十一話 事件現場の調査
整理をしよう。
聖地カルナーダの西地区にて変死体が見つかった。それが今朝方のこと。
変死体は死後数時間経っていると思われ、その両腕両足は共にへし折られており、内臓は綺麗に掻き出されていた。
犯人の目的は、察するに臓器を奪うこと。しかし、主君に聞く限り別段殺された者は特殊な内臓を持っているわけでもなかった。
健康的かと言われればそうでもなく、不健康かと言われれば微妙。五分五分の中間。普通という言葉が正しいくらいには平凡な臓器だったようだ。狙われるにしてはあまりにも良くありがちだと……。
「臓器を売買する輩がたまたま被害者を襲ったという考え方ももちろんできる。けど、今回に限ってそれはないと思うのよね」
「何故ですか?」
「死体に無駄な傷が多すぎるのよ」
ハッキリ告げたメーラに、メニーとアルベルトは顔を見合せた。互いに互いを見て小首を傾げ合う彼らに、メーラは視線を向けることなく言葉を続ける。
「臓器が目的なら、普通はあまり身体的損傷は与えないのよ。人間はストレスを感じると内臓に負荷がかかる。つまり良質な臓器が仕入れられなくなってしまうのよね」
「だから臓器を狙った犯行ではないと?」
「決定的なことは言えないけど、メーラはそう思うのよね」
まあ、言われてみれば納得のできる説明である。
頷く二人に、「お前たちはどう思うのよ」とメーラは問うた。他者の意見を参考にしようとする彼女に、二人は互いを見て互いを促す。どちらとも、先陣をきる気はないようだ。譲り合いの精神が勃発している。
「……アルベルト」
このままでは埒が明かないと、メーラは一方を指名した。
名を呼ばれた彼は「はい」と短く返事を返し、周囲を一瞥。考えるように顎下に手を当て、コクリと頷く。
「通り魔の仕業、なんていうのはどうでしょう」
「却下」
却下された。
アルベルトは笑顔で「はい」と頷いた。
「通り魔がこの聖地に居るはずがないのよね。ここは神域。神族が住むとされる場所。通り魔が居ようものならその殺意に誰かが気づくはずなのね」
「そういうものですか」
「そういうものなのよ」
はい次、と今度はメニーが指名された。
「んー、そうですねぇ……仲違いとか?」
「却下」
再び却下された。
メニーは肩をすくめる。
「仲違いで臓器持ってくってどこまでサイコパス拗らせてるのよね。サイコパスはビビだけで十分なのよ」
「ビビさんってサイコパスなんですか?」
「根っからのね」
へー、とメニーは微笑んだ。
「ったく、お前たち使えないのよね。少しはマシな答えが出せる脳みそに改造してもらったらどうなのかしら」
「そういうメーラさんだって答えには辿り着けていませんよね」
「黙らっしゃい! 今から辿り着くとこなのよね!」
メーラの脳みそはお前たちのノミのようなモノとは違うと、少女はドスドスと地を踏み荒らし事件現場の中心へ。空を見上げ、地面を見下ろし、左右を囲む壁を見て、左手の人差し指をたてる。
何をしているのか。
興味深げにメーラを見つめる二人は、少しして、その瞳に煌びやかな光の礫を確認した。
浮遊する礫は、メーラを中心として周囲に広がっているようだ。
自分たちの周りにも集ってくるそれらが何であるか。それすら理解出来ぬ二人をよそ、なんらかの作業を行っていたメーラが閉ざしていた瞼を明け、踵を返す。
まるでこの場でやるべき事は終わったと言いたげなその様子に、二人は顔を見合わせると、静かに彼女の後を追いかけた。