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海の幸と、ドンタコスゥコ商会 その1

 無事海から帰宅した僕達ですが、
「パパ! テント楽しかったですね、泳ぐのも楽しかったですね、また行きたいですね」
 と、パラナミオはおおはしゃぎでした。

 アルリズドグさんから海の魚を買い付ける約束が出来ているので、改めてスアに転移ドアを作成してもらう予定にしているのですが、そうなるとみんなも海に連れて行ってあげれるなぁ、とか思ったりしています。
 店のみんなの慰安旅行がてら、海に行くのもいいかもな、と思ったりしているわけです。

 とはいえ、まぁそれはそれ、これはこれ。

 僕は、アルリズドグさんからお土産にもらった魚を、早速地下の冷蔵室の中で出してみました。
 ちなみに、この冷蔵室って、元はただの地下室でして、本来は壁沿いに業務用の冷蔵庫と冷凍庫がおいてあるだけなんですけど、スアの使い魔の森に住んでいる冷凍系亜人さん達が交代でここに入り浸ってくれてるもんですから、費用がかからずに適度に冷蔵状態が保たれているんですよね。

 ちなみに今日はスノーフォックスのお姉さんが部屋の隅で気持ちよさそうに寝ていました。

 さて、そんな中で取り出したこの世界の海の魚ですが……
 まぁ、アルリズドグさんから渡された時点で、だいたい見当はついてたんですけど……とにかく、僕がもといた世界の海の魚とは似ても似つかない物ばかりなんですよね、これが……
 スアやルア、イエロやセーテンにも見てもらったんですけど
「……私も、はじめて、ね」
「あたしゃ川の魚しか知らないんだよなぁ」
「拙者、食べたことはあるでござるが、魚のままの状態の物は初めてでござる」
「食えれば同じキ」
 と、まぁ、そんな感じです。

 とはいえ、まぁセーテンの言葉どおり、食えれば同じなわけです。
 とにかく、ま、さばいてみましょうかねぇ。

 形は千差万別で、グロテスクなのもあれば、妙に真っ直ぐなのもあったり、逆に軟体でウネウネしてるのもあったりと、まぁとにかくあれこれです。

 とりあえず、アルリズドグさんから「こいつらは生でも食えるぜ」って教えてもらってた奴らを刺身にしていきました。
 大根もどきみたいな野菜はすでに発見していますので、それをつかって刺身のツマも作って皿に盛り付けていきました。
 そうそう、せっかくなんだからわさびも欲しいよなぁ……って思った僕は調理場にある家庭用大型冷蔵庫の中を確認してきまして……あったあった、練りわさびです。
 せっかくですから、これをそえてみます。
 今まで用途がなかったもんですから、ほとんど出番がなかったんですよね、わざびは。

 逆に、カラシというか、マスタードの方は、ウインナーの生成に成功したこともありまして、ホットドッグを調理パンに加えたもんですから、それにたっぷり使用していたり、おでんにそえたりしていますので、結構あれこれ使っているんです。なので、すでにプラントの木で増産を開始しているんですよね。
 
 刺身の他にも、イカモドキみたいな軟体の魚がいたもんですから、醤油をたっぷりつけて焼いてみました。
 いわゆる屋台のイカ焼きですね。
 この醤油が焦げる臭いがすごく香ばしいもんですから
「おいおいタクラ、何うまそうなものつくってんだ?」
 って、4号店のララデンテさんがわざわざ様子を見にやって来たほどなんですよね、これが。

 そんな感じで、海の魚を使った試食をあれこれ作ってみまして、この日の夕食に並べてみました。

 夕飯のおかずにして、みんなに食べてもらって、そして意見を聞こうと思ったわけです。
 ちょうどお土産渡しも兼ねることが出来ますんで、まぁ一石二鳥ってわけです。

 で、食卓にならんだ料理を見て、みんな最初は唖然としていました。
「え? この魚が綺麗に並んでるのって、生ですか? 刺身? へぇ……」
「焼き魚は、川の物と似ていますねぇ」
 ってな具合で、最初はみんななかなか手を出せずにいたんです。
 ですが、これに風穴を開けたのがパラナミオでした。
「パパ、このお醤油の臭いのするお魚食べたいです!」
 パラナミオはそう言うと、大皿の上に乗っかっているイカモドキ焼きを指さしました。
 さっそくそれを取り分けてやったらですね、パラナミオは満面の笑みを浮かべながらそれにかぶりついていきました。

 モグモグ……ゴクン

「パパ! これ、すっごく美味しいです!」
 そう言うと、パラナミオはあっと言う間に1匹平らげてしまい
「パパ、もう一匹食べてもいいですか?」
 そう僕に聞いてきました。

 で、これが引き金になりました。

「じゃ、じゃあアタシはこの刺身ってのを……」
「では、拙者はこっちのアラとか言うのをつかった味噌スープとやらを……」
「で、で、で、ではヤルメキスは、この魚のフライとやらをですね……」
 みんな思い思いに取り皿を手にしてテーブルの中央に並べてある大皿から料理をとっては口に運んでいきました。

 すると

「ん!? これは美味しい! 生の魚もいけますね!」
「ほほぉ、この味噌スープ、非常に良い味がでているでゴザルなぁ」
「ふ、ふ、ふ、フライ美味しいでごじゃりまする! こういの大好きでごじゃりまする」
 とまぁ、みんな口々に料理を称えながら、どんどん食べ始めたわけです、はい。

 で、特に好評だったのが、

 アラの味噌汁と、イカモドキ焼き。それに刺身ですね。
 とはいえ、他の料理が不評と言うわけでは無く、この3品が群を抜いていたっていうのが実際のところです。

 これを店で売るとなると……

 アラの味噌汁は、レジ前でやってるスープバーに加えればいいかな、と思ってます。
 今のスープバーは、豚汁と中華風スープ、それに普通の味噌汁の3種類がメインでしたけど、アラの味噌汁をこれに加えてみようかな、と思っています。

 イカモドキ焼きは、やっぱ出来たてが美味しいからレジ横の棚の中には見本だけ置いておいて、商品は魔法袋に入れて保管して置いた物をだしていけばいいかな、と思っています。
 この方式なら、常に焼きたてのイカモドキ焼きを提供出来ますしね。

 で、最後の一品で、僕も首をかしげたんですよね。
 と、いいますのが……刺身なわけです、生ものです。
 店内での衛生管理にはかなり気を使っていまして、生ものは極力使わないように配慮もしているわけなんですけど、そんな中で刺身をお客様に提供するとなると、ご飯の熱さにやられてすぐに痛んでしまいかねないな、と思うわけです。
 なら、ご飯を冷ませばいいじゃないかって話になるんですけど、コンビニおもてなしの弁当は常にあったかご飯で提供しますっていうのがひとつの売りなもんですから、冷ましたご飯を提供するのはちょっと抵抗があったりします。

 そんなわけで、刺身に関してはしばらくの間はコンビニおもてなし食堂エンテン亭だけで食べられるメニューとして提供してみようかと思っている次第です。

 食堂のメニューで提供すれば、あったかいご飯と一緒に持ち帰られて、その途上でご飯の熱で刺身が傷むなんてことも無くなりますしね。

◇◇

 そんなこんなでこの日の食事を終えた頃、ドンタコスゥコ商会の荷馬車隊が店に到着しました。
 到着と行っても店はすでに閉店していて、ビアガーデンの営業のみやっているわけですが、そのビアガーデンを目当てに無理をして飛ばして帰って来たらしいです、はい。
 まぁ、このビアガーデンだと、スアビールの数量制限がありませんから、好きなだけ飲めますしね。
「タクラ店長、商談は明日なのですよ。今日は目一杯飲んで食って騒ぐのですよ」
 と、まぁ、ドンタコスゥコさんは到着するなり、もうスアビール飲ませろ! って顔で河原の方へと走っていきました。
 まぁ、1ヶ月ぶりの再会ですけど、ドンタコスゥコ商会のみんなも元気そうで何よりです。

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