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ララコンベの温泉 その1

 リバティの温泉宿を視察に行った翌日、
 コンビニおもてなし本店の営業を終えた夕刻に、僕はララコンベの商店街組合の事務所を尋ねました。

 スアの転移魔法で移動しているので、ほんの一瞬で移動出来ているんだけど、実際に馬車で移動したら数日かかる距離なんだとか……まぁ、ガタコンベの周辺の道路は石畳で舗装されてるけど、こんな田舎の辺境都市への連絡道路が石畳舗装されているのはむしろ希なんだとか。

 さて、そんな中、僕は、僕なりにまとめたララコンベの温泉宿の営業案を皆に話していきました。

 簡単にまとめた資料を配った上で、僕が提示したのは……いうなれば

『健康ランド型温泉宿』

 を作ろうと言う物です。

 はい、ここでざわつくララコンベの皆さん。
 まぁそうですよねぇ。温泉宿すら知らなかった人達にいきなり健康ランドとか言っても、そりゃピンとは来ませんよねぇ。


 とまぁ、大まかにあれこれ言っても多分さらによくわからなくなると思ったので、僕はみんなに、具体的に何をどうするのかの説明に入ります。

 僕が考えているのは、大まかに言えば
・お風呂の種類を増やす
・ファミリー向けの食堂を展開
・周辺都市との連絡道路の整備と定期馬車の開設
 この3つ

 まずお風呂の種類ですが
 リバティの温泉で実感したのが、お湯の成分とお風呂から見ることの出来る光景では太刀打ち出来ません。
 スアに分析してもらいましたけど、リバティの温泉には本当に多くの成分が含まれていましたから。

 なら、ララコンベは別の方向に特化しようということです。
 ララコンベの温泉には成分が微弱です。

 なので、
・薬湯湯
・ジャグジー
・打たせ湯
・サウナ
 これらを充実させようとの思惑です。

 薬湯に関しては、私のよく知っている人物にですね
『薬湯に使用出来る薬草とその使用方法』
 なる書籍を、魔女魔法出版から刊行しているというエキスパートがいますので、指導もばっちりです
 まぁ、スアなんですけどね。

 打たせ湯は配管工事で対応可能です。

 ジャグジーとサウナに関しては、すでにスアに相談済みで、魔石でなんとか出来るとのことです。
 もっとも、ジャグジーとサウナを、まず理解してもらうのがすごく大変でした。
「……なんで、そんな暑いとこに、入る、の? 死ぬの?」
 とまぁ、特にサウナに関しては特に苦労したわけです。
 とはいえ、サウナに関しては、スアのこの反応で思ってのですが、最初の頃は常に人を配置しておいて事故が起きないように配慮しておいた方がよさそうです。


 さて、次に食事です。
 
 まぁ、リバティの温泉宿で、完全に勝てないと思ったのがこの分野です。
 あの宿で出されている食事は、はっきりいってレベルが違います。
 僕なんかのような、調理師専門学校を出た程度の人間が太刀打ち出来るレベルではありません。

 しかもそれを、料理に関してはズブの素人ばかりのララコンベの皆さんにやってもらわなければいけないわけです。

 と、いうわけで、考え出しだしたのが

『カウドン丼』です

 あ、すいません、説明を端折ると、なんだそれ? ってなりますよね。
 まずこの『カウドン』ですが、ララコンベ近郊に生息している害獣です。
 ですが、僕がこの害獣を初めて見たときの印象ってのが、まさに「牛」だったんですよね。
 んで、イエロに1匹狩ってもらって試食してみたのですが……
 正直、結構臭みが強くて、そのまま焼いて食べるのには向いていません。やっぱ牛とは違うようです。
 ですが、いわゆる牛丼のようにですね、タレで煮込んでやれば、
「うむ! これはいけるでござる」
「酒に合うキ」
「とりあえずおかわり3杯ねぇ」
 と、酒飲み娘にして、結構食べ物にもうるさい神3のゴーサインも出たので行けそうです。

 調理場に専用の煮込み調理場を作成してもらう予定になっていますので、調理担当の皆さんにはしっかり練習してもらう予定です。
 まぁ、リバティの温泉宿の料理に比べればかなり簡単ですし、なんとかなるでしょう。
 
 で、これに合わせて、本店近郊でイエロ達が狩っている肉も回して、それらの串焼きも提供予定。
 合わせて、コンビニおもてなしで、1杯100円/元いた僕の世界基準円で販売している豚汁やけんちん汁といった汁物も同じ寸胴お好きにお注ぎください形式で販売予定ですが、ここには本店では提供していないコーンスープやミネストローネなんかも提供してみようかと検討中です

 これに加えて準備しようとしているのが

『カウドン乳』です。

 カウドンについてはさっき簡単に説明したのですが、カウドンの雌は乳を出します。
 牛と違って、産前産後とか関係なく、雌はある程度の年齢を超えると乳を出す生き物のようです。
 んで、これをためしに飲んでみたら、これは牛乳よりもかなり濃厚で美味しい味でした。
 ちょっと成分を調整しないとお腹が弱い人だとてきめんきそうな感じだったんですが……えぇ、トイレに一直線だった僕が言うのですから間違いありません……あ、お通じよくなるかも……
 で、この成分調整ですが、スアが、カウドン乳に入れるだけで成分を調整してくれる魔石を調合してくれたので、カウドン乳を瓶詰めする際には、必ずその魔石を経由してから行うように作業工程を組む予定です。
 幸い、害獣のカウドンですが、雌は比較的おとなしいため、僕の元いた世界のように、牛舎みたいな施設をつくってそこで飼育しながら乳を回収出来そうです。
 ちなみに、元の世界で「牛の乳にセットすると、自動で乳を搾ってくれる機械」ってのがあったと思ったので、それをうろ覚えでスアに説明したところ

 あっさり再現してくれたので、導入予定です。
 これで、乳搾りの人員を劇的に削減出来そうです。


 ……いえね……最近、あまりになんでも出来るもんだからってんで感覚が麻痺してるんですけど
 スアって、ホントすごいな、と……まさに僕にとってのスアえもんなわけです、はい。

 ただ、これをスアに伝えると
「……私は、その発想が出来なかった、よ。……その発想を出来るあなた、素敵」
 と、まぁ、そんなスアえもんの中での評価が以上に高いボクなわけです、はい……
 なんかくすぐったいですけど、今後も2人で頑張って行けたらなと思うわけです。


 さて、そんなわけで、このカウドン乳を

・カウドン乳
・コーヒーカウドン乳
・フルーツカウドン乳

 と、3種類を作成しました。
 コーヒーは、コーヒー豆をすでにプラントで造成していますので入手は簡単です。
 フルーツカウドン乳用のオレンジも、オレンジもどきっぽい果物を市場で発見しているので、これをプラントで増産しつつ、その種をララコンベに植えて将来的にはオレンジもどきも自家製で賄えるように、と思っていて、それようの作業もさっそく始めていますが、収穫出来るようになるまでは市場にお願いすることにしました。


 さて、最後に考えている「周辺都市との連絡道路の整備と定期馬車の開設」ですが、
 実はこれが一番面倒くさくて大変なわけです。

 まず、連絡道路がしっかり整備されていなければ客は来てくれません。
 その交通手段もなければなおのことです。

 悪いことに、このララコンベは魔石の採掘で繁栄した街のため、こういった道路の整備などの公共投資をほぼ行っていません。

 なので、まさに陸の孤島なわけです。

 せめて石畳の街道でも出来ないことには……と悩んでいたのですが、
「なんじゃそんなことかの? ワシらにまかせんかい婿殿」
 そう言ってくれたのが、スアの使い魔代表格のタルトス爺だったわけです。
 もうね、
 スアの使い魔のうち、酒造りに従事していない者達がほぼ総出でこの作業を行ってくれたのですが、


 2日で、完成しました。


 ちなみに
 この作業には、パラナミオも貢献しました。
 この作業には、パラナミオも貢献しました。

 大事なことなので2回言いましたよ。

 いえね
 サラマンダーの特性として、闇召喚を行えるパラナミオですが
 最近では練習の成果もあり、1日に10体くらいの骨人間を召喚出来るようになっていたのですが、この骨人間達が夜の作業を手伝ってくれたおかげで、作業がすごくはかどったそうなんです。
 骨人間達は、朝日を浴びたらただの骨になってしまうのですが、みんな一仕事やり終えたいい笑顔で骨に戻っていってました……まったく、お前らってやつぁ……
 
 で、この残った骨なのですが、スア曰く
「……良質な魔石の材料になる、よ」
 とのことで、回収された骨は即座にスアの元へ回され、様々な魔石に生まれ変わっています。

 なんというか、良いことづくめなわけです。
 それをパラナミオに伝えると
「パパの役にたてて、パラナミオすごくうれしいです」
 って号泣で……
 思わず僕ももらい泣きしながら、パラナミオを抱きしめて、
 それをさらにスアがひっしと抱きしめて、
 んで、それをヤルメキスが
 イエロが
 セーテンが
 ルアが……

 とまぁ、我が家恒例のだっこの輪が展開されたわけです、はい。

 あとは、馬車の定期便の運行とその警備が必要になりますが
「馬車ならだせます。魔石を運んでた馬車が残ってますので」
 と、ララコンベで対応可能とのことで
 警備は、ガタコンベの自警団……いわゆる元セーテン配下の猿人盗賊団の面々が担うことになりました。

 最近は、イエロ達が周辺の害獣を狩りまくっているおかげで、自警団の仕事が減っていたこともあり渡りに船だったわけです。


 とまぁ、そんな感じの説明を皆に一通りしたところ

「タクラさん、こりゃいけますね!」
 と、どこかで聞いたような台詞で、ペレペが笑顔を浮かべました。

 と、いうわけで、この僕の案をもとに、さっそくララコンベの温泉開始に向けての最終作業がスタートしていきました。

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