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秋の収穫祭 その1

 ここガタコンベでも、秋の収穫祭に向けた準備が始まっています。

 店の周囲に、商品を山積みにしているところが多数見受けられるのですが、これ、全部その店が会場に持って行く品物らしいんですよね。
 中には店の中で販売している商品よりも、店の外に山積みされている品物の方が多いんじゃないの? って店もあったりするんですけど、商店街の人々はそういった品々を眺めながら
「おぉ、ムラシンの店は、今年は頑張ってドテンカルボッチャの実を栽培したんだな」
「そう言うカルキシモのとこも、防寒着をあんなに作ってるねぇ」
 とまぁ、そんな会話を交わしているんですけど、
「これが秋祭り前の風物詩なんですよ」
 と、蟻人のエレエが笑顔で教えてくれました。

 僕も、一応領主ですから、日に一度は街中をこうしてエレエと一緒に視察しているわけです。
 持ち込み禁止物を準備している店がないかとか、祭りの準備で何か困ってる店はないかとか、そんなことを見て回っているわけです。

 ただですね、僕は一応領主って役職についていますけど、正式には『暫定領主』って立場になります。
 と、いうのもですね、今回王都が発令した『領主任命令』っていうのは、領主がいない辺境都市はすぐに領主を決めなさい! 出来なかったら街のランクを格下げしちゃうからねっていう結構強引な命令だったわけです。
 で、この命令が強引だったっていうのは王都も理解していたらしく、領主は住民の推薦があれば大概認められているそうなんですよね。
 その変わり、正式な領主じゃなくて、あくまでも暫定領主として。

 まぁ、そりゃそうですよ。
 正式に辺境都市の領主になるには、相当面倒くさい研修を一ヶ月近く受けてですね、しかも最後にテストに合格しないといけないって話ですからね。

 店の売り上げ計算とか、日曜大工もどきをするのは好きですけど……さすがに今からまた研修だの試験勉強だのをしなきゃならないなんて、考えただけでも寝込んでしまいそうです。

 と、いうわけで、暫定領主の僕は王都が任命した正式な領主が派遣されてきたらお役御免になるわけですけど……果たしてそんな日が本当に来るんでしょうかねぇ……すでに前領主がいなくなってから10年近く放置されてたって話ですし……

「ま、僕は僕に出来ることをしっかり頑張ることしか出来ないんだけどね」
 僕がそんな言葉を口にすると、エレエは再びニッコリ笑います。
「タクラ店長……じゃなかった、タクラ領主にそんなに頑張っていただけて本当に光栄です。お給料も出ませんのに、こんなに真剣に頑張ってくださって、ホント感謝感激ですよ」

 ……そう

 暫定領主にはですね……給料が支給されないんですよ、これが。

 まぁ、王都からしてみれば
『暫定領主を定めたら補助金を今まで通り支払ってやるんだから、それで十分だろう?』
 って事なんでしょうけどね。

 最初、エレエは
「無理を聞いていただいたのですから、どこかから捻出しますので……」
 そう言ってくれてたんですけど、
「あぁ、いいからいいから。街のお役にたてるんならそれで十分だよ」
 そう言って、エレエの申し出は断りました。

 まぁあれです。街のみんながコンビニおもてなしで買い物をしてくれるから僕は生活が出来ているわけですし、そんな街の人達のご恩に報いさせてもらうってことで十分だと思っている訳です、はい。

 エレエとこの日の街の巡回を終えた僕はコンビニおもてなし本店へと戻って行きました。

 最近の本店は、ブリリアンが店長補佐としてしっかりフォローしてくれているので助かっています。
 2号店はシャルンエッセンス。
 3号店はエレ
 4号店はクローコさんと、それぞれの店にそれぞれ店長や、店長補佐がいてくれるもんですから、最近の僕は新商品の開発や、こういった祭り参加の準備などの作業に専念することが出来るようになっています。

 とは言いましても

 ララコンベには、すでにコンビニおもてなし四号店があるんですけど、出店は別に設営する予定にしています。
 そして出店には各店からヘルプを出してもらう予定になっています。
 みんなで、しっかり頑張っていけたらな、っていうのと、各店のみんなにも祭りを楽しんでもらえたら、って思ってるわけなんですよ。

 ちなみに、ララコンベ周辺は害獣指定されている魔獣がまだまだ多いですので、最近はイエロ・セーテン・ルアによる討伐隊がララコンベを中心にして活動しています。
 そんな討伐隊ですが、最近はオデン六世さんも加わっています。
 オデン六世さんは、デュラハンだけあり騎士としての剣の腕前がかなりなもんですからイエロにもひけをとらない成果をあげているそうです。

 で

「ルアの旦那殿、なかなかやりますな」
 とイエロに言われて、照れまくってるオデン六世さんに対し
「ぶ、ぶぁか! だ、誰が誰の旦那だって? ち、とっと一緒に暮らしてて、一緒の布団で寝てて、たまにその中で一緒に運動してるだけの間ってだけでだな……」
 
 ……うん……ルア、ちょろ過ぎます
 ちょっと煽られただけで、個人情報ダダ漏れてます、はい。

 とはいえ、案外ルアの子供誕生ってのもそう遠い話ではないのかもしれません。
「ぶ、ぶぁか! そ、そんなことあるわけないじゃんか……、あ、あって欲しいから頑張ってるけど……って、何言わせるんだよタクラぁ!」
 
◇◇

 背中に、ルアのもみじ饅頭手形をつけられて、結構ひりひりしている僕です、はい。

 で、ですね、収穫祭の準備が進んでいる街の様子を見つめていると、僕は元いた世界のことを思い出していました。
「そういや、向こうの世界でも秋には祭りがあったなぁ」
 僕がそんなこを口にしていると、リョータをフロント抱っこしたスアがトコトコ僕の横に歩いてきました。
「……元の世界の秋祭り?」
「そうなんだ。僕の住んでたところにはね、子供神輿って行事があってさ、パラナミオくらいの子供達が御神輿を担いで街中を歩いて行くんだよ。で、最後に参加者全員にお菓子が配られたんだよなぁ」
 僕がスアにそんな話をしていると、パラナミオが満面の笑顔で駆け寄って来ました。
「パパ! お菓子がもらえるんですか? 何をしたらもらえるんですか? パラナミオ頑張りますよ!」
 どうやらパラナミオ、僕のお手伝いでもしたらお菓子がもらえると思ったみたいでして、ボクとスアの周囲を必死になってキョロキョロしまくっています。

 なんと言いますか、微笑ましいんですよね、こういうパラナミオの姿って。

 軽く肩叩きをしてもらい、ヤルメキスお得意のカップケーキを1つあげたんですが、パラナミオはすっごく喜んでくれました。
 その笑顔を、僕はヤルメキスと一緒に眺めていました。
「……天使の微笑みでごじゃりまするなぁ」
「うん、ホント天使の微笑みだよ」
 そんなことを話ながらニッコ微笑んでる僕とヤルメキスの前で、パラナミオはカップケーキを美味しそうに食べ終えていきました。

◇◇

 その後、ララコンベへと移動していった僕は
「子供神輿……ですか?」
 ララコンベの盟主メルアに、子供神輿のことを話してみました。

 せっかくの収穫祭ですし、ララコンベに集まったお客さん達に変わった趣向のイベントを体験してもらったらどうかな、そう思ったわけなんですよ。
 で、当然御神輿なんてさっぱり知らないメルアに、その形状や担ぎ方、最後にお菓子を配るところまであれこれ説明していきました。
 すると
「子供達だけでこの御神輿を担ぐというのは面白い案だと、私も思います。子供達もきっと笑顔で参加してくれると思います」
 メルアはそう言って笑ってくれました。

 ってなわけで、僕はメルアに託されて神輿づくりを行うことになりました。

 祭りまであんまり時間が残ってませんけど、スアにも手伝ってもらえばなんとか……そう思っていると。

 家に戻った僕の前に……巨木の家の前にですね、結構大きな神輿が出来上がっていました。
 その横にはスアが立っています。

(あぁ……メルアのところで話をしていた内容を聞いて、先に作ってくれたんだな、きっと)
 一見すると、とても豪奢で素敵な仕上がりになっているその御神輿。
 僕は、スアにお礼を言おうと思いかけたところで、その神輿の奇妙な場所に気がつきました。
 
 その奇妙な場所っていうのがですね……神輿の天頂部分だったんです。
 というのがですね……天頂部分に、僕の人形が立ってたんですよね……ディフォルメされてますけど、一目で僕とわかるような出来上がりになっている……

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