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第13話『うまくイキスギ君』1/2

 魔法のテントの機能を粗方把握した後、さっそく一樹とモグーはダンジョンへ突入した。
 すでに夕暮れに差し掛かり、辺りは暗くなりかけていたときだった。ウキウキしながら二人はいつもの初心者用ダンジョンへ向かう。
 
 ――旨い。

 ダンジョンに突入してから一樹の思うことだ。
 まだまだ浅瀬とも言える十層ぐらいまでなら、繰り返しボスを倒せる。方法はシンプルに、紅目化して短剣で傷つけた後で一気に吸うことにより数分で倒してしまう。少しだけコツか必要なのは、傷口を作った瞬間に吸うタイミングを
 逃さないことだ。

 大きなポイントは、相手は倒された内容を覚えていないらしく、何度も同じやり方で倒せるのは非常にお得だ。
 一つだけ残念なことは、脳分解はシロクマではできないことだった。

 ――脳ミソもったいない……な。

 とはいえ、シロクマなどの魔獣以外の人であるなら、脳を分解して『経験の書』を作れる可能性が高い。そのお陰で、他者が必死に獲得したスキルを、一瞬にして自身に馴染みある状態で獲得できるのは熱い。
 やっぱクラフターとしては作る努力をしても、使う努力は別の者がして、それを拝借する方が一番効率もよく早い。

 今のところ人に対してしか、脳分解が成功できていない。

 ならば今後は、定期巡回をしようと思う場所がある。それは、断頭台だ。
 近くで魔法のテントをはり、定期的に転がる頭を確認しようとさえ、思っている。
 そう思い始めたのは、ダンジョン内の魔獣ではうまくいかないからだ。今のところなぜか『経験の書』の作成に失敗が続く。しかも失敗すると、銀色の粒子となって消えてしまう。
 まだ可能性は残されていて、試していない奴らがいる。それは、人型の魔獣だ。戦闘には不慣れではあるものの、非常に楽しみと思わずにはいられない。
 
 ――こりゃたまらんね。うははは。

 それにしても人がいなく、一樹が独占している状態だ。これだけダンジョンがあれば、たしかに探索者は分散されるだろう。とくにここのダンジョンは、あまり特徴という物が見られなく不人気なのも理由かもしれない。
 ここにくるやつが稀なのか、それとも他の連中は旨くないと考えているのか誰も来ないため、今の独占状態を一樹は謳歌している。

 倒すと、十分ほどの沸きまちの状態で、ボス部屋から追い出される。待ち時間は、ボス部屋の修復時間だ。どれほど破壊し尽くしても、わずか十分で元通りなのは、なんとも超越した力だと思ってしまう。

 なので一時間につき三回倒し、かれこれ六時間、ぶっ通しで倒しまくっている。
 十八回も倒せばもう作業に近く、それなりの物がドロップして、アイテムも貯まってくるし腹も減る。

 そういえばダンジョンに向かう途中、ギルドに立ち寄りまとめて『ポショ』を納品してきた。しばらくは在庫があると願いたく、一樹の製作努力からして思うだろう。
 飛ぶように売れているようで、今では一人あたり買える個数を制限していると聞く。どこかのゲーム機を転売する輩のように、幅を利かせるような状態にはなっていない。早い者勝ちにすると、苦情処理で大変になるほどギルド運営に支障をきたすらしい。そうならないように、一人当たりの個数を制限しているそうだ。

 いやはやここまで売れまくると、クラフター冥利に尽きる。
 納品と同時に、追加納品を催促されるほどなのだ。ある意味生存率が高ければその分、ギルドは資源で潤うし、皆がWINーWINになる。良いことづくめだ。ただし教会と冒険者ギルドは省かれる。
 
 どうやら本家は、開店休業の閑古鳥らしい。
 まるでダメな店、通称『まる〆』と最近じゃ、からかわれているようだ。閉めるのと〆をかけ合わせは皮肉がきいている。

 まったく売れない本物は、今では詐欺とぼったくり呼ばわりだ。
 手のひら返しには驚くものの、一樹の品が安すぎるのか、そこはなんともいえないところがある。けれども、より多くの人の手に渡り、利便性と品質が認知されれば日常の必需品になり、引く手あまたになる。
 いわゆる大量消費型のアイテムにして、どんどん使って貰えば、自然と日銭が多くかせげるわけだ。たまに使う一回より、常時使い続けられる価格と品質が市場を席捲したわけだ。

 ――うはははは。ぶっちゃけ、笑いが止まらないとはこのことだ。

 だからと言って油断はできない。一樹はまだ教会と冒険者ギルドから、賞金がかけられたままだからだ。ほとんどの奴らは、一樹が嫌がらせを受けていると理解している。
 それもそうだ、こんなにも安価で便利な物が作れる人を排除しようなんて輩は、それこそエグイ連中だとしかみていない。

 そういう意味では購入者の皆が味方ではあるものの、面と向かって相手側と対決する姿勢は見せない。なぜなら、探索を生業にしている連中らは、日和見主義でもある。
 なかなか難儀なのは、本気で賞金を狙う賞金首稼ぎがいるのは生きていく上で見逃せない。

 最悪なニュースは、さらに賞金が追加されたのはいうまでもなく、生死問わずとなれば有象無象が湧いて出てくる。
 また厄介なことになりそうだと、一樹でも事態の悪化がわかる。

 取り合えず今は、魔法のテントが安全で唯一の救いだ……。
 さて、今後はどうしたものやら。

 その頃、教会本部では……。

 本部の広々とした広間は、五十人程度は入れそうな広さと白い壁に囲まれている様子は、静謐とした雰囲気を滲ませている。

 教皇の背には、色とりどりのステンドグラスは鮮やかにもかかわらず、繊細さで厳かな雰囲気を見せる。天井にまで到達するほどの大きさであり、月の光が冷ややかに差し込んでいた。
 
 その光の中には、白いローブを纏い二十代前半かと思われる若い金髪の優男風の者がいた。その者は、今世稀代の実力者と言われている若き教皇だ。男はベールで顔を隠したまま、相対する冒険者ギルドのギルドマスターへ、何やら立ったまま質疑を続けていた。

 口調は穏やかであるも、事態はまったく穏やかでない。
 
「同士、ネイゼラスよ。これは如何なる事態なのか……。詳しく説明してくれるのか?」

 冒険者ギルドのギルドマスターは、ほぼ土下座に近い形で四つん這いになっていたのは、謝罪と敬虔なる信徒であることを示すためと、危機迫る思いだからだろうか。普段の悪人ずらがここばかりは、情けなく大きく眉を下げて必死に弁解をしようとしていた。
 
「はっ! 閣下。これというのもすべて、あのニンベン師の策略でございます」

 言葉通りに、ありのままの事実を確認しようと、聞く姿勢を教皇は見せていた。
 
「策略? ですか?」

「左様でございます。大幅に価格を安くし、我々の価格を破壊しにきただけでなく、我々の品が粗悪品だと吹聴して回っております」

「たった一個人の吹聴が、そのような影響を及ぼしますかね?」

 教皇の言うことは、誰が聞いてももっともだった。冒険者ギルドのギルドマスターのネイザラスは、額から滝のように汗を流しながら、必死に答弁をし始める。

「はっ! 製作者本人の口からとなれば、より信憑性は増すかと存じます。さらに悪いことに、購入者は味方となり、賛同する者が止まりません」

 口から出まかせにすぎなかった。地下ギルドのギルドマスターですら、何度問いただしても、誰が作成者か口をつぐみ、あくまでも不明で代理販売だけしている姿勢を貫く。

 ただ教会にしてみれば、そのようなことは瑣末なこと。起きた物事に対して、何をどうやったのか、その行動の事実確認をしただけなのだ。結局は問題解決に向けて、ネイザラスが何をしたかが重要と考えていたのだ。

「なるほど。その事態に対して、ネイザラスは何をしてくれましたか?」

「はっ! 賞金の増額と一部の者を使い、負傷したことの吹聴を始めております」

「結果が今の状態ですか?」

「一部では理解が広がっております。しかしながら、すべてに浸透するには時間が必要です。なぜなら、人の口づてに理解を深めるには、見えない時間がかかります」

「たしかにそうですね。他に、|間《・》|違《・》|え《・》|て《・》伝え損ねた理由はありますか?」

 教皇はさらに問いただした……。

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