254章 毒沼
テオスに連れられて、巨大な沼にやってきた。広さでいうなら、日本の北海道くらいである。
「正常化してほしいのは、ここの沼となります」
沼の色は紫色で、いかにも毒沼という感じだった。水を飲んだ瞬間に、絶命の道をたどることになる。
毒物無効のスキルを所持しているものの、口にしてみたいとは思わなかった。透明色でなければ、水を飲みたいとは思わない。
飲み水以外の用途においても、使用する気になれなかった。紫色の水をかぶるくらいなら、24時間連続で雨に濡れたほうがましだ。
「アカネさん、魔法でどうにかできそうですか?」
「とりあえずやってみましょう」
水を正常化する魔法をかけると、紫色だった沼は透明色に変化する。見た目だけでいうなら、通常の水と同じである。
テオスは水がきれいになったことに、瞳をうるうるとさせていた。
「アカネさんの魔法はすごすぎますね」
水はきれいになっても、成分がそのままということもある。色だけを変化させても、意味をなさない。
「色はきれいになりましたけど、飲み水、日常生活で使用できるかはわかりません」
「アカネさん、水を飲むことはできそうですか?」
「私が飲めたとしても、安全を確かめることはできません」
人間を瞬殺する青酸カリを飲んでも、体に異変を感じることはない。アカネのような人間では、水が安全なのかを確かめるのは無理である。超能力を持っていることによる、数少ないデメリットといえる。
「それなら、水の成分を確かめることはできますか?」
水を飲むことはできなくても、成分を分析することはできる。
「はい。それならできます」
「アカネさん、分析魔法をかけてください」
「わかりました」
分析魔法を使用すると、水の成分が細かく表示される。
「私に見せてください」
テオスは成分の一つ一つを確認する。10000種類もあるだけに、分析には時間がかかりそうだ。
テオスは10000種類の成分を、10秒足らずで分析した。彼女の処理能力は、髪にふさわしいレベルに達している。
「生き物に危険をもたらす成分は、含まれていないようです。アカネさん、ありがとうございます」
猛毒沼を数秒で正常化する。レベル999というのは、とんでもない力を備えている。
「水質を維持する魔法をかけます」
時間の経過とともに、水質は悪化していく。維持魔法をかけることによって、100年後、200年後も同じ状態を維持できる。
「維持魔法をかけ終わりました。100年後、200年後も問題ないでしょう」
「アカネさん、ありがとうございます。次のところをお願いできますか?」
水の正常化は一カ所だけでなく、多数に及ぶようだ。仕事は長期戦になりそうな予感がする。
アカネは4日ほど、一睡もしていない。睡眠いらずではあるものの、少しだけ眠りたい気分だった。