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店長と魔法使いの奥さまとサラマンダーの娘の休日 その1

 そして迎えた店の定休日。
 僕は、スアと、パラナミオの3人でいつもの巨木の家にいます。


 先日のバトコンベでの出店の手伝いをよく頑張ってくれたパラナミオに
「ご褒美として好きな場所へ連れて行ってあげるよ」
 そう告げたところ

 悩みに悩みに悩みぬいた挙げ句、

「パパとママと一緒に、お家でのんびりしたいです!」
 と、パラナミオ。

 うん?
 それじゃあご褒美にならないじゃないか。
 遠慮しなくてもいいんだよ?
 行きたい場所がわからなかったら「こんなことが出来るところに行きたい」でもいいんだよ?

 ほら、向こうでママが、『パルマ大陸旅行記 ~子供向け挿絵多数版』を準備してくれているぞ
 ちなみに、ママが書いた本だぞ
 あれをみんなで一緒に見ながら、ゆっくり考えてみようか?

 そう僕が言うと、パラナミオは、にっこり笑って
「夢だったんです。お休みの日に、パパとママと一緒に家でのんびりするのが」

 うん
 いいご褒美じゃないか!
 遠慮なくのんびりしていいんだよ!
 家でやりたいことがあったら「こんなことがやりたい」って言えばいいからね

 ほら、向こうでママが釣り竿やビーチボールを準備してくれているぞ
 ちなみに、店の不良在庫だぞ
 みんなで一緒に、ゆっくりしようか!


 そんな経緯を経て、店の定休日である本日。
 僕は、スアと、パラナミオの3人でいつもの巨木の家にいます。

 朝、いつもより寝坊気味に目を覚ますと
 ベッドの中では、まだスアもパラナミオも寝息を立てていました。

 夜、パラナミオに妹か弟を作ってあげるために夫婦2人で頑張る際は、
 別室に移動するか、部屋の脇にあるソファでいたす僕とスアは
 頑張った後は、ベッドのスアを左右からはさむ形で寝ています。

 僕の横にはパラナミオの寝顔があって、
 その向こうにはスアの寝顔があります。

 パラナミオは、寝ぼけながらも僕の腕に抱きついて寝ており
 スアは、そんなパラナミオを背中から抱きしめています。

 なんというか、本当に微笑ましい光景です。

 例え、
 パラナミオにきつく抱きつかれすぎているために
 腕の感覚がなくなっていたとしても

 そうこうしていると、まずパラナミオが目を覚ましました。
 パラナミオは、まだ寝ぼけた感じのまま、その顔を僕に向け
「……パパ?」
 そう言いながら、僕の顔に抱きついてきました。

 しばらく僕の顔に、ぎゅって抱きつくパラナミオ。
「……パパはお仕事で、いつも朝早いじゃないですか……
 だから、朝起きたとき、いつもパパはいないじゃないですか……
 だから、パラナミオは……実は毎朝怖いんですよ……
 実は、パパがいたというのは、パラナミオの思い込みだったんじゃないかって……」

 まかせろパラナミオ
 パパは、ここだ
 お前のパパはここにいるぞ!

 僕は、大仰にそう言いながらパラナミオを抱きしめ返した。
 パラナミオは、そんな僕にさらに抱きついてきて
「パパ……パパ……」
 そう繰り返しながら、エヘヘと笑ってくれています。

 で

 そうこうしていると、
 朝にめっちゃ弱いスアも起き出して来たんだけど、

「旦那様に、女が抱きついてる……」
 って、
 スア! 
 しっかり目を覚ませ!
 よく見ろ!
 これ、パラナミオ! ユアドウター!

 だから、その頭上に展開させてる禍々しい魔法陣、とっとと消しなさい!


◇◇

 でもまぁ、
 スアがパラナミオの姿を後ろから見て、別人と勘違いしたのも、ある意味では仕方ないとも言えた。

 と、いうのがですね
 我が家にやってきてすぐの頃のパラナミオは、幼女という言葉以外あてはまらない女の子だったのですが
 今のパラナミオは
 我が家に来た時よりも、背がのび、
 体つきも、ぐっと女の子っぽくなってきており、いわゆる「少女」にどんどん近づいている。

 スアの話だと
 この世界の、亜人は、幼少期の成長が非常に早いんだとか。
 産まれて1年の間に第一次成長期がやってきて、一気に少女の姿にまで成長
 その後、15才から20才の間くらいの頃に第二次成長期がおとずれ
 ここで、大人の姿になるのだとか。

 つまり、今のパラナミオは第一次成長期のまっただ中なんだろう。

 まぁ、僕としては
 元気に成長してくれるのが一番、と、思いながらも
 この姿のパラナミオを、もうすぐ見られなくなるのか、とか考えちゃうと、なんか寂しくも思ったりして……

◇◇

「じゃ、撮るよ~」
 僕は、机上にセットしたデジカメのタイマーボタンをセットすると
 そのデジカメの先
 部屋の中、窓をバックに椅子に座ってポーズを取っているパラナミオと
 その横に立っているスアへ向かって駆け寄った。

 で

 僕が、2人の後方に立ったところで、タイマー時間になったらしく
 デジカメが自動でフラッシュ点灯し撮影しました。


 元いた世界から持って来ていた品物の1つであるデジタルカメラです。
 店の屋上に太陽光自家発電システムを導入していたおかげで、この世界でも電気を必要とする家電が全て使えており、このデジカメもその恩恵にあずかっているわけです。

 で

 デジカメがフラッシュを発した後、
 スアは僕の顔を見上げたかと思うと
「……あのカガク……みたい、の」
 そう言いながら目を輝かせてきたわけで。

 あぁ、そうか
 そりゃ、この世界にはそんなデジカメみたいなもん、あるわけないもんなぁ

 で、スア
 僕の説明を受けながら、デジカメをあれこれ触りまくってまして
 で、パラナミオ
 そんなスアと僕の横で
「うわぁ、さっきのパラナミオが写っています!」
 と、再生モードで、機体の後部に映し出されている、先ほど撮影したばかりの画像をのぞき込みながら、その顔に満面の笑みを浮かべていた。

 そんな中、スアは
「……水晶画像撮影機に、似てる、よ」
 ん? 水晶画像撮影機?
 僕が困惑していると、スアは腰の魔法袋の中からおもむろに何か取りだして……って、何その異常にでかい代物って……

 スアが取り出したそれは
 大きな水晶玉の形をしているんだけど
 スアによると、この水晶玉に魔力を注ぎ込むことによって、水晶の前方にある光景を、この水晶に記憶させることが出来るんだとか。
 持って見ると、すっごく重いし……こんなの、お出かけに持って行こうとかする人、いるのか?
 なんて思っていると
「……貴族が……従者に持たせるとか……くらいだ、よ」
 と、スア
 あぁ、まぁ確かにそうなるな。

 そんなわけで
 この世界の画像撮影機である水晶画像撮影機のように

 重い・でかい・魔力の無いヤツお断り

 ではなく

 軽い・小さい・誰でもお使いいただけます

 な、デジカメを前にして
 スアはその目をランランと輝かせながら、デジカメを興味深そうに何度も何度も見回していきます。
 しかも
 紙を取り出して、何やらかき込みまでし始めているし

 なんというか、研究熱心なのはよく知ってるけどさ
 今日はパラナミオが主役の休日なんだし……そう僕は言うと、

 スア
 ハッと我に返り、
 なんか、その手をプルプルさせながら、デジカメを僕に返却していきます。

 今夜からなら、好きに調べていいよって伝えると、スア、その顔に満面の笑顔を浮かべたんだけど

 と、言うわけだから、おとなしくその手を離してくれませんかね?
 なんか、スア
 デジカメを、僕に差し出してはいるんだけど、両手でしっかと掴んだままなんだよね

 で、スア
「……あ、頭ではわかってるの、よ……か、体が言うことをきかない、の……」
 
 うん、
 いつもながら難儀な性格というか、体をしてるなぁ、スアってば

 で
 その後、しっかり半刻使って押し問答した挙げ句に、デジカメを返してもらった僕は、その足でコンビニおもてなしの厨房へ移動。
 そこで、朝ご飯を作りはじめます。

 朝ご飯は、僕達家族の物だけじゃなく
 店の2階の居住区に住んでいる、イエロやヤルメキス、それに猿人4人娘分に加えて

「おはようキ! 今日もいい匂いキね!」
 と、調理の匂いをかぎつけて顔を出して来た猿人セーテンの分まで作成します。
 セーテンは、店の裏手に小屋をたててそこで暮らしてるんだけど
 近いこともあり、朝ご飯や、夕飯などを作り始めると、すぐ顔を出してくるんだよな。

 まぁ、もう慣れたっていうか
 今では、セーテンも家族の1人って思えてるわけで

「さすがダーリン! その優しさ、プライスレスキ!」
 その言葉を聞いたセーテンは、その場でジャンプし、僕に向かってダイブしてきた。

 そして
「ウザい、この猿」
 その場に転移魔法で現れたスアに吹っ飛ばされていきセーテン……

「奥方、今日のはちと勢いが良すぎキ。
 危うく本当に死ぬとこだったキ」
 窓の向こうに吹っ飛ばされていたセーテンが、腰のあたりをさすりながら戻ってきたんだけど
「……死ねばよかったのに」
 ボソッと呟くスア。

 なんか、その笑顔と同時に
 その背に禍々しい魔法陣が展開してたような、してなかったような……

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