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土地とお屋敷と木人形と蜥蜴もどき その3

 お腹がいっぱいになったパラナミオが眠ってしまったので、ソファに寝かしつけておいて
 僕とスアは、エレの案内で土地内を見て回ることにした。

 土地の大半はすんごい鋭角に切り立ったはげ山。
 エレ曰く
「ブラマウロ休火山といいます」
 だそうな。

 その周囲を、皆でぐるっと一周してみたのだが、

 ところどころ硫黄臭い……これって温泉出てるんじゃないの?
「温泉? ですか?」
 そう言うと、エレは怪訝な顔をした。

 あれ?
 この世界で温泉って一般的じゃないのかな?

 スアに話を振ってみると
「知識として……は……知ってる……けど……」
 そう言いながら、フイッと横を向いた。

……そうだった
……スアはとにかくお風呂嫌いなんだ

 以前は
「そんな……時間……が……あったら……研究……しま……す……」
 って言って、頑なにお風呂拒否ってたんだよな。
 
 あ、でも不衛生ってわけじゃない。
 魔法で体を洗浄してたから、常に体は清潔だったわけです。

 そんなスアも
 僕といたした後、一緒に入るお風呂は気に入っているようで
 ……っと、黙秘黙秘、と

 スアにお願いして、どっかから熱湯か、もしくわ水が地下から湧き出してないか確認してもらったところ、屋敷のすぐ裏手にそれっぽい流れがあるという。

 早速エレに案内してもらって行ってみると
 屋敷の裏手にちょっと大きな水たまりみたいなのが出来ていた。
 この水たまりは、ある程度たまると、脇にある岩場の隙間へ流れ出している。
 そのおかげで、この程度の水たまりで治まっていたんだろう。

 手をつけてみると、じんわりあったかいって感じ
 ん~、とりあえず、いけるんじゃないかな?
「ねぇ、エレ。この屋敷のお風呂ってどうなっているの?」
「は?」
「え?、いや……お風呂なんだけど……」
 そう聞く僕に、エレは首をかしげ、腕組みしながら考え込んだ……え?、まさか……
「……このお屋敷に、そのような設備はなかったはずです」
 少考しばし、エレはそう応えた。

……まじか

 じゃあ水はどうしてたんだ?
「飲み水が、雨を貯めて浄化しています。浄化プラントはまだ生きていますので……」
「この水はなんで使わなかったの?」
「はい、妙な成分が含まれているので、使用を控えていました」
「妙な成分?」
「私にもその内容まではわからないのですが、一般的な飲料水に含まれない成分だったのと、浄化プラントで浄化しても、その成分が残ったものですから」
 ふむ
 とりあえず状況はわかったけど、その成分って何なんだろう?

 スアに調べてもらったところ
「イ、オウ?」
 てことで……なんだ、温泉の成分じゃないか。

 一応、これを飲料水や、風呂の水として使用かのうかどうかスアに確認してもらったところ
「問題……ない……」
 とのことだったので……まぁ、このわき水をうまく使えば、お風呂と飲み水もなんとかなるんじゃないかな?

 問題は、この土地内に、ほとんど緑がないことか……

 おそらく火山の影響で土質が変化してるとか、そんなとこなんだろうと予想はつく。
 ただ
 予想がついたからといって、何をどうしたらいいかなんてわかるはずがない。

 すいませんね、なんせ転移してるのにチート能力皆無なもんですから……

 せめて畑でも作れれば的に思ってたんだけど、
 それも難しいとなると……この土地って、いったい何の利用価値があるんだ? おい

 とりあえず、スアが持って来ていたプラントの苗木をいくつか植えてみた。
 これがうまく根付けば、ここでいろいろな物を生成生成することが出来るようになるからって思惑なんだけど……とはいえ、ここ、来るだけで一苦労だしなぁ。

 一通り見て回った僕たちは、一度屋敷に戻った。

 ここで、

guu

って、スアのお腹が……
 僕が視線を向けると、スアが真っ赤な顔をしてお腹を押さえていた。

 小食のスアだけど、やっぱりお昼抜きはきついようで、
 ……かくいう、僕も結構腹ぺこ状態です。

 でも
 持って来ていたお弁当は、パラナミオにあげてしまっているので、すでに無く……

 一応、エレにも何か食べ物がないか聞いて見たんだけど。

 腕組みしたまま、全く何も言わなくなってしまい……
 そりゃそうだよなぁ……前の所有者が放置して、相当な期間たってるんだし……

 仕方なく僕とスアは、ようやく目を覚ましたパラナミオを連れて一度コンビニおもてなしへ戻る事にしました。

 エレにも、一緒に来るよう言ったんだけど
「私は、この屋敷の管理をするための木人形ですので……」
 って言って、頑なに同行を拒否してしまう。

 仕方ないので、エレには
 裏の温泉を利用した入浴施設が何か作れないかというのと、プラントの苗木の世話をお願いした。

 とりあえず、月一くらいで様子を見にこないとなぁ

 で
 パラナミオをおんぶした僕は、道なき道を歩き続け
 やっとの思いでおもてなし1号のところまで戻っていきました。
 この時点ですでに日が暮れかけてて、ガタコンベの街に着いたときには、あやうく門が閉まる寸前で……いや、ほんとやばかった。


 ガタコンベは、超僻地にあるため、その周囲の森には夜行性の肉食獣なんかが結構うようよしている。
 そのため、日暮れを目安に、城門が閉鎖され、翌朝まで街には出入りできなくなるわけです。
 ……もっとも、イエロが積極的にこのあたりの獣を狩りまくってくれているおかげで、街の周辺はかなり安全になってきてるらしんだけどね。


 コンビニおもてなしに戻った僕らを、早速イエロが出迎えてくれた。
「その子供はどうされたんです?」
 そう、怪訝そうな顔をするイエロに、屋敷であったことを説明し、その時保護した旨を伝えると
「なんと、そのような大立ち回りがあったのですか……これは同行すべきでござった」
 と、まぁ、すっごく悔しがっていました……

 こっちは、2度とゴメンだけどね。

 最初は、イエロや猿人4人娘らに警戒心丸出し状態で、僕の後ろに隠れまくっていたパラナミオだったんだけど、
「さぁさぁ、甘い焼き菓子でもいかがでおじゃりますかな?」
 って、ヤルメキスが持って来たカップケーキを目にしたパラナミオは、その目を輝かせながら手を伸ばしていった。

 うん、やっぱどこの世界でも、子供は甘い物好きだよね。

 満面の笑みを浮かべながら、カップケーキをバクバク食べていくパラナミオ。
 そんな姿を笑顔で見つめていたら

 guu
 guu

 とまぁ、僕とスアのお腹が同時になった。

 あぁ、そういえば、帰るのに必死で忘れてたけど
 僕もスアも、今日はお昼抜きだったから、もうお腹ぺっこぺこだった。

 さすがに色々ありすぎて
 今日は料理をする気力が沸かなかった僕なんだけど
 猿人4人娘のみんなが、あれこれ作ってくれたので、それでみんなで晩ご飯に。

「ご主人様、これすごくおいひいれふ、すごくおいひいれふ」
 って、パラナミオは、晩ご飯でも嬉しそうに食べていく。

 君、さっきカップケーキも10個くらい食べてたよね?

 思わず苦笑してしまう僕だけど
 
 嬉しそうに、笑顔でご飯を食べてるパラナミオの姿は、なんか微笑ましいというか、うれしくなると言いますか……

 とりあえず、パラナミオの世話をしっかりしてあげないとな、って思った訳です。

◇◇

 翌日から、コンビニおもてなしは通常営業です。

 いつものように弁当やパンを作っては店に並べて販売。
 スアの薬
 ヤルメキスのスイーツ
 ルアの鉄製品

 と、

 一時の売る物がない状態をどうにか脱し、
 店先には常に商品が並んでいる状態を維持出来るようになっています。

 そんな店の中を
 パラナミオは、目を丸くして見回してました。
「はわわぁ!? こんなに物がいっぱいあるのって、はじめてみましたぁ」
 って。

 なんでも、
 あの盗賊達の元にいた頃のパラナミオは
 だいたい洞窟の前に干し草を寝床用に与えられていただけだったそうで……

 そのためか
 その日の夜、ベッドで一緒に寝ようとすると
「そんな、恐れ多いです。私は床の隅っこで十分です」
 って、頑なに拒否するパラナミオ。

 でもまぁ、この日はスアと2人がかりで、無理矢理一緒に眠ってもらったのですが
 最初こそ、居心地悪そうというか、申し訳なさそうにしていたパラナミオも、
 いつしか、その顔に満面の笑みを浮かべながら、寝息を立て始めました。
 その手は、僕とスアの手をしっかりと握っていたわけで……

 気のせいか、
 パラナミオに接しているときのスアは、いつもの対人恐怖症が出ていない気がする。

 これをきっかけに、スアのこれも治っていってくれたらな、なんて思っていると

 パラナミオを間に挟んで向こうにいるスアが、僕の顔を見つめながら
「2人の……子供……みたい……だね」
 そう言いながら、目を閉じた。
 なんか、そう言われると、そんな気がしないでもない……
 僕は、目を閉じたスアに口づけしながら、そんなことを思ったりしたわけです。

 ここから、翌朝までのことは黙秘します、あしからず

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