十二話 調査班のお仕事
「──チッ。ここもハズレか……ったく、どこもここも、どいつもこいつも全然使えねえ」
そう忌々しげに呟いたのは、癖のある金髪をサイドで高く結った、背の低い少女だった。
黒い縁取りの赤い制服を緩く着た彼女は、漆黒のワンピースの裾を揺らしながらツカツカと街を歩く。獲物を狙うように静かに周囲を見回す彼女の黒い瞳は、光の反射からか僅かに赤く染って見えた。右目の下にある泣きぼくろが悩ましい。
「おい! こっちの聞き込みは終わった。とっとと撤収するぞ!」
若さピチピチな彼女がその見目と相反する態度で強く怒鳴れば、怒鳴られた高身長の男性は彼女にちらりと視線を返した。跳ねた茶の髪が特徴的な男性だ。
マルーン色の瞳を持つ彼は、まるで和服と洋服を掛け合わせたような衣服に身を包んでいた。少女の身に纏うような黒い縁取りの、袖のない赤い制服を基調とし、そこにアクセントを加えるように袖の長い、黒い衣服を着用している。飾りのように肩から垂らされた長い布は、瞳と同色で太ももに届くほどの長さだ。
左右の耳には飾りのように揺れる、赤と黒を混ぜ合わせたような色合いのタッセルピアス。目元にはファッションだろうか。小さな丸メガネを装着していた。カラーレンズのそれは濃い紅紫色だ。オシャレさがこれでもかと醸し出されている。
「おい! 聞いてんのか!」
怒鳴る少女。
「喧しいデスヨ」
男性は静かに告げた。
「おーおー、喧しくて悪かったな。テメェがそのお飾りの口を動かさねえからてっきり耳までお飾りになっちまったのかと思ったよ」
「生憎とワタシの耳も口もお飾りではありまセン。動く時はキチンと動きマス」
「あっそぉ〜。じゃあとっととそれら動かしやがれってんだこのオネエ病患者が」
ケッと吐き捨てた少女に、男性はただ一言、「お口が悪いですヨ」と告げた。別段彼女の刺々しい態度を気にしていない様子の彼に、少女は忌々しいと舌を打つ。
「そんなことより、ペペットさん」
男性は気を取り直すように少女を呼んだ。
少女は「あ?」とドスの効いた声を返している。
「アナタ、五感優れてますヨネ。なら分かりませんカ? ざわめく気配の中に感じる、妙な雰囲気……」
「……」
少女、ペペットは眉を寄せて男性の見る方角に顔を向けた。睨むように道行く人々を見つめる彼女は、ちら、ちら、と左右に視線をやり、それから目を見開き一点を見つめる。
彼女の目にした場所には、白髪の子供が立っていた。ボロボロの衣服に身を包むその子は、こう言ってはなんだがこの聖地と呼ばれる神域では浮いて見える。
しかし、誰も子供に関心を向けない。あまりにも異様だ。
ペペットは腰元の武器に手をかけた。低く構える彼女に、男性は「殺すのはなしデス」と一言告げた。それはつまり、彼女の行動を制御しただけで、止めるつもりが毛頭ないことを表している。
「リョーカイ」
ニヤリと笑ったペペットは、強く、素早く、地を蹴った。
◇◇◇◇◇◇
一方その頃。
メーラ、メニー、アルベルトの三人は、メーラを先頭に聖地の中を進んでいた。時に屋上を、時に路地裏を、時に道とは言えぬ道を進む彼女に、追いかける二人は文句を言わない。ただ大人しくメーラを目印に足を動かし続けている。
メーラはそんな二人に何を言うでもなく、ただ前方を見据えながら進み続けた。何かを追うように一点を見つめる彼女は、ひどく集中しているようでもある。
「……何処を目指してるんですかね」
メニーが言った。
「わかりませんが、冒険みたいですね、今」
アルベルトがやわりと返す。
と、前方を歩いていたメーラが急に足を止めた。
それにより軽く衝突しながら歩行を停止した背後二人は、「いた」と小さく呟くメーラを見つめている。
不思議そうなその視線を無視し、メーラはパタパタと駆け出した。そして、街中で佇んでいた一人の子供へと近づいていく。
「おい、おま──」
「らあッ!!!」
かけようとした声が、楽しげな少女の声によりかき消された。
慌てて足を止めたメーラの視線の先、癖のある金髪と見覚えのある赤色が揺れている。
今し方話しかけようとした子供を地面に叩きつけた小柄な少女は、手早く子供を拘束すると低く唸った。「テメェ何者だ?」と口端をあげる姿は、到底少女のそれとは思えない。
「……調査班?」
思わずとボヤいたメーラに、「おや、奇遇ですネ」と声がかかった。
振り返れば、小さな笑みを口元に浮かべる茶髪の男性がそこにいる。
「……アスフォード」
「お出かけ中でございますカ、メーラ様。この辺りまで来るなんて、珍しいですネ。普段はあまり主様の屋敷から離れたがらないのに……」
にこにこと邪気なく笑う男を、メーラは睨んだ。そうして鼻を鳴らしそっぽを向く彼女に、アスフォードと呼ばれた彼は困ったように笑っている。
「……知り合いか?」
少女が子供と共に立ち上がる。その姿に、アスフォードは「ああ」と納得したように頷いた。
「ペペットはハジメテですかネ。この方は主様のお屋敷に住むガラクタ魔女、メルディアウーラ。通称メーラ様でございマス」
「メルディアウーラ……」
口の中でメーラの名を咀嚼し、飲み込んだ少女、ペペットは、「ふーん」と頷くとどうでも良さげに拘束した子供を見た。子供は大人しく捕まっている。
「……コイツどうするよ」
「とりあえず組織に連行ですかネ。怪しいモノを放ってはおけマセン」
「へーへー」
「メーラ様は屋敷にお戻りになられますカ? よければ道中護衛を務めさせていただきますが……」
にこやかに告げたアスフォードに、メーラは少し考えた後に頷いた。「頼むのよ」と素直に告げた彼女に、「かしこまりましタ」と彼は笑っている。
「……そう言えば、アルベルト様と居られる後ろの彼は?」
「メニー」
「ああ、今噂の……」
チラリと、アスフォードの目がメニーを見た。探るようなその視線に、メニーはただ、楽しげに微笑んでいた。