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暗黒大魔道士騒動 その4

 暗黒大魔道士騒動は、こうして終わりを告げた。

 で

 その暗黒大魔道士さんですが
 スアの魔法によって散々にピーがピーして、ぴぴぴぴぴーにされた挙げ句、

 今、黒い招き状態になって、封印されています。

 スアによると
「やたら……しぶと……い」
 らしく、完全にその存在を消し去ることが出来なかったそうだ。

 で、まぁ、
 せっかく招き猫の姿にして封印してもらったので、このダマリナッセ招き猫は

 コンビニおもてなしのカウンターに乗っかってます。
 子供達が
「でっかい猫さんだぁ!」
 って喜んでくれるので、まぁよかったかなと思っています……今のとこ。


 組合主導で編成された周辺索敵部隊が、今回の事件の原因と、被害状況を調べるために、ガタコンベ周辺をくまなく散策していった。

 その結果、

 ダマリナッセを封印していた水晶が駐屯地内で発見されたのだという。
 生き残っていた駐屯地の兵を、詰問して聞き出したところ、駐屯地に残り好き勝手やっていた面々が、近くの森の奥でこの水晶を見つけ強引に持ち去ったらしい。

 え~、当然ですけど、駐屯地に勤務している兵は、こんなことをしてはいけません。

 辺境の駐屯地にはろくな人材が配置されないってゴルア達がいっていたけど、ホント、それを実感したわけです……そんなことしてる暇があったら、警邏しとけよなぁ……

 で

 数日後
 王都からの早馬がガタコンベにやってきた。

 対応した組合の蟻人エレエの話によると、なんでもあの辺境駐屯地が正式に閉鎖されることになったとのことだった。
 え? じゃあ、代わりはどうなるんだ?
 あんなのでも、一応はこのあたりの平和を守ってはくれてたんだし……多分。
 あんなのでも、無くなると、何か困るんじゃないかっておもわないわけではないような気がしないでもないかなぁ……ってまぁ、複雑にあれこれ思っていると、

 ガタコンベに出向しているメンバーを中心に、再編することになったとか。

……え?

 ガタコンベに出向しているメンバーって、ゴルアとメルア達じゃないのか?
 そう思いながら、そのあたりを確認していくと、やっぱり僕の嫌な予感は的中していたらしい。
 なんでも
 今回、ガタコンベで暗黒大魔道士を仕留めたっていうのが決め手になったとか……

 ちなみに、ゴルアがこの駐屯地の隊長に命じられる事になるそうなのだが
 これは異例の大抜擢なのだそうだ。
 ゴルアの場合だと、まず女生というだけで差別され、次に、実家の貴族の家柄が低いため、さらに冷遇されるわけで……完全縦割り社会の騎士世界では、出世する可能性は皆無に等しかったのだそうだ。

 そんな抜擢だからこそ、ゴルアと、その補佐に命じられたメルアはすごく悩んでいた。
 他に、ガタコンベにやってきていた女騎士達も、ゴルアの配下に入るよう指示が出ていたのだが
「ゴルア様の下でなら、喜んで働きますわ」
 と、その全員がゴルアに忠誠を誓ったわけで……あら、ゴルアってば、結構人望厚かったのね。

 で

 ちょっと残念だったのが
 このゴルアの隊長就任に合わせて、
 コンビニおもてなしに転職していた事務職のお姉さん達3人も、騎士に復職したいって言い出したこと。

 正直
 この3人はすごく頑張ってくれていたし、すごく頼りになっていたので、抜けられるのは辛い。

 でも
 自分達が本当にやりたかった道に戻るわけだし
 信用出来る上司の下で仕事が出来ることになったわけだし

 ここは、笑顔で送り出してあげないとね
「みんなの活躍を祈っているからね」
 そう言った僕に、
「「「店長~」」」
 3人が一斉に抱きついてきたわけで……

 ありがとう、スア、ここは耐えてくれて。

 この夜は
 ゴルアの辺境駐屯地隊長就任と暗黒大魔道士討伐を祝って、宴会をすることにした。

 暗黒大魔道士騒動も、周辺索敵部隊による探索が一段落したこともあるし、ここらで厄払いもかねたらどうかって思ったわけです。

 こういうとき、
「ようタクラ! 今日もいい酒持って来たぜ!」
 真っ先に来るのはいつも向かいの店の猫人ルアだ。
 まだできかけの料理を勝手に持ってって、とっとと手酌ではじめてしまう。

 で

「お、やってるでゴザルな」
 それに、イエロがドッカと加わり、だいたいこの2人が中心になって宴会が始まっていくのがウチの店のパターンだ。

 ……ただ
 そのイエロの周囲に、常に侍っていたゴルアとメルアの姿が、今後はあまり見れなくなるのか……って思うと、どこか寂しく思ってしまう。

 いかんいかん
 めでたい出世を祝う会だってのに、こんな辛気くさい顔してちゃだめだよね。

 そう思っていると
 いつのまにか僕の横にすり寄ってきたスアが
「大丈……夫?」
 そう言いながら、僕の顔を見上げてきた。

 スアなりに
 僕が別れを悲しんでいるのを感じ取ってくれたんだろうな……

 ホント、僕には出来た奥さんだよ。


 宴会には、組合のエレエら蟻人を始め、猿人警備隊の皆や、街の人々が多数集まり、夜遅くまでワイワイ楽しい声が響きまくっていた。

 そんな中
 主役の1人、ゴルアが、イエロの首に抱きついて泣きじゃくっていた。
「イエロさまぁ! せめて、せめて最後に思い出をぉ!」
 ……なんか、そんなことを絶叫してるんだけど

 ゴルアさん、飲み過ぎ

 なんかもう、べろんべろんに酔っ払って、イエロに抱きついているわけで……

 いつもなら
「え~い、鬱陶しいでござる!」
 そう言いながら、片手で近くに放り捨てていくイエロなんだけど
 今日はおとなしく、されるがままになっていた。

 なんのかんので、イエロも寂しいのかな

 なんて思っていたら

 イエロに抱きつきまくってたゴルア、
 いきなりその口元を押さえたかと思うと、

 その場で壮絶にリバースした。

 ……って……えぇ!?

「だからお前は、酒癖が悪いんだからあれほど気をつけろといったではござらぬか!」
 イエロ、ゴルアの嘔吐物で***な状態になってしまった服に顔をしかめながら、悪酔いし過ぎて地面に倒れ込んでいるゴルアを、延々説教し始めていた。

 最初の方は、かなり怒りにまかせて説教していたイエロ。

 でも
 中盤からは、ゴルアに優しく語りかけていくようになっていき。

 最後には
「イエロ様! お慕いしておりますぅ!」
 とまぁ、結局最初に戻っていったわけでして……


 こうして
 この宴会は次の日の朝、お日様が結構高くなるまで続けられたわけです、はい。

 顔面蒼白のまま馬車に乗り込み、辺境駐屯地があった当たりへ出発していくゴルア達

 僕とイエロは
 そんなゴルア達の馬車を、ガタコンベの物見櫓から見送っていった。


 人が去り
 少し寂しくなったコンビニおもてなしだけど、
 ゴルア達が去って行った翌日から店を再開した。

 これまでは、破壊された城壁なんかの復旧作業を最優先にして、僕も手伝っていたわけです……

 まぁ、
 僕に早く帰宅してほしかったスアが、魔法で一気に直しちゃったのは、ナイショの話ってことで……


 店は、今まで以上の大盛況だった。
 あの暗黒大魔道士を退治した店長夫妻が切り盛りしている店ってことで、そっち方面の御利益がえられるかも、って安易な気持ちでやってきてたお客さんも少なくなかったわけで……

 減ってしまった接客担当者分を
 スアが、自分の分身であるアナザーボディを発生させ、それで頭数的には役にたったわけです、はい。


 夕刻になり
 店の片付けを済ませて閉店するよ、僕はその足でスアの巨木の家へ向かった。

 僕がノックすると、
 待ち構えていたかのようにスアが飛び出してきて
「お帰……り、旦……那様」
 そのまま僕の胸に抱きついた。

 なんていいますか
 本当にこの生き物、可愛すぎます……キュン死一択しか残っておりません、はい

 僕は、スアに
「ただいま、スア」
 そう言いながら、スアを抱きしめた。

 僕は
 スアを抱きしめながら、この幸せを守れた自分を、自分で褒めてやりたいです。


 ……よく頑張った……感動した

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