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三話 世界の組織

 




 世界管理組織レヴェイユ。
 初めて足を踏み入れたことにより確認出来ることとなった組織、その内部は、まさに世界を管理する場所といった雰囲気だった。

 広々とした屋内は、映画に出てくるような装飾豪華な、魔法学校のようなデザイン。喋る絵画が居れば浮遊する幽霊のような生き物もいる。灯された明かりは魔法を使っているのか、不思議な雰囲気を醸し出していた。

 小さなピエロの衣装に身を包む、精霊にしては不穏な雰囲気を持つ生き物がせっせかせっせかとダンボール箱を運んでいるのを視線で追いかけながら、メニーはぐるりと屋内を見回す。それにより確認できるのは、赤と黒を基調とした制服に身を包む者たち。チラホラと見受けられる彼らは、子供から大人まで、多くの者がいるようだ。
 まるで組織とは思えない。言ってしまえば学校。大学。そんなところだろう。

 メニーは前にいるリレイヌの後ろ姿に目を向けながら、そっと息を吐き出した。そして、笑みの消えてしまった口元を元通りに歪ませ、挨拶もそこそこに歩き出した彼女を追いかける。

「今から私たちが行くのは上層部の元だ」

「上層部?」

「ああ。組織内はその者の特徴により様々な編成がなされていてな。多くの位が、隊が存在する。上層部は基本的に持ってこられた案や件を許可するかどうかを決め、処理している部隊だ。彼らではどうしようもない案件は組織の最高責任者か最高指導者に流される仕組みになっている」

「へえ……」

 メニーは頷き、リレイヌを見かけた瞬間、頭を下げる組織連中に目を向けた。よく教育が施されているようだと、つい感心してしまう。

「上層部は審判の間にいる。審判の間は3階にあるからそこまで上がるぞ」

「3階……」

 見えてきた長い階段を見て、3階ってなんだ?、とメニーは考えた。そんな彼をよそ、階段脇に移動したリレイヌは、そこにあった魔法陣に足をかける。瞬間、彼女は音もなく消えた。なるほど、転移魔法かと、メニーは頷きながら共にいる赤茶の髪の青年──イーズと共に陣に乗る。そして、上の階へ。たどり着いた3階で、たまたま見えた手摺より下を見下ろせば、そこには数メートルにも及ぶ縦長の屋内が広がっていた。3階という概念は、どうやらお亡くなりになったようだ。
 上を見上げてまだ続く階の広さに「ほー」なんて謎の感動を口から零していれば、「なにしてる」と声をかけられすぐさまそちらへ。「すみません」と謝り、また歩き出す彼女を追いかける。

 暫く進んだところで、観音開きの扉が現れた。扉の左右に女神のような石像が並ぶそこが、恐らく上層部がいるとされる審判の間、なのだろう。
 リレイヌが何も言わずに扉の前に立てば、石像が動き、扉を押し開けた。開かれたそこに、彼女は臆することなく入っていく。

「! これはこれは主様」

 声が聞こえた。男の声が。

 何処からか響くそれに顔を上げれば、それにより視認できたのは、宙に浮く銀の仮面。目と口の部分が歪に掘られたそれらは、見る限りで五体ほど存在しているようだ。まるで罪人を見下ろすように高所に浮いている。

「いきなりすまないな。連絡班から連絡は言ってると思うが、ある病を患った子について話があってここに来た。正装でないことは許せ」

「なんのなんの。お気になさいますな。それより、そちらが例の?」

「ああ。メニー、挨拶を」

 空洞と言っても過言ではない目元に見下ろされ、それに薄ら寒さを覚えながらも、メニーは微笑んだ。そして、「コンニチハ」と、もう何度目かも分からぬ挨拶を口にする。

「……見たとこ普通の人間ですな」

「研究班にて身体調査を依頼した方がよろしいのでは?」

「後で寄るつもりだ。とりあえず、この子のことについて徹底的に調べてもらいたい。手っ取り早くな。これは重要案件だ。どんな任務よりも優先しろ。いいな?」

「かしこまりました」

「あと、オルウェルを暫くウチに滞在させる。罪人の死体があればこちらに食糧として回してくれ」

「では調理班と処刑人に連絡を。研究班への連絡はいかがしますか?」

「一応入れといてくれ。10分後に行くとな」

「承知致しました」

 深々と頭を垂れる動作をした仮面たち。音もなく消えたそれらが、恐らく連絡を取りに行ったんだろうなと予想しながら、メニーはリレイヌを盗み見る。

 たかが一人の、謎多き人喰いに、彼女は人員を割き、これを重要案件だと言った。優先しろと。

 つまり彼女は知っているのだろうか。それとも勘づいている?

 いや、どちらにせよそんなことはどうでもいいと、少年は笑う。穏やかに、静かに、柔らかく。

 必要なのは目的を果たすこと。そのために自分は16年間生きてきた。ただ求めて。さ迷って。突き進んで生きてきた。
 今更引き返すなどという選択肢はない。あるのはただ一つ。頑固たる信念だけだ。

「……そういえば、オカーサン。ここには世界創造主がいらっしゃるんですよね?」

「会わせないよ」

 即座にぴしゃりと告げられた一言に、肩をすくめる。
 信用された訳では無いかと、メニーはただ、笑みを深めた。

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