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海の幸と、ドンタコスゥコ商会 その2

 ちなみにこのビアガーデンですけど、そろそろ営業形態を変更しようと思っています。
 本店の店長補佐のブリリアンとも相談しまして、店の裏手に酒場を作ろうかって話になっているんですよね。
 今までは青空店舗といいますか、河原にバーベキュー用の調理台や、屋外用のイスとテーブルを並べて営業していた本店のビアガーデンですけど、ここに本店に併設した形で建物を建てて酒場にしてしまおうかと考えているんです。
 まぁ、酒場と言いながら、コンビニおもてなしの商品コーナーも併設してですね、変則的ですけど深夜のコンビニ営業もやってしまおうかと思っているわけです。

 と、いうのがですね、

 リョータミルクこと粉ミルクなんかを、深夜に切らしてしまったママさんが駆け込んでくることがたまにありまして、で、皆さん漏れなくビアガーデンに行くわけですけど、イエロやセーテンも、寝ている僕らを起こすのは気が引けるみたいなんですよね。

 僕が入浴している風呂にはしょっちゅう特攻してくるセーテンですけど、こういうとこは常識的なんですよ、意外にも。

 そんなことを考えながらビアガーデンを見つめている僕の前では、今日はドンタコスゥコ商会の女性陣達が、スアビールをがぶ飲みしながら楽しそうに笑っています。
 ドンタコスゥコ商会は、何故か女性ばかりの商会なんですよね。
 
 用心棒で雇われている冒険者の親子のうち、子供さんの方が、ミッツマング○ーブなんですけどね……

 で、まぁ、今日はせっかくなんで、海の幸のバーベキューも振る舞っています。
 イカモドキ焼きや、魚の切り身を焼いた物なんかを中心に、貝っぽい物も適当に並べてそれを調理しているんですけど、今日は僕がその調理を担当しています。
 いつもは、ルアやセーテンが飲んでる合間に調理していたんですけど、海の魚介類は誰も調理したことがないですからね。

「ほほぉ、これは珍妙な……このドンタコスゥコも見たことのない魚がこんなに……」
 僕が準備している魚を身ながら、ドンタコスゥコは腕組みしながら興味深そうにそれを見つめています。
「ドンタコスゥコの店でも、魚は扱ってないのかい?」
「いえいえいえ、魚は扱っているのでありますよ……ですが、ドンタコスゥコ商会で扱っておりますのは川の魚ばかりでございましてですね……こ、このような海の魚はお初なのでございますよ」
 そう言いながら、珍しそうに魚を眺め続けていました。

 そして、僕が焼き上げた魚料理を取り皿で受け取ってはそれを口に運んでいき
「うむ!? これはうまい! うまいですぞタクラ店長殿!」
 と、感動した表情を浮かべながらスアビールでそれらを流し込んでいるんですよね。

 で、ドンタコスゥコ商会の皆さんに特に好評だったのは、イカモドキ焼きでした。
 醤油を塗って香ばしく焼いた魚料理っていうのが珍しいってのもあってか、
「これ、すっごく美味しい!」
「匂いもたまんない」
「この足がまたいい味ねぇ」
 って、ドンタコスゥコ商会の女性陣の皆さん、なんかもう感動しきりのご様子で、夢中でイカモドキ焼きにかぶりついていたわけです、はい。

 で、よく見ていると、ドンタコスゥコ商会の皆さんってば、酔っ払ってへべれけになった人達が河原の石を背にして居眠りを初めているんです。

 おいおい、こんなとこで寝たら、さすがにそろそろ風邪引いちゃうよ……

 僕が、調理をしながらそんなことを思っていると、寝入ってしまったみんなに、イエロとセーテンが手慣れた様子で毛布を掛けて回っていました。
「まぁ、これも仕事のようなものでゴザルよ」
 そう言って笑うイエロですけど、なかなか気がつくじゃないか、って感心した次第です、はい。

 で、そんな一同を見ながら、新たに建てる酒場には宿も併設した方がいいかな、と、思ったわけです、はい。
 宿まで造るとなると、街の中心部にある宿屋のみんなにも話を通しとかないとなぁ、と思ったりしていると、
「主殿、そろそろ深夜でござる、あとは引き継ぐでござるよ」
 イエロが、調理を続けている僕に向かってそう言ってくれました。
 僕は、毎朝夜明前に起きて、コンビニおもてなし全店の料理を作っていますので、イエロはそのことを気遣ってくれているんですよね。
「じゃあ、悪いけどあとは頼むよ」
 僕は、そう言い残して巨木の家へと帰っていきました。

 まぁ、海産物の調理の仕方は、イカモドキ焼きの醤油を何度も塗り重ねながら何度も焼いていくのが面倒くさいくらいで、あとは焼けばだいたいなんとかなる物ばかりでしたし、まぁどうにかなるでしょう。

 巨木の家に戻ると、ちょうどスアがリョータにミルクをあげているところでした。
 ただ、熟睡しているのを起こされたらしいスアは。リョータの口にほ乳瓶をあてがいながら豪快に頭を前後させ……いわゆる船をこいでいる状態でした。
「スア、僕が変わるよ」
 僕がそう言いながら手を伸ばすと、スアはほとんど無意識のままリョータとほ乳瓶を僕に手渡しました。
 で、それを受けとった僕は、ベッドの端に座ってリョータにミルクをあげ始めました。
 
 ポス

 すると、そんな僕の背中に、スアが倒れ込むようにしてしなだれかかってきました。
 僕の背中を抱きしめるように手を伸ばし、そのままムニャムニャと何事か寝言を言っています。
 残念ながら、何を言っているかまでは聞こえなかったのですが、すごく幸せそうな笑顔で寝ていたので、わざわざ起こして聞くのもあれだしなぁ、と、思い、そのことはスルーしたわけです、はい。

 その後、ミルクを飲み終えたリョータにゲップをさせると、僕はスアとリョータを一緒に寝かせると、スアを背後から抱きしめるようにしながらベッドに入っていきました。
 なんて言いますか、スアを抱っこして寝ると、気持ちがいいといいますか、心地良いといいますか……僕も幸せな気持ちになれるんですよね。
「……リョウイチ……愛して、る……むにゃ……」
 ……うん、今の寝言はばっちり聞こえてしまいましたけど……まったくもう、スアったら。
 僕は、思わずスアをギュッと抱きしめていきました。

 この夜は、なんだかとっても言い夢が見れた気がします。

◇◇

 翌朝、いつものように夜明前に目を覚ました僕は調理場に……
「……おはよう、旦那様」
 ……行こうとしたらですね、昨夜はリョータの方へ向いて寝ていたはずのスアが、僕の方へ向き直って寝ていました。
 その顔が、僕の目の前にあります。

 どうやらスアは、今日は珍しく早くに目が覚めたみたいで、ずっと僕の顔を見ていたようです。
 スアは、ニッコリ微笑みながら僕の顔を見つめていたのですが、
「……ん」
 おもむろに目を閉じると、おねだりするように唇を尖らせてきました。

 これはあれですね、キスのおねだりです。

 僕は、スアを抱き寄せると唇を重ねていきました。
 幼く見えるスアですけど、二百才を超えているエルフの彼女です。
 どこかその表情が艶っぽく見えたりもするんですよね。
 唇を重ねながら頬を赤く染めているスアの様子を薄めを開けて見つめつつ、僕はスアとしばらく抱き合ってから厨房へと移動していきました。

 さぁ、今日は朝から元気満々です、はい!

◇◇

 魔王ビナスさんと2人でいつものように弁当調理に精を出した僕ですが、やはり朝からスアの愛を感じたもんですから、いつもより30分は早くに調理を終えることが出来ました。
 やはり、愛ですね、愛。

 ってなわけで、魔王ビナスさんや、テンテンコウ♂、ヤルメキス、ルービアス達と少し休憩していると、
「店長殿。朝の準備が終わったのでありますかな?」
 と、ビアガーデンでしこたまスアビールを飲みまくっていたであろうドンタコスゥコさんが厨房に顔を出しました。
「あのですねぇ、よかったら早速弁当を売っては頂けないでしょうかねぇ」
 そう良いながら笑うドンタコスゥコさん。
 どうもですね、昨夜は魚介類のおかげで食もビールも進みまくったらしく、僕が寝てしばらくすると食べ物が無くなってしまったそうなんですよね。
 で、夜通し飲み続けていたドンタコスゥコさんは、お腹が空きまくっているそうでして……

 で、まぁ、せっかくなんで、ちょうど今日から販売開始の予定にしていた海の魚のフライ弁当をドンタコスゥコさんに手渡してみたんですけど……さてさて、どんな評価になりますやら。

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