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グルグル回った挙げ句の果てに その2

「朝早くから申し訳ないですです」
 組合のエレエに連れられて、僕はまだ人もまばらな街道を商店街組合の建物へと急ぎます。


 あ、ここで少し
 僕の住んでいるここ、辺境都市ガタコンベですが、本来街を統括するはずの領主がいません。
 何年か前に亡くなった後、後任が派遣されていないらしく、そのままの状態です。

 ま、王都の皆さんは、こんな超ド田舎の領主職を下手に受領したりした日には、2度と中央に戻れないかもと言った気持ちが強いらしく、話があってもまず引き受けないんだそうです……っていいますか、実際にド田舎の辺境都市の領主として赴任していって、当時青年だったのが、今では壮年にさしかかってるっていうのに、一向に中央からの引き戻しの命令が下ってこないなんていう洒落にならない実例が実際に散見しているらしいし、そりゃあねぇ……

 そのため、役場も閉鎖されているため、この街の業務はすべてエレエが責任者をしている商店街組合が代行しています。
 いっそエレエが領主になればいいのに、と、本気で思うこともあるんですけど、この国というか、世界って、人種至上主義が強いらしく、蟻人のエレエじゃあ、領主申請しても100%はじかれるんだとか……
 なんとも世知辛いお話なわけです、はい。


 さて、

 そんなエレエに、朝早くから組合の事務所へ連れて行かれると、そこには見慣れない蟻人さんがいました。

「はじめまして。ララコンベの商店街組合の組合長のペレペと申します」
 そう言って、その蟻人さんは僕にペコリと頭をさげました。
 ……っていうか、すごくお疲れの様子が見てるだけで伝わってきます。


ララコンベといえば
 本当は先日の夏祭りを主催するはずだった都市なわけですが、街がえらいことになってしまったためにその開催権を放棄したりして、とにかく大変なわけですから……



 ……しかし、なんでまたこんなに早くに、ララコンベの代表のペレペがやってきて、しかも僕がここに呼ばれたんだ?

 そう思っていると、ペレペさん
 僕の顔をしばし見つめると

「タクラさん、お願いします。どうかララコンベを山賊共からお救いください」
 って言って、その場に土下座……って……

 は?

 ペレペさん、今、なんていいました?

「ですから、タクラさんに、山賊共を追い払って頂きたいと……」

 は?

 山賊? 追い払う? ちょっとまって……な、なんで僕にそんな話が来るんですかね?
 なんかもう、ちっとも思い当たる節がない僕は、その場で体中にいや~な汗を浮かべていたわけなんですが、そんな僕にペレペは言いました。

「タクラさんは、あの暗黒大魔道士を倒されたとお聞きしています……そのようなお方にお願いすれば間違いないと思い、こうして……」

 ちょっとまって
 激しくちょっと待って欲しい

 た、確かに、僕は暗黒大魔道士と対峙した。
 しましたよ

 でもね、僕がしたのは『時間稼ぎ』です。
 スアが目を覚ますまでの時間を必死にかせいだだけであってですね、

……と、そう言いかけて、僕は思い出した。


~回想~
『……私、目立ちたくない、の。……だから、暗黒大魔道士は、あなたが退治したことに、ね』


 ……やばい
 なんか、スアがボソッと変な事を言っていたような気がしないでもないような気が……


 なんか、その場しのぎをした結果が、回り回って戻ってきてるらしいのに気づき、僕は、もう嫌な汗を背中に貯めまくりな状態なわけなんですが……

 ま、まぁ、とにかく
 話を聞かないことにはどうにもならない、と、僕はペレペに椅子に座り直してもらい、話を聞きました。


 んで
 ペレペの話によると
「ララコンベの魔石鉱脈が尽きましてですね……住人が一気に移住し始めたのと同時期にですね、山賊達がララコンベを襲うようになったのです……そのせいで、ただでさえ人がいなくなり続けていたララコンベから、さらに人が逃げ出していくようになっていまして……」

 思うに、その山賊達は人が居なくなり始めたララコンベをアジトにでもしようとしてるのかも

「そうかもしれません……ララコンベは、谷の合間にあるため、入り口と出口を固めるだけで守ることが出来ますし、見通しがいいので、周囲を警戒しやすいですから」

 確かに、
 岩肌の洞窟みたいなとこを根城にするよりはよほど良さそうだな……
 元住人が残していってる家屋もあるんだろうし……

「……それで、今はその守りやすい地形を利用して守っているのですが……相手には魔法使いが味方にいるらしく、非常に苦戦をしいられておりまして……そこで、暗黒大魔道士を退治なさった……」
「え~、その暗黒大魔道士云々は置いておくとして、これは近隣の駐屯地には話をされました?」

 この一体は、ゴルアが隊長だし、連絡すれば動いてくれると思うんだけど……

「今は、街を守るのに余剰に人をさく余裕がありませんので、ここでタクラ様の了承を取り付けたら、この足で駐屯地に向かう予定でございまして」

……うん、ペレペさん……それ、どう考えても順番逆だと思うんだけど
 僕は苦笑しながらも、確かに救援を出せるなら、と思い思案します。

 まぁ、武力でいえば、イエロ・セーテン・ルアの3人に、今は村の自警団をやってる猿人達にも協力してもらえば、それなりに数になるだろう。
 スアにも手伝ってもらえばあれだけど……どうかなぁ……妊娠中のスアを担ぎ出すのは正直あまり気が乗らないわけで……
 まぁ、スアに頼むかどうかは一旦おいておいて、僕はまずゴルアに連絡をとるよう、エレエを通して、自警団の猿人に走って貰いました。

 猿人は森の中なら荷馬車よりも速いですから、まぁ安心でしょう。

「とにかく、僕は一度家に戻って準備をしてきますね」
 そう言うと、僕は駆け足で家へと戻ります。

 すると、ちょうどビアガーデンの片付けを終えたばかりの、イエロ・セーテン・ルアの姿が
「3人とも、これから休むときにごめん、ちょっといいかな?」
 え~、夜通し飲んだくれているのが確定している3人を引き留めるのは心苦しくもあるんですが……ってか、すでにルアが店の一員同然になってるよなぁ……向かいの工房の店長のはずなのに……

「どうしたでござる、主殿?」
「ダーリンのためなら頑張るキ」
「さすがに、あと10本くらいしか飲めそうにないぞ?」
 などと言いながら、3人は僕について巨木の家に移動。

 すると
 いつもなら、まだすや~っと寝ているはずのスアが、ベッドの上に起きだしていました。
 どうやらパラナミオが「パパが、連れて行かれました!」と、スアに伝えたらしく、スアさん、眠たい目を懸命にこじ開けて、起き上がったようです。

 んで、事情を説明使用とすると、スア
「……大丈夫、だいたいわかってる」
 そう言うんですが、よく見ると、スアの眼前にはなんか映像みたいなのが映し出されていて、そこに今は椅子に座っているペレペの姿が……

 あぁ、遠隔操作かなんかで、僕が聞いてた話を一緒に聞いてくれてたんだ。

「なら話が早いや、スアあのさ……」
 と、まぁ、スアにですね、僕、
 敵の情報とかをですね、魔法で探ってもらってですね、その上で、武闘派イエロ・セーテン・ルアの3人と作戦を相談しようと思ったわけです。

 すると、スア
 おもむろに、イエロ・セーテン・ルアに視線を向けると、
「……武器」
 と、一言

 これを受けてイエロは
「肌身離しておりませんぞ」
 と、腰の刀を指さし
 
 セーテンは
「私はコレ、キ」
 と、自らの爪を鋭利に伸ばし

 ルアは、
「あ? こんなんでいいかな?」
 と、長剣を腰の魔法袋から取り出します

 で
 それを確認した、スア
「……じゃ、構えて」
 そう言いながら、何やら詠唱を始めます。

 ……って、スア、何やってんだ?
 困惑する僕ですが、それはイエロ達も同じでして、3人とも顔を見合わせながら、とりあえず武器を構えていきます。

 すると
 スアの詠唱に合わせて、3人の目の前にいきなり魔法陣が展開しました。

「な、なんだぁ!?」
 びっくりした声をあげる僕の目の前には、
 魔法陣の向こう……なんか、洞窟みたいなところで眠っている山賊っぽい集団の姿が……


 って……あの、スアさん……まさか


 唖然とする僕の前で、スア、3人に向かい
「……ララコンベを襲ってる山賊、よ。全員捕まえて、ね」
 と

 ち、ちょっと待って、スア
 相手はどう見ても3,40人はいるよ……いくら大半が寝ているとはいっても、イエロ達3人だけじゃあ……

「スア殿、まかされたでござる!」
「山賊共、このセーテン様が退治するキ」
「おらおら、おとなしくお縄につけぇ!」

 って、なんでそんなやる気満々でつっこんでるのかしら、貴方達!?
 せ、せめて猿人達の援軍を待ってですね

 と、思っていたのが、11分と少々前でしたか……

 スアの巨木の家に前には、
 綺麗に捕縛された、ララコンベを襲っていた山賊達、騒然38名が、荒縄でグルグル巻きにされた状態で転がっています……

「……あの程度の輩なら、あの3人で十分、よ」
 そう言うと、スアは眠たそうに大きなあくびをしていったわけで……


 僕は
「……だっこ」
 と、甘えてきたスアを抱き寄せながら、とりあえずゴルア達の到着を待とうかと……あ、いや、ペレペとエレエに連絡が先か? それより警護で猿人を……
 と、まぁ、とにかく困惑しきりだったわけです、はい……

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