312章 サクラのわがまま
4人でご飯を食べる。メニューは白米、目玉焼き、豆腐のお味噌汁。一般家庭における、ごくごく普通の食事が並んだ。
4人でいただきますをしたあと、豆腐の味噌汁を啜った。
「アカネさん、味はどうですか?」
「はい。とってもおいしいです」
おかあさんならではの、とっても優しい味がする。アカネは子供のころを思い出し、涙腺は緩むこととなった。
カスミは料理をべた褒めする。
「サクラちゃんのおかあさんは、料理の天才ですね。私もこんな味を出せるようになりたいで
す」
あんなに褒めているのに、嫌味に感じなかった。人間性というのは、言葉にも影響をもたらすようだ。
「カスミさん、ほめすぎですよ」
サクラの母親は、照れた顔をしている。いくつになっても、褒められるのは嬉しいようだ。
サクラはどういうわけか、不満な顔を浮かべていた。
「サクラちゃん、どうしたの?」
「白米、目玉焼き、豆腐の味噌汁ばかりじゃない。たまには、肉、魚などを食べたいよ」
おいしい料理も続くと、マンネリ化になる。メニューを変更することで、目線を変える工夫は必要だ。
「サクラ、地震の影響で経営は苦しいの」
地震で被害に遭うと、外食、宿泊費を真っ先に節約される。宿屋の経営は、非常に苦しいと思われる。
「地震復興のお金をもらえるまで、お肉、魚などは我慢しなさい」
弱者に冷たい街に、地震復興金は存在する。不思議な感覚をおぼえることとなった。
「地震復興金はあるんですか?」
「地震復興金=付与金です。付与金を収める人がいなければ、1ゴールドももらうことはできません」
付与金はどれくらいかなと思っていると、カスミが金額をいった。
「復興付与金は最高で1000万ゴールドです。被害の状況に応じて、金額は減らされます。私の場合は、100万ゴールドくらいと聞いています」
復興はすぐに終わったため、大幅に復興付与金を減額されたようだ。
「100万ゴールドもあれば、1年間は余裕で生活できます。私にとっては、十分すぎる金額です」
土地代を免除されたことで、楽な生活を送れるようになった。付与金のもたらした効果は、絶大といえる。
サクラは食事に納得していないのか、人前で駄々をこねていた。
「お肉を食べたい、お魚を食べたいよ・・・・・・」
「セカンドライフの街」の肉、魚は結構な値段だ。金銭に余裕のないときは、手を出すのは難しい。
サクラの母親は、駄々をこねる子供を叱った。
「サクラ、ご飯を食べられることに感謝しなさい」
アカネがやってくるまでは、バナナ、飴だけを口にしていた。米を口にできたのは、ごくごく
一部の上級国民だけ。サクラの母親は、そのことをよく知っている。
「お肉を食べたいよ、魚を食べたいよ・・・・・・」
6歳くらいの女の子に、理解させるのは難しい。母親、子供の意見は平行線をたどる確率は高い。
「サクラ、いい加減にしなさい」
「肉を食べたいよ、魚を食べたいよ・・・・・・」
カスミは箸を止めると、サクラのほうに視線を向けた。
「サクラちゃん、ご飯を食べられることに感謝しよう。アカネさんがやってくるまでは、バナナ、飴しか食べられなかったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。満足なご飯を食べられる家庭は少なかった」
サクラは豆腐を見つめる。
「豆腐くらいは食べられたんじゃないの?」
カスミは静かに首を横に振った。
「そんなことないよ。バナナ、飴以外は食べることすら許されなかった。住民の生活は圧迫して
いたんだ」
サクラは頷いたものの、意見を変えることはなかった。
「お肉を食べたいよ、お魚を食べたいよ」
サクラの母親は大きな溜息をつく。
「サクラ、わがままはダメだよ」
「わがままじゃないよ。人間としての権利を主張しているんだよ」
6歳前後とは思えないほど、難しい言葉を知っている。植物状態になったときに、大量のエネルギーを詰め込まれたのかもしれない。