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コンビニおもてなし4号店開店です その1

 ルアとオデン6世さんによる空き店舗の改装工事も無事終わり、コンビニおもてなし4号店の開店準備も無事整いました。

 すでにルアの店製の武具や調理器具、農具類は運び込みが終わっています。
 温泉街なので、温泉目当てでやって来た冒険者向けに武具は目立つ場所に置いてありますが、ララコンベの住民向け商品である調理器具と農具は店の奥まった場所においてあります。

 温泉街にやってきたお客向けであり、なおかつララコンベの住民向けという、1店舗で2種類の役目を背負うことになるので、そういう点も考慮した店の作りになっています。

 出降り口のすぐ横に出店スペースを設けてあり、そこで焼き物を調理出来るようにしてあります。
 このスペースにはレジスペースから直接出入り出来るようにしてあるので、店内対応をしながらこちらでも実演販売が出来るようになっています。

 さて、せっかく温泉地に店をだすわけですので、店の品揃えにも少し特徴ある物を加えることにしました。

 まずは土産物。

 これに関しては少し考えがありました。
 このララコンベはですね、温泉と合わせてカウドン牧場とカウドン乳が人気になりつつあります……ダメですよ、他に何もないんじゃないの? なんて事を言っちゃあ。

 で、そのカウドンのぬいぐるみを作りました。
 四つ足で立つタイプと、お尻で座って四つ足を前に伸ばすタイプの2種類で、どちらも『ララコンベ温泉』の文字が入っています。

 この商品なんですが、試作は僕がしました。
 ただ、裁縫はそう得意な方でないもんですから、ホント四苦八苦しながらやったんですけど、まぁ、どうにかパラナミオが見ても
「パパ! これパラナミオも欲しいです!」
 そう言ってくれるほどの品物が出来上がりました。
 試作1号は、この天使のようなパラナミオが顔を引きつらせる出来だっただけに、我ながらすごい進歩だと思います……いや、マジで。

 で、この商品の生産ですが、

「あらあら、この布を使ってこういう形にすればよろしいのですね?」
 と、魔王ビナスさんがですね、仕事の合間にちゃちゃちゃっと作ってくれています。

 え~、僕が1体作るのに2日はかかるこの品をですね、魔王ビナスさんは朝の調理作業を終えて店が開店するまでの、およそ1時間の間に10体×2種類/1日作ってくれています。
 4号店開店までに家でも作成してきてくれまして、総勢100体×2種のカウドン人形が出来上がっています。

 いや、ホント魔王ビナスさん、裁縫の腕前すごいな、と感心したんですけど
「娘の服も全部手作りしていたんですよ。あ、今もですね内縁の夫との間にいつ子供が出来てもいいように、10才までの服は作成し終わっておりますの」
 そう言ってホホホと笑う魔王ビナス……まさに、THEおかんの貫禄です、はい……見た目は幼女ですが。


 次に、キーホルダーです。
『ララコンベ温泉』の文字を入れたキーホルダーを、ルアに作成してもらったのですが、この世界でただの飾りにしかならないキーホルダーを売っても買ってはもらえないんじゃないかと思いまして、

 ナイフ
 ハサミ
 縫い針
 ノコギリ~細
 ノコギリ~粗
 栓抜き
 コルク抜き
 火打ち石
 爪用やすり
 アイスピック

 これらがコンパクトにまとまった、いわゆる十徳ナイフタイプにしてもらっています。

 これ、僕が元の世界でキャンプに行くときに、と思って買ってた品をルアに見てもらって作成してもらったんですけど

「……な、なんだこりゃあ!? こんなに小さいのに、どんだけ仕掛けが組み込まれてんだ、おい!?」
 最初にこれを見たときのルアは、ただただ唖然としてたんですよね。

 当然、元の世界で市販されていた物をモデルにしてもらっていますので殺傷能力はありません。
 そこは、ルアにもよくお願いしておきましたので、はい。

 で、この十徳ナイフをですね、少し小型にした五徳ナイフタイプの2種類を作ってもらっています。

 さすがのルアも、これは大変かなと思っていたのですが
「あぁ……型さえ作っちまえばどうにかなるな……」
 と、5日ほどで増産体制を作り上げてくれました。
 とはいえ、細かい部品が多い上に頑丈にしないといけないため、1日に20個×2種類作るのが今のところ精一杯の状況でけど、まぁ、まずは実際に売ってみてそれからですね。


 次に食べ物の方ですが、『温泉まんじゅう』を作ることにしました。
 実は、ヤルメキスにまんじゅう作成を教えて増産してもらおうと思っていたんですけど、カップケーキに加えて、ロールケーキと昆虫ゼリーと人用ゼリーの製造に加えて、今は接客もしてもらっているものですから手一杯状態なんですよね。

 そこで、ここ4号店では、ダークエルフのクローコさんに作り方を教えて作ってもらうことにしました。

 餡子はプラントを使用して餡の実を作ることに成功しているので、それを使用します。
 本当は黒糖を使って茶饅頭風にしたかったんですけど、今店にあるのは普通の砂糖のみなので、それに薄力粉に重曹、水は当然温泉の湯を使います、
「じゃ、一緒にやっていきましょう」
 出来たての4号店の厨房で、僕はクローコさん~脱ヤマンバナージョンと一緒にコネコネチマチマ饅頭を作っていきます。
「何これ? チョーちっさいし、チョーめんどい。一個さ、どか~んとでっかいのにしちゃおうよ、店長ちゃんってば」
 と、まぁ、豪快なことを口では言うクローコさんなのですが、その手は僕の指示通りに動かしています。
 あれこれ軽口は多いけど、手は止めないし、言いつけ通りに作業してくれています。
 指示も、わからなかったらわかるまで聞いてから作業に入ってくれますので、すごく安心して見ていられるんですよね。

 なんか、クローコさんを雇ったのは正解だったなぁ、と、僕もすごくうれしくなってくるわけです。

 で、出来上がった温泉饅頭を蒸すわけですが、せっかくですので出店スペースを使ってやってみました。

 魔道コンロに、蒸し器を置きます。
 中に水を入れておいて、そのまま火にかけることの出来る蒸し器がありますので、それをそのまま使用しています。

 向こうの世界で営業していた頃のコンビニおもてなしでも、饅頭や蒸しパンの店頭販売やってた時期がありまして、その時使ってた器具なんですよね。

 で、湯が沸いて蒸気が上がり始めると、それと一緒にだんだん饅頭の良い匂いが漂ってきます。
「店長ちゃん、これヤバい! マジやばいって! すっごい美味しそうじゃん!」
 クローコさんが、蒸し器の横で大はしゃぎしているんですけど

「なんだなんだ」
「なんか良い匂いだね」

 気がつけば店の前に温泉にやってきているお客さん達がワラワラ集まってきていました。

 せっかくなので
「どうぞ、今度コンビニおもてなし4号店限定販売するララコンベ温泉饅頭です。今日は試食サービスをしていますので皆さん食べていってください」
 そういって、蒸し上がったばかりの蒸し器の蓋を開けました。
 すると、周囲いっぱいに饅頭の甘い匂いが広がっていき、お客さんみんなが思わず息を吸い込んでいます。

 って、クローコさんも全身使って吸い込んでたよ。

 で、出来上がった饅頭をみんなに配っていきます。
「パナい! これパナいよ店長ちゃん、マジパナい!」
 まずクローコさんがですね、1個丸々口に突っ込んで、はふはふしながら感動を言葉にしてくれたんですけど

「うん、確かにこりゃうまい」
「おい、もう1個もらえないか」
「僕にもください!」
「あ、あたしにも!」

 クローコさんの声を皮切りにして、あっという間にコンビニおもてなし4号店の出店スペース前には黒山の人だかりが出来ました。

 ララコンベ温泉饅頭は、この調子ならうまくいきそうです、はい。

◇◇

 翌日、
 コンビニおもてなし4号店は開店しました。

 初日と言うことで、

 本店からはスアが、
 2号店からはシャルンエッセンスが店長直々に
 3号店からは小型木人形のワザンとチカランが

 それぞれ助っ人にきてくれています。

 スアは相変わらず超絶人見知りながらも、店の応接室からアナザーボディを駆使して店内の作業の補佐をしてくれています。
 シャルンエッセンスは、以前の『お~っほっほっほ』だった時代が嘘のように
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ」
「ありがとうございました」
 どんなに忙しくても、その全てを完璧な笑顔でこなしていました。

 あのシャルンエッセンスが、です……
 あぁ、なんといいますか、感無量です……はい。

 ワザンとチカランも、言葉は話せませんが、この日主にレジをこなしてくれていたシャルンエッセンスと、ツメバの横について、商品の袋詰め作業をテキパキこなしてくれていました。

 そして、クローコさんはというと
「はぁい、マジパナイ温泉饅頭の次がさ、チョーいい具合に出来上がったからさ、みんな買ってって、買ってって」
 と、出店スペースに入りっぱなしで温泉饅頭の実演販売をこなしています。
 で、その出店スペース前には、黒山の人だかりなわけで
「店長ちゃん、饅頭の残りが、ちょーやばいって!?」

 わ、わかった! すぐ次を作る!
 と、まぁ、僕は僕で温泉饅頭を作り続けていたわけです。

 結局この日は、開店から閉店までお客様が途切れることがありませんでした。

 そんなわけで、
 コンビニおもてなし4号店は、無事スタートすることが出来ました。

 
 閉店直後の店を見回していると、スアがスススと寄って来ました。
「……お疲れ様、ね」
 そう言ってニッコリ笑うスア。

 うん、この笑顔でなんか今日の疲れがふっとんだ気がします、はい。

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