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第5話ガチオタキモニート、大河原先生に会う

久しぶりに秋葉原に来た。

高校卒業まで、大阪に住んでいた俺は、有難い事に日本橋のオタロードでオタ活を楽しめていた。
それでもやっぱり秋葉原はワクワクする。

何故ならオタロードよりも変な人が多いからだ。
ここに来ると俺はまだ、まともなオタクなんじゃないか。と錯覚できるから好きだ。

今日は土曜日という事もあり、かなりの人がいた。
大学は休み、漫画のネタは浮かばない
そうなると秋葉原に来るしかない。
だって俺ガチオタだし、どって俺キモニートだし。



秋葉原へ来たのには理由があった。
俺が今ハマっている漫画"いちごスムージー100%"の新刊発売日だからだ。
さらにはゲーマーズで購入すると、作者の大河原奏多(オオカワハラカナタ)先生の直筆サイン会に参加できる。

俺は駅からゲーマーズまで超ビッグスキップをしながら向かった。

普段良いことがあっても、生活圏内でスキップなんてしないが、ここ秋葉原では、むしろスキップしてない奴のほうが異常者なのである。

ゲーマーズはすでに長蛇の列。
ギリギリ整理券を貰うことができた。
「ッッシャアーーーーーーーー‼︎‼︎」
パッキパキにキまった目をして、変な声を上げてしまった。
でも気にしない。
そう。何故なら秋葉原はそういう街だからだ。

すると俺の前にいた
デブでちょっと臭くて、なぜかダウンジャケットを腕まくりしてる奴が話しかけてきた。

「き、ききききき君はサイン会初参戦かな?」

あ、何だこいつ、さすがに俺も気持ち悪いと思った。
ていうかなんで臭いんだ。絵の具に漬け込んだハンバーガーみたいな臭いがする。
え、こわい、なにこいつ。ていうかダウンジャケットって肘の上まで捲れるんだ。

「は、はい!初参戦であります!!」
俺もたいがい気持ち悪かった。

「お、おおおおれはねー、も、もう、大河原先生と会うのは5回目なんだ」
めちゃくちゃ誇らしい顔でそう言った。
手に持っていたサイン会のフライヤーは何故かぐちゃぐちゃだった。
いるよな、学校で配られたプリントを何もしてないのにグチャグチャにしちゃうやつ。
きっとそのタイプだ。

でも素直に羨ましかった。
「す、すごいですね!俺初めてお会いするので昨日は眠れなかったんです!」

「んーーーわかる。わかるよ。坊や。俺なんか今年で22だけどね、やっぱり前日は眠れないよ」

22歳という事に一瞬、驚いた。
本当に一瞬だけ"え、うそ!22?!その若さで、その頭のベタつき?!ちょ!えええ!"
という顔をした。本当に一瞬だけ。
嘘じゃないよ。本当に一瞬だから。

すると俺のスマホに着信が入った。
相手はリリカさんだ。

「美幸くんどこー??なんかめっちゃ並んでるんだけど!すごっ!」
電話越しに声を聞いていたが、列の後ろから、リリカさんの声がした。
おれは電話を切って、恥ずかしそうな顔をしながら小さく手を振った。

「あっ!いたいた!おーい!!」
そう言いながら小走りで駆け寄って来た。

はっきり言って女神だ。
ミロのヴィーナス?ニケの彫刻像?いや、リリカさんだ。
リリカさんは芸術作品だ。
秋葉原の豚共。見よ。これが女神である!

「めっちゃごめん!バイトの早番ちょっと延長なっちゃってさーー」

22歳のデブがガクブルしている。
「え、え、え、し、少年、彼女はいったい??」
すごい量の汗が出ていた。

「ん?わたし??んーーー美幸くんの友達?なのかな??」
顎に人差し指を当てて、首を傾げながら俺を見て来た。

「と、友達っていってもいいのかな?」
前回も話したが、俺は中学校の時、鎖を腕に巻いて、クラピカというあだ名を付けられるくらいには気持ち悪かった。
もちろん女子の友達もいない。
なので女友達の基準が全くわからないのだ。


「あ!そうだそうだ!友達じゃないわ私たち!」

違うらしい。それはそれでなんか、うん。

「ヒロイン!そうそう!私は美幸くんのヒロインだよ!」
そう言う時のリリカさんは俺の肩に肘を置いて、豊満なおっぱいを少し腕に当ててきた。
俺はその低反発枕のような沈み込む感覚に、ただただ、感嘆のため息を漏らした。


そしてパーっとした表情でリリカさんは俺とデブを交互に見た。

その一連をみていたデブはすごく羨ましい顔をしていた。
「お、おおお…!そうなのか!しょ、少年のヒロインか!お、おおおお、おれもいるからね!ていうかみんないるよね!ヒロイン!
俺なんかめっちゃいたわヒロイン!100人のヒロイン達が俺を巡って最後の1人になるまで戦ってたくらいにはいたわヒロイン!」

こう言う時、負け惜しみのオタクは本当に気持ち悪い。オタクの俺でもそう思う。
あと、100人で戦う設定な辺り、ガッシュが好きなんだろう。
そしてこのデブはキャンチャメ最強説を唱えてるタイプだ。
あとティオで抜けるタイプの変態だ。




リリカさんは、この日恐らく秋葉原で1番可愛かったんだと思う。
コンカフェ嬢やメイドさんがたくさんいる場所だが、それでも一際可愛かった。
ゲーマーズの列に並ぶオタク達全員が、急に身なりを整え出すほどには可愛かった。


そしてサイン会はデブの番に回ってきた。
「で、では!お、おおおおお先に…!」

そう言って振り返ってきたデブはやっぱり臭かった。こいつリリカさんの可愛さでちょっとイッただろ。と思うくらいには香ばしい臭いがした。

「ねぇ、美幸くん、ところでこれなに?」

「え、昨日話したじゃん…」
俺はびっくりした。
昨日の公園で
"明日は好きな漫画家さんのサイン会がある"
と伝えたら
すごく乗り気で
"行きたい行きたい行きい!"
と言っていたからだ。

「あー、正直テキトーに聞いて、テキトーに返事したなー私、あはははは」
そう言って頭をぽりぽり掻きながら笑っていた。

もういいや、可愛いからなんでもいいや。



「美幸くん!順番だってさ!」
ついに俺の番が来た。
大河原先生は、顔出しなど一切しておらず、不定期で行われるサイン会でも、写真がNGなのだ。

すごく面白いラブコメを描く先生だ。
そういう時は決まって髭デブで頭にタオルを巻いたメガネのおじさんなのだ。



「こ、この度…は!い、い、いいい、いちごスムージー100%を、お、おお、お、お買い上げいただき、ありがとうございまシュッッ!…あ…ありがとうございま…す!」

そこに居たのは大河原奏多くんでも、大河原奏多さんでもない。大河原奏多ちゃんだった。
大河原先生は紫のような青のような、何とも言えない綺麗な髪色で、大きなメガネをかけており、いちごのピン留めが前髪にしてある。
間違いなく巨乳だろ。と言わんばかりに
羽織っているグレーのジップパーカーはチャックが閉まり切っておらず、もう何年も履いてるんだろうな。というくらい色落ちしたボロボロのデニムを履いていた。
靴は泥だらけのコンバース。
なんだか俺と同じ臭いがする。

「あ、あのー…」
大河原さんがおれの顔を覗き込み、そう言った。


俺はまさかの大河原奏多ちゃんという事実に固まってしまっていた。

「あ、すみません!その、あの、なんというか…!」

女子と話す機会があまり無かった俺は
"先生は女性だったんですね!名前が男性なので!てっきり!テヘッッ!"
とか言っても良いのかすごく考えてしまった。

「ちょ!うっそ!大河原奏多先生って女の子だったんだー!!めっちゃ可愛い!!!
お肌とか超ツヤツヤー!!」
リリカさんはパーっとした表情でズカズカと言った。



うん、やっぱすげえわ。ギャルすげぇわ。
もうなんか怖い。




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