三十二話 優しい声の男性
友達が殺される。初めてできたお友達が、処刑される。
どうしよう。どうすれば。どうすれば、いいんだろう……。
フラフラと宛もなく歩くように街に出たパティ。
どこか覚束無い足取りで前に進む彼の耳に、「ねえ聞いた?」という街の女性の声が入ってくる。
「偉大なる主様に手を出そうとした輩がいるらしいわよ。捕まったソイツはどうも処刑されるようだけどね」
女性はどうやら、明日行われる処刑の話──メニーの話をしているようだ。パティが思わずそちらを見れば、「怖いわよねぇ」と女性がまた口を開く。
「明日の朝8時から、この聖地で処刑ですって。まあ、主様に手を出そうとしたならそうなるのは当然だけれどね」
フン、と鼻を鳴らして歩き去っていく女性を目線だけで追いかけ、パティは下を向いた。
当然。そう、当然だ。尊き主に手を出そうとしたなら、処刑されることなんて当たり前。でも、でも、そうだとしても、あまりにも別れが早すぎるでは無いか。まだ話してないことはたくさんある。知らないこともたくさん。なのに、彼は明日殺される。大好きな家族、それを守るレヴェイユという組織の手によって……。
「……どうすれば、いいんだろう」
呟いて、泣きたくなった。
思わずぐずりと鼻を啜ったパティは、そこで誰かにぶつかった。「にゃっ!?」と驚きの声を上げた彼に、ぶつかってしまった人物は「おや……」と驚いたような声を発す。
パティは顔を上げた。それにより視認できたのは、一人の男性。
黒髪の、長い髪をひとつに束ねている男性だった。髪は癖があるのか、軽くウェーブがかかっている。服装はマントによりわからないものの、左耳には丸い、白いピアスがひとつ。
片側に寄せられた前髪の下から覗く、紫がかった青色の瞳には優しい色が灯っており、それは驚くパティのことを穏やかに見下ろしているようだった。
「は、はにゃ……すみません、前を見ておらず……」
とっさに謝るパティに、男性は「なんの」と微笑んだ。優しいその笑みはどこか美しくもあり、そして同時に儚くもある。
「良いのですよ。ぶつかることは誰にでも有り得ることですので。それより、何か悩んでらっしゃるご様子ですね。何か嫌なことでもあったのですか?」
「……なんにも」
「そうですか。ではワタクシの勘違い、ということでしょうね。これは失礼致しました」
言って笑った男性は、一度背後を振り返ってから、「間もなく救済が行われますよ」と一言。パティが首を傾げるのも気にせず彼に微笑むと、「では」と軽く頭を下げて去っていく。
「……なんだか、とても優しい声をお持ちの方でしたね……」
あんな人も聖地にいるんだと、そう驚いてから、パティは視線を下へ。「メニーさん……」と、嘆くようにその名を呼んだ。