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デラマンモスパオンを求めて その5

 チウヤゲレンデに遊びに来ている僕達は、夕方までゲレンデで遊んでいました。

 雪合戦にソリ遊び、みんなで雪だるまをつくったりして雪遊びを満喫した僕達は、みんな笑顔で宿へと戻っていきました。

 そんな中、
「さ、みんなゲレンデでいっぱい汗をかいたでしょう? すぐにお風呂に入って汗を流すのよ」
 そう言いながら、フク集落の子供達を集めていたのはファラさんでした。
 
 いつもおもてなし商会ナカンコンベ店では眼鏡の奥から眼光鋭く相手を睨み付けて、取引を持ちかけてくる数多の商会の皆さんを震え上がらせまくっている『おもてなしの雷龍』ことファラさん。

 ……そんなファラさんなのですが……

 今のファラさんは、その顔に温和な笑顔を浮かべながら子供達を両手で集めておられます。
 目尻が下がって、ほんと嬉しそうな笑顔のファラさん。

 僕も、こんなファラさんははじめてみる気がします。

 そんなファラさんは、フク集落の子供達をまとめると
「じゃあ、私達はちょっとお風呂に行って来ますわ」
 そう言うと、みんなと手をつないで部屋を出て行きました。

 子供達も

「ファラお姉ちゃん、一緒にお風呂入ろうね!」
「お背中洗ってあげる!」

 ファラさんに向かって満面の笑みを浮かべながら、その周囲に集まりながら移動しています。

 ファラさんは
「えぇ、一緒にお風呂にはいりましょうね。背中もあらってくださいな」
 そんな子供達の言葉に、1つ1つ丁寧に返事を返しながら笑顔を浮かべ続けています。

 ……その笑顔を見ていると、なぜファラさんが未だに独身なのか理解出来ないといいますか……少なくともファニーよりは先にいい人が出来ていてもおかしくないと思ってしまうんですけどねぇ……

 で

 僕達も、そんなファラさん達の後を追いかけるようにして、お風呂に向かっていきました。

◇◇

 この宿には温泉が引き込まれています。
 スアが、この宿を修理した際に、このお風呂も修理してくれたんですけど、宿として一般開放することが決まったもんですから、魔法でかなり大きめに改装し直してくれているんです。

 ですので、前回僕達が利用した時よりも、お風呂はかなり大きくなっています。

 パラナミオやアルト、ムツキ達は僕と一緒に入りたがったんですけど……大浴場でそれはちょっと……ですので、僕はリョータと一緒に男風呂に入っています。

 フク集落の子供達の中にも男の子がいるんですけど、その子供達は人種族換算でもまだ5歳に満たない子供達ばかりなもんですから、全員ファラさんと一緒に女風呂に入っている次第なんですよ。

「パパと2人もいいもんですね」
 僕と一緒に湯船につかりながら笑顔を浮かべてくれているリョータ。

 その笑顔はありがたいのですが……毎晩、パラナミオやアルト、ムツキ、それにスアと一緒にお風呂に入るのが当たり前になっているせいでしょうかね……ちょっと寂しい気持ちになっている僕だったりします。

◇◇

 お風呂を終えた僕達は、食堂で夕食を食べました。
 希望すれば、部屋に持って来てもらえるんですけど、食堂がどんな感じなのかも見ておきたかったんですよ。

 おもてなしゲレンデ宿には、結構な数のお客さんが宿泊なさっているみたいでして、夕食時の食堂は8割近い席が埋まっていました。

 僕達の席は、クマタンゴさんが予約席として確保してくれていたので心配なかったのですが……まさかこんなにたくさんのお客さんがいるとは思っていませんでした。

 ちなみに……

 今日の最終の定期魔道船があと一時間ほどしたら到着するんです。
 定期魔道船の最終便を、若干遅くしたおかげで、
「せっかく来たんだし、定期魔道船までもう少し時間もあるみたいだから、食事も食べて帰ろうか」
 そう思われるお客様が結構増えているみたいです。

 食堂の一角は窓壁になっていますので、そこからゲレンデの雪景色を堪能することが出来るようになっています。

 その展望のおかげでしょうね。
 窓際の席はすべて埋まっていまして、窓に近い席も軒並み満席状態になっていた次第です。

 そんな中、出て来た料理は、デラマンモスパオンのお肉を使ったお鍋を中心にしたものでした。
 このデラマンモスパオンの肉は、今、ここを根城にして狩りをおこなっているイエロ達が狩ってきたものです。

 料理をしてくれているのは、辺境都市ブラコンベのおもてなし食堂エンテン亭で働いている猿人四人娘の1人チョキーナなのですが……うん、さすがですね。
 味付けといい、盛り付けといい、かなりのものです、はい。

 パラナミオ達も、
「パパ、これすごくおいしいですね!」
 満面の笑みを浮かべながら料理を口に運んでいます。

 その途中で、

「あ、でも、パパの料理の方が美味しいですよ、本当ですよ」
 必ず、一言加えてくれるパラナミオなんですよね。

 ホント、優しい女の子に育ってくれていて、僕としても感無量なわけです、はい。

 そんな我が家の横では、ファラさんを中心にして、フク集落の子供達が食事をしているんですけど、
「ファラお姉ちゃん、美味しいね」
「ファラお姉ちゃん、これ食べる?」
 子供達が嬉しそうに笑顔を浮かべながらファラさんに話しかけながら食事をしているんです。

 で、

 それを受けたファラさんも、
「えぇ、ホントに美味しいわね。ふふ、気持ちは嬉しいけど、それはあなたがいっぱい食べて大きくなるんですよ」
 その顔に笑顔を浮かべながら、優しい言葉を子供達にかけていました。

 なんか、その一角から、幸せオーラが発生しているように感じてしまうほどだった次第です、はい。

◇◇

 食事を終えたのと時を同じくして、イエロ達が狩りから戻ってきました。
 雪山ですからね、日が暮れる前に戻って来ているあたりは、さすがイエロだな、と思った次第です。

 剣の腕が相当なイエロですけど、だからといって無理をしていいわけではありませんからね。
 それに、イエロは一人ではなく、おもてなし狩猟部門のリーダーとして数人を率いているわけですから。
 そのあたりもしっかり自覚して行動してくれているんだな、と、思った次第です。

「今日も大量だったでゴザルよ!」
 満面の笑顔で魔法袋を手渡してくれたイエロ。

 その中身を確認してみると……今日は15頭ものデラマンモスパオンが収納されていました。

「うわ、さすがイエロだね」
 僕がそう言うと、
「今回は拙者やセーテンだけの成果ではござらぬ。新人達も頑張ってくれたでござるよ」
 イエロはそう言いながら、同行しているコルミナ・チハヤス・ドナーラを指さしました。

 採用してまだ間もない3人ですけど、すでに戦力になっているようですね。
 
 マキモ達10人姉妹も、魔王ビナスさんの研修を順調にこなしているみたいですし、今回の新人さん達はちょっと期待出来そうです、はい。

 僕が元いた世界では、新人さんを雇用してもすぐに辞めてしまうなんてことがよくあったわけですが、まさか異世界にやってきても同じことで悩むことになるなんて思っていませんでした。
 この調子で、いい店員さんが集まってくれることを願ってやみません。

 そんな感じで、イエロ達としばらく話をした後、僕達は定期魔道船にのってガタコンベへ向かって戻って行きました。

 スアの転移魔法で戻ってもよかったんですけど、せっかくなので定期魔道船の様子も見ておきたかったんですよ。

 その定期魔道船ですが……

 かなりの数のお客さんが利用なさっていました。
 そのお客さんの大半は、辺境都市ナカンコンベで下船なさっていました。

 やっぱり、ナカンコンベからのお客さんが多いんだなぁ、と、再認識した次第です。

 ファラさんとフク集落の子供達もここで下船です。
「今日はありがとうございました」
 ファラさんがそう言って頭を下げると、フク集落の子供達も
「「「ありがとうございました!」」」
 と、元気にお礼を言ってくれました。

 その間も、子供達はファラさんの側を離れようとしていません。

 その光景にほっこりしながら、僕は
「またみんなで遊びにいきましょうね」
 そう言いました。
 
 うん、本当に……

 また、みんなで楽しく遊びにいってみたいものです。

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