223章 極端な依頼
「アカネさんに、仕事の依頼があります」
夜の仕事をしているのに、昼の仕事を依頼するとは。マツリという女性には、常識の2文字はないのだろうか。
心の中の負の感情を沈めてから、マツリに話をする。
「どんな仕事ですか?」
「街の防犯強化です。住民が安定した生活を、送れるようにしていただきたいです」
殺人未遂、放火などが起きている。防犯体制については、強化する余地はありそうだ。
「どのようなことをするんですか?」
「犯罪者感知マシーンを設置してください」
「犯罪者感知マシーン?」
「はい。犯罪を起こしそうになった人を、感知するマシーンです」
「犯罪を起こそうとしている人ですか?」
「はい。事件が起きる前に、未然に防ぎたいです」
事件を犯したではなく、犯罪を起こしそうな人を感知するのか。これについては、行き過ぎている印象をぬぐえない。
人間は衝動的に、他人を殴りたい、罵りたいという感情になることはある。好きな女の子に抱き着きたいと思うことだってある。悪いことを妄想することもある。行動に移すのはNGだけど、心の中で思うのは自由だ。
「犯罪者感知マシーンの設置に関する、集計をします。住民の大半が望んでいるのであれば、マシーンを設置します」
「どのようにして集計を取るんですか?」
「住民に対して、賛成、反対の本音を読み取ります」
「そんなことができるんですか?」
「普段はやらないけど、今回は特別に使用します」
人の心を盗むと、社会で生きるのは難しくなる。普段はその能力を、完全に封印している。
3分ほどで、集計は完了する。
「賛成3パーセント、反対97パーセントですね。これでは、設置するわけにはいきません」
犯罪者感知マシーンを望むのは、33人に1人くらいの割合である。大多数は犯罪者感知マシーンの設置を望んでいない。
「反対多数なので、依頼を却下します」
33人に1人とはいえ、極端な発想を持っている人間がいる。賛成者が要注意人物になる確率は高そうだ。
「わずかな人間のために、大多数を犠牲にする発想はありえないです。そんなことをしたら、社会は回らなくなってしまいます」
マツリは小さくうなずくと、家からいなくなった。