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猿人盗賊団の起承転結

 少しずつだけど、売り物も増えてきて
 ようやく少し上向きになってきたかなぁ、なんて思ってるんだけど

 まぁ、そんな時に限って何か起きるっていうのがお約束だよねぇ……

 なんて思ってたら、マジで組合から緊急招集の連絡が回ってきちゃったよ、おい……
 あれですか、僕、フラグふんじゃったってこと?

 トホホぉ、な気分のまま、僕は向かいの武器屋……あ、今はもう鉄工所か、のルアと一緒に組合事務所へ向かった。


 組合の事務所には、ズアーズ商店街のほぼすべての店主が顔をそろえていた。
 無論、僕もその末席に座っている。

 皆が集まっているのを確認して、組合の蟻人(アントピープル)・エレエが話を始めた。

 その話によると
 なんでも、毎年恒例である春の花祭りの開催が来週行われる予定なのだそうだが……あぁ、そうなんだ
 例の、猿人盗賊団が周辺の森に出没し続けているため、周辺の都市や集落からの来客や商隊の来訪に影響が出そうなのだという。

 そのため、商店街として盗賊団対策を何か考え、実行したいとのことだった。

 まず、戦闘行為を行えそうな人の確認が行われた。
 僕の店からは、駐屯している、騎士団のゴルアとメルアに、鬼人の剣士イエロを報告した。
 鉄工所のルアも挙手していて、最終的に、戦闘に参加できそうな人員ってのが組合全体の中で総勢で21人だったそうだ。

 猿人盗賊団は、総勢で50人はくだらないらしいので、これでは多勢に無勢である。


 なお、当然ではあるが、僕はこの20人には入っていない。
 僕がよく読んでいたラノベなんかだと、異世界転生したらもれなくチートな能力とかもらうはずなんだけど、何一つありませんとも(きっぱり
 

 とりあえず、この多勢に無勢の状況で何か出来ることがあるかなぁ……と、みんなであれこれ思案してはみたのだが
 やはりそう簡単にはいい案など浮かぶはずもなく……

 そりゃそうだ……そんなに簡単に浮かぶんなら、とっくに猿人盗賊団なんか壊滅させてるはずだもんな


 結局、この日は各自持ち帰りとなり
 何かいい案があったら組合に連絡することとなり、会はお開きとなった。


 店に戻った僕は、店に残っていた皆に会議の内容を説明した。
 その上で、猿人(モンキーピープル)盗賊団の討伐に、何かいい案はないか聞いて見たのだが……

 案の定、全員が腕を組んでうなり声を上げはじめてしまった。

 騎士ゴルアは額に手を当てながら、
「猿人どもは厄介なのです。
 個々の技量はそうでもないのですが、かならず集団で襲ってきます。
 しかも、不利を悟れば即座に逃げます。
 しかし、執拗に、何度でも襲ってきますので気の休まる間がありません。
 気配察知にも長けており、ねぐらを襲撃しようとしても、すぐに逃げられてしまうのです」
 忌々しそうな声をあげていた。
 ゴルアとメルアは、駐屯地において、実際に盗賊団の襲撃に何度もあっているわけだし、その気持ちがわからないでもない。
 
 とはいえ、- 惰弱とはいえ - 数では盗賊団に勝っていた辺境砦の騎士団ですらこうして手を焼いている相手である。

 策といわれてもねぇ……

 しばし長考。
 あれこれ思案していた僕は、何気なく本棚へと視線を向けた。
 そこには、僕のふるさとと、その周辺の神話や伝承をまとめた本があったんだけど

 それを見て僕、鼻の下を数回こすり
「そうだ、この手でいこう!」

「……タクラ殿、何か妙案が浮かびましたか?」
 ゴルアがすっごい真面目な顔で聞いてきた。

……そうだよね、ここで『小さなバイ○ング ○ッケかよ!』って突っ込みを期待しちゃダメだよね、異世界だもんね。正直すまんかった……

 とりあえず僕はスアを呼び寄せた
 「スア、物は相談なんだけど、こんな魔法って出来るのかい?」
 スアは、僕の言葉をふんふんと聞くと、腕組みし、そこらを歩き回り、そして


 グッ!


 っと、右手の親指をたてた。



*ここから第三者視点です*

ー翌日の夕刻

 ガタコンベの街にほど近い森の一角に、一台の荷馬車が置かれていた。
 中からは、これみよがしに食べ物の匂いが漂っている。

 しばらくすると、猿人盗賊団らしい数人の猿人が木々の合間から顔をのぞかせる。
 あからさまに怪しい状況に、警戒をしている様子がありありである。

 周囲を何度も警戒しつつ、荷馬車へ近寄っていく猿人。
 その数、10人前後。
 猿人らは、更に周囲を警戒しつつ、荷馬車の中を確認する。
 中には、食べ物が満載された木箱や樽がいくつも入っている。
 その中身をすべて確認し、危険がないのを確認すると、一行はどこからか馬を連れてきて荷馬車を移動させていった。

 1時間ほどすると、荷馬車は山麓にあるうっそうとした茂みの奥にある洞窟の中へと運び込まれた。
 「ほう。なかなかな戦利品じゃないキ」
 一行の持ち帰った荷馬車の中身を確認しながら、猿人盗賊団の団長セーテンは、嬉しそうに笑っていた。
 「ようやったで、お前ら! 酒もたんまりあるみたいやし、今夜は宴会キ!」
 この荷を持ち帰ってきた一行の頭をワシワシ撫でまわすセーテン。
 猿人達は、これから開かれる宴会を前に、嬉しそうに声を上げ続けていた。

 そんな一同を笑顔で見回したセーテンは、酒樽の1つを豪快にあけていった。


*ここから田倉視点に戻ります*

ーこの日の深夜・猿人盗賊団アジト内

 「……まさか、こんなにうまくいくとは……」
 洞窟内の猿人達は、酒や食べ物に混ぜてあったスア特性の超強力眠り薬の効果で一人残らずぐっすりと眠っていた。
 


 僕の作戦は、睡眠薬の入った酒や食べ物をわざと持って帰らせ、
 それを食べた盗賊団が寝入ったところを見計らって一網打尽にする、というもの。


 ……まぁ、あれです、スサノオノミコトのヤマタノオロチ退治のお話を真似してみたわけです
 大蛇に酒を飲ませ、酔いつぶれたところを倒したっていう、有名な伝承なわけだけど、やはりタダより怖い物はないってことだよねぇ。

 ガタコンベからやってきている猿人回収部隊の面々は
 熟睡し、まったく起きる気配のない猿人らをしっかり縛っては、輸送用の荷車へと積み込んでいく。

「う~ん……、拙者は、こういうだまし討ち的な手法はいまいち好きではないのでござるが……」
 鬼人(オーガピープル)のイエロが、複雑な表情を浮かべながら、猿人を3人肩にのせて、軽々と運んでいく。
「イエロさん、そりゃしょうがないさ。そもそもこいつらがさ、正面切って戦ってこねぇやつらなんだもん。
 っていうよりもだ、こいつらをこんなにあっさり捕まえる作戦を考えたタクラがすげぇと思うぜ、アタシは」
 武器屋の猫人(キャットピープル)・ルアが、満面の笑みでイエロの背を叩きながら、僕に向かって右手の親指を立てていく。

 いや
 僕じゃないんだ……強いて言うならありがとうスサノオノミコトだな、うん。

 そう思った僕の脳裏に、グッと親指を立ててるハニワの姿が……ちがう、なんか違うぞ、この絵面は……


 でまぁ、ルアとも話をしていると
 ルア自身も、盗賊団に仕入れた資材を奪われた経験が何度かあるとのことだったので、こうして盗賊団を一網打尽にできたのがうれしくてしょうがないようだ。

 「……我ら騎士団が、あれほど苦労していた盗賊団を……」
 「……た、たった一晩で……」
 次々に運ばれていく盗賊団を、万が一の護衛部隊として同行していたゴルアとメルアは唖然とした表情で見つめていた。
 ……騎士団の皆さんには、なんか申し訳ないことをしちゃったのかな? とか思ってしまうのだけど、まぁ、解決できたってことでよしとしてもらいたい。

 猿人達を担ぎ出し終えた洞窟の中を調べてみると
 奥の方から、盗賊団が今までに略奪した物と思われる荷物がわんさかつめこまれていた。
 食べ物類は軒並み食べられた後だったけど、荷物に関しては相当な量を回収することが出来、回収部隊の皆さんも非常に喜んでいた。


 こうして盗賊団のアジトから、盗賊団全員と、盗賊団がため込んでいた強奪品を運び出した僕たち回収部隊一行は、意気揚々とガタコンベの街へと帰還した。

 そんな僕たちを街の人たちは大歓声で迎えてくれた。
 はは、なんか照れくさいなぁ。


 よく見たら、なんか向こうから僕に向かって一直線に走ってくる人影が……って、あれ、スアかい?
 なんかスア、すごい勢いで僕の側に駆け寄って来たかと思うと

 ほとんど体当たりの勢いで僕に激突してきた。
 その弾みで、馬車から落下する僕。

 そんな僕に抱きついたまま、スアは
「け……怪我……ない?……生きてる?……」
 強いて言えば、スアに突き落とされて、今すりむいただけで、いたって元気だよって告げたら、

 スアは、僕の擦り傷に回復魔法をかけてくれた。

 と

 そんなスアを、数人の商店街の人達が囲んでいく。

「あぁ、これがタクラの家にやってきた魔法使いの嫁さんかい?」
「あの魔女の嫁入りでやってきたっていう、あの娘か?」
「なんだ、まだ幼いんだねぇ」

 なんか、周囲を人に囲まれたスア、
 みる間にその顔を真っ赤にして、あわあわし始めた。

 あ、これはあれだ、対人恐怖症の症状だわ……
 僕は、スアを抱きかかえると、駆け足で家に戻っていった。

 ソファに横にすると、スアはまだガタガタ震えていた。

 ったく、そんなに無理してこなくても……っていうか、そんなに僕を心配してくれたのか?

 とりあえずスアにお礼を言うと、
 スアは
「……無事で、よかった……」
 そう言って、ニッコリ笑った。


……いかん、その笑顔はかなり反則だ!?


 よからぬ気が起きないうちに、僕は集合場所になっている市場へ向かって駆けだした。
 また、頬にもみじまんじゅうをつくられたらたまったもんじゃない……


 とりあえず、営業前の市場の片隅へ回収品を乗せた馬車を集合させ、捕縛してきた盗賊団や持ち帰った荷物の整理を行うことになった。

 まず、捕まえた盗賊団らは、街の自警団の拘束牢へ連行しようとしたのだが、これが半分も入れないうちにいっぱいになってしまった。
 仕方ないので、広場に簡易の回収小屋を作成し、その中に次々に入れていく。
 結構手荒く投げ込まれた連中もいたんだけど、全員まったく起きる気配がない……スアの睡眠薬の威力、すごいな……
 
 盗賊団のボス・セーテンらしき、身なりのいい猿人は……って、こいつ女だったんだな……別途自警団の詰め所へと運ばれた。

 起きた後、尋問を行い今後の事を決めていかないといけないから、とのことであった。
「セーテンって、盗賊団の中でも特に逃げ足が早いんでさ、姿形もあまりしられてなかったんだけど……まさか女だったとはねぇ」
 自警団の詰め所内の折の中でグーグー眠っている、猿人・セーテンらしき人物を前にして、ルアはマジマジとその容姿を眺めていた。
 やっぱそう思うよなぁ……

「総勢47名の猿人を使って、今まで一度も捕縛されずに盗賊団を指揮していたってのはまぁ、敵ながらあっぱれですね……尊敬はしませんけど」
 市場の管理部長である、犬人(ドッグピープル)・テイルスが、あきれたような表情で、ルアの後方からセーテンを見ていた。
 まぁ、確かに、それはいえてる。

 そんなこんなで、今後についてあれこれ相談している中、
「……ん~……、あれ? どこキ? ここ……」
 セーテンが目を覚まして周囲をきょろきょろ見回し始めた。

しおり