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ビアホールと…… その1

 最近のお昼前のコンビニおもてなし本店の恒例の光景……

「あ、や、ヤルメキスちゃん……そろそろ時間っスよ」
 おずおずとした様子で、向かいのルア工房を実質的に取り仕切っている猫人のパラランサが、少し頬を赤くしながらコンビニおもてなし本店に入って来ます。
 で、
「あ、あ、あ、も、もうそんな時間でごじゃりまするか!? あ、あ、あ、あの、す、す、すぐに準備しるでごじゃりまするので、し、し、し、しばしお待ちを」
 それを受けて、厨房であれこれ作業していたヤルメキスが、これまた顔を真っ赤にしながらアワアワ慌てながらコンビニおもてなしティーケー海岸出張所へ行く準備をしていくんです。

 いえね、この2人ってば、前からよく話をしているな、とは思っていたんですよ。
 パラランサが、いつも『店が空いている時間』で、なおかつ『ヤルメキスがレジをしている時間帯』に『ヤルメキス製のスイーツを買いに』やってきては、
「あ、あの……し、新作のおまんじゅう、うまかったッス」
「そ、そ、そ、そうでごじゃりまするか? お、お、お、お口に合って何よりでごじゃりまする」
 とまぁ、2人して顔を赤くしながらそんな会話を交わしていたわけです。

  まぁ、僕達は、それを暖かい眼差しで見守っていたんですけどね

「おい、ヤルメキス」
「は、はい? な、な、な、なんでごじゃりまするか? 招き猫のダマリナッセさん?」
「お前、パラランサって男に惚れてんのか?」
「ふぁ!?」
 と、まぁ、店の置物である大きな招き猫に封印されている暗黒大魔道士ダマリナッセさんにそう突っ込まれたヤルメキスなんですが、
「あ、あ、あ、あの……パラランサくんは、そ、そ、そ、その、と、と、と、とってもいい人でごじゃりまするよ……こんな私にですね、とてもよくしてくださるでごじゃりまするし……」
「で? 惚れてんのか?」
「ふぁ!?」
「だから、惚れてんのか?」
「ふ、ふぁ!?」
「じれったいな、惚れてんのか? 惚れてなにのか? どっちなのかはっきりもががががが……」
「はい、そこまで。それ以上ヤルメキスをいじめないように」
 僕は、まだ言葉を続けようとしたダマリナッセ招き猫の口を押さえて、会話を中断させました。
 すると、ヤルメキスは
「あ、あ、あ、あの、タクラ店長さん、あ、あ、あ、ありがとうごじゃりまするぅ」
 そう言うが早いか、すたこらさっさと逃げ出して行きました。

 まぁ、お互いにいい関係を構築しつつあるのは間違いないみたいだし、
「いいかい、ダマリナッセ。ここは下手に煽ったりしないで、暖かく見守ってあげるんだよ」
 僕がそう言うと、ダマリナッセは
「まったく、じれったいんだよあの2人ってばさ。ありゃ、誰かがなんかしてやらないと、手を繋いであるくのに20年はかかるぞ、まじで」
 とか言い出しました。
 さすがのヤルメキスとはいえ、そこまで奥手じゃない……
 多分そうだと思う
 そうなんじゃないかな?
 ……ま、ちょっと覚悟はしておいた方がいいかもしれない……

◇◇

 とまぁ、そんな光景がお昼前の恒例となっているコンビニおもてなし本店の裏では、ビアホール兼コンビニの建物の建設が始まりました。
 建設には、ガタコンベで土建屋をやっているドワーフの皆さんにお願いすることにしました。
 スアの魔法でやっちゃえばすぐなんですけど、やはりこういう仕事は地元の業者を大事にしておきませんとね。
 そうしておけば何かと便宜を図ってもらえることもあるわけです、はい。

 で、新築するビアホール兼コンビニ店舗は地上2階地下1階になります。
 地下室は、本店の地下にある冷蔵保管庫と同じ品物の貯蔵室にします。
 ただ、こっちには魔獣の肉などの生物ではなく、ルアの工房の武具や調理器具、農具の他に、ペリクドさんの工房のガラス製品の在庫をストックしておくスペースにします。
 これは、今までは月末にドンタコスゥコ商会にのみ品物を卸売りしていたのが、2週間に1回ごとにティーケー海岸のアルリズドグさん達にも品物を卸売りすることになったためなんですよね。
 って言いますのが、両方の工房から
「作るのは問題無いんだけど、品物を置く場所がどっかないかなぁ」
 そう言われていたもんですから、それを受けてこうして作成した次第なんですよね。
 まぁ、魔法袋に入れておけばそんなにスペースも入らないんですけど、アルリズドグさん達に見てもらって仕入れる品を選んでもらう際にですね、魔法袋の中に入っている品物を全部並べられるスペースがどうしても必要になるわけですので、ならもう最初からつくっておこうって考えになったわけなんですよね。

 で、1階部分がビアホールと、コンビニおもてなしの商品販売スペースが併設されます。
 今までは青空営業をしていたビアガーデンですけど、さすがに冬が近づいていますし今までどおり屋外で営業を続けるわけにもいかないでしょう。
「いや、主殿、私は全然平気ですぞ!」
 イエロはそう言いながら元気満々な様子でスクワットをしているんですけど、いや、イエロを基準にして考えたらだいたいの人は体を壊すからさ……

 で、2階部分は宿屋になります。
 1階でしこたま飲んで帰れなくなった人を2階の宿で休ませるってことです、はい。
 食事なんかはでません。
 いわゆる素泊まり専用になっています。
 その分、料金を安くしているわけですけど、まぁご飯を食べたかったらコンビニおもてなしで買ってくださいねってことにしているわけです、はい。

 ビアホールの管理は、いままでどおりイエロとセーテンに任せる事にしているのですが、問題なのが宿屋スペースなわけです。
 宿ですから、使用済シーツの取り替えや洗濯、部屋の拭き掃除なんかも毎日しないといけないわけですけど……
 そんなことを思っていると
「タクラ店長、こういうときこそアタシ達にお任せだよ」
 コンビニおもてなし2号店の店員、シルメールが腕組みしながら僕にそう言いました。
 言われてみれば、シルメールは元はシャルンエッセンスの家で働いていたメイドなわけです。
 そりゃ、こういった仕事は本職だよなぁ。
「はい、そのとおりです」
 そう言って胸をたたくシルメールだったわけです。

 というわけで、シルメール達2号店のメイドの中から、常に1名をこの宿に常駐してもらうことにしました。
 その1名にベッドメイクや、チェックイン・チェックアウトの手続きもしてもらうことにして、ついでに帳簿作業もお願いすることにしました。

 とはいえ、ビアホールも含めて考えると、やはりあと1人か2人はバイトがほしいな、と思ったのも事実なわけでして……
 で、僕は組合や、近隣の都市の酒場なんかに求人広告用のポスターをはってもらうことにしました。
 一応、ティーケー海岸出張所の補充人員もここで募集しようかとも持っているんですけど……はてさて、どんな人が来てくれますやら……

 そんなことを思いながら2週間。

「さ、こんな感じになりましたぜ旦那」
 そう言ってドワーフさん達が見せてくれたのは、焼きレンガを巧みに組み合わせて作成された家でした。

 うん、確かにこれはいい。

 見た目といい、壁の手触りといい、ほぼ完璧でした。
「いやぁ、皆さん。ホントにありがとうございました」
 僕がそう言いながら頭を下げると、ドワーフの頭領は
「まぁ、気に入ってもらえて何よりだ」
 そう言ってニカッと笑ってくれました。

 とにもかくにも、コンビニおもてなし本店の裏手に、ビアホールが無事完成したわけです、はい。


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