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海の幸と、ドンタコスゥコ商会 その3

 で、海の魚のフライ弁当を食べたドンタコスゥコさんですけど……

 お腹が空いていたのもあったんだとは思うんですけど、とにかくすごい勢いで全部平らげてしまいました。
「うん、この魚のフライ? すごくご飯にあうのですよ……というわけで、お金払いますのでおかわりおねがいしてもいいでしょうか?」
 と、言いながらドンタコスゥコさん、財布を準備していました。

 うん、商売人のドンタコスゥコさんがここまで食いつくってことは、大丈夫なんじゃないかな?

 このときそう思った僕の予想は見事に的中していました。

 ルービアスに店の外で海の魚のフライの試食を配ってもらい、店内で海の魚のフライ弁当を販売したところ、開店から1時間もしないうちに完売してしまいました。
 その分、いつものタテガミライオンの肉弁当の売れ行きが若干遅くなってはいたんですけど、これはこれで希少で美味しい肉の弁当ですから、いつもの時間には売り切れていたんですけどね。

 で、この海の魚のフライ弁当を食べたお客さん達なんですが
「おい、コンビニおもてなしで海の魚のフライ弁当ってのが売ってたよ」
「これ、すっごく美味しかったんだ」
 ってな感じで、知り合いの皆さんに口コミで伝えてくださったらしいのですが、その結果、いつもは昼過ぎには少し暇になるコンビニおもてなし本店なんですけど、この日は昼を過ぎても押すな押すなの大盛況でして……
 急遽、魔王ビナスさんにも残ってもらって、一緒に海の魚のフライ弁当を追加で作成したんですけど、その追加分もあっという間に売り切れていきました。

「うわぁ……こりゃ想像以上だなぁ」
 僕は、空になった弁当コーナーを見つめながら思わず苦笑していきました。
「しかし、ウルムナギ弁当を新発売した時も好評だったけど……ここまですごくなかったけどなぁ」
「それはタクラ店長、やはり『海の魚』って言うのが大きいと思いますよ」
 店長補佐のブリリアンがそう言いながら笑っています。
「このあたりで海の魚なんてまずおめにかかれませんからね。そんな海の魚の弁当ともなれば、そりゃみんな興味をもつというものですよ。正直、私もとても興味がありましたからね」
「そういえば、ブリリアンも珍しくお昼に賄いじゃなくて、海の魚のフライ弁当を買って食べてたもんね」
「はい、すごく美味しかったです」
 僕がブリリアンとそんな会話をしていると、後方から魔王ビナスさんとヤルメキス、テンテンコウ♂、ルービアスの4人もやってきました。
「私も頂きましたけど、とてもおいしゅうございました。家の旦那様はじめ皆様のお土産に購入させていただきましたのよ」
 魔王ビナスさんはそう言いながら腰の魔法袋を指さしています。
 その横で、ヤルメキス達も盛んに美味しかったと言って褒めてくれているんですよね。

 いやぁ、まさかここまでとは……

 僕が、若干感動していると
「あの、タクラ店長、そろそろ今月の商談を……」
 そう言いながら、ドンタコスゥコさんが揉み手をしながら寄って来ました。
 そうだったそうだった。店の営業が終了するまで待ってもらってたんですよね。
 で、店のみんなとの歓談を一時打ち切った僕は、改めてドンタコスゥコさんとの商談を始めました。

 販売物は、先月末に発注されていた、

 ペリクドさんとこのガラス商品
 ルアのとこの武具と農具
 スアの薬
 スアの使い魔の森のスアビールとタクラ酒、そしてパラナミオサイダー

 いつものこの4種で荷馬車のほとんどが埋まってしまいます。

 で、当然のようにドンタコスゥコさんは、
「タクラ店長、あの海の魚……安定仕入れが出来るようになりましたなら、是非是非こちらにも卸売りしてほしいのですよ」
 そう言いながら、ニヤニヤ笑ってきました。
「そうだなぁ……何しろまだ、この海の魚の取引自体も正式には始まっていないからさ……次回までには返事が出来るようにしておくよ」
「是非是非、よろしくなのです、はい」
 僕の言葉にドンタコスゥコさんはニッコリ笑うと、今月の商品代金の入った布袋を僕に手渡し、そして改めて右手を差し出してきました。
「では、今月もありがとうございますです」
「いえいえ、こちらこそ」
 そう言いながら僕はドンタコスゥコさんの手を握り返していきました。

 ほどなくして、いつもの用心棒の母子……えぇ、子供さんの方はもれなくミッツマング○ーブに負けずとも劣らない女装姿でやってきましたよ、今回も。
 ……っていうか、女性ばかりの商隊の護衛だからって、そこまでしなきゃなんないもんなのかねぇ?
「実のところ、こちらもそこまでは求めてなかったのですがねぇ……何故か彼は頑なに女装することを辞めようとしないのですねぇ、これが」
 そう言いながら、ドンタコスゥコさんもお手上げとばかりに肩をすくめていました。
 ま、実際のところ、剣の腕前は相当なものらしく、2人で50人近い山賊を返り討ちにしたほどらしいんですよね。
「そう言えば、聞いてますですよ」
「え? 何を?」
「タクラ店長も、ひょろっとした容姿をされておりますけど、以前50人近い盗賊団を一人で一網打尽にしたとか……ナカンコンベでも結構有名ですよ」
「は、はい?」
 僕は思わず唖然としました。
 まぁ、確かに……以前僕はセーテンの猿人盗賊団を一網打尽にしました。
 人数は50人以上いました。
「でも、あれは酒に睡眠効果を加えてですね……」
「またまたまた、能ある鷹は爪を隠すといいますしねぇ、謙遜なさらなくてもいいのですよ」
 いや、マジであれはだまし討ちみたいなことをしたわけであって、別に僕が剣を持って戦ったとか、そんなことは全然なかったわけでして……
 そんな説明をしようとしている僕の横に、いきなりセーテンがやってきましてですね
「いやぁ、あの時のダーリンは格好良かったキ。このセーテン、その格好良さに胸を打ち抜かれて改心したほどキ」
「ほほぉ、やはりそうでありましたか」
「ちょ、ちょっと待てそこ! 何勝手に事実をねじ曲げてやがる!」
 とまぁ、必死に説得工作を行おうとした僕ですけど……
「タクラ店長の英雄譚は、ナカンコンベで吟遊詩人が歌にしてるくらいですからねぇ」
「マジかよ、おい……」
 僕は、ひたすら頭を抱えるしかなかったわけです……

 まぁ、またいつかナカンコンベに行った際にしっかり訂正しておこうと、心に強く思ったわけです。
 ……もしくわ、一生ナカンコンベには近づかないのもありかな、うん。

 とまぁ、そんなところで、ドンタコスゥコさん達の荷造りが無事終了したらしく、ここでドンタコスゥコさん達は出発していきました。
「では、タクラ店長、また来月末頃にお邪魔しますですよ」
 そう言いながら、手を振るドンタコスゥコさん。
「じゃ、それまでには海の魚の件も話をつけときますね」
 と、僕は返答しながら、ドンタコスゥコさん達を見送っていきました。

◇◇

 しかし、ドンタコスゥコさんはやっぱ商売人だけあって時間にきっちりしています。
 毎月月末頃にやってくると言ってからまだ2ヶ月とはいえ、きっちり約束の日にやってきていますからね。
 このガタコンベからブラコンベを経由し、一度ナカンコンベに戻ってからそのままバトコンベまでの道程を半月で移動していきまして……で、そのコースをきっちり半月で戻って来ている計算です。
 結構距離があるはずですけど、その道程をちゃんと計算しながら移動しているんですからねぇ。

 僕がそんなことを考えていると、そんな僕の横にスアがテクテクと歩いてきました。
 で、スアは僕の腕をクイクイと引っ張ると、
「海の……転移ドア、出来た、よ」
 そう言ってニッコリ笑いました。

 まぁ、ドンタコスゥコさんもすごいけど、もっとすごいのはやっぱスアですよ。
 何百キロも離れた向こうと、このコンビニおもてなしを繋ぐドアを魔法で作っちゃえるんですから。

「いつもありがとう、スア」
 僕は、そう言いながらスアをギュッと抱きしめました。
 すると、スアは気持ちよさそうな笑顔を浮かべながら僕の事を抱き返してくれました。

「むぅ……あのラブラブっぷりにはつけいる隙がないキ」
「こらこらセーテン、盗み見てないで、仕事しなってば」

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