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ヤルメキスでおじゃりまする

 花祭りが終了して数日たった。

 コンビニおもてなしは、花祭りで非常に高評価だったおかげもあって、連日大盛況となっている。
 
 そんなコンビニおもてなしに、辺境都市ブラコンベから蛙人(フロッグピープル)の女の子・ヤルメキスがやってきた。


 先日の花祭りの際
 路地裏で自作のお菓子を売っていたのを、僕が見つけ、コンビニおもてなしのお菓子職人にスカウトしたわけなんだけど、スアさん、お願いだからアナザーボディを使って小突くのやめてくれ……一応、女の子を増やすなって言われる前に増やした女の子なんだし……あだだだだ


「タ、タ、タ、タクラ様、こ、こ、こ、この度はこの私めのような者を、このような立派なお店で雇っていただき、感謝感激雨あられでごじゃりまするぅ」
 そう言いながら、到着早々僕の目の前で土下座していくヤルメキス。

 なんか、ヤルメキスって、ことあるごとに土下座するんだよなぁ……

 とにかく
 僕の店では、そんなに土下座とかしなくてもいいからって、伝えた僕に
「そ、そ、そ、そんなお優しいお言葉をかけていただけるなんて、タクラ様は神様でじゃりまするぅ」
 再び土下座していくヤルメキスなわけで……

 
 ヤルメキスには、2階ににある空き部屋の1つを使ってもらう事にしたんだけど
「わ、わ、わ、私のような者に、このような立派な部屋を、しかも1人で使用させてもらえるなんて、ば、ば、ば、バチがあたるでおじゃりまするぅ」
 って、いいながら、またも土下座していくヤルメキス。

 とにかく、遠慮無く使って欲しいって伝えたんだけど、最後までなんか抵抗してたんだよなぁ……
 しばらくして2階から降りて来たヤルメキスは
「私のようなものにふさわしい部屋を見つけたでおじゃりまする! 水も常にあるでおじゃりまするし、ほどよい狭さで快適この上なしでごじゃりまするよ!」
 そう言って、嬉しそうに笑うんだけど

 はて
 
 2階にそんな部屋あったっけ?

 腕組みしながら考え込んでる僕の元に
 なんかスアが血相変えて駆け寄って来た。

 そんなスア
 僕の腕を引っ張ると、2階のトイレへ連れてきて、その戸を開けた。

 あ

 ここで僕はやっと納得した。

 トイレの中には
 ヤルメキスが持参してきた荷物が綺麗に並べられており、その便座の上にはハンモックがぶら下げられており、まぁ、言ってしまえば、トイレが完全に占拠されてて使用不能になってたわけです、はい。

 ただまぁ、
 コンビニおもてなしのトイレって、1階はお客さん用しかなく
 住人用のトイレはここしかないわけで、これは困ると言うか

 すぐになんとかしないと、スアがマジやばいわけで……

 僕は、超内股になり、体をプルプル震わせているスアを背に、とにかくヤルメキスの荷物を運び出していった。


 間一髪で、どうにか間に合ったスアの、至福な笑顔を確認した僕は、とりあえずヤルメキスの荷物を、最初にあてがった部屋へと移動させておいた。

 あとで、トイレの占拠禁止と、部屋に荷物を移したことを伝えておこう。


 ヤルメキスには
 1階のレジ奥にある調理スペースの一角でお菓子作りをしてもらうことにした。

「こ、こ、こ、こんな立派な台所を使わせてもらえるなんて、もう感謝感激過ぎでおじゃりまするぅ」
 再び土下座しようとするヤルメキスの首根っこを掴んで持ち上げた僕は
「土下座はしなくていいって言ったでしょ?」
 そう言って笑いかけた。
 ヤルメキスは
「……タクラ殿は、本当にお優しいでおじゃりまするなぁ」
 そういいながら、なんかその頬を赤く染めたかと思うと
 両手で頬を押さえて、なんか恥ずかしそうに横を向いていった。

 なんなんだ、この反応は!?

 なんて思ってたら
 なんかスアのアナザーボディがいきなり僕に襲いかかってきた。
 ちょっと待てスア! 俺が何をしたってんだ、あだだだだだ……

「リョウイチは……誰にでも……優しすぎ……」

 ドアの隙間から顔を覗かせてるスアがなんかブツブツ言ってたけど
 アナザーボディの攻撃から必死に逃げてる僕が聞き取れるはずもなく、あだだだだ……
 
 とりあえず
 ヤルメキスには、彼女が作り慣れているカップケーキを作ってもらうことにした。

 待つこと数刻
「タクラ殿、試作品が出来たでおじゃりまする!」
 ヤルメキスが大型オーブンから取り出したカップケーキは、すっごくいい匂いを周囲にまきちらした。
 それがどのくらいいい匂いだったかっていうと

「何だ何だ? この美味しそうな匂いは?」
 コンビニおもてなしの向かいの武具攻防の店主・ルアがわざわざ作業の手を止めて店に顔を出したくらいだったわけです、はい。

 集まってきたイエロやゴルア、メルアらも交えて試食したんだけど
 うん、これは美味しい。

 まだ、元の世界で売ってたカップケーキとかと比べたらあれだけど
 この世界で、こんだけの味が出せたんなら、御の字なんじゃないかなって思う。

 ヤルメキスには
 早速明日から店売り用のスイーツを作ってもらうことにして


 この日の夜は、ヤルメキスの歓迎会と、花祭りのお疲れ様会を兼ねて、店の裏でバーベキューをすることにした。

 河原まで降りて、そこに岩でかまどをつくり、個人的に持ってた網を置いていく。
 肉は、冷凍保存してるのがまだ結構あるので、それを使うことにした。

 せっかくなので、秘蔵しておいた缶ビールも放出することにした。
 それを見たイエロが真っ先にビールを手に取った。
「この、カンビイルは最高ですからなぁ。久々に味わえて満足至極でござる」
 500ml缶を一気に飲み干したイエロは、か~っと気持ちよさそうに雄叫びをあげると、早くも2本目に手を出していく。

 ちょうど肉を焼いてた僕は、
 こりゃ、今日は缶ビールはお預けかぁ……なんて思ってたら、
 いつの間にか僕の側にすり寄ってきたスアが、僕に缶ビールを差し出してくれた。
 うわ! これは嬉しいな。
 僕は、スアからビールを受け取ると、即座に半分ほど流し込んだ。
 
 あ~、五臓六腑に染み渡る!

 そんな僕を、スア、すっごく不思議そうな顔で見てる。
「それ……そんなに美味しい……の?」
 どうもスア、ビールに興味津々なご様子。

 とりあえず、一口飲んでみるかいって、缶ビールを手渡した。

 僕から缶ビールを受け取ったスアは
 その飲み口のあたりに鼻を近づけ、クンクンと匂ったかと思うと
「きゅう……」
 なんか、可愛い悲鳴をあげながら倒れ込んでしまった。

 ってか、匂いで酔っ払ったってのかい!?

 僕は、とりあえず焼きかけの肉をイエロにまかせ
 地面に倒れこんで大の字になってるスアを、店の裏手にある巨木の家へと運び込もうとした。
 ところが、ここ、ロックがかかってるみたいで、その戸が開く気配がまったくない。

 仕方ないので、スアを僕の部屋へと連れていった。

 スアを僕のベッドに寝かせてみると
 倒れた際に、ビールが服にかかったらしく、結構広範囲にわたってその着衣が濡れていた。
 風邪引いちゃまずいし、とりあえず僕の服でも着させておこうか……

 そう思いながら、僕はスアの服を脱がせていく。

 幸い、下着は濡れていなかったので、大きめのTシャツをダボッと着させて、そのまま布団をかけてあげた。

 ビールの匂いで酩酊状態になってしまってるスアは、あっという間に寝息を立て始めた。
 そういえば、花祭りではスア、大活躍だったもんなぁ……

 とりあえず、スアにはこのまま寝ててもらって
 僕は、河原のバーベキュー会場へと戻っていった。

 僕が戻ると
 河原には結構な数の商店街の人達もやってきていて
 すでにイエロらとも和気藹々語り合いながら、焼きあがった肉を頬張りながら笑い声をあげていた。

「おぉ、店長! お邪魔してるぞ!」
 僕を見つけた、商店街の皆が、どんどん僕の方へと集まってきて
 僕の周囲はあっと言う間に人だかりが出来ていった。

 今日の主役の1人であるヤルメキスの姿がないなぁ、って思ってたら
「み、み、み、皆様、ご挨拶がわりと言ってはあれでごじゃりまするが、カップケーキを焼いてきましたでおじゃる。さぁさぁ、お食べくださいでおじゃります!」
 そう言いながら、焼き上がり立てで鉄板の上でいい匂いを発し続けているカップケーキを大量に持って来てくれた。

 なんか
 自分の歓迎会でも、こんなに頑張っちゃうなんて、働き者なのは認めるけど
 たまには息抜きも大事だよっていうのを、機会があったら教えてあげないとな、なんて持ってしまう。

 とはいえ
 このバーベキューは、店の裏手の河原の、かなりの部分を占拠しながら続けられていった。
 結局この日のバーベキューは、朝方まで延々続いたわけです。
 まぁ、ヤルメキスも楽しそうだったし、何より商店街の皆も楽しそうにしてたのが、すごく嬉しかったわけです。

 なんかもうすぐ夜が明けそうなので
 僕はこのまま弁当作りに取りかかることにした。

 さすがに昨日と同じ服じゃまずいかな、と思って、一度部屋に戻ると、
 ベッドでは、スアがいまだに寝息をたて続けていた。

 僕は、服を着替えながら改めてスアへ視線を向けていく。

……なんて言うか、スアって美少女なんだよなぁ……こうしてみると
 なんて思っていたら、なんかスアがニコッと笑ったような気が……

 気のせいだよね……

 僕は、着替えると、1階の調理場へと移動していった。

 さぁ、今日も頑張りますか。

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