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コンビニおもてなしの海岸物語 その3

 さてさて、なんかとんとん拍子で話がまとまってスタートしたおもてなし商会ですが、予想以上に好調な滑り出しになっています。

 最初はアルリズドグさんとこから海の魚を卸売りしてもらうために設立したつもりだったんですけど、
「そういやぁ、タクラんとこの店もあれこれ品物を扱ってんだろ? 話の種に見せてくれよ」
 アルリズドグさんがそんな事を言ってきたんですよね。
 で、まぁ、隠すこともだいだろうと、おもてなし商会の奥にある転移ドアをくぐってアルリズドグさんにコンビニおもてなし本店まで来てもらいました。
「は~……確かにこりゃすごいわ……マジで転移ドアだなぁ」
 って、スアの作ったこの転移ドアに目をぱちくりさせていたアルリズドグさんなんですけど
「で、ここが店になりまして、ここら辺の棚にある商品を、今お付き合いしている商会さんには卸売りしているんですよ」
 そんなアルリズドグさんを、僕は店の奥側にある、ルアの武具や調理器具、それにペリクドさんのガラス製品が陳列されている棚の方へと案内していきました。
 すると、それを見たアルリズドグさんは、目を丸くしながらそれらの商品を手に取っていきました。
「な……なんだ、こりゃ!? こんなすんげぇ商品初めてみたぞ……」
 アルリズドグさんはそう言いながら次々と商品を手にとってはそれらの出来に感嘆しまくっているんですよね。
 で、しばらくすると、
「ちょ、ちょっと待っててくれ」
 そう言うと、一度ティーケー海岸へ戻って行ったかと思うと、何やら2人の女性を連れて帰って来ました。
 一人は、音速で飛べそうなほど立派な羽を背に生やしている亜人さんで、もう一人は背中にトゲだらけの甲羅みたいなのを背負っている亜人さんです。
「おい、ナドルにスリウグーナ、この商品を見て見ろ、どう思う?」
 アルリズドグさんにそう言われて、羽を持ってるナドルさんは、刀を手に取りながら
「……な、なんすか、このパナい商品は……」
 そう言いながら目をぱちくりさせてまして、そしてその横では甲羅を背負っているスリウグーナさんが
「こら、ぶったまげたんだなぁ、もし」
 そう言いながらガラス製品を唖然としながら見つめていました。
「仕入担当のお前らがそう言うんだ、よっぽどの品とみたアタシの眼力も間違ってなかったってことだな」
 2人の様子に満足そうに頷いたアルリズドグさんは、改めて僕に視線を向けると
「なぁ、タクラぁ……物は相談だけどさぁ……」
 そう言いながら、にんまりわらって揉み手しながらすり寄ってきました。
 まるでこのまま肩を組んで、
『おぉ、我が心の友よぉ』
 とか言いだしかねないほどの勢いで僕にすり寄って来ています。

 まぁ、要は、この品をアルリズドグ商会にも卸売りして欲しいってことだったんですよね。

 で、例によってこの商品ですが、

 武具と調理道具はルアの工房
 ガラス製品はペリクドさんの工房

 それぞれから買い取りさせてもらっている手前、
「まずは仕入元に確認させてくださいね」
 ってことにして、僕はすぐさまルアとペリクドさんの工房を回ることにしました。

 まずルアの工房ですが……
 ルアが身重なもんですから、最近はルアの一番弟子の猫人パラランサっていう小柄な男の子が陣頭指揮をとっています。
「はいはい、日々の納入数を増やせばいいんスね? 了解っス」
 と、まぁ、パラランサは割とあっさりオーケーを出してくれました。
「最近は月末にドンタコスゥコさんとこにまとめ売りしてたもんスから、毎日多めに作るようにしてたんス。すでに作り置きも結構あるッスから、全然問題ないっスよ」
 そう言ってニカッと笑ってくれました。

 ルアの工房の了承が取れたので、僕はその足で今度はブラコンベへと移動。
 スアの転移扉をくぐってペリクドさんの工房へと行きました。
 で、僕の話を聞いたペリクドさん、
「あぁ、大丈夫だぜ。月末にさ、どっかの商会にまとめて卸し売ってくれてっからさ、それように多めに作り置きするようにしてるから」
 と、こちらも問題ありませんでした。

 なんか、ドンタコスゥコ商会の思わぬ好影響があちこちで……なわけなんですよね、これが。

 で、僕が話をまとめてコンビニおもてなし本店へと戻って来ますと、
「タクラぁ、こ、この魔法薬もぜひお願いしたいんだけどぉ!」
 と、棚に並んでいたスアの魔法薬に気がついたアルリズドグさん達が、その場で土下座でもしかねない勢いでお願いしてきました。
 まぁ、そうなるんじゃないかなぁ、って気はしてたんですけどね。
 で、僕は巨木の家にいるであろうスアに確認をしに行こうとしたところ、
『……うん、大丈夫、よ』
 そう、脳内にスアからの思念波が入って来ました。
 で、それを確認した僕は
「どうやら薬も大丈夫なようですので」
 そう返事を返していくと、
「マジか! こりゃありがたい!」
 と、アルリズドグさん達は小躍りしながら喜んだんです。

 というわけで、

 おもてなし商会は、アルリズドグ商会から海の幸を卸売りしてもらい、
 その代わりに、武具や家庭用器具、ガラス製品に魔法薬を卸売りすることになったわけです。

 ……ちなみに、コンビニおもてなしから卸売りする品物の方が圧倒的に単価が高いもんですから、結構な量の海の魚介類を仕入ても、仕入の段階で大幅な黒字なんですよね。
「タクラ店長、この売り上げはちょっとびっくりですわよ」
 と、ファラさんも帳簿をつけながら毎日目を丸くし続けています、はい。
 仕入の段階でこれなのに、仕入れたその魚介類を使用した弁当類での売り上げも好調なもんですから、コンビニおもてなしグループとしての最終的な黒字額、かなりのものになっていってるんですよね、これが。

 正直、海の魚を仕入れることが出来ればなぁ、ってぐらいの軽い気持ちで始まった今回の話だったんですけど、まさかここまでコンビニおもてなしの収益アップに貢献してくれることになろうとは、夢にも思っていませんでした。

 で、まぁ、せっかく店舗スペースもあるおもてなし商会ですし、そこにプチコンビニ的なスペースを設けてみることにしました。

 営業はお昼のみ。
 弁当やパン、スアビールやタクラ酒を中心に販売してみることにしたんです。

 で、お店がお昼だけだし、ファラさん1人でも大丈夫かな、と思ったらですね、初日の営業が終わった途端にファラさんが本店へと駆け込んできまして……
「た、タクラ店長、無理ですわ。お弁当がすっごい人気ですっごい数のお客さんが来て、品物も人手も全然足りませんわ」
 と、まぁ、そんな状況でして……

 かといって、どの店も今は人員は手一杯だし……バイトを雇うにしてもすぐに使い物になるかどうかはあれだしなぁ……ってなわけで、とりあえずヤルメキスに手伝いに行ってもらうことにしました。
 最近のヤルメキスは、相変わらず、
「て、て、て、店長様ぁ、た、た、た、大変でごじゃりまするぅ」
 ってな具合ですぐに慌てはするものの、以前のように、慌てて終わりってわけじゃなく、そのあと自分で考えてフォローも出来るようになってきていますので、当座の手伝いにはなるかな、と思ったわけです。いつも助けている僕やブリリアンの手助けがない場所でやってみるのもちょうどいい頃合いかなと思ったのもあったんですけどね。
 ……とはいえ、もう1人くらいフォローがいた方が安心といえば安心なんだけど……

 僕がそんなことを思っていると、ルア工房のパラランサがやってきました。
「た、タクラ店長さん……ちょっと聞いたんだけど、ヤルメキスちゃんがどっか行っちゃうって、マジっすか?」
「あぁ、お昼の時間だけ別の店のヘルプに行ってもらうことになるんだよ。それ以外の時間はいつも通りだよ」
「あ……な、なんだそッスか」
 僕の言葉を聞いたパラランサ、何か心底安堵の表情を浮かべています。
「で、そこの店に、もう1人くらいバイトが欲しいなぁ、って思ってるんだけど……お昼だけなんだけど」
 僕が、そう言うと、パラランサは迷うことなく右手をあげて
「自分行くッス。行かせてくださいッス」
「え? でもパラランサはルアの工房が……」
「お昼だけなら問題ないッス。是非行かせてほしいッス」
 パラランサは、顔を真っ赤にしながら僕に懇願してきまして……

 で、一応ルアにも確認を取ったところ、
「あぁ、お昼時間は工房も休憩取ってるしね。問題ないよ」
 と許可が得られたので、パラランサに臨時バイトで入って貰う事になりました。

 こうして、コンビニおもてなしティーケー海岸販売所の営業が本格的に始まりました。

「あ、あ、あ、あのぉ、パラランサくん。よ、よ、よ、よろしくお願いいたしますですなのですよ」
「じ、じ、じ、自分こそよろしくッス……あの、自分、ヤルメキスちゃんのためなら何でもするッスから……」
 とまぁ、ヤルメキスとパラランサの2人、互いに顔を真っ赤にしながら何度も何度もペコペコペコペコ頭を下げあい続けていました。
 ファラさんってば、そんな2人を見ながら
「……若いっていいですねぇ」
 そう言いながらニッコリ微笑んでいました。

 ちなみにパラランサですけどオルモーリのおばちゃまのお孫さんにあたりまして……以前からヤルメキスのお菓子の大ファンだったんですよね。

 さてさて、この2人は今度どうなっていくんでしょうかねぇ……
 なんか、バイト急募の案内を張り出すのがためらわれちゃうんですけどね。

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