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おもてなし1号に乗って その3

 タクラ家の夕食は、コンビニおもてなし本店2階の社員寮に住んでいるみんなと一緒に食べます。
 これ、社員寮の特典として朝晩食事付きって契約書に入ってるからなんですよね。
 この寮に最初に入寮したイエロ用に契約書を作った時に勢いでこの文言を突っ込んじゃったんですけど、その契約書をそのまま使い続けた結果、今では10人以上が一緒に食事を食べる状況になってるんですよね。

 以前は、この食事の準備を全部僕が1人でやってたんですけど、最近はですね

 朝ご飯は、本店バイトの魔王ビナスさんが、
 晩ご飯は、2号店のシルメールがメイド数人と一緒に作ってくれているので、僕的にはすごく助かっています。

 魔王ビナスさんはですね、
「お店のお弁当を調理するついでですから」
 そう言いながらちゃちゃっと作ってくれるんです。まさに、ザ・オカンなわけです、はい。

 で、シルメール達はですね
「ホント、いつもお世話になってるんでこれくらいは是非……」
 そう言いながらみんなで頑張ってくれています。
 2号店のみんなは、最初の頃はですね、料理の腕前は壊滅的だったんですけど、僕がしこたましごいたのと、この夏の間にビアガーデンで頑張った成果がすごく出てる感じです。

 で、そんな今日の夕飯時にですね、
「と、まぁこんなことがあったんだよ」
 と、テトテ集落に行ってきた話をみんなにしたわけです。

「あぁ、そういえばあのあたりに昔、割と大きな亜人の街だか村だかがあったって聞いた事がありましたけど、まだ住人の方が残っていらしたんですねぇ」
 このあたりに長く住んでいるブリリアンがそう教えてくれました。

 ちなみに、ブリリアンは寮住まいではなく、本店の裏に勝手に小屋を建てて住み着いてます。
 時々こうして、しれっと晩ご飯に混じってるんですよね。
 こら、ブリリアン、今更「はて、なんのことでしょう」みたいな顔をしながらそっぽむかないの。

 で、集落の長のネンドロさんに、村に物を売りに来て欲しいと頼まれた話をしていると、僕の隣でリョータにミルクをあげながら自分もスープを飲んでいたスアがですね、
「……転移ドア、つくろう、か?」
 と言ってくれました。

 確かに、そうしてもらえば村の人達も店にこれ……

 ちょっとまった。

 前回といい、今回といい、僕がおもてなし1号で集落を訪れただけでですね、あれだけの人達……っていうか、ほぼ集落の全員が出迎えてくれたわけですよ。
 もしですよ、転移ドアを作ってですね、向こうからもこっちからも行き来出来るようにしちゃうとですね……向こうの集落の皆さんがですね、しょっちゅう大挙して訪れちゃうってことになっちゃいませんかね?
 特に集落の皆様はですね、パラナミオという天使の存在をすでに知ってしまっているわけですよ。
 しかも、いつもはおしとやかで、かつ上品なお婆さまのリンボアさんですら、リョータを前にしたらメロメロになったくらいですし、この2人を目当てに連日大挙してこっちにやって来始める可能性も……
「……お年寄りが多いとなりますと、無きにしもあらずでござりますなぁ……」
 イエロもそう言いながら腕組みしています。

 で、ですね、あれこれ考えた結果……

 テトテ集落の空き家を一軒お借りしてですね、その中に転移ドアを作ろう、と。
 で、その転移ドアは店に人がいる時だけ使用することにして、それ以外の時間は接続を解除しておく。

 ……と、まぁ、こんな案を考えたんですけど、ここでシャルンエッセンスがおずおずと手を上げましてですね
「あのぉ……お店の中にですね、転移ドアがあるとバレたらですね、集落のお年寄りの皆様が使用させていただきたいって申し出てきたりされませんかしら?」
 そう言ったわけですけど……言われて見ればその可能性も無きにしもあらずだなぁ、と……

 で、まぁ、喧々囂々あれこれ考えに考えたんですけど、最終的にですね
 週に1回、おもてなし1号で訪問販売をしながら、様子を見てみようってことになりました。

 まぁ、実際に向こうに行ってですね、向こうの皆さんの話を直に聞きながら判断していけばいいかなって思った訳です、はい。

◇◇

 そんなわけで、数日後。
 週末のお休みの日にですね、スア・パラナミオ・リョータを連れてドライブがてらおもてなし1号でテトテ集落へと向かいました。
 商品は、リンボアさんがよく購入している農具や調理器具をメインにですね、味噌玉や塩玉、砂糖玉といった調味料に加えて、スアビールにタクラ酒、パラナミオサイダーなんかも持って行ってます。いつもは4号店でしか販売していない温泉饅頭や、3号店で栽培しているタクラ豆なんかもお試しで加えてみました。

 かなり大量の荷物ですけど、すべて魔法袋にいれてますので、はい、荷物は僕の腰にちょこんとくっついてるだけなわけです……ホント便利です、この魔法袋って。

 で、スアは抱っこ紐でリョータを体の前側に固定してますけど、車の振動で揺れないように魔法をかけていました。
「これくらい、朝飯前、よ」
 そう言ってニッコリ笑うスアなんですけど……

 果たして、リョータとパラナミオめがけて殺到することが目に見えている集落の皆さんを前にして、対人恐怖症のスア、ホント大丈夫なのかなぁ、と、不安しまくりな僕なんですよね。
 でも、スア自身が一緒に行くことを強く申し出てきたもんですから……とにかく、何かあったらすぐフォロー出来るようにしっかりスアの様子に気を配っておこうと思っています。

 で、ほどなくテトテ集落が見え始めたんですけど……あれ? なんかおかしいぞ?
 以前はですね、集落の入り口の周りには集落の周囲を覆っている木の柵くらいしかなかったんですよ……それが、なんか入り口の脇に物見櫓みたいなものが出来ています。
 で、その上にお爺さんが1人立っていてですね、こっちの方角をじっと見てたんですけど……このお爺さん、おもてなし1号が近づいて来たことに気がつくと、

 ジャンジャンジャン

 と、その物見櫓の中に置かれていたらしい鐘を手に持って乱打し始めたんですよ。

 すると、みるみるうちに集落の入り口に人々が集まって来てですね
「タクラ店長いらっしゃい!」
「よくぞ来てくれました!」
「今日はパラナミオちゃんはいるのかしらぁ」
 とまぁ、みなさん口々に熱烈歓迎な言葉をあげながらおもてなし1号を出迎えてくれまして……

 後から聞いたんですけど……
 この物見櫓はですね、僕のおもてなし1号が来たらすぐわかるようにって、集落の皆さんが共同で作ったそうなんですよ……っていいますか……そ、そこまで心待ちにされてたんですね……アハハ(汗

 で、例によっておもてなし1号を取り囲むようにして集合されてる集落の皆さんの前に、
「みなさんこんにちは!」
 と、満面の笑顔で、まずパラナミオが車から降りたんですけど、その途端に皆さんから大歓声が沸き起こりました。
「パラナミオちゃん、待ってたよぉ」
「今日も可愛いねぇ」
「ほれ、おにぎり食べるかい?」
 と、まぁ、降りた途端に大歓迎を受けているパラナミオ。
 周囲の皆さんに、笑顔をまき散らしているんですけど、
「あぁ、天使が降臨さった……」
 って言いながら、パラナミオを拝み始めるお婆さんまで出始めまして……


 で、その人混みを前にしてですね、スアもきっと足が震えて……って、あれ?
 なんか今日は普通だぞ?

 いつもなら、これだけの人を前にしたらですね、スア的にはガクブル必死なシチュエーションのはずなんですけど……今のスアはなんかですね、リョータを抱いたまま普通に車を降りていったんですよ。
 で、普通ならここで、リョータに人が殺到するはずなんですが
「パラナミオちゃんのお姉ちゃん!?」
「まぁ、お人形さんみたい!」
「すっごく可愛いわぁ」
 と、リョータより先にスアに集落の皆さんが殺到していきました。

 ……まぁ、リンボアさんもそうだったし、こうなるんじゃないかなってのは少し思ってたんですけどね。
 
 で、そんな人混みを前にしてもですね、スア、和やかな笑顔で接しています。
 ……なんか、不気味なくらい普通です……いや、スアの場合、これは普通じゃないんですけどね……

 で、まぁ、そうやって集落の皆さんがパラナミオとスア、遅れてリョータにも殺到している中で、僕はおもてなし1号の脇に、持参してきたキャンピングテーブルを数台並べて、その上に商品を並べていきました。

 ……が

 集落の皆さん……全員、パラナミオとスア、そしてリョータに夢中でですね、商品には見向きもしません……

 しばらくすると、集落の長のネンドロさんが苦笑しながら僕の側に寄ってきてくれたんですけど
「すいませんですニャあ。皆、久しぶりにお見かけする子供の姿に夢中で、今は買い物どころじゃないようですニャあ」
 そう言いながら、ネンドロさんは自宅用にって鍋を1個買ってくれました。

 しかし、この集落ってどうやってお金を稼いでいるのかな、って思ったんですよね。
 農業で自給自足は出来てるようですけど、それをどこかに売りに行ってる様子はないし、他に何か産業がありそうなわけでもないし……そんな中でも、定期的にコンビニおもてなしに来て買い物をされてたわけですからね。
 すると、ネンドロさんが教えてくれたんですけど、
「この集落の皆にはですニャあ、王都から補助金が出ておりますニャあ」
 なんだそうです。

 そう言えば前に組合のエレエに聞いたことがあります。
 若い働き手がいない辺境の集落の住人にはですね補助金が支給されるケースがあるって。
 色々条件があるみたいなんですけど、この集落はその条件をクリア出来たみたいですね。

 で、その話になった途端に、ネンドロさんは妙に寂しそうな表情になっていきまして……
「王都の方はですニャあ、月に1度この集落を訪ねてきて、お金を置いて行ってくださるんですニャあけど……魔法使いの方が、転移魔法でひょいっとこられてですで、お金だけ置いてすぐいなくなってしまいますニャあ……ワシらは、集落の外から客人がこられるのは好きニャあけど……あのように魔法でパッと来てパッといなくなられるのは、味気ないといいますか……寂しいといいますかニャあ……」

 あ~……なるほどなぁ……

 やっぱ、ここの集落のお年寄りの皆さん的にはですね、転移魔法でパッときて、パッといなくなられるのはあまり嬉しくないみたいです。
 待ちわびて、出迎えて、そして歓待して、お見送りをする……多分、この村の皆さんは、この一連の流れが好きなんだろうなぁ……ネンドロさんの話を聞くと、そうじゃないかなって思ったわけです。

 僕は、いまだにパラナミオとスア、そしてリョータを愛で続けている集落の皆さんを見つめながら、そんなことを考えていました。

 ……ちなみに、まだネンドロさんしか買い物に来てくれていませんが、何か?

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