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ブラック企業からの

 辺境駐屯地の女騎士達が大量にやってきて数日。

 ……はっきり言って、もう限界っす!

 店の手伝いをしてくれてる文官の女騎士3人以外の8人にはもう、ほとほと呆れかえってる次第なわけで

 この女騎士達
 スアの巨木の家に、木の実の部屋を3つ生成してもらって、とりあえずそこで暮らしてもらっているのだけど、

「何ここ、狭ぁい」
「共同生活は苦手なのよねぇ」
「ベッド固すぎぃ」
「洗濯はしてもらえるのよね?」
「あ、今ダイエットしているので、炭水化物は少なめで」
「私もぉ」

 とまぁ、要求やら文句の多いこと多いこと……

 君たちさぁ
 朝のイエロとの剣の訓練以外の時間って、部屋にこもってのんべんだらりんとしてるだけじゃん?
 その時間をさ
「お世話になってるお詫びに」
 とか言いながら、家事や店の手伝いしてくれても良いんだよ? 

 ゴルアとメルアが、イエロのお供して山に獣狩りに行ってるのも、横目で見てただけだったよね?

 これはもう、早急に対応策を考えないと……
 とりあえず、組合のエレエに相談してみたところ
「なら、組合の職員住宅を開放しましょうか? 辺境駐屯地の関連施設として貸し出すことにすれば、騎士団から賃借料を払ってもらえるはずですし、組合としても空き部屋の有効活用が出来て万々歳ですわ」
 満面の笑みでそう、申し出てくれた。

 早速、文官の女騎士3人以外の、女騎士8人にこれを伝えてみたところ、2つ返事でこれを了承してくれたので、その日のウチにそちらへと移動してもらった。
 ここで生活をしながら、街の治安維持にあたってもらうことになった。
 一応、彼女らの責任者はゴルアになるので、ゴルアは毎日朝晩、彼女らの点呼をしないといけないらしく、
「……まったく、騎士団の仕事というのは、本当に無駄が多い……」
 と、まぁ、なんかブツブツ言っていた。
 僕が元いた世界でも、公務員ってのは、なんかそういうのが多いって聞いたことがあったけど、そういうのって、世界が変わっても、似たり寄ったりなんだなぁ、って、変なとこに感心しきりだったわけで。

 これで、ウチの店に残ったのは文官の女騎士3人のみ。
 この3人は、辺境駐屯地に物資を搬入してた頃からの顔見知りだったこともあって、店の手伝いを打診してたんだけど、これを了承してくれてまして、毎日朝から晩まで店の手伝いをしてくれてます。
 辺境駐屯地でも、物資の受け渡しや支払い業務なんかを専門にやってただけあって、レジ作業なんかにもすぐ慣れて、レジの混雑解消にすごく役にたってくれてます。

 で

 なんでそれに反比例するようにスアの機嫌が悪くなっていくのか、さっぱり理解出来ない。
 女騎士8人を職員住宅に送り出したときは、すっごい満面の笑みを浮かべてたのに……

 あれか

 やっぱ、三桁生きてる弊害で超更年あだだだだだだだ、スアさん、つねらないで! ってか、なんでそんなに指先の力強いのさ!?

 とにかく

 この3人
 本人達もこのままコンビニおもてなしの手伝いをしたいと申し出てくれたので 
 辺境都市ガタコンベ駐屯地勤務が本業として、バイトとしてコンビニおもてなしで働いてもらおうと思い、バイトとしての雇用条件を書面化した契約書を渡したんだけど

「この、ユーキューってなんですか?」
「休憩時間の設定? ほう……」
「えぇ!?食事は無料支給していただけるのですかぁ!! 騎士団では給料天引きでしたのにぃ」
 と、3人とも、その内容に食い入るように見入ったわけで……

 ちなみに、この雇用条件の書かれた契約書って
 今、コンビニおもてなしで働いている皆にも渡して、署名拇印をしてもらってるんだけど

「……カガク……あとは、どうでも……いい……」(スア
「拙者、こういう文書を読むのは苦手でござる」(イエロ
「私はスア様のお側で働けていれば、他はどうでもいいのです!」(ブリリアン
「や、や、や……雇っていただけるだけで光栄でごじゃりまするぅ」(ヤルメキス
「我らは、イエロ様のお側にお仕え出来るのであれば条件など……」(ゴルア&メルア

 と、まぁ、雇用条件に関してはその内容に関して完全スルーされてただけに、3人の反応って、ちょっと新鮮だったわけで……

 で、この3人
 あれこれ相談しあっていたんだけど、
「この契約がバイトではなく、正式社員としての物になるとどうなるのでしょうか?」
 と聞かれたので、

 給料形態が基本給プラス時間給になること
 有給が増加すること
 店の利益に応じて臨時賞与(ボーナス)も支給などの条件が追加されますよって説明しながら、

 スアやヤルメキスと結んでいる社員契約用の契約書を見せたところ
「「「決めました! 私たち騎士団を辞めてここで働きます!」」」
 と言いだした。

 は?

 今、なんと?
 なんかさ、騎士団辞めてこのコンビニおもてなしで働きたい?

 騎士団って、僕の世界で言うところの公務員みたいなもんらしいし
 そっちの方が将来が安定してていいんじゃないのかな?

 なんて思いながら話を聞いてみると、
 3人とも貴族の出身ではあるものの、今では没落していて下級に属しているとのこと。
 なんでも下級貴族出身の騎士は、ほとんど出世の見込みがなく、騎士団に所属した時点で、すでにお先真っ暗なんだとか……
 しかも彼女達は、そろって姉が多数いるため、他の貴族家から縁談がくる可能性もほぼ無いらしい。
 加えて、騎士になってはいるものの、剣技にはそろって自信がないときた……

 他に出来ることもないので、文官として働きながら、どこかでそれなりの男でも捕まえて寿除隊を目論んでいたものの、飛ばされた先にはろくな男がいないのに加えて、人間関係最悪だったわけで……

 で、今回僕が提示した雇用条件ってのが、騎士団の待遇に比べると、段違いだったそうで……
 って、これ、この世界の組合で聞いた条件に、コンビニおもてなしの元々の雇用条件を加味した程度の物なんだけど……

 これで段違いに条件が良いって、騎士団ってどんだけブラックなんだ? って、思ってしまったわけで

 とまぁ
 このまま3人の熱意に押される形で、正式に社員待遇で採用したわけです。

 さて
 スアに土下座しながら説明しに行かないといけないか……ヤルメキスの土下座を参考にしないといけないな。


 社員となった3人は、とてもよく働いてくれている。
 3人ともお金の計算に強く、レジを安心して任せられるので、本当に助かっている。

 これで
 コンビニおもてなしの懸念事項だった、レジ接客要員まで確保することが出来、
 どうにウチの店も体制が整った気がしてるわけです、はい。


 で、だ


 問題なのはスアさんなわけで……

 新たに3人雇用したことを、ヤルメキス直伝の土下座しながら説明したところ
「……女は……もう雇用しない……って……言った……のに……嘘つき」
 って、言いながら、その頬をぷうって膨らませてそっぽを向いてしまった。

 え~
 不謹慎ながらも、そのぷぅって頬を膨らませたスアの横顔を、
【何、この可愛い生き物!?】
 って思ってたのは僕です、すいません。

 で

 怒ってるスアに
 THE・DO GE ZA継続中の僕

 最終的に
 今度、2人きりで薬草の採取に行くことで許してもらえた訳です、はい。


 しかしまぁ、
 なんで僕はスアの顔色をうかがい続けてるんでしょうねぇ……
 なんか、尻にしかれてる旦那みたいだな……こんな例え話したら、またスアにひっぱたかれそうだから言わないけどさ。


 で、翌日
 店の定休日の今日、スアと約束の薬草採取に出かける僕なんだけど

 スアさん
 いつものダボッとしたマントに尖り帽子姿じゃなくって、白いフリフリワンピース姿。
 心なしか、うっすら化粧もしているし……

 いや、スアさん……行き先森だよね? 
 何、その、まるで【これからデート】ってな格好は?

 困惑しまくってる僕の前で、スアさん、くるっと一回転して
「……似合って……る? 変……じゃ……ない?」
 って……

 なんなんですか、このくっそ可愛い生き物はぁ!?

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