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暗黒大魔道士騒動 その2

 唖然とするボクの遙か前方で、

 街に向かってきていた骨の竜の頭を砕き、その場に倒れ込ませた鬼人(オーガピープル)のイエロ。
 その姿に、巨木の家のの窓から身を乗り出した僕は

「やったぜイエロ! 明日はホ……」

 いや、いくら感極まったからとってとしても、
 某牛丼屋の回し者でもあるまいし、ここでやめておいて、と

 とにかく、今のうちに、眠ったままのスアや、店員のみんなを避難させないと……

 スアは、いまだにベッドので寝息を立てていたので、最後に一緒におもてなし1号で連れ出すとして、
 ボクは、その足でコンビニおもてなしの店内へ

「あ、おはようでごじゃりまする、タクラ殿」
 そこでは、いつものように、カップケーキの作成を行っているヤルメキスと
 その奥でパン生地をこねている猿人料理人4人娘の姿が。

「あのさ、外にでかい化け物が迫ってるんだ。今、イエロが戦ってるから、今のうちに避難所に逃げるんだ」
 そういうボクの言葉に、ヤルメキス
「またまたまた、タクラ殿は何を言ってるでおじゃりまするか、そんな話にこのヤルメキス、騙されないでおじゃりまするよ」

 おい!
 いつもすぐに土下座するヤルメキスが、なんで今日はこうなんだ?

「タクラ殿もご結婚なさったわけですし、このヤルメキス、今まで以上にお役に立てますよう、日々常に冷静沈着をモットーにすることにしたでごじゃりまするよ」
 そう言い、胸を張ってドンと叩くヤルメキス。

 そこで、叩きすぎてむせてるのがご愛敬なんだけど

 とにかく、
 言っても聞かないヤルメキスを店外に連れ出した。

 その視線の先 
 街道の向こうに見える城門には、時折飛び跳ねているイエロの姿が見えていた、
「ほら、タクラ殿、怪物なんてどこにも

 ヤルメキスが、ボクに向かってそう言い
 改めてその視線を城壁へ向けると

 そこには、
 イエロの金棒で頭蓋骨を半分以上くだかれ、瀕死になってる骨の竜の上半身が

「た、た、た、タクラ殿ぉ! ひ、ひ、ひ、避難所はどこでおじゃりまするかぁぁぁぁぁぁぁ」
 ようやく事態を把握したヤルメキスが、ボクの足に抱きつきながらその場に土下座していく。

 ちょっと!
 土下座はいいから、とっとと役場へ行けって!
 そこに地下室が避難所だって

 猿人4人に、ヤルメキスを抱きかかえてもらい
 5人はその場で避難所へ向かった。

 その後ろ姿を確認したボクは、その足で巨木の家へ
 スアを抱きかかえる前に、窓の外を再度確認すると、

「イチバ~ン!でござる~!」
 なんか、身動きしなくなった骨の竜の残骸にのっかったイエロが右腕の人差し指を点に向かって尽きたててる姿が……

 あれ?
 勝っちゃったのか?

 ボクは、その光景に
 なんか、乾いた笑いをうかべてしまった。

 いえね、
 イエロの実力を疑ってたわけじゃない。
 ただ
 相手がでかすぎたわけで、そりゃ危ないと思ったわけです。

 イエロも大事な店員だ。
 皆を守るために犠牲になってなってほしくない……だからといって皆に死んでほしいわけでもない……

 ここら辺が、色々難しい感情といいますか

 とにかくボクは、
 勝ちどきを上げてるイエロを迎えに行ってやろうと、階下に向かいかけた。


 ドンガラガッシャ~ン!!!!


 その時
 イエロのいる方角に、すさまじい落雷音が……

 な、なんだ?

 ボクは、慌てて窓に戻り、砦の方へ視線を向けた。

 すると、そこには、

「なによこの鬼人は。アタシの使い魔になんてことしてくれたのよ、え!?」
 なんか、砦の上に、妙に露出の高い衣装を着た変な女が立ってて、
 黒焦げになって倒れてるイエロを足蹴に

 おい! 貴様! その足をどけろ!

 窓辺で、真っ青になってる僕の前で
 そいつは、街に向かって声をあげた。

「アタシの名前はダマリナッセ。暗黒大魔道士よ。
 昨夜、封印を解かれこの世界に舞い戻ったわ。
 百年近く封印されて退屈してたんだけど、この街はなかなか楽しませてくれたわね」
 そう言いながら、再度イエロを踏みにじる、そのダマリナッセ。

 だからやめろ! 貴様!

「誰かもっとアタシを楽しませてくれないかしら? 誰も名乗り出ないってのなら、退屈しのぎに、この街を焦土に変えて、また他の町へ遊びに行くことにするから」

 なんか、すっげぇ身勝手なことを言ってないか、こいつ?
 
 とはいえ、
 ここで僕は一度冷静に頭を働かせた。


 あの暗黒大魔道士とか言う女
 あれはマジに強い
 
 イエロは、おそらくあの女の雷撃をくらって気絶してるんだろう……
 うん、死んではない……はずだ……頼むからそうであってくれ……

 で

 あの暗黒大魔道士に、イエロ以外で、この街で対抗出来るかも知れない人って……
 僕は、コンマ3秒考えて、その視線をベッドの上のスアへ向けた。

 伝説の魔法使いとの異名を持つ、僕の奥さんならひょっとしたら……とは思うんだけど
 そのスアは、先ほど相当無理して行った超回復魔法のせいで、いまだに眠ったままだ……

 スアが起きるまでなんとかして時間を稼がないと……

 でも、
 力ではまず勝てない
 攻撃力では、まず間違いなくガタコンベの街随一であるはずのイエロがすでに……なわけだし……

 となると、他の手で何か……
「ちょっとお前」
 何かないか……おい……
「そこのお前、聞こえてないの? ちょっと」
 う~ん、何か手が……
「こら、そこのお前! 呼んでるんだから返事しなさい!」
「うっせー! こっちは、今絶賛考え事してんだよ!」
 そう怒鳴った僕の視線の先に
 
 暗黒大魔道士がいました。

 ……え? なんで?

「なによ、なんかこの窓から1人だけこっち見てる奇特な奴がいるなと思ってきてみれば……
 このアタシに『ウッセー』ときたか、はん、おもしろいじゃないのさ」
 いきなり僕の前に出現したダマリナッセは、そう言いながら、なんか楽しそうに笑ってる。

 すいません、僕は全然面白くありません。

「そんだけの啖呵きったんだし、さぞかしアタシを楽しませてくれるんだろうね?」
 ダマリナッセ、
 そう言いながら、僕にすり寄って、その手を股間に……って、うぉい!?
「なんなら、こっちで楽しませてくれてもいいのよ? こちとら、そっちも飢えまくってるからねぇ」
 そう言いながら、ダマリナッセは、その顔を必要以上に上気させて僕にすり寄りまくってくる。

 ってか
 いつの間にか、僕の両腕が、変な手錠みたいなので後ろ手に拘束されてるし!?

 やばい

 この奥にはスアがまだ寝てるわけだし
 そんな目の前でNTRなぞ、やってたまるか!

 そんな僕は、
 必死に思考を巡らせてる視線の端にある物を見つけた。

「ダマリナッセさん。ちょっと良いですか?」
「あん? もうちょっと待ちなさいって、もうすぐあんたの息子が全開に……」
「だからそれをちょっと待てと言ってるんです!」

 僕の絶叫で、ようやくその手を止めたダマリナッセ……マジ、やばかった

 僕は、息を切らせながら
「ダマリナッセさん、暇つぶしがしたいって言われてましたよね?」
「……まぁそうよ……だからあなたに奉仕させてあげようと……」
「それは置いといて、僕とゲームしませんか?」
「ゲーム?」
 僕の言葉に、ダマリナッセは、腕組みし、ふむ、と考え始めた。
「……なるほど、それもまた一興ね」
 そう言いながら、右手を上にかざした。

 それち同時に僕の両手の拘束が外れ、ようやく僕は安堵のため息をつけた。

 そんな僕に、ダマリナッセは、ウキウキした表情をうかべながら
「で、何するのかしら? ポーカー? ブラックジャック?」
 カードゲームの種類を口にしていくんだけど、なんかこの世界にもポーカーとかあるんだなぁって、別な意味で感動しながらも、

 僕はスアの部屋に持ち込んでいた、自分の荷物の中から、1つの箱を取りだした。
「種目はこれ、オセロでどうです?」
 僕が開いた箱の中には

 緑のシートに縦横に黒線が引かれたゲーム版と
 それに使用する表が白色・裏が黒色になっている丸いオセロ石が入っている。

 それをセッティングし始めた僕の手元を、ダマリナッセは身を乗り出して
「なにそれ? はじめてみるわねぇ」
 って、予想以上に食いついた感じだ。

 僕は、互いに白か黒を選択し、
 相手の色の石を挟んで自分の色にしていき、最終的に自分の色の石が多い方が勝ちとなる。

 そう、簡単にルールを説明すると。
「へぇ、なんかおもしろうそう。ちょっとやってもいいわ」
 そう言って、版を挟んで僕の向こう側に座り込むダマリナッセ。
「じゃ、私が勝ったら、あなたを好きにさせてもらう、ってことでいいかしら?」
 そう言いながら、なんか舌舐めづりしてるし……

 とはいえ
 圧倒的に相手有利な現状なわけで、こちらに拒否の選択肢がない。

「その条件はそれでかまいませんが……その代わり、僕が勝ったら、このまま引き返してもらいますよ」
 僕の言葉に、ダマリナッセは、クスクス笑って。
「おっけ~、それでいいわよ。じゃ、始めよっか」
 そう言いながら、オセロ石を手に取っていく。

 さて

 ガタコンベの街の平和と、僕のNTR……しかも奥さんの寝てる目の前という……が掛かったオセロが、今はじまったわけです、はい……

しおり