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第23話『偽者vs偽物』

「あらあら、随分と派手に散らかしましたね」

 ゆっくりと奥から手を叩きながら歩いてくる者がいた。
 拍手で相手を褒め称えるという意味とは、どうやら異なるようだ。

 どう見てもこの状況から、相手はあの偽者だと考え一樹は言葉をぶつけた。
 
「お前が、偽教皇か?」

 現れた者の見た目は、細身で金髪の髪をし優男風の出立
で背丈は一樹と変わらない。
 純白の白いローブに身を包み、細身な体から突き動かす腕で鷹揚な態度をとるあたり余裕なのだろう。
 
「おやおや、ニンベン師に偽者呼ばわりされるとは、光栄ですね」

 すでに一樹の顔は偽教皇には割れていたようだ。

「偽者には用がない。本物はどこだ!」

 意外なことに素直に認めるばかりか自慢さえし始めた。
 
「私は歴とした偽者です。なかなか良い出来栄えでしょう?」

 人を食ったような物言いをする偽教皇に、一樹は単に遊ばれているだけだと察した。
 思わず舌打ちをし、苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめる。

「チッ……」

 ただ偽教皇は余興と考えているのか、余裕な態度は崩さず鷹揚にいう。
 
「まあ、いいでしょう。あなたは薬品作成道具として、私が拾いましょう」

「それが目的か……。断る!」

「あなたは死なない兵士を作るための道具になりますからね。それに、死んでもコキ使おうと思いましてね」

 断固なまでに一樹は、拒絶を言葉と態度で示した。

「断る!」

 とんでもない鬼畜野郎かと思いきや、嗜虐的な笑みを浮かべて、こともな気にいう。

「そうですか? 生きている間は、死なないという報酬を考えていましてね……」

「手違いで殺すのはわかっている」

「それならば、死んだら生き返らせるという報酬を考えても……いいんですよ?」

「断る!」

「死なない報酬と蘇生の報酬の両方を得られたら、素敵ですよね」
 
「外道が……」

 すると両腕を広げて、まるで親愛なる者を迎え入れるような態度で唐突にいう。

「ニンベン師さん、今日はすべてが始まる日。こんなにもよき日にお会いできて光栄です」

「今更何が言いたい」

「残念ながら、私にはよくないことが起きる日でもあるんですよね」

 良いと言ったり、よくないことが起きると言ったり忙しい奴だ。

「何を? 言っているんだ?」

「わかりませんか? でも大丈夫です。私だけが分かればいいのですから」

 一人で話し始めたかと思うと、一人で完結しまるで意味がわからなかった。
 
「ただのイカれた薬中か……」

「ありがとうございます。常識を超えしイカれた者にしか、至高の力は手に入らないですからね」

 ――本当にこいつは何者なのか。
 
 妙に雄弁に物語るそぶりは、あえて何かに誘われているような気がしてならない。

「お前を倒す!」

「いいですよ? 見せてもらいましょうか? ニンベン師の力とやらをね」

 一樹は最後のミッション、偽者(教皇)vs偽物(ニンベン師)対決に挑む。

 見た目からして魔法系が得意なのだろうと予測した。
 後方からモグーが得意の光弾を連射し、一樹はすぐに銃の引き金を引いた。

 ――なんだ!

 バレルが途中で止まり動かない。
 拡張視界には『装填不良』とアラートが表示されている。

 ――こんな時にッ!

 一樹はまだ対処ができない。
 すぐに銃を投げ捨て、一樹は紅目化で近接戦闘に挑む。

「ハッ!」

 気を入れると一瞬にして目は紅くなり、身体には紋様が浮き出してくる。
 一樹の変貌した姿を見た偽教皇は、珍しい物でも見たように感心し、珍獣を見るように目を向ける。

「ほほう……。興味深いですね」
 
 偽教皇は魔力の力なのか、その場で空中へ無造作に浮かび上がる。
 すると、手元に胴体ほどの大きさもある光の盾を作りだし、モグーの光弾をすべて弾き返す。  
 
 あまりにも素早い動きで、視界に捉えていた偽教皇の姿が一瞬ぶれたかと思うと、すでに目の前に来ていた。

 ――何ッ!

 瞬きをした瞬間に間合いを詰められてしまい、偽教皇の足が回し蹴りの軌道を縫い一樹の左の顔側面に直撃をした。

 骨が押し潰されそうな嫌な音を響かせると、真横に吹き飛び床を派手に転がりる。ようやく止まったのは先の襲撃してきた信者の遺体にぶつかったからだ。

 一体何が起きたのか、一樹は混乱していた。

 ――なぜだ!
 
 血と汗と砂埃に塗れながら、疑問の方が先に脳を支配した。

 おかしい、紅目化の状態は、身体能力のすべてにおいて常人を上回っているはずだ。
 得たばかりとはいえ、暗殺術と格闘術が組み合わさることで無類の強さを襲撃者に対しては誇っていたはずだ。

 ところが目の前にいる偽教皇は、一樹を遥かに凌駕する。

 目にも留まらぬ速さで蹴りを出しただけなく、立ちあがろうとした時にはすでに背後にいた。

 思わず一樹は吐血と同時に、息を吐き出すかのように声を出した。

「グハッ!」

 偽教皇は、まるで墓石に花を添えるかのように柔らかい動作で最も簡単に、一樹の背中の真ん中を光の槍で貫いてしまう。
 
 一樹が反撃する間もなく、すぐに偽教皇はその場から離脱をしてしまう。
 すると、離れた場所から獲物をじっくり見定める魔獣のような目つきで、一樹を興味深く観察していた。

 ――『ポショ』を。

 一樹は魔法袋から取り出し急ぎぶっかけると、みるみる内に重傷と言える負傷は修復され、いつものゾンビアタックに戻った気分だった。 

 偽教皇の見た目に惑わされるな、自身を凌駕する強者だと。脳裏で警告音が高く鳴り響く感じすらした。

 あまりの一瞬の出来事で一方的な戦いに、思わず口からこぼれ落ちる。
 
「強い……」

 偽教皇は、棒立ちの状態でゆっくりと喋る様子は、余裕そのものと言ってもいい。偽教皇は相当な強さだった。

「認めるのも実力の内ですよ? 一樹君はさらに強くなっていくでしょうね」

 モグーは視界から消えたかと思うと、すでに床に倒れていた。光の槍で貫かれたことがわかる。
 一体いつやったのかまるでわからない。あまりにも実力が違いすぎた。ただ、『蘇生薬』を飲んでいるから、あと数秒もすれば起き上がってくるはずだ。

 モグーは叫ぶ。

「うわっ!」

 蘇生は初めてだったので、モグーは驚きで迎えた様子だ。すぐさま光弾を変わらず放っていた。モグーの様子も見ていた偽教皇は、感心したようにいう。

「おや? あなた方は何か体に施していますね。非常に興味深い……」

 一樹は思わず舌打ちをしてしまう。『蘇生薬』のことを指摘されたからというわけではなく、まるで攻撃がわからなかったことからだ。
 
「チッ」

 一樹は、再び正面から瞬時に間合いを詰めるも、回避され距離を置かれてしまう。どうにかして近づいて攻撃を当てなければと、執拗に追いかける。

 ――何ッ!

 今度は右から回し蹴りのような鋭く重い一撃を喰らい左側に吹き飛ぶ。今度は光の槍が見えたので掠りはしたものの貫通までにはいたらなかった。
 
 額から汗が滴り落ちる。

 どうやって近づけばいいのか皆目検討がつかない。

 ――おかしい。

 今、たしかに正面に捉えていたはずだった。ところが逆に接近されて、真正面から腹にモグーの光弾の数倍以上もある物で撃ち抜かれて、土手っ腹に大穴が空いた。同時に偽教皇は再び距離をとる。

「ガハッ!」

 多量の吐血と共に、すぐに『ポショ』をぶっかけた。今回作成した物は最高品質を誇るもので、部位欠損すら修復する優れ物だ。なのでみるみるうちに修復されていく。

 偽教皇は、まるで素晴らしい演劇を褒め称えるかのように感嘆する。

「なんと。またすごい物をお持ちですね。実に素晴らしい」

 ――余裕をぶちかましやがって。

 一樹は歯噛みするものの、どうにも打開策がない。ひたすらがむしゃらに間合いを詰めようと、瞬間移動のように追いかけていく。
 ところが残念なことに距離が縮まるのは、偽教皇が攻めにきたときだけだ。

 攻撃がまったく当たらず、掠りすらしない。大人と子供以上の大きな差を感じていた。そこで一瞬閃く。
 
 ――待てよ、もしかすると。

 紅目化の時は、ある意味体力馬鹿になるので疲れ知らずなのはいい。ただし、攻撃速度が相手の方が上まわってしまうと、手も足も出せなくなる。

 一樹は思わず口から怨嗟のように言葉が漏れる。
 
「はやいな……」

 変わらず一樹は、偽教皇を可能な限り全力で追いつづける。そして何度目かの瞬間移動に近い動きで追いかけたとき、反対に強襲される。腹を貫かれた時と同じパターンだ。
 
 ところが今回は違った。

 確実に腹を貫かれたと思われた瞬間、偽教皇の手元から光の槍が空中を突き抜けた。
 一樹がその場から完全に消えさったのである。

「おや?」

 意外な突然の出来事に驚いた様子を浮かべると次の瞬間、苦悶に顔を歪めた。
 何もない空中から一樹の稲妻を帯びた腕だけが飛び出し腹を貫き背骨の一部を掴み引き抜いたのだ。

 当然その状態なら即死になるはずが、偽教皇はなんらかの方法で延命していた。

 空間から一樹は体も出てくると、手には背骨の一部が握られていた。
 魔法のテントを使い避難し、その場にとどまることを予見して、腕だけだしすぐに手刀で貫いたのだ。

「終わりだぜ、偽教皇さんよ?」

「ククク。まさか、そのような方法でやるとは……」

 本物を超えられない偽者は、本物を超えた偽物に負ける。
 
 そして最後にいう。

「ざまぁねぇな。本物を超えた偽物の力だ」
 
「やりますね。さすがに……避けられ……ませんでした。偽者の……完敗ですね」
 
「随分と気楽なんだな」
 
「気楽……ですよ? これから、始まり……ます……からね」

「何がだ?」

「ここは、間も無く……陥落。君とは……また……会いそうな……気が……します……ね」

「ん? お前何を言っているんだ? どう見ても死ぬだろ、その傷なら」
 
「覚え……て……おく……と、いい……でしょう。こう……いう者も……いる……とね。また……会い……ま……しょう!」
 
「何ッ!」
 
「ハレル……ヤ!」

 その最後の言葉の瞬間、目の前にいた偽教皇が盛大な光と共に大爆発を起こした。
 
 ――自爆しやがった。
 
 一樹はかなりの勢いと衝撃で吹き飛ばされる。当然モグーも同様に吹き飛んでいった。
 
「クソがあー!」
 
 閃光のような光を発して大爆発を起こす。一樹とモグーの体は壁を突き破り、その先の通路まで吹き飛ぶと意識を失った。
 
 どのぐらいの時間が経過したのか、感覚的に今の爆発でおそらくは一度死んでいる。目が覚めると同じ位置でモグーも目が覚めた。
 
 どうやら『蘇生薬』のおかげで二人とも生還できたようだ。
 モグーは涙目で嘆く。
 
「うう〜。まただよ……」

「大丈夫か? 動けるか?」

「一樹ぃ。うん、動ける」

「俺たちは生き残った。勝ちだ」

「やっと……だね」

 一樹は周りを見渡すと、二名の枢機卿の内一人だけは頭が残っていたので拾い魔法袋に収める。
 銃も偶然近くにあり回収しておく。偽教皇はどういうわけか腕一本だけしかなく、衣類ですら跡形もないのは不気味だった。

 瓦礫自体はさほどなく、ほぼ地面は見えている状態なのに、偽教皇の遺留品は何も見当たらない。

 考えられるのは、自爆に見せかけた転移をしていることだ。
 転移先では一樹の作成したポショをかければ、負傷や欠損した箇所ですら何も問題なく回復するだろう。今は、そうならないことを願うばかりだ。

 偽教皇とは打って変わり枢機卿の二名は、四肢が飛び散っていた。どうしてもこの二名と比べてしまい偽教皇の遺体がないことに不自然さを覚える。やはり転移をしたのだろうかと考えが及ぶ。

 とはいえ何かできるわけでもなく、いつまでもここにいる必要がないため、セニアたちの様子を見にいこうと方向を変えた。

「セニアたちの様子を見にいくぞ」

「うん! イコー!」

 一樹は気を取り直して、移動しながら今の戦いを振り返る。
 初めは相手が切りつけた際に、抱き寄せて相手と自身を同時に貫こうと考えていた。

 ところがそれをせず、咄嗟に魔法のテントを使うことにした。

 なぜなら貫くまでの間は、相手が貫かれると勘づいてしまう。あの素早さなら隙をつけないと思い、一樹は直前で戦法を変えたのだ。
 魔法のテントなら意外性だけで、初見だと押し通せると考え実行したのは正解だった。

 ただしこの手は、二度は使えない。
 どこで消えたかを覚えておけば、その場に行かなければ接近することがないからだ。さらに実態を知れば出てきた瞬間を狙い撃ちにされてしまう。

 瓦礫で埋もれていない通路を外へ向けて走り抜けると、屋外ではセニアとエルザもちょど出てきたところだった。
 傍にいるのは本物の教皇だろうか。セバスも全身包帯だらけの状態でいた。

 一樹は、合流すると開口一番伝える。

「枢機卿たちは倒した。偽教皇は、最後に自爆をしやがった。せバスは大丈夫なのか?」

 セバスは面目なさそうな顔つきをすると、すぐに一樹たちへ頭を下げていう。

「心配をかけ申し訳ございません。この通り逃げる分には支障がございません」

 するとセニアはいう。

「ちょっと、こっちに二人もいたから驚いたわ。でも両方まとめて救出できたのは僥倖ね」

 そこで一樹は、ため息まじりにいう。
 
「こっちは戦ってばかりだったけどな」

 セニアは仕方ないでしょと言わんばかりの顔つきだ。
 
「まずは、ここを出ましょう。地下ギルドのギルマス部屋へまずは向かいましょ」

「ああ。わかった」

「うん」

 こうして一樹たちは無事、本物の教皇とせバスの救出に成功した。
 ただ、桐花を失ったことで心のどこかが寂しさを覚えていた。
 

 

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