206章 救出
炎の勢いはかなり強く、たくさんの家を巻き込んでいた。
燃え上っている炎から、かすかな灯油のにおいを感じとる。犯人は火を放つ前に、灯油をまいたようだ。
灯油をまいたのは、犯人の強固な殺意を示している。放火犯は被害者に対して、計り知れない恨みを持っていることになる。
17くらいの女性が、アカネに近づいてきた。
「アカネ様、子供を助けてください。5歳くらいの子供が、家の中に置いてきぼりになっていま
す」
子供は助からないと思っているのか、頬から透明の液体が零れ落ちる。
別の女性が近づいてくる。こちらは15~17歳くらいだった。
「アカネ様、私の子供を助けてください」
声がかすんでおり、憔悴しきっているのが伝わってきた。
母親の一人が子供を助けるために、炎の中に飛び込もうとする。自分が犠牲になっても、子供を助けようとするのは、母親としての本能なのかな。
「やめてください。親が死んだら、子供は悲しみます」
子供だけが取り残されたら、ゲームセットとなる。
「でも、でも・・・・・・」
「私が救ってみせます」
先に氷魔法を唱えると、家の中にいる子供が凍死しかねない。鎮火をする前に、家の中にいる子供を安全なところに避難させる必要がある。
「家の中を確認してきます」
火の中に飛び込むと、周囲から大きな悲鳴が上がることとなった。
「アカネ様、アカネ様、アカネ様・・・・・・」
10000度以上の高温に耐えられるため、特に問題はなかった。超能力というのは、こういうときに非常に便利である。
一つ目の家に入ると、誰もいなかった。この家は留守のようだ。
二つ目の家に入ると、小さな男の子を発見する。アカネはワープの魔法で、安全なところに避
難させた。
三つ目の家には、誰もいなかった。
四つ目の家には、小さな女の子を発見。瞬間移動の能力を使用して、女の子を避難させる。
五つ目の家には、誰もいなかった。
六つ目の家には、20歳くらいの女性がいる。こちらも瞬間移動の魔法で、安全な場所に移動さ
せる。
七つ目の家から、一〇個目の家には誰もいなかった。
逃げ遅れた人間を救出したので、鎮火の作業に取りかかる。
周囲の人間に氷魔法が当たらないよう、バリアをはることにした。これを怠ってしまうと、と
んでもないことになりかねない。
バリアをはったのち、氷魔法で鎮火させる。レベルアップしているからか、0.1秒とたたないうちに火の気はなくなった。
焦げた家を元通りにするために、修復の魔法を唱える。家はすぐさま、元の状態を取り戻す。
バリアをはったままでは、家に住むことはできない。氷を防いでいた、バリアを解除することにした。
やるべきことを終えると、みんなの前に姿を見せる。
「アカネ様・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・」
「アカネ様、体は大丈夫ですか?」
何事もなかったかのように、元気な声を返す。
「はい。大丈夫です」
18歳くらいの女性は、目の前であったことを受け入れていなかった。
「あの火の中に入ったら、通常は即死ですよ。生きていることが、ありえないです」
アカネは自分の能力を説明する。
「10000度を超えても、体はびくともしないんだ。これくらいの温度なら、熱すら感じないレベルかな」
魔物退治をしていたとき、超能力のすごさを知った。どんなことがあったとしても、体がダメージを負うことはない。
「魔法を使えるだけでなく、熱などにも強いんですね」
「そういうことになりますね」
アカネのところに、母親が近づいてきた。
「子供を助けていただき、本当にありがとうございます」
子供は恐怖が消えないのか、おかあさんに泣きついていた。
「おかあさん、怖かったよ」
母親は子供の名前を呼んでいた。
「ヒロオ、ヒロオ・・・・・・」
4歳くらいの女の子も、母親にしがみついていた。
「おかあさん、おかあさん」
「ミコ、よく耐えたね」
アカネのところに、20歳くらいの女性が近づいてきた。
「アカネさん、ありがとうございます」
「どういたしまして・・・・・・」
女性のところに、8歳くらいの女の子が近づいた。
「ママ、助かったんだね」
「うん。アカネさんが助けてくれたよ」
小さな女の子は、律儀に頭を下げる。8歳とは思えないほど、完成度が高かった。
「アカネさん、本当にありがとうございます」
「おかあさんとしっかりと生きてね」
「はい。おかあさんと生きていきます」
子供が家に戻ろうとすると、母親は声をかけていた。
「サラ、住むところを変えよう」
「どうしてなの?」
「ここに住んでいると、メンタルが壊れそうだから」
命は助かったとしても、心の傷は残ったまま。母親は前に進めるのだろうか。