『パルマ聖祭は、ケーキを食べて祝おう!』
 ってキャッチフレーズをつけて、僕・スア・パラナミオ・リョータがクリスマスケーキを前にして、みんな笑顔の画像を挿入しています。
 これ、みんなで遊びに行った際にデジカメで撮影しておいた画像を取り込んで加工したんですけど、うん、われながらなかなかな出来です。
 元の世界の最後の頃って、店にホントにお金がなかったもんですから、ポップやポスター類は全部こうやって自分で作ってたんですよ……そのおかげで加工スキルが無駄に上達してるんです……まさかそのスキルが、異世界で役に立つとは夢にも思っていませんでしたけど。

 さてさて、そんなわけで、出来上がったポスターを早速この日、コンビニおもてなしの系列店全てに張り出しました。

 これも本に記載しておかないとな、うん。

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