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虫にも虫の その3 ~昆虫ゼリーの販売所

 ヤルメキス製の新製品となったゼリーですが、人相手の販売は大好評でして、連日昼には全種類完売している状態です。
 ヤルメキスの作るスイーツは今までも好評で売れ残ったことはないんですけど、だいたいは家でお昼のお茶会用のお茶菓子を買いに来てくれるオルモリーのおばちゃまが、予約取り置き分に加えて、売れ残りがあったら全部買っていってくれるからなんですけどね。
 まぁ、それでもオルモリーのおばちゃまが来店するころに、スイーツが売れ残っていること自体が相当希なんですけど。

 と、まぁ、人相手には好調な販売を続けているゼリーなのですが、昆虫族相手の販売が少し困っています。

 と、言うのが

 コンビニおもてなし本店の営業時間が夕方日暮れ頃までなんですが、昆虫族の多くの皆さんは夜行性のためコンビニおもてなしが閉店した後から活発に活動し始める方々が多いわけです。
 怪力を誇る甲虫人のツンツクさんや鍬形虫人のナガナガさんあたりに、試食を森に持ち帰ってもらって周知もしてもらっているんですけど……なんか効果は今ひとつでして……
「貴方達、試食を自分で食べちゃってるんじゃないでしょうね?」
 ブリリアンが、ツンツクさんとナガナガさんにそんな事を言っていますが……って、おいおい、お願いしている立場なんだからそんなことをいっちゃあ……

 あれ? 2匹ともなんでそっぽを向いて汗をかきまくっているんですか?

◇◇

 これを受けて、どうにか夜間販売出来る方法を、と考え始めたわけです。
 あ、試食作戦は中止しました、はい。
 なんかツンツクさんとナガナガさんが悲しそうな顔をしていますが、自業自得なので気にしません。

 まず検討したのが、ビアガーデンでの販売。
 コンビニおもてなし本店では店が閉まるのと同時にビアガーデンが開店します。
 なので、そこで販売したらどうかと思ったんですが、

昆虫人Iさんのお話
「人が多すぎて怖いの、虫と間違われそうになったの」
昆虫人Yさんのお話
「店員さんまで私のことを虫と間違ってたですって! ちょっとひどいですって!」

 と、まぁ、
 やはり色々問題が起きたわけです。

 蛍光灯技術を取り入れたスアルックの魔法灯を灯しているのでビアガーデンの会場である河原はかなり明るいんですけど、それでもやはり夜は夜です。
 普通の虫と、昆虫族を見分けるのはなかなか難しい上に、酔客満載の中に買いに来るのはなかなか難しいようです。

◇◇

 そんな感じで悩んでいますと、パラナミオが心配顔で寄って来ます。
「パパ、大丈夫ですか?」
 と……

 いかんいかん、娘に心配かけてちゃダメだなぁ
「ありがとう、大丈夫だよ」
 僕はそう言いながら笑うと、パラナミオの頭を撫でました。
 パラナミオは嬉しそうに笑っています。

 ホント、良い子だよなぁ、パラナミオってば。

 なんて思いながら、その顔を眺めていると

 ……まてよ

 僕の頭の中に、とあることが思い出されました。
「……そうか、パラナミオなら」
「はい?」
 僕の言葉に、パラナミオは怪訝そうな表情を浮かべながら僕を見返していました。

◇◇ 

 んで、
 その夜です。
 
 コンビニおもてなし本店の屋根の上に、1つの小さな看板が立ちました。
 そこには
「昆虫ゼリー売り場 あちら」
 と書かれていて、その上にスアルックの魔法灯が設置されています。
 スアルックの魔法灯は2つ設置されていて、1つは丸形で点滅しています。
 虫人の皆さんには、これを目印に寄って来てもらえれば、と思っているわけです。

 何しろ、この世界の魔法灯はすべてついたら尽きっぱなしですからね。
 スアの技術にはホント敬服します。
 ちなみに、スアがこの点滅魔法灯を作成するのに参考にしたのが

 クリスマスツリーの電灯

 でした。
「何、このカガク! すごいすごい!」
 と、まぁ、ピッコンピッコン明滅していくその灯りに、スアが興奮しきりだったのは言うまでもありません。
 どんだけ興奮していたかと言いますと。

 一晩で、この仕組みを理解し
 魔法灯にその仕組みを応用し
 そして一晩で……

「ちわ~、魔女魔法出版のダンダリンダで~っす」
 いつものように、スアが専用の呼び鈴を鳴らすと同時にやってきたダンダリンダ。
 そのダンダリンダに、スアは
「……はい、新刊の原稿」
 そう言って、ドサッと原稿を手渡していきます。
 
 その最初のページには
『ゴブリンでもわかる、明滅するカガクの光を魔法灯に応用する方法』

 ……えぇ、一晩で本を書き上げるくらいに……


 で、話を戻します。
 その看板の矢印の先には、僕達のプライベート空間である巨木の家があります。
 その一角に、明滅する魔法灯が設置されている小さな木の実の家が割と高い場所に設置されています。
 これで、巨木の家の近くをうろついているビアガーデンの酔客が邪魔になることもありません。

 んで、その実の家ですが
 出店のように、窓にあたる部分が大きくくりぬかれていて、そこから昆虫人さん達が自由に出入り出来るようになっています。
 部屋の奥に戸があってそこから巨木の家につながっているため、何かあればすぐに僕が駆けつけることが出来ます。

 で、そのこじんまりとした実の部屋の中には棚があり、その棚に昆虫ゼリーがズラッと並んでいます。

 実の部屋の入り口の所には、『コンビニおもてなし・昆虫ゼリー販売所』と、ちょっと小洒落た看板が設置されていまして、それを明滅しない魔法灯が照らしています。

 で、この看板も、エンテン亭同様に、工房のルアが作ってくれました。
「へへん、ど~よ、なかなかイカしてるだろ?」
 出来上がった看板を設置したとき、それに立ち会ってくれたルアはそう言って、満足そうに笑って居ました。
 さすがルア、公私ともに充実しているだけあって、さすがです
「ば、ぶぁか!? おま、何言ってやがんだよ! だから仕事は確かにタクラのおかげで超順調だけど、私は全然だっての、オデン6世なんてべ、別に気になんかしてねぇしだな」
「おや? 僕は別にオデン6世が、なんて一言も言ってませんけど?」
 え~、気持ちいいほど壮絶に自爆したルア姉さんが、可愛く顔を真っ赤にしていたわけですが

 そんときぶん殴られた頬は、スアがすぐに治療してくれたので完治しているはずなのですが……なんせ首が人間としてありえない角度にまで曲がっていただけあって、まだ少し違和感があるのですが……

 さて、そんな販売所ですが中には1人店員がいます。

 骨人間です。

 えぇ、パラナミオが頑張って作り出した骨人間が店番をしてくれています。
 パラナミオはですね、普通の可愛い女の子なんですが、実は可愛いサラマンダーの女の子なんですよね。
 えぇ、可愛いのに違いはありません。
 で、サラマンダーって、闇属性の召喚魔法を生まれつき使用出来るらしくて、パラナミオもようやく骨人間を一度に10体くらい召喚出来るほどになっています。
 ……初めてやったときって、骨が1本だけ出てきたんだよねぇ

 あ、このパラナミオが最初に召喚に成功した骨ですが、家の暗所にきっちり保存してありますが、何か?

 で、その魔法で骨人間を召喚してもらって、店番をお願いしているわけです。
 
 この骨人間ですが、話は出来ないものの、
 
 お客に挨拶
 お金の受け取りと商品の受け渡し
 こういった作業はなんなくこなしてくれています。

「これは何が入ってるゼリーなの?」
 そんな質問が来たとき用に、ゼリーの一覧表と、その混合物を絵入りで紹介しています。
 この絵も、パラナミオが頑張りました。……中にいくつか、「これ何?」な絵もあったため若干僕の修正も入っていますが。
 で、質問があったらこれを指さすよう指示しています。


 スアの使い魔にお手伝いをしてもらおうかと考えたこともあったんですけど、スアの使い魔達は、スアの使い魔の森から出ることを好みません。
 これは、スアの使い魔達の大半が希少な魔獣達であるため、多かれ少なかれ怖い目にあっているのも影響していると思われます……ですので、無理は言いませんでした。
 その代わりといいますか、スアの使い魔の森で絶賛生産中のスアビールの作成には皆我先にと参加してくださってるんですよね。ホントありがたいことです。
 ちなみに、すっかりハニワ馬になってしまったオネエユニコーンのヴィヴィランテスだけは、特に気にする様子もなく、スアビールや弁当なんかを毎日きっちり輸送してくれているんですよね。
 憎まれ口を叩きながらも、最近は鼻歌交じりでやってくるヴィヴィランテスと、あれこれ言い合うのが最近では僕も日課になりつつあるわけです、はい。

 で、話を戻しますが、

 この形式での販売を開始したところ、販売開始から数時間で骨人間が僕の部屋に駆け込んできました。
 ちょうどスアといい雰囲気になっていた時だったもんですから、2人して顔を真っ赤にしながら離れたんですが……
 で、
「どうしたんだい?」
 と、僕は骨人間に聞くと、骨人間は一生懸命手招きします。
 なので、僕はその後について実の部屋の販売所まで走っていって、びっくりです。

 棚にかなり並べていた昆虫ゼリーがすべてなくなっています。
 そして、店内には
「もうないのかい」
「せっかく買いに来たのにこまりんこですわ」
「お酒の~、お酒のをもっとちょうだい~」
 とまぁ、昆虫ゼリーをもっと売って欲しいという昆虫族の皆さんがすごくいたわけです。

 お話を聞いてみると、
 やはりあの明滅魔法灯の影響が大きかったようで
「なんだろう、あれ?」
 的に遊びに来てみて、この店にたどり着いたってお方が大多数。
 
 で、お試しで買ってみたら
「ん、美味しい!」
 となったようでして。

 んで、朝早起きするヤルメキスは、この時間はすでに深い眠りについていますので、僕が追加を作りました。
 あくまでも初日のサービスですっていうのを付け加えるのを忘れずに、と。

 んで、この日追加した量もメモしておいたので、明日からの生産量の目安にしようと思っています。

 で、骨人間に
「商品がなくなったら、このボタンを押して看板と店の電気を消して、入り口のシャッターを閉じてね」
 と、指示を追加した次第です。


 まぁ、試行錯誤しながらも、どうにか形になった昆虫ゼリーの販売所なわけですが

「ヤルちゃま、今日は新作スゥイーツはないざますか?」
 と、店には今日もオルモリーのおばちゃまがヤルメキスに抱きつきながら質問し
「ひょ、ひょえええええええええええええええええええ」
 店内には、ヤルメキスの悲鳴が響きわたっているわけです、はい。

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