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セーテン、かく語って、語るに落ちて……なんか別のものに落ちたわけで

自警団の詰所の中

「てめぇら!人が酒に酔ってる隙に襲ってくるたぁ、どんだけ卑怯者なんだキ!!」
 猿人盗賊団の団長、猿人(モンキーピープル)・のセーテンが、、後手に拘束されたまま怒鳴り散らしはじめた。
 その言葉の内容に、その場に居合わせた全員が唖然とした表情を浮かべていく……そりゃそうだろう。
「夜襲に未明襲撃、奇襲に連続攻撃、罠に待ち伏せ、集団暴行とまぁ、さんざん好き勝手やってきたあんたが、それを言うか?」
 武器屋の猫人(キャットピープル)・ルアが呆れた声でセーテンをなじっていく。
 それに対し、セーテン
「こっちは盗賊団キ。やって当然のばかり行為キ」
 そう言って、フイッと横を向いた

 ……すごい屁理屈だな。

 しかしまぁ
 こんだけの人数に囲まれて、完全に拘束されてるってのに、セーテンは全く動じてない。
 そのあまりにも堂々とした様子に、思わず苦笑が漏れてしまう。
 このくそ度胸だけは、少し見習いたくもある。

「とにかく、こんな卑怯な手を使った上での逮捕は認めないキ! 即刻全員解放するキ! そしたらこの街はしばらくは襲わないでやるキ!」
 なんかまた、えらく上から来たな、おい……
 そんなセーテンの眼前に、組合のエレエが腕組みしながら立ちはだかった。
「もともとこの街は備えがしっかりしておりますですので、あなた方は襲ってこなかったではございませんですか。
 それに、街を襲う云々以上に、あなた方がこの街に向かってきている隊商や冒険者達を襲撃なされますのが問題になっているのでございますわのよ!」
 エレエが声を荒げる……とはいえ、もともと甲高いかわいらしい声のためか、威圧感がまったく感じられない……なんか、むしろ癒やされるというか……

 この後も、ひたすら自己中心的な発言に終始するセーテン。
 そのため、他の組合員や、自警団らも、唖然とするしかなかったわけで。

 そんな中

「この卑怯な作戦を考えたクソ野郎はこの中のどいつキ! その面に唾はきかけてやるキ!」
 セーテンが、そう言いながら周囲を見回し始める。

 やべ!?
 僕、この話題になったとき、セーテンの視界に入らないように、彼女の背中の方へと回っていたんだけど。

 そんな僕に
 セーテンを囲んでいる皆の視線が一斉に僕に注がれる。

 ち、ちょ!?


「貴様キ!?……って、後ろにいるのは卑怯き、ちょっと待つキ」
 セーテン、もぞもぞ動きながら僕を視野に捕らえようと動き出す……いや、あの、もうお気持ちだけで結構なんですけど……
 これはもう、この部屋から退散した方が……あ、出入り口、反対側だ……

 僕が、絶望している最中
 ついにセーテンと、僕の視線が重なった。

 世界の終わりを迎えた人間って、こんな顔をするんじゃないかな……
 そんな顔をしている自覚ありありな僕

 そんな僕の眼前で……あ、あれ?
 なぜかセーテン、絶句して、なんか固まってないかい?
 
 その後、
 セーテンは僕の顔を真正面から見つめたままぴくりともしない。

 
 この事態に、僕も困惑するしかないわけで……
 周囲の皆も、徐々に、なんだ? なんだ? 的な状態になり、ざわめき始めながら、僕とセーテンを交互に見回している。

「……ご主人殿、まさか魔眼のような特殊能力を発動されたのでは……」
 イエロがなんかしたり顔で言った。
 ってか、何よ、その中二病的なのって、何? 僕の目には邪神でも宿ってんのかい? 眼帯しとこうか?
 とまぁ、困惑しきりな僕

 さらにしばしの間

 相変わらず僕を凝視したまま身動き一つしないセーテン。
 さすがに気まずくなった僕は、
「……あ、あの……セーテン……さん?」
 おそるおそる声をかけた。


 ボフン!


 な、なんだぁ!? 
 なんか、妙な音がしたかと思うと、いきなりセーテンの顔が真っ赤になった。
 そして、そのまま真下を向くと、何やらぶつぶつ独り言を言い始める。

 室内の一同、
 一斉に静まり、聞き耳をたてていく……だが、そのつぶやきは、僕らの耳では聞き取れない。

 すると

 皆の前に、スアのアナザーボディが現れた。
 よく見たら、部屋の出入り口の影から、スアの顔が見え隠れしていた。

 そのアナザーボディは、スアが書いたと思われるボードを手にしているのだが、そこには

『なんだ、あの色男は。
 今まで見てきたどの男よりもいけてるじゃないかキ。
 こんな男に喧嘩うってたのか?アタシは……い、今からでもどうにか名誉挽回して、なんとかお友達からでも始めさせてもらえないもんかキ』と……言ってる……

 そう書かれていた。

 その内容に、一同唖然。

「てめぇ! 人の純真無垢な乙女のつぶやきを壮大に暴露ってんじゃねぇキ!」
 アナザーボディに向かって、セーテンがおもいっきり罵声を浴びせる。
 そのアナザーボディは、セーテンに顔を向けると、
「……なら、口にださなければ……いい……」
 そう、ヒヤの言葉を発した。

 しばし、その場でにらみ合う格好になるセーテンのスアのアナザーボディ。

 そんな2人を見つめながら。
 ただただ、どう対応したものかと苦笑するしかない僕。

 そりゃそうだろう
 人生初の告白を、まさかこんな異世界の、こんな修羅場な中でされるなんて、夢にも思っていなかったからね……ある意味、人生二度と無い経験だとは思う……1度として味わいたくないシチュエーションだけどね……


 結局
 それまで散々平行線をたどっていた話し合いは、
 これを期にして、一気に動き出した。

 セーテンは、全ての罪を認め謝罪した。
 ただ、捕縛し都に送るのだけは勘弁してほしいと泣きついてきた。
「この男の側にいたいんだキぃ……」
 セーテンさん……さっきまでの威風堂々さはどこに行きました? ねぇ?

 セーテンは、盗賊団を解散し、今後この街のために働くことで罪滅ぼしにさせてほしいと申し出た。

 当然、人々の中からは訝しがる声があがった。
 そりゃそうだよなぁ……今まで散々好き勝手してきたんだし……
 ある意味、今も好き勝手の真っ最中ではあるんだよなぁ……なんで僕、巻き込まれてるんだ?

 喧々囂々話し合いが続いた結果。
 誓約書を交わし、セーテンの身柄を安心出来る人物に監視してもらう、ということで、一応の解決となった。

 まぁ……監視人は当然のように僕が選出されたわけで……やれやれ

 セーテン達、盗賊団は駐屯地相手にも略奪行為を繰り返していたため、当然、王都から懸賞金がかけられていた。そのため、このままなし崩しで街に置いておくわけにはいかない。

 そんな中盗賊団がため込んでいたお宝を整理していた組合の蟻人達が、その中からとんでもない書類の束を発見した。

 これ、どこかの貴族の荷物らしかったんだけど、その貴族らが王都の城の中や各地の役場相手に行っていた不正行為の内容とその証拠物件がどっさりと出てきたのである……ひょっとしたら、これ、廃棄しに行こうとしてたところをセーテン達が襲っちゃったんじゃないの? って思わず思ってしまう。

 とりあえずまぁ、これを見て見ぬふりをするわけにもいかないので
 僕らは、これら不正の証拠一式をすべて王都へ提出した。
 それらを提出したセーテン達に恩赦を与えて欲しいとの司法取引を持ちかけてみたところ、これが思った以上にスムースに認められた。
 ゴルアによれば
「それだけ重大だったのでしょう……あの書類に出てきた貴族の名は、王都でも有名な貴族でしたからな」
 ということらしい……願わくば、報復とかが回ってこないことを、心から祈りたい……

 ちなみに、この不正行為の摘発なのだが……思わぬ処に思わぬ余波をもたらす結果になった。

 なんでも、ゴルア達の上司にあたる辺境駐屯地の騎士団長。
 こいつが、駐屯地の物資の一部を、盗賊団に奪われたことにして着服し横流ししていた証拠を示すものまで含まれていたそうで……この騎士団長、肩書はく奪の上、王都へ強制送還となったらしい……

 とりあえず、盗賊団47名とセーテンをどうするか、
 これを決めなきゃいけないって難題はまだ残ってはいるんだけど、とりあえず猿人盗賊団騒動は、おおむね一件落着となったわけで。


 ただ、毎晩僕が入浴していると
「ダーリン! お背中お流しいたしまキ!」
 セーテンがどこからともなく乱入してくるようになったのは、なんだかなぁ……

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